行きつく先へ    作:たまてん

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今回は番外編です。
第十六話の群像とコンゴウたちが話していた間の裏話です。


行きつく先へ 外伝 想いはずっと

 

ex 1.

 

 

「――そういやタカオさ。まだ群像のこと好きなのか?」

 

401のメンテナンスの作業を進めながら、杏平は椅子に座って本を読んでるタカオにそんなことを訊いてきた。

 

訊かれたタカオは何か引かかる言い方だったので、ムスっとした表情になる。

 

「――何よ。なんか悪い?」

 

「いんや。ちょっと気になってね。……けどやっぱ相変わらずだな、お前」

 

「――そういうアンタも、相変わらず好きよね。それ」

 

そう言って、タカオは杏平が飲んでいるコーラを指し示す。

 

二年前も、彼がずっと好んで飲み続けていたモノだ。

 

言われた杏平はおうよ、と言ってにかっと白い歯を見せて笑った。

 

「俺にとっての命の源だからな。これがなきゃ始まんないぜ」

 

「確かに。杏平と言えばコーラですね」

 

「むしろ今ではコーラと言えば、なんじゃないですか」

 

横で同じく作業していた僧と静も相変わらずだ、と頷いていた。

 

かくいう二人も、最後に会ったときからあまり変化はない。

 

「……アンタたちも変わんないわね。本当、おもしろいクルーだこと」

 

「――そういうお前も変わらないよなぁ?タカオ」

 

「――キリシマ。腕、邪魔なんでけど」

 

いつの間にか座っているタカオの背後に現れたキリシマが、悠然と彼女の頭に肘を乗せていた。

 

「ただいまー。あーあー。疲かれたぁ……」

 

「お疲れさまです。いおり」

 

続いて扉の向こうから現れたのはいおり。

 

ぐでん、と静の座る椅子の背もたれに寄りかかった。

 

「――お疲れさま、いおり。サポートしてもらって助かった。礼を言う」

 

あとから来たハルナがそう言うと、いおりが「いいってことよ」と伸びながらも親指を立てた。

 

この401には現在イオナはいない。

 

その代わりとして、ハルナとキリシマを401のコアとして使わせてもらうことになった。

 

そしてその最終チェックだった機関室での同調作業も、無事終了したようだ。

 

ようやく一段落といったところだが、キリシマはふと先ほどまでハルナといた彼女の姿がないことに気づく。

 

「おいハルナ。蒔絵はどうした?」

 

「ヒュウガといる。ホウライに対抗するためのプログラムを作成してるから手伝えと言ってきてな。邪魔そうだったので私は帰ってきた」

 

「例のウィルスか。……蒔絵は了承してるのか?」

 

「ああ。手伝っているのは彼女の意思だ」

 

「ならいい。だが、とりあえずあとで様子は見てこよう」

 

「了解だ」

 

「だ・か・ら!さっさと腕退けなさいってのっ!」

 

タカオが鬱陶しそうに頭を振ったので、キリシマがやれやれと腕を退ける。

 

やれやれはこっちのセリフだっての、とタカオは心の中で毒づく。

 

そして肩肘をついた彼女がため息をついて二人を見る。

 

「――しかしあれだわ。アンタたち見てるとまるで親子みたい。かなり過保護だけどね」

 

「ほっほう。言うじゃないか。ま、否定はせんが」

 

「自覚はあるんですね」

 

堂々と言うキリシマの態度に静が苦笑する。

 

「けどなタカオ。お前もまだまだお子様なんじゃないか?いい加減乙女プラグインから卒業して、大人の魅力というものを身に付けたらどうだ?私のようにな」

 

「――なるほど。つまりクマだな」

 

「違うわっ!」

 

合点がいったと納得するハルナの頭をキリシマがはたく。

 

対してタカオも「アンタが大人ぁ?」と半眼で見つめていた。

 

「とてもそうには見えないんだけど。むしろ、蒔絵の方が大人に思えるわね」

 

「蒔絵はいい子だ」

 

「アンタは本当、蒔絵だったらなんでもいいのね……」

 

誇らしげに微笑むハルナを半ば呆れて見る。

 

キリシマも「確かに親バカだな……」と額に手を当てる。

 

「――ただな。タカオ。お前も未練があるのだと言うのなら今のうちアタックすることをおすすめしとくぞ」

 

「……別にいいのよ。私はこれで」

 

「何だと?」

 

キリシマが聞き返したが、タカオは答えなかった。

 

そして、彼女は立ち上がると扉の方へ向かう。

 

「タカオ、どちらへ?」

 

「艦長探してくるわ。ついでにいっしょに夜の散歩でさせてもらうわ」

 

そう彼女は言って、部屋を後にする。

 

「……よく分からない奴だな」

 

「――たぶんこのままでいいって、タカオは言ってるんだと思いますよ」

 

「どういう意味だ?」

 

静の言葉にハルナとキリシマはきょとんとした顔をする。

 

しかし、横にいたいおりはうんうんと頷いている。

 

「気持ちはわかるなぁ。なんだかんだいって、案外この距離感が一番だったりするしね」

 

「ある意味、大人の対応だな」

 

ペットボトルの蓋を開けながら杏平も同意したが、ハルナとキリシマには何の話か分からない。

 

困惑する二人に、僧が優しく声を掛ける。

 

「――お二人にはまだ分からないでしょうが、何も結ばれようとすることだけが結末ではないということですよ」

 

「――駄目だ。さっぱりわからん」

 

「いずれ、わかるようになりますよ」

 

――何も分からずに猛進していたタカオがああなったのだ。

 

ハルナたちが理解出来るようになるのも、そう遠くはないだろう。

 

 

そう思いながら、彼は見る。

 

 

――タカオの座っていた、艦長席を。

 

■ ■ ■

 

 

――分かってる。

 

この想いが叶わないものだってことぐらい、もうとっくに。

 

それに彼女には、二人の関係に入り込む勇気はなかった。

 

彼らの関係もまた、特別なものだ。

 

恋愛、の一声で片付くものとはまた違うと思うが、強く硬い絆があったのは確かだ。

 

――自分の入り込む隙間がないくらい特別な絆を、沈みゆく401を迎え行ったあの時に悟った。

 

……最初は悔しかった。

 

この想いが叶わないと分かってすごく悔しかった。

 

――けれど、困ったことに。

 

叶わないとわかってもなお……重巡タカオは、千早 群像のことが好きなままだった。

 

 

――なら、それでいいじゃないか。

 

 

叶わなかろうとなんであろうと、好きになるのに誰の遠慮はいらない。

 

片想いのままでも、十分だ。

 

いつしか彼女はそう割りきっていた。

 

そう思うと、気が楽になった。

 

――だから、彼女の想いは変わらない。

 

彼を好きでいたまま、彼女は前に進む。

 

 

これからも、ずっと。

 

 

 

「――でも。チャンスがあったら狙っちゃうかもね。艦長」

 

 

くすりと笑って、タカオは探す。

 

 

彼女の、たった一人のアドミラルを。

 

 

――彼女の愛は。

 

 

まだ、沈みはしない

 

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