行きつく先へ    作:たまてん

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今回の外伝は目的地へと向かうまでプログラミングをしていた二人のお話です



行きつく先へ 外伝2 前進あるのみ

 

ex2.

 

 

「――蒔絵。いい加減休みなさいな」

 

「大丈夫。まだ平気」

 

二時間前にも同じ台詞を言った少女に、ヒュウガは「駄目よ」と口を尖らせた。

 

「貴方、もうぶっつけ四時間以上連続の作業になってるのよ。それ以上はもう体に毒にしかならないわ。休みなさい」

 

そう言って、ヒュウガは蒔絵から作業用のデバイスを取り上げた。

 

「ああヒュウガ!私大丈夫だってば!」

 

「駄目と言ったら駄目。それに貴方、薬も飲まなきゃいけない時間じゃなくて?」

 

「あ……そういえばそうだった」

 

――刑部蒔絵はデザインチャイルドだ。

 

普通の人間とは違うところが多々ある。

 

その一つとして、人間が生きていくために必要な物質を体内で生成出来ないことが上がるそれを補うために、蒔絵は一定時間ごとに薬でそれを補っていた。

 

作業に集中しすぎるあまり、彼女自身そのことを失念していたようだ。

 

「だから作業は一旦休憩よ。ほら、どうぞ」

 

そう言うとヒュウガは薬箱と水を彼女に差し出す。

 

蒔絵はそれを受け取り、彼女にありがとうと言った。

 

「なんか、ごめんね。気苦労かけさせちゃって」

 

「まさか。謝らなきゃいけないのはこっちの方よ。私が不甲斐ないばかりに貴方にまで手伝わせちゃって……」

 

ホウライを攻略するためのプログラミング。

 

しかし、その作業はヒュウガが思っている以上に難航を極めた。

 

はじめは、ホウライがタカオの姿をしてこちらに潜り込んだ時におじゃんになったかと思われたが、その具体的内容を説明してなかったことが幸をそうして彼女に悟られずに済んだ。

 

ゆえになんとしても完成させなければならない。

 

これが彼女の不意を突き、彼女に有効な唯一の手段であるのだから。

 

だから、完成させるためには形振り構ってはいられない。

 

ゆえにヒュウガは、かつて振動弾頭の理論を完成させた蒔絵の助力を仰いだのだ。

 

「そんなことないよ。私もみんなのために出来る限りのことがしたかったから」

 

 

そう言って彼女は微笑んだ。

 

その笑顔に、ヒュウガの心がチクリと傷んだ。

 

 

――蒔絵が手伝うと言った時、横にいたハルナが悲痛な顔をした。

 

当然だ。

 

蒔絵にまたこんなことをさせたいなんて、ハルナもキリシマも思いはしないだろう。

 

しかし、それはヒュウガも同じ気持ちだった。

 

――兵器として生み出された蒔絵は、ある意味人間というより霧に近い存在だ。

 

そう言ったことから、ヒュウガには蒔絵に対して群像たちと違った思い入れがあった。

 

だから彼女をまた巻き込んだことに、少なからず罪悪感を抱いていた。

 

「――けどヒュウガ。なんか変わったね」

 

唐突に、ヒュウガが出した紅茶とクッキーを二人で楽しんでいると、蒔絵がそんなことを言いだした。

 

「そうかしら?私、なんか変わった?」

 

ヒュウガは蒔絵にそう問い返す。

 

「うーん……変わったというより、戻ったのかな?たぶん。少なくとも一年前に会ったときとは違うと思う」

 

「……タカオにもまったく同じことを言われたわ」

 

彼女の正直な感想に、ヒュウガは苦笑した。――彼女の言う一年前、というのはヒュウガが蒔絵に例の薬の補充を渡しに行ったときのことだろう。

 

本来なら、材料を教えたのだからハルナたちが作るべきなのだが、二人が作り出したものがなんか得体の知れない謎の物質だったので、仕方なくヒュウガが届けに行ったのだ。

 

……確かに、あのときの自分は脱け殻みたいなものだった。

 

ただただ時を過ごしていただけの、大戦艦ヒュウガの残骸。

 

それが、たかだか潜水艦一隻のメンタルモデルがいなくなっただけの結果だったなんて、笑えない話だ。

 

……はじめは、単純な興味だった。

 

潜水艦にしては異常と言えるポテンシャル。

 

他のメンタルモデルとは別格の存在。

 

その異様さに、ヒュウガは惹かれた。

 

それだけのはずだった。

 

なのにいつの間にか……彼女は自分にとって、あまりに大きいものになっていたらしい。

 

自分の存在意義に影響を与えるほどの、大きな存在に――。

 

――本当、嘘みたいな現実だ。

 

「――蒔絵にまで心配を掛けていたなんて、私もダメダメね。これじゃあコンゴウたちのことも笑えないわ」

 

「そんなことないよ。――それに、ちょっぴり嬉しかった」

 

「何が?」

 

「ヒュウガが、私を頼ってくれたこと」

 

予想外の言葉に、ヒュウガの目があんまりにも丸くなったのでそれを見た蒔絵は苦笑した。

 

――蒔絵から見た時、ヒュウガは何もかも一人で背負い込む伏しがあった。

 

誰にも相談せず、相談しても無意味だと思っているように見えた。

 

そんな彼女が、自分に力になって欲しいと言ってくれた時、蒔絵はどこかほっとした気持ちになった。

 

「――ヒュウガは、いつも私のことやハルハルやヨタロウのことを考えてくれてた。ムサシのときだってそう。なるべく私たちを巻き込もうとしないでくれた。だから、今度は私がヒュウガの力になる番。手伝わせてヒュウガ。今まで色んなことから助けてくれた、貴方のために」

 

蒔絵はそう言って、真剣な眼差しでヒュウガを見る。

 

――ああ、そうか。

 

こんな気持ちになるのか。

 

自分のことを理解して貰えるのが。

 

こんなに、嬉しいだなんて……。

 

じわりと、閉じた瞼の裏から熱いものを感じた。

 

「――なら蒔絵。貴方に折り入って相談があるの。これはある意味、貴方にしか聞けない相談なのだけれど」

 

「何?何でも言って」

 

改めて、真面目な様子になったヒュウガに蒔絵は促した。

 

そしてヒュウガは、いつになく真剣な面構えで蒔絵に言った。

 

 

「――イオナ姉様とくっつくのに千早群像が邪魔なのだけどどうすればいいと思う?」

 

「――そうだね。やっぱり、艦長をヤっちゃうのが一番かもね」

 

「なるほど。ヤるのね」

 

「うん。ヤるの」

 

互いに真剣な顔で頷き合う二人。

 

――そしてたまらず、二人は吹き出した。

 

一頻り笑ったあと、ヒュウガは彼女に言った。

 

「流石だわ蒔絵。まさかこんな冗談が通じるなんてね」

 

「あれ?今の冗談だったの?」

 

「もちろん冗談よ。……一割ぐらいね」

 

そう言って悪戯っぽく片目を閉じるヒュウガ。

 

それからしばらくの間、二人は談笑した。

 

この二年間何をしていたのか、キリシマが間違って洗濯機で洗われていたり、タカオが群像に会いに行こうと横須賀目前まで来て何度もUターンしていたりと他愛のないことを色々。

 

そうこうしている間にだいぶ時間が経ってしまった。

 

「……少し休み過ぎてしまったわね。そろそろ作業に戻らなきゃ。蒔絵、悪いのだけどまた手伝ってもらえる?」

 

「――ヒュウガ」

 

 

呼ばれて食器を片付けようとしていたヒュウガが振り返ると、蒔絵が拳を突きだしていた。

 

そしてその幼い少女は、愛らしい丸い目でありながらも強い眼差しでヒュウガに言った。

 

「――絶対、イオナを取り返そう。私も、全力を尽くすから」

 

――それは蒔絵からの、ヒュウガに対する精一杯の応援だっだ。

 

こんな幼い少女に、自分が慰められてる。

 

嬉しい反面、彼女は自分の不甲斐なさに情けなくもなった。

 

――けれど、これ以上醜態をさらさないために。

 

蒔絵の想いに報いるために自分が出来ることがあるなら――。

 

「――ええ。必ず取り返すわ。私たちの、イオナ姉様を」

 

ヒュウガはそう言って、差し出された拳に自身の拳を打ち付けた。

 

それが、彼女が今出来る最大限の誓いの証だった。

 

■ ■ ■

 

 

――姉様がいなくなって、私は全てにおいて気力を失くしていた。

 

何もかもがどうでもよくなっていた。

 

ただ時を過ごすだけの亡骸だった。

 

だというのに。

 

 

――まだ取り戻せる。

 

それがわっかただけで、私はこんなにも満ち溢れていた。

 

こんなにも充実していた。

 

――ゆえに、私は足掻き続ける。

 

 

姉様(すべて)を取り戻す、その日まで――。

 

 

「――だからホウライ。覚悟しなさい。私のイオナ姉様への愛――舐めんじゃないわよ」

 

 

だからしばしの間、お待ちになってください。

 

 

イオナ姉様……。

 

 

――全てはこの愛のために。

 

 

大戦艦ヒュウガは前進する。

 

 

 

 

 

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