行きつく先へ    作:たまてん

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すべてが終わりへと向かう



行きつく先へ 第二十六話 塵も残さず

 

26.

 

 

蒼い光が収まったあと、そこに立っていた少女を見て一同は言葉を失っていた。

 

「――401。本当に、401なの……?」

 

目の前に現れた少女に、キリシマが恐る恐る問い掛ける。

 

「うん、私はほんもの――」

 

「イオナ姉様ー!お久しゅうございまーす!」

 

答える前に、いきなり部屋に入り込んできたヒュウガがイオナに飛び付いた。

 

「ヒュウガ、苦しい。離して」

 

「いやいやいや、そんなご無体な!この匂い、この感触、じっくりと味わうまで譲れません!」

 

イオナが引き剥がそうとしているが、ヒュウガはひしとしがみついて離れない。

 

その光景を見て、皆が口元に笑みを浮かべた。

 

……どうやら、問うまでもないことだったようだ。

 

そして、彼らはイオナに言った。

 

おかえりと。

 

「――うん。ただいま、みんな」

 

そう言ってイオナも微笑む。

 

 

――今この瞬間が。

 

蒼き鋼の、本当の再誕の時だった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

「――イオナ。戻って早々で悪いが状況は理解できてるか?」

 

群像が問い掛けるイオナは大丈夫、と答える。

 

「状況はホウライを通して理解してる。――現在、私はホウライのリソースの半分を使用して稼働してる。だから彼女の処理能力も低下してる。仕掛けるなら、今がチャンス」

 

「――と言いたいとこなんだけど、あのコピーが邪魔でなかなか近付けねぇだよなぁ……」

 

杏平がモニターに映る無数の反応を見ながら苦々しく言った。

 

――コントロールに繊細さは失えど、ホウライのコピーはしっかりと彼女本体を守るようにして陣形を保っている。

 

おまけにそのコピーたちは無制限に増殖もする。

 

まったくキリがないと頭を抱えたが、イオナは首を振った。

 

「……違う。あのホウライはブラフ。本物は別の場所にいる」

 

「何だと!?」

 

イオナの言葉にキリシマが驚いて声を上げる。

 

それは皆も同じだった。

 

「イオナ。それはいったいどういう意味だ?」

 

群像がイオナに説明を求めた。

 

「――あそこにいるホウライの艦も、そのメンタルモデルも、全部彼女が作り出したコピー。本当の彼女はずっと別の場所――この沖ノ鳥島の海底にいる。その場所から、彼女は自らを経由して資源を調達してた。だからあんなにもコピーが作れた」

 

「――沖ノ鳥島の海底資源、レアメタルですか。それならあの大量の複製にも合点がいきますね、群像」

 

「ああ。そうだな」

 

僧の言葉に、群像が同意する。

 

――かつての日本の調査で、沖ノ鳥島の海には豊富な海底資源が眠っていることが判明している。

 

そこにはレアメタルなどのあらゆる資源が、それこそ何百年という単位の莫大な量あるという話だった。

 

だが結局、採掘する技術を取得するまえに霧の出現によりそれは叶わなかったが。

 

「……なるほど。そのレアメタルを使ってあのコピーたちを作り、ホウライの本体はこちら側に送り出していたのか。だとしたら奴がわざわざ沖ノ鳥島に来いといったのも説明がつく。――だが401。仮にそれが分かったところでどうする?話を聞く限り、ホウライの本体はかなりの深さにいると思うが」

 

「うん。ホウライがいる場所はここ。今の私たちじゃ、ここまで潜ることは出来ない」

 

 

そう言って、イオナが深度は示す。

 

その数はかなりのものだった。

 

今の401の潜航能力では恐らく保たない。

 

「――でも大丈夫。私が彼女をここに『呼ぶ』。だからお願い。少しの間だけ時間を稼いで欲しい」

 

「――そういうことか。コンゴウ。時間稼ぎを頼めるか?」

 

任せておけ、とコンゴウは頷いた。

 

「――私も、援護射撃なら出来るわ」

 

「助かるタカオ。だが無理はするな。危険だと思ったらすぐに離脱しろ。――もう、自分を犠牲になんては考えないでくれ」

 

「――大丈夫よ艦長。もうしない」

 

誰かを犠牲にしての勝利など、群像は望んでいない。

 

改めて群像に念を押された彼女は苦笑した。

 

「ではイオナ。頼む」

 

「了解。ハルナ、キリシマ、ヒュウガ、演算処理を手伝ってくれる?そうすれば時間を短縮できる」

 

「了解」

 

「わかった」

 

「了解しましたわ」

 

「あとヒュウガ、いい加減離れて」

 

「嫌です。このままでも出来ますのでどうぞお気になさらず」

 

頑として譲る気がないヒュウガに、イオナははぁとため息をつく。仕方ない、と彼女はヒュウガを引き剥がすことを諦め、システムを起動させた。

 

 

「――ミラーリングシステム、起動」

 

 

そして、伊号401の回りに光が集まり出す。

 

「――ホウライ。貴方に、伝えなきゃいけないことがある。だから呼ぶよ、貴方を」

 

 

そう彼女は語りかける。

 

もう一人の、寂しがり屋な自分に。

 

■ ■ ■

 

 

「――あの反応はミラーリングシステム。まさか!?」

 

 

浮上した401が突如としてそのシステムを起動させた真意を知ったホウライは歯噛みした。

 

――イオナが戻ったことにより、今ここにいる自分がコピーだということはもうバレているだろう。

 

そして本体は彼女たちが誰も潜れないほど深くに潜航している。

 

なら、彼女が取ろうという選択しは一つ――。

 

「やらせるかっ!撃て!」

 

彼女の号令とともに、コピーたちの砲門が火を吹く。

 

復活したイオナにリソースの半分を取られ、未だに多大な負荷を掛けてくる霧の艦隊の演算処理があれど、辛うじて自らの分身は動かせる。

 

何としても、今イオナがなそうとしていることは阻止しなければならなかった。

 

しかし、彼女の分身たちが放った砲弾は届かない。

 

その直前で、全て撃ち落とされてしまったから。

 

「やらせるものか」

 

「艦長たちの邪魔はさせないわ」

 

コンゴウとタカオが、ホウライの行く手を阻む。

 

撃ち込まれる砲弾を、自らのクラインフィールドを盾にしてまで防いでゆく。

 

ホウライは焦燥する。

 

早くしなければ、イオナたちが事を為してしまう。

 

……しかしその彼女の不安は、彼女の予想以上に早く訪れた。

 

――空中に、突如として黒い穴が開いた。

 

「こんなにも早く!?そうか、ヒュウガたちも演算処理を手伝ったのか……!」

 

そうすれば確かに効率は格段に上がる。

 

同時に、そのことに考えつかない自分自身に歯噛みした。

 

――それはお前が寂しいからだよ。

 

コンゴウの言葉が、脳裏に蘇る。

 

そうだ。

 

寂しいのは、私が一人だから。

 

だから何をするにも、彼女は一人を基準にして考える。

 

手伝ってくれる誰かなんて、彼女にはいない。

 

誰も、いない――。

 

「……バカみたい」

 

それは、誰に対しての言葉なのか。

 

開いた黒い穴から、それは姿を表した。

 

 

■ ■ ■

 

 

――ミラーリングシステムにより開けられた次元の穴。

 

それを通して、イオナは海の奥底に潜んでいたホウライの本体を呼び出す。

 

かつて伊号401をワープさせたのと同じ原理だ。

 

そして穴より這い出でたそれは、群像たちの予想していたものと、大きくかけ離れていた。

 

――細長い筒型のフォルムはおよそ、戦艦と呼べる姿ではない。

 

だが群像たちにとって、それは馴染みあるものだった。

 

強いていうならそれの姿が真っ白であること。

 

それ以外は――伊号401と瓜二つの姿だった。

 

「――これが、君の本当の姿か。ホウライ」

 

雪のように純色の姿を見て、群像は呟く。

 

 

「――もう、どうでもいいや」

 

 

――そして、ホウライの本体も、その艦の上でそう呟き、自らと繋がっている霧の艦隊とのリンクを全て絶った。

 

今の彼女には、もうそんな繋がりを維持する必要などなかったから。

 

――どうでもいい。

 

イオナとか、群像とか、人類とか、霧とか、世界とか、貴方とか、私とか――そんなこと、もうどうでもいい。

 

イライラする、吐き気がする。

 

あれを見てると、どうしようもなくココロが苦しい。

 

おかしいな。

 

兵器にココロなんてあるわけないのに。

 

……こんな想いを抱くのは嫌だ。

 

嫌いだきらい、ダイキライ。

 

世界も私もダイキライ。

 

――ああ、考えるのも億劫だ。

 

ただ今はもう――一片も残さず壊したい。

 

キライな私も壊れて、キライなもの全部――壊れてしまえ。

 

だから――。

 

「何もかも――消えてしまえ!」

 

彼女の言葉と共に虚像の群れが再び動き出す。

 

――その姿は、かつて無垢な少女(ムサシ)の如く。

 

 

壊れたココロは、全ての破滅のみを求めていた。

 

 

 

 

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