蒼と黒、対して白と対決が始まる
24.
「――僧っ!状況報告を頼む!」
タカオから401に戻ってきた郡像は真っ先に副官である彼に言った。
「こちらの準備は整っています。装備、機関、共に異常なし。またホウライにも動きはありません」
「……それに関しては、正直驚きだったけどな」
センサーに映るホウライの反応を見ながら杏平が言った。
実際、帰りゆくタカオや群像たちを攻撃したり不意をつくことは可能だったはずだ。
しかし、彼女はそれをしなかった。
「――ホウライは俺たちに圧倒的な敗北を味あわせたがってる。だから彼女は全力の俺たちを相手にしないと意味がないんだ」
「なるほど。それでいて自分は勝てると確信しているわけか。大した自信だな、あいつ」
群像の推察したホウライの思惑を聞いたキリシマがそれを鼻で笑う。
あちらは一隻、こちらは三隻。
いかに超戦艦とはいえ、勝てると断言するのは慢心以外の何者でもない。
――あるいは今見えているもの以外で、彼女の勝利を決定づけるものがあるという意思の表れか……?
「っ!待ってください。海中より新たな推進音多数あり!」
群像がそう考えていた直後、彼の考えを裏付けるように静からの報告が入る。
「おいおい。まさかの伏兵さんか?ったく何処に隠れてやがった……?」
「――いや、センサーに反応はなかった。この海域にはホウライ以外の敵はいなかったはずだ」
杏平の言葉を、ハルナが否定する。
現に、ハルナたちは索敵を念入りにしていた。
でなければ、群像たちをホウライと会わせることにもう少し難色を示していたことだろう。
伏兵の可能性がないと分かった上で、彼女たちは了承したのだ。
しかし、そうであるにも関わらず新たな反応が現れた。
何故そんなことが起きたのか。
考えていると、突如として通信を求めるアラームが鳴った。
群像が応じると、正面のモニターに苦々しい顔をしたコンゴウが現れる。
『……聞こえるか?千早 群像』
「ああ、聞こえるよ。どうしたんだコンゴウ」
群像の問いに対し、彼女は少し皮肉げに笑った。
『いや何、面白いものが現れたからな。そちらにも今見せる』
。
言って彼女は映像を切り替える。
モニターにコンゴウの言う面白いものが映った瞬間、見ていた一同が息を飲んだ。
――白く染まった大きな戦艦の姿があった。
ホウライの艦だ。
しかし、それだけならあまり不思議ではない。
ただその映像には――海中から次々と現れる同じ姿をした白い戦艦も映さ出されていた。
水しぶきを立てながら、際限なく艦は現れる。
その異様な光景を見ながらなるほど、と群像はどこか納得したように呟く。
「――自身のコピーを量産しているのか。確かに、それなら今まで反応がなかったのも頷けるな。何せ今生み出されたものなのだからな」
「……相変わらず、うちの艦長は冷静だねぇ」
顔色一つ変えない群像に、杏平とそんな彼にはもう慣れっこなメンバーが苦笑いを浮かべた。
「いやちょっと待てっ!それにしてもこの数はなんなんだ!?いったい何処からこれだけの物質を用意している!?」
しかし、流石にキリシマたちはそうも言っていられない。
事実、驚愕すべき現象ではあるのだ。
確かに数隻のコピーを作り出したのなら話は分かる。
けれど今出現してきている数は優に三十は超える。
ホウライのスペックから考えたらあり得るかもしれないが、何よりそれらを構成する物資をどこから持ってきたのかという疑問は残る。
だが、それを悠長考えていられる暇はなかった。
ホウライの作り出したコピーたちはこちらに向かって進軍し始めていたのだから。
「――その疑問についてはあとだ。今とにかくこの場を切り抜けよう。ヒュウガがヒエイとのコンタクトを取っている。しかしそれを当てにしているだけじゃ駄目だ。俺たちは俺たちでホウライを無力化を目指すぞ」
『相変わらずの博打ちだね、群像くんは』
機関室から会話を聞いていたいおりもそう言った。
――戦力差は逆転した。
不利な状況になったとしても、群像は方針を変えない。
しかし、それは彼が自暴自棄になったわけだからではない
――例え、どんなに困難な状況でも譲れないものがある。
。
そういう覚悟を、彼が持っていただけのことだ。
「――コンゴウ、タカオ。このまま固まっていては囲まれてしまう。あの数に包囲されたら終りだ。散開して各自応戦して欲しい。――分の悪い勝負だが、付き合ってくれ」
『――今更だっての。了解したわ』
『はじめからそのつもりだ』
『――千早艦長、私もバックアップに回ります』
「頼んだ蒔絵。三人とも、ありがとう」
通信画面に映った彼女たちに群像は感謝の意を示した。
「――頼む皆。どうか最後まで、俺に付き合ってほしい」
そして群像はこの場にいるメンバーにもそう頭を下げた。
――そんなこと、群像と同じ覚悟を持った彼らには、わざわざお願いされるまでもないことだというのに。
「――艦長、ご命令を」
皆を代表して僧が言った。
最後まで、群像についていく。
そう、彼らは告げた。そんな彼らに、群像は精一杯の感謝を込めてありがとうと微笑んだ。
――そして、彼は告げる。
「これより、本艦隊は超戦艦ホウライの無力化を目指す。――総員、かかるぞ!」
了解!、と言って彼らは各々の行動を開始した。
■ ■ ■
「――動きだしたようね」
向こうに見える三隻が散開し始めているのをホウライはしみじみと観察していた。
バラバラに動き出したのはホウライに囲まれないようにするためであろう。
固まっていれば集中攻撃を受けやすいし、何より三隻とも異なるポテンシャルを持つ艦だ。
まとまって動いてもむしろそれが足枷となり得る。
――しかし、やはりと言ったところだろうか。
これだけの戦力差を見せつけても彼らの意思が折れることはなかった。
大抵の人間はこの段階で戦う気力を殺がれるというのに。
だがまぁ確かに、この程度の逆境など群像たちは何度も対面してきたことだ。
今更どうという話もないだろう。
――だからこそだ。
この超戦艦ホウライが教えてやるのだ。
本当の、絶望というものを……。
「――それじゃあ、まずは貴方から排除しましょうか」
そう言って、彼女が定めた目標は、わざわざ自身のカラーリングを蒼く変えたという物好きな艦だった。
「――どうやら、はじめは私のようね」
自らに向かい来る艦影を眺めながら、タカオは一人呟く。
タカオを追ってきた艦は群像やコンゴウと違い、十隻以上もの大軍であった。
まずは確実に一人を潰す、ということだろう。
けれどこの展開は三人ともが予想していたことだ。
「――随分と舐めてくれてるわね。いいわ、教えてあげる。私の愛は、その程度じゃ沈まないわよ」
不敵に笑ったタカオは迫り来る艦隊に砲門を向ける。
そして、互いに射程圏内入ったところで砲撃戦が始まった。
ホウライの戦艦を模したコピーたちの砲撃が雨のようタカオに襲いかかる。
しかし、タカオの艦は擦りはすれどそれに直撃することはなかった。
当然であろう。
コピーたちはただタカオの姿を追って砲弾を打っているだけだ。
ゆえに弾道も読むのは容易い。
降り注ぐ弾幕をものともせずに避けながら、タカオも攻撃を開始する。
迫りくる艦隊のうち、狙いをその中心に位置する一隻に定め、無数の魚雷と砲弾を打ち込んだ。
コピーもクラインフィールドを張っていたが数発を防ぐのが限界だった。
クラインフィールドを突き破った弾が艦体に直撃し、爆炎を起こす。
それに巻き込まれ、回りの艦も爆発、ないし転覆していった。
「――ほら、どんなもんよ」
タカオは誇らしげに胸を張った。
――敬愛する艦長のためにも無様な姿は見せられない。
だから彼女は凛々しく、そして美しく海を突き進む。
「さぁ、次はアンタの番よホウライってうっきゃぁぁっ!?」
ホウライに向かって動きだそうとしたタカオの艦に衝撃が走る。
見ると、タカオから右の方向に新たにコピーの艦隊が海中から浮上してきていた。
「――この程度で勝った気になられたら困るわ。まだまだコピーは作り出せるのだから」
不意打ちをくらいながらも懸命に応戦しているタカオを見て、ホウライは笑みを浮かべる。
しかし同時に、急速に収束しだした高エネルギー反応を探知して彼女の顔色が変わった。
そして次の瞬間、漆黒の巨大な光線が海上を走り、タカオを攻撃していた艦隊を跡形もなく消し飛ばした。
「――忘れてもらっては困るな。私もいるぞ」
そう言ってコンゴウは超重力砲を放ちながら、自らの艦を回転させる。
そしてその黒い光は他の艦隊も薙ぎ払っていき、ホウライ本体にも迫っていた。
「――システム起動。火鼠の衣」
しかしホウライは慌てることなく、そう言って指をパチンと鳴らした。
すると彼女の艦を緑色の光が膜のようになって覆った。
そして超重力砲の光はその膜に衝突する。
拮抗する二つの光。
やがてコンゴウの放った超重力砲は徐々に勢いをなくしていき、その膜を突破することなく消滅した。
『――ありがとうコンゴウ。助かったわ』
「無事で何よりだ。がしかし、あれはなかなかに固い防壁だな。あれも超重力砲を犠牲にして手に入れたものか」
忌々しいものだ、とコンゴウは舌打ちした。
――火鼠の衣。
燕の子安貝や仏の御石鉢と同様、ホウライが自らの武装と引き換えに手に入れたクラインフィールドをさらに強化した防御兵装である。
その防御力は通常のクラインフィールドの十倍に当たる。
いかに超重力砲と言えど一撃での無力化は不可能である。
突破するには着実にダメージを蓄積させて飽和状態にさせるしかない。
「――だけど、それはもうできないでしょうけどね」
ホウライはにたりと笑う。
そう、出来ることはない。
何故なら、もう舞台が整ってしまったのだから……。
――そして、ソレは空より降ってきた。
「なっ!?」
あまりに唐突の出来事に、タカオの反応も遅れた。
ゆえにその弾頭を避けられず、もろに彼女の後部に直撃してしまう。
一瞬の紅い煌めき。
そして次の瞬間、それはタカオの艦体を大きく穿ち、爆炎を上げさせた。
「――振動弾頭か!?」
群像の考えた最悪の予想が的中した。
手段は検討がつかないが、やはりホウライは振動弾頭を手に入れていたようだ。
「――けれど、それが分かったところで打つ手はないわよね」
ホウライはほくそ笑む。
振動弾頭は遠く離れたアメリカより撃ち込まれている。
無論、ここからの干渉は不可能。
ホウライが唯一の懸念はこちらに正確に届くかということだったが、ヒエイたちがいい実験台になってくれたおかげでその懸念も払拭された。
『タカオ!?タカオ無事か!?早くその場を離れろ』
「――動力部をやられたわ。航行は無理ね」
通信機から聞こえる群像の声に、タカオは苦々しい声でそう言った。
そしてふと視線を上げると沈めたはずの白い艦隊が再び進軍してきていた。
「――ったく、どんだけいんのよ……」
彼女は苦笑いを浮かべたが、その頬を汗が伝う。
「タカオ!くそっ!邪魔だ貴様らっ!」
コンゴウがタカオを助けようとするが、彼女の行く手をコピーたちが阻む。
群像たちも同様だ。
「ハルナ!キリシマ!何でもいい!タカオの援護を!」
「無理だ!射程距離が足りない!」
「それに、こちらも防御に手一杯だ……」
絶え間なく撃ち込まれる魚雷。
それらに対応するのに401も手一杯だということは群像がよくわかっている話だ。
せめて超重力砲が使えればと悔やんだがそんなことに意味はない。どうするかと彼が思考を張り巡らせていたとき、タカオからの通信が入った。
「――艦長。何隻かは道連れにするわ。あとはお願い」
『タカオ!?やめろ!』
群像の制止の声が聞こえたがタカオはすぐさま回線を切る。
……本当は最後まで彼の声を聴いていたかったけど。
でもそうしたら、この覚悟は鈍ってしまう。だから――。
「――さぁ。かかってきなさい。只では沈んであげないわよ、私」
――せめて最後に、彼にしてあげられることを。
そうして、タカオは前方の艦を見据える。
「――終わりよ、タカオ」
自ら艦の上で、ホウライは厳かにそう言った。
――そして群像、とくと味わいなさい。
貴方の抱いた甘い理想のせいで、大事な仲間が沈む。
その現実を受け入れなさい。
今、私が貴方に、本当の絶望をあげるわ。
ホウライは、身動きのとれなくなったタカオに止めの命令を下す――。
――はずだった。
「っ!?あ、が、あああっ!!」
命令を下す直前、彼女の中に突如として膨大な演算処理が行われ始めた。
まるで氾濫した川のように荒々しく渦巻く数字の奔流。
命令を、コピーを動かす余裕すらない。
そのあまりにも莫大な情報処理に耐えきれず、彼女は頭を抱え込んでその場にしゃがみ込んだ。
「い、ったい、何、が……」
痛む頭を抑えながら、ホウライは思考する。
けれどその痛みで、思考はまとまらない。
――そこに、彼女からの通信が入った。
「――どうやら、ギリギリ間に合ったみたいね」
「ヒュウ、ガ。貴方、私に、何を……」
「さぁ何をしたでしょう。けどこれでやっと届いたわ。――言わせてもらうわホウライ。貴方に悪いけど取り戻させてもらうわよ――私の、全てを」
画面の向こうのヒュウガはそう言って、ホウライを指差した。
終