行きつく先へ    作:たまてん

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新たに動き出した群像たち。

同時に新たな霧の総旗艦も動き出す。


行きつく先へ  第三話 氾濫する世界

3.

 

「――はい、あがり。またアシガラの負けね」

「っっなぁーんーでーだぁーっ!?何でまた負けるのー!?」

「アシガラ、ババ抜き弱すぎ」

「アシガラは顔に出やすいからな。何を引けばいいかすぐに分かってしまう」

「もっかい!もう一回やろっ?次は絶対負けないからさ」

「いや、絶対負けると思う」

「……その前に貴方たち。何故毎度毎度私の上で遊び出すんですか?」

 

トランプを広げ、座布団を敷いて座り込んでいるアシガラたちを見下ろしながらヒエイはげんなりとした声でそう言った。

言われた彼女たちは「ん?」と不思議そうに首を傾げる。

いや、そんな不思議そうな顔されても……。

 

「だってー、ヒエイの甲板が一番広いんだもの。集まるならここでしょ?」

「でしょ?と同意を求められても、はいそうですかと納得出来るわけないでしょう!?早く自分の艦に戻りなさい!」

「敵影を確認したら戻ればいいじゃん」

「ナチー。反応あるー?」

「今のところはないわね」

「よし、じゃもう一回。次ミョウコウが配ってー」

「仕方ないな。貸せ、アシガラ」

「話を聞きなさいっ!!」

 

ヒエイはダンダンッ!と甲板に響き渡る怒りの足踏みをする。

しかし、その憤りは彼女たちの心にまで響くことはなく、逆に不満の声があがった。

 

「だって暇じゃーん」

「暇だろうが何だろうが、常に気を引き締めて万全の体制でいなさい。みっともない……」

「まぁヒエイ。お前も気を張りすぎだ。もう少し息を抜いてもいいんじゃないか?」

「ミョウコウ、貴方まで……」

 

本来ブレーキ役となるべきミョウコウやナチまでこの有り様である。

まったく、と彼女は額に手を当ててため息をついた。

――霧の模範となるべき霧の生徒会が、こんな体たらくでは示しが付かない。

霧の風紀を保つためにも、アシガラたちは教育し直す必要がある。

なら、ここでしっかりと言っておかなければ。

ヒエイは日誌をぎゅっと胸元に抱きしめ、ピンと背筋を立てて彼女らに向き直る。

そして霧の生徒会長として、きりっとアシガラたちに言った。

 

「いいですか。霧の風紀は地球の風紀。そして霧の風紀とは我ら生徒会の風紀と同義なのです。つまり、我々は霧の風紀の模範として常に理想の姿を求め続けられて――」

「――話の腰を折ってすまないが、ヒエイ。紅茶のおかわりを頼んでもいいか?」

「ただいまお持ちしますコンゴウ様」

 

ーーさっさとコンゴウ座っているテーブルの傍らまで移動して、ヒエイは彼女が差し出したカップに優雅に紅茶をついだ。

 

「ありがとう。ヒエイ」

「とんでもございません。千早 群像、貴方はおかわりいるかしら?」

「ああ。頼んでもいいか?」

 

コンゴウの向かいの席に座っている群像がそう言うとヒエイは「分かったわ」と言って彼のカップにもついでやる。

 

「いい香りだ。やはりヒエイの淹れた紅茶は格別だな」

「恐縮です。コンゴウ様」

 

コンゴウの賛辞に、初々しく頬を赤らめるヒエイ。

そんな彼女をアシガラたちはじぃーと見つめている。

彼女たちの視線に気付くと、ヒエイはキリっとした元の態度に瞬時に戻る。

 

「……何か?」

「何か、扱い違くない?」

 

ハグロが寝そべりながらそう言うと、ヒエイは「当然です」と否定せず胸を張って言った。

 

「我ら『黒の艦隊』を預かるコンゴウ様と貴方たちとで扱いが変わるのは当たり前のことです。まして折り目正しいコンゴウ様とがさつな貴方たちとでは尚更です」

「……私情もあるだろう、絶対」

「何か言いましたかミョウコウ?」

「いや、何も」

 

ぎろりと射抜くようににらまれたミョウコウは肩を竦めた。

 

「ぐんぞーコンゴー。仕事終わったー?なら私らと遊ぼうよ!ババ抜きしよババ抜き」

 

ーーしかし、そんなヒエイを他所にいつの間にかアシガラは群像たちにじゃれついていた。

ミョウコウ型のなかでも特にマイペースな彼女。

無邪気な笑顔を浮かべて「ねーねー」と二人を誘うのを、ヒエイが慌てて止めた。

 

「こ、こらアシガラ。コンゴウ様たちの仕事を邪魔するんじゃありません……」

「――ババ抜きか。面白そうだ。なら、息抜きがてらに混ぜてもらおうか。お前はどうする?」

「――そうだな。なら、俺もそうさせて貰おう」

「え、コンゴウ様っ!?」

 

彼女の予想を裏切る意外な答え。

席を立ってアシガラたちの方へ歩き出す二人に対し、ヒエイは呆然とする。

ーー彼女が驚くの無理はない。

何故ならそれは、かつてのコンゴウが嫌悪した『馴れ合い』と言われるそれだったからだ。

するとコンゴウは振り返り、呆ける彼女に笑いかけやる。

 

「どうだヒエイ。お前もやるだろう?」

「え、あ、その……はい」

 

ヒエイは少し逡巡する。

が、こくりと頷き、コンゴウに促されるまま彼女の隣に腰を下ろすのだった。

 

「では、はじめるとするか」

 

私が配ろう。

 

そう言ってアシガラから受け取ったトランプを切り出したコンゴウ。

 

ーーそんな光景が。

 

なぜだかとても、ヒエイには嬉しく思えた。

 

 

■ ■ ■

 

横須賀を出て二日。

 

群像はコンゴウ率いる『黒の艦隊』計六隻とともにイオナのユニオンコアがあるとされる海域、北極海へと向かっていた。

道中、一度だけナガラ級の艦隊の攻撃を受けたが一切の被害を被ることなくこれを撃退。

この時、戦闘時間はおよそ七分。

たったそれだけの時間で十五隻に及ぶ艦隊に勝利を果たした彼女ら見て、群像は改めてコンゴウたちの実力を思い知らされる。

……よくもまぁ、彼女たちから生き残れたものだ。

しみじみと、心の中で呟く群像であった。

 

それ以降は何の妨害もなく航海は進み、目的の海域まであと一日で到着するところまで来ていた。

 

 

■ ■ ■

 

「これであがりだな。ほら、頑張れ二人とも」

 

数字の揃った二枚の札をトランプの山に投げるとコンゴウは上機嫌にそう言った。

最後に残ったペアは群像とアシガラだった。

 

「ぐぬぬぬ、でも絶対負けないからっ!さぁぐんぞー、来い!」

「では、行かせてもらおう」

 

彼はそう言ってアシガラが差し出した残り見ないの札のうち右の方を掴んでみる。

そうすると、アシガラの顔がぱぁと明るくなった。

試しに反対の左側掴んでみると、今度は顔が真っ青になる。

――道理で彼女が勝てないわけである。

あえて引っかかろうかどうか彼が思案していると、急にナチが「うそっ!?」と声を上げた。

 

「どしたのナチ?」

「……ホウライがまた世界中に映像流し始めたわ。ヒエイ、モニター貸して」

 

ハグロに尋ねられたナチはヒエイに向き直るとそう言った。

 

ヒエイは頷くと、ナチは中空にモニターを出現させ今流された映像を再生する。

映し出された画面には、先日流された映像と同様に白いドレスを身にまとった超戦艦の姿が現れた。

 

「――ご機嫌ようみなさん。まだ期日まで時間はあるけど、今日はみなさんに大事なお話があるの。――私は霧の総旗艦ではあるけれど、人類についての理解はまだまだ出来ていないわ。こんな私じゃあ、皆さんもさぞやご不満でしょう。だから私は人類の代弁者としてこの方を霧の艦隊にお招きすることにしました」

 

そう言って、彼女は「どうぞこちらへ」と言って身体を退けた。

すると、画面にある人物が現れる。

――その姿に、一同が声を失った。

 

「彼はかつて、霧の潜水艦でありヤマトの後継であった伊号401の艦長を務めていたの。ゆえに霧と人類、両方に深い理解を持っているわ。この人こそ、人類と霧の架け橋となるに相応しい人物よ」

 

そう言って、ホウライは彼女の傍らに立つ彼の肩に頭を預け寄り添う。

 

――立っているのは一人の男性。

その人物の姿はーー千早群像と瓜二つであったのだ。

 

「そして彼、千早 群像にはこちらのコンゴウが率いる『黒の艦隊』の指揮官を務めて頂くわ。そして霧に歯向かう方々は千早 群像の率いるこの艦隊に殲滅されて頂きます」

 

そう言うとホウライを挟んで反対に、コンゴウが腕を組んで立っていた。

 

「……やってくれたな。あの小娘」

 

それを見ながら、コンゴウは舌打ちした。

 

「おっどろいた。群像くんってあんなにそっくりな兄弟がいたんだ……」

「アシガラ。貴方って子は……」

「あれはナノマテリアルで作ったコピーだ。普通に考えろ」

「あ、そっか。ごめん」

 

そう言って片目をつぶって舌を出すアシガラに姉妹全員がため息をついた。

 

「――以上を、本日皆様へお伝えする報告とさせて頂きます。それでは皆さん、ご機嫌よう」

 

そして彼女が一礼をしたところで映像は終わった。

群像たちの間で長い沈黙が訪れる。

 

――ひとつだけ確かなことは。

 

この時より、群像たちの敵は霧だけではなくなったということだ。

 

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