行きつく先へ    作:たまてん

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群像はホウライと会合する。



行きつく先へ 第二十二話 相反する二人

22.

 

 

「――ねぇヒエイ。私らこのままでいいの?」

 

「――構いません。そのまま待機を続けて下さい」

 

通信を介して尋ねてきたハグロにヒエイはそう答えて、前方に見える艦隊に視線を戻した。

 

――群像たちと別れたヒエイたちは後方からやって来ていたホウライの艦隊を捕捉出来た。

 

しかし現在、両艦隊はその場に睨み合ったまま待機してもう三十分は経過している。

 

流石に、ハグロたちの落ち着かなくなってくるのも無理はない。

 

けれどヒエイはそんな彼女たちをたしなめる。

 

「気持ちは分かります。しかし、私たちの役目はあくまで時間稼ぎです。それに千早群像の目的は超戦艦の説得。私たちから攻撃したのでは意味がありません。彼女たちがこのまま何もしないでいてくれるというならそれに越したことはないわ」

 

「それはまぁその通りなんだけど……なんか、すごくやな予感がする」

 

「――予感、ね。確かに、気持ちのいいものではないわね」

 

兵器としてあまりに矛盾したアシガラの言葉だが、ヒエイは苦笑しながらも同意する。

 

――先ほどから肌を撫でるこの不快な空気。

 

具体的には分からない。

 

だが、今までとは明らかに何かが違う。

 

きっと、群像たちもそう感じているはずだ。

 

 

「……コンゴウ様」

 

 

ヒエイは、今大事を為そうとしている彼女の身を案じた。

 

■ ■ ■

 

 

「――いらっしゃい。千早群像。待ちくたびれたわ。さぁさぁ、どうぞこちらにお掛けになって」

 

 

そう言ってホウライは硫黄島に上陸した群像とタカオに席を座るよう勧める。

 

そこには、コンゴウたちがティータイムを過ごす際に使っているようなテーブルと椅子があった。

 

彼女に促されるまま、二人は席についた。

 

ホウライは置いてあったティーセットで紅茶を注いだ。

 

赤々とした液体が白いカップを満たす。

 

「どうぞ」

 

そう言って彼女は群像たちにカップを差し出した。

 

 

タカオは一瞬戸惑いを示したが、群像は躊躇いなくそれを口にした。

 

そして隣に座るタカオに対し、大丈夫だと笑いかけてやると、タカオも彼に倣う。

 

「いかがかしら?」

 

「ああ。いい香りだ。美味しいよ」

 

「そう。よかったわ」

 

群像がそう言うと、彼女は微笑む。

 

――遠くから見れば、二人の姿は仲睦まじいものに見えるだろう。

 

しかし真横にいるタカオには感じられた。

 

――二人の間に流れる、この張り積めた空気を。

 

そして群像は優雅に紅茶を楽しむホウライに対して話を切り出した。

 

「――ホウライ。今すぐ人類への攻撃宣言を止めてくれないか?」

 

「――その前に群像。私の質問に答えて」

 

その声に、タカオはぎょっとした。

 

いつの間にか、二人の前で紅茶を飲んでいた人物の姿が変わっていた。

 

群像たちの見慣れた、幼い少女の姿に。

 

「群像。――人は、貴方がそうまでして救う価値のある存在なのかしら?ムサシとイオナが消えて世界は変わったけど、それは貴方が望んだ結末だった?」

 

「――いや、違うな」

 

そう正直に群像は答えた。

 

――確かに、世界に風穴は開けられた。

 

しかしその先に待っていたのは、人間同士の欲にまみれた世界だった。

 

国の実権を誰が握るかという政治家の争い。

 

弱小国への支援という名の支配。

 

混乱に乗じて他国に攻め込むものもいた。

 

そして、本当に助けなければいけない人々は切り捨てられた。

 

……こんなものを、彼が望んでいたわけがない。

 

「――群像は群像が望む結末のために前に進んだ。けれど、行きついたその先にあったのは貴方の思う結末とはほど遠い世界。――無意味だったんだよ群像。貴方がしてきたこと、全部」

 

そう言って、彼と共に歩んできた少女の姿をして、彼女は群像の全てを否定する。

 

貴方は何も出来なかった。

 

ただの徒労に終わったのだと。

 

そう彼に言葉を突きつける。

 

――けれどそれに対しての群像の反応は、彼女の思うものとは違っていた。

 

「――それは違うよホウライ。俺たちは、やっとスタート地点に立てただけなんだ。まだゴールには程遠い」

 

「……何ですって?」

 

予想外の言葉に、ホウライの口調が戻る。

 

群像は手元のティーカップを見つめながら話を続けた。

 

「――確かに君の言う通り、世界は俺の思うようにはならなかった。けれどそれははじめから無理な話だ。人類の国交を取り戻したからといって、人類の本質が変わるわけがない。それだけじゃ駄目なんだ。俺が目指す世界になるためには、まだまだやることはたくさんだ。――でもその先に、未来はある」

 

「――貴方はまだ、人類が変われると思うの?」

 

ああ、と群像は力強く頷いた。

 

「変われるさ。今はまだ、誰もが心の余裕はない。けれどいつか必ず、俺は世界がそうなれると信じている」

 

「……ずいぶんと、夢見がちな台詞だこと」

 

「人間というのは途方もない夢を見ながら生きているんだ。だから俺たちは頑張れる。――それに、俺は人類のためだけに戦っていわわけじゃない。君たちとわかりあうためにも戦っていたんだ」

 

 

そう言って群像は隣に座るタカオに微笑む。

 

彼女は群像の笑みを見て、少し恥ずかしそうに縮こまった。

 

――イオナと群像たちはわかりあえた。

 

そしてタカオやハルナたちとも。

 

霧がとわかりあい、人と手と手を取り合って歩む未来。

 

そんな世界を望んで歩んできた。

 

その想いは、きっと僧たちも同じ

 

――途方もない夢を見ていたからこそ、彼らは歩んでこれたのだ。

 

「……だから俺は、進み続ける。まだその先があると信じているから」

 

「――いい信念ね。そこは認めてあげる。けれど残念ね。その理想を担うイオナはもういないわ。私が、消してしまったんですもの」

 

にやり、とその少女の姿をした自らを指し示して、ホウライは笑った。

 

……きっと群像は大きく取り乱すだろう。

 

そんな彼を見ることを楽しみに思いながら彼女は言った。

 

「――それは、嘘だな」

 

――けれど群像は動じなかった。

 

真っ直ぐな瞳のまま、彼女の言葉を迷いなく即座に否定する。

 

これには、流石のホウライも目を見開いた。

 

「……何故そう思うの」

 

「――君はイオナから生まれた存在だ。親元である彼女を消すことは出来ない。そうしたら、道連れに君の存在すら消えてしまうからな。それに……」

 

言うと突然、ガバっ!と群像は前に身を乗り出す。

 

そしてホウライの手をつかもうとした。

 

それをホウライは立って避けた。

 

――反射的に、避けてしまった。

 

「――いまだに君は俺との直接的接触を避けている。これが証拠だ」

 

「――なるほどね。初めて401が起動したのも艦長が触れたからだったわね。だから貴方も、あんな極端に接触を避けてたわけか」

 

納得したわ、とタカオは頷く。

 

対して、イオナの顔をした彼女は苦い顔をしていた。

 

そして諦めたようにため息をついた彼女はその姿から元の姿に戻る。

 

「……最悪の気分だわ。せっかくの舞台を、自らの手で台無しにした気分というのは。――けれど、貴方がイオナともう会えることはないのは事実。だって、貴方はここで私が沈めるのだから」

 

「――止める気は、無いんだな」

 

群像の問いかけにホウライは無言で答える。

 

そうか、と言った群像は立ち上がる。

 

そして決意を秘めた瞳で、目の前に立つ少女を見る。

 

「なら俺たちは君を止める。イオナを取り戻して――そして君を、救ってみせる」

 

「――やってご覧なさい群像。私が教えてあげるわ。貴方の抱いた夢が、どれだけ儚いものなのか」

 

――もうに交わす言葉はない。

 

 

互いに背を向けて、歩き出す。

 

 

群像たちは全てを取り戻すために。

 

 

ホウライは全てを壊すために。

 

 

それぞれの抱く想いをのもとに、戦いの火蓋がきって落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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