行きつく先へ    作:たまてん

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はじめから、全てがあったわけじゃない



行きつく先へ 第二十五話 ゼロから生まれたもの

25.

 

 

「っヒュウガぁ!!私に、何をしたっ!?」

 

いつもの余裕に満ち溢れた態度は消え、凄まじい剣幕でホウライは通信画面の向こうにいるヒュウガに問い質した。

 

対して彼女は涼しい顔だ。

 

「あらあら、怒っちゃて怖いこと。――別に私は貴方に何をしたわけでもないわよ」

 

「そんなはずは、ない。ならばこの莫大な情報量は、いったい……」

 

「――言ったでしょ?『貴方』には、何もしてないって」

 

「何、だと……」

 

一瞬、意味が理解できなかった。

 

しかし、ヒュウガと会話をしながらも解析を進めていた彼女はその演算処理を求めて流れ込んでくる源を突き止めた。

 

――そして、それを知って、驚愕する。

 

「これは――」

 

「そう。新しく作ったプログラムは貴方に対してじゃない。――貴方が従属させている、霧の艦隊に対してよ。ようやくヒエイと連絡がとれたから彼女を通して打ち込んで貰えたわ」

 

――発信源は何十、何百といった霧の艦から。

 

だがそれにしてもこの量は異常だ。

 

いったい何をすればこうまでなるのか。

 

「……いや、それ以前にこれだけの数の艦を支配下におくなど、私と同じ演算処理がなければ出来ないはずなのに、どうして……」

 

「別に支配下になんておいてないわ。ただ、貴方とリンクしている彼女たちにたった一つの命令を強制的に遂行させているだけの、単純なロジックよ」

 

「一つの、命令……?」

 

ええ、と頷いたヒュウガはにやりと笑った。

 

「――彼女たちには、貴方のリソースを使ってメンタルモデルを形成するよう命令したのよ」

 

「っ!」

 

――メンタルモデルの形成は、それなりのリソースを消費する。

 

艦によっては自身の演算処理能力では賄えない場合もある。

 

その時は大抵他の艦の処理能力を借りることになる。

 

そしてそれが、この膨大な演算処理の正体。

 

ヒュウガの命令により、メンタルモデルを形成しようとしてリンクしている多くの霧の艦がホウライのリソースを食い荒らしているのだ。

 

「他からの干渉を防ぐために彼女たちとの繋がりを深くしたのが仇になったわね。一隻のメンタルモデルを形成するのに貴方のリソースを一パーセントしか使わなくてもそれが百隻になったら話は別。かといって、彼女たちとの繋がりを切断すれば支配下におけなくなる。さぁ、どうするのかしら?霧の総旗艦さま」

 

「うっ、ぐ……なら今はリンクを切ればいい。貴方たちを今ここで沈めて、また支配下におけばいいこと。――こんなの、ほんのわずかな時間稼ぎにしかならないわ」

 

「――そう。貴方の言う通り、これはほんのわずかな時間稼ぎ。けれど、それで充分なのよ。わずかでも、貴方に隙を作れたのなら」

 

「何……?」

 

――自分の仕事は終わった。

 

ヒュウガの役目は舞台の設営。

 

その舞台に立つのは――彼女の仕事。

 

だから、ヒュウガはその彼女に対して、バトンを渡す。

 

「――あとは頼んだわよ。――コンゴウ」

 

「――ああ。任されよう」

 

――ヒュウガの言葉に遠く離れたコンゴウが頷く。

 

そして彼女はホウライの艦に向けて腕を伸ばし、行動を開始した。

 

同時にホウライは自らにある干渉が始まったことを感じ取った。

 

「まさか!?」

 

そこまで来て彼女もヒュウガたちの思惑に気付く。

 

けれどそれに抗う術はない。

 

阻もうにも、この処理の対応に手一杯だ。

 

「ホウライ、悪いが入らせてもらうぞ。――お前の、ココロにな!」

 

■ ■ ■

 

 

――ホウライの内部に侵入したコンゴウが降り立った場所は一面真っ白な空間。

 

この場所も、少しは見応えのある風景となっていたのに、まるではじめに戻ってしまったみたい何もない。

 

「――やっと来れたな、ここに」

 

――此処こそ、彼女たち霧のメンタルモデルが意志疎通をするために形成された概念伝達の空間。

 

今までホウライのブロックでアクセス出来ずにいた場所だ。

 

そして、その場所に黒い茨がびっしりと巻き付いた巨大なドームが鎮座していた。

 

「……なるほど。この中か」

 

「コンゴウっ!」

 

すると、いつの間にかホウライも現れていた。

 

だが以前としてその表情は険しい。

 

「――お前が現れたということはこれで正解、ということだな」

 

「やめなさい、コンゴウ!」

 

「断る。今の貴様では邪魔は出来まい。大人しくしていろ」

 

言うと、彼女は自らの力で黒い大剣を形成し、

 

……かつて、心を閉ざした自分を彼女が迎えに来てくれた。

 

なら今度は――自分が迎えに行く番だ。

 

 

「――待っていろ。401」

 

 

彼女は剣を振りかざし、それを幾重にも巻き付いた茨に叩き付けた。

 

■ ■ ■

 

 

「っ、よくも……なら、貴方本体を沈めるまでっ!!」

 

そう言って、彼女は辛うじて動かせる彼女のコピーにコンゴウを攻撃させた。

 

振動弾頭を使いたがった今の自分では操作は無理だ。

 

ホウライも満身創痍ではあったが、それはコンゴウも同じ。

 

干渉するのに作業を集中させているため彼女の動きは鈍い。

 

「っく……!」

 

降り注ぐ弾幕をクラインフィールドで受け続けるにも限界がある。

 

直に、フィールドは飽和状態を迎えてしまう。

 

「沈め、コンゴウっ!」

 

彼女は自らの分身たちにさらなる追い討ちを駆けるように命令する。

 

しかし、その攻撃より先にコピーたちの横に無数の魚雷が叩き込まれた。

 

 

「な!?」

 

 

魚雷が飛んできた方向を見ると、センサーに反応がある。

 

 

それは、彼女の意識が削がれ、動きの鈍くなったコピーたちを撃退した401だった。

 

 

「……コンゴウの邪魔はさせない。杏平っ!」

 

 

「了解っ!腕が鳴るぜ!」

 

 

群像に言われて杏平はコピーたちに向けて次々に魚雷を撃ち込んでゆく。

 

そして同時に静からの報告が入る。

 

「高速推進音多数接近!魚雷です!」

 

「任せろ!」

 

聞いたキリシマが腕を横に振るうと、モニターに迫り来る多数の魚雷が表示される。

 

それらは、キリシマが「うりゃりゃりゃりゃ!!」と目にも止まらぬ速さで迎撃していった。

 

 

ホウライのコピーたちの攻撃は阻まれ、群像たちの攻撃は見事に命中する。

 

そしてさらに、反対方向から新たな砲撃が加わる。

 

「……動けなくたって、まだ、私だってやれんのよ!」

 

タカオが自らの持つ武装をありたっけにしようした。

 

ホウライが対応しようにも、この演算処理でパンクしないようにするだけで精一杯だった。

 

「っっ、どうして!?何で、何でなのよっ!?」

 

 

――それと、同時に彼女は確かに感じ取る。守り合う彼女たち。

 

助け合う彼ら。

 

それらは全て、たった一人の少女、イオナ取り戻すためにものなのだと。

 

分からされる。

 

認めさせられる。

 

そして何で――どうしてこんなにも、胸が苦しいのだろう……?

 

「……それはお前がただの寂しがり屋だからだよ、ホウライ」

 

「コン、ゴウ……!」

 

茨を破壊しながら、ホウライにコンゴウは語りかける。

 

「……お前は一人だから、一人だと自覚しているから。だから、自分と同じ存在であるはずの401が憎いんだろう?――お前は羨ましいんだ。帰る場所のある彼女が。帰りを待つ人がいる彼女が」

 

「うるさいっ!貴方に、貴方にいったい私の何がわかるというの!?」

 

「全部はわからんだろうさ。ただ少しはわかる。私も、そうだったからな」

 

――自分の帰る場所はただの妄想だった。

 

全てを失った彼女は、ただただ寂しかった。

 

一人ぼっちの自分が嫌で。

 

こんな空虚な自分が嫌いで。

 

だから全部壊したかった。

 

――それは、ホウライも同じこと。

 

彼女の生まれ落ちた場所に、彼女の居場所はなかった。

 

彼女には何もなかった。

 

だけどそれは……。

 

「――それは皆同じことなんだよ。はじめは皆何も持ってない。全員がゼロからのスタートだ。そして、その空っぽの自分を自分の手で満たしていくんだ。触れ合い、学び、そして感じる。そうやって、我々は変化していく。――はじめから全部持ってたわけじゃないさ、401もな」

 

――数々の出会いがあった。

 

幾多の困難があった。

 

それらを乗り越えて、今の401がいる。

 

それらがあったからこそ、彼女は必死になって取り戻そうとしてくれる仲間に出会えた。

 

401は、一人ではなくなった――。

 

 

「違うっ!私は、貴方たちとは違う!私は敵なんだ。生まれた時から、皆の敵なんだ!味方なんていない。解り合える人たちなんて、いないっ!!」

 

 

彼女は叫ぶ。

 

 

……憎しみの中生まれた己。

 

全てを滅ぼすために生まれた彼女を、いったい誰が理解してくれる?

 

出来るはずがない。

 

自分と同じ場所に立たない限り、絶対に。

 

そしてそんな人物は現れるはずはない。

 

未来永劫に……。

 

「……まぁ私が言ったところで無駄だろうな。――だからホウライ。お前も教えてもらえ。私のように。彼女と、あの男にな」

 

「っ待て!」

 

制止したが止まるはずはない。

 

コンゴウは剣を降り下ろす。

 

最後の茨の壁を壊し、そこに大きな黒い穴が出現する。

 

その穴にコンゴウは手を差しのべ、叫ぶ。

 

 

「401っ!私が手伝えるのはここまでだ!だからお前にまだその意思があるのなら――この手を掴めっ!!」

 

 

――いつか、彼女が自分に選ばせてくれたように。

 

コンゴウはそう言った。

 

答えなど、とうに解りきっていることだが。

 

 

――深い深い続く闇が渦巻く奈落の底から。

 

 

差し伸べられたコンゴウの手を――ぱしりと、握り返す誰かがいた。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

――突如として、指揮をとっていたの群像の傍らに、まばゆい光が集まり始める。

 

「何だ何だ!?」

 

 

杏平たちが驚く。

 

 

しかし彼だけは――群像だけは、優しく微笑んだ。

 

 

――この、柔らかな光。

 

 

初めて会ったときに見せてくれたこの蒼い光を、彼が忘れるわけはない。

 

 

群像は、白い髪をたなびかせ、降り立った彼女に言った。

 

 

――ずっと、言いたかった言葉を。

 

 

「――おかえり」

 

 

彼の言葉に、彼女が微笑む。

 

 

「――ただいま。群像」

 

 

 

――これが、本当の再会。

 

 

蒼き鋼の――イオナの帰還だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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