行きつく先へ    作:たまてん

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それが、彼女の選択


行きつく先へ 第二十九話 ジョーカー

29.

 

 

『――てことはつまりだ。千早群像一行は無事事件を解決出来ました、でいいわけだな』

 

「ああ。どうやらうまくやってくれたようだ」

 

通信機から聞こえる山村の言葉に、上陰が頷く。

 

 

――先ほど、ジャミングが解除されアメリカ政府との通信が完全に回復したという報せが入った。

 

この報せが意味するもの――それは、千早群像たちが、成り行きはどうであれ超戦艦ホウライを無力化したことに他ならない。

 

同時に、人類への総攻撃も阻止出来たことにということだ。

 

『何はともあれ、一件落着だな。あーよかったよかった』

 

 

「……私からしたら、万事良かったとは言い難いがな。今回の一件で相当手荒な真似をしたおかげで、これから御老人方をなだめるのに大忙しだ」

 

『それはお気の毒に。――でも、正直意外だったな』

 

「何がだ?」

 

『お前が今回みたいな博打をしたことが』

 

「……確かにな」

 

――彼女の言う通り、自分らしくないリスキーなことをしたのは確かだ。

 

けれど、そう決意した時、不思議と後悔はなかった。

 

むしろ、満足していたとも言える。

 

「……私も、他人のことは言えないな」

 

そう上陰が苦笑した時、部屋の扉がノックされる。

 

入れ、と言うと扉を開けて入ってきた上陰の部下は彼に一枚の報告書を差し出した。

 

受け取った上陰がそれに目を通すと、「……やはりな」と呟く。

 

『どうした?何かあったか?』

 

「――いや。ある意味、予想通りの事態が起きた。それだけだ」

 

彼は苦いため息をつく。

 

――こうなるとは、薄々検討がついていた。

 

しかし、今の彼らにはどうしようもない。

 

群像たちに伝えたいとは思うが、上陰たちが伝えるより前に、彼らは直にそれと対峙することになるだろうからあまり意味はない。

 

となると、あとは成るように成れ、流れに身を任せることになる。幸いにも、上陰たちが直接被害に遭うことはないのだから。

 

しかし――。

 

「……これは流石に、後味が悪いな」

 

 

そう言って、彼は再度ため息をついた。

 

 

■ ■ ■

 

 

「――今日こそ決着を着けるよ!我が宿敵、重巡タカオ!」

 

「だ・か・らっ!私をアンタのライバル的な立ち位置にすんなって言ってんのよ!って、またババ!?」

 

「引っ掛かった引っ掛かったー!」

 

「うっさい!」

 

 

「……いい勝負だな。本当に」

 

 

「見ている分には楽しいよねー」

 

「けれど当の二人は至って真剣な話なのでしょうね、きっと」

 

 

やいのやいの言っているタカオとアシガラを、ミョウコウたちがほのぼのとした雰囲気で見守っていた。

 

「――微笑ましいものだな」

 

「頑張んなさいよタカオ。アンタのアドミナルが見てるわよー」

 

「――本当、だから何で毎回私の上でなんですか……」

 

 

紅茶を飲みながらコンゴウとヒュウガが笑い、そんな二人に紅茶を注ぎながらヒエイはげんなりとした顔でそう言った。

 

そんな彼女に、キリシマが「ご愁傷様」と呟く。

 

そして、同じくその場にいた401メンバーも声援を送る。

 

「ほら、タカオ頑張って!」

 

「アシガラさんも頑張ってください」

 

「二人とも頑張れよー。おら群像。お前はタカオ応援してやれよ」

 

「そうだな。――頑張れ、タカオ」

 

「うん!ぐんぞー、私がんばる!」

 

「アンタが答えんなっての!」

 

元気よく群像に手を振るアシガラにタカオが食ってかかった。

 

 

「さて、どちらがこのメンバーでビケになってしまうんでしょうね……」

 

「――あるいは、どちらでもないかもな」

 

僧の言葉に対し、ハルナが言った。

 

 

そしてちらりと、ハルナは横目で彼女を見る。

 

 

「ほら。次はアンタの番よ。さっさと引きなさい」

 

 

タカオはそう言って、もう一人の残留組に手札をかざす。

 

 

「わ、わかってるわよ。ちょっと待ちなさい」

 

 

言って彼女――ホウライはむむむ、と眉間にシワを寄せて、タカオの手にある持ち札をじっと見詰めた。

 

 

そしてしばらくして彼女はこれだ!と叫んで真ん中のカードを手にとる。

 

 

「やった!ジョーカーよ!これで私の勝ちね!」

 

 

「……ホウライ。それは違う。ジョーカーを抜いても勝ちにはならない」

 

「なんですって!?」

 

横で座っていたイオナにそう指摘され、ホウライが目を見開いた。

 

「だ、だって『ババ抜き』なのでしょう!?だから、『ババ』を抜いたら、それで終わりじゃあ……?」

 

「違う。ババ抜きは最後までババを持っていたら負け。『ババ』を()いて勝つゲームなの」

 

「そ、そんな……」

 

「――まさかここまできてゲームの根本を理解してない猛者がいたとはな」

 

「ある意味、アシガラを越えていますね……」

 

まさかの発言に、コンゴウとヒエイが若干引き気味そう言った。

 

「ホウライがんばれー」

 

「おーがんばれがんばれー」

 

イオナからアドバイスを受けながら真剣にトランプと睨みあっている彼女に、蒔絵は素直に、キリシマはにやにやと笑みを浮かべながら声援を送った。

 

「――キリシマ、お前はそれで本当にいいのか?」

 

「――蒔絵が許すと言ったんだ。私がとやかく言うことはないさ。」

 

キリシマはそう言った。

 

 

 

――ごめんなさい。

 

 

話し合いが終わったあと、群像たちに連れられてきたホウライは、そう彼女たちに頭を下げてそう言った。

 

群像とイオナも、どうか彼女を許してやって欲しいと言っていっしょにお願いしてきた。

 

コンゴウやヒエイたち、401クルーは素直にその言葉を受け取った。

 

元々イオナたちの説得が成功したなら、そのつもりであったから。

 

けれど、ハルナとキリシマにはその謝罪をすぐには受け取ることが出来なかった。

 

謝ったからと言って、彼女の大切な友人が味わった恐怖や亡きものにしようとしたホウライの過去が消えるわけではない。

 

しかしその時、戸惑う二人が答えを出す前に蒔絵が前に進み出た。

 

そして彼女は言った。

 

「――もう二度と、ハルハルやヨタロウを傷付けたりしないって、約束してくれる?」

 

 

こくりと、ホウライは頷く。

 

すると、蒔絵はにこりと笑って「じゃあいいよ!」と彼女を許した。

 

 

 

――あまりにもあっさりなことだったが、それはきっと、誰にでも出来ることではない。

 

 

 

「――無論、思うところはあったさ。だが当の蒔絵がいいよと言ったんだ。……一応許すつもりではいたしな。それに蒔絵が一番面倒な踏ん切りどころを引き受けてくれたわけだし――蒔絵が望むなら、それでいい」

 

「――お前も大概だな、ヨタロウ」

 

「お前にだけは言われたくないぞ、ハルハル」

 

そう言って二人は目を見合わせたあと互いにふふっと笑っい合った。

 

 

「っうぉっしゃ勝ったぁぁぁ!」

 

 

「そんな。この私が負けるなんて……」

 

アシガラがわーいわーい!と両手を上げて喜んでいる。

 

対して、手元に残ったジョーカーを呆然と見つめるホウライを、イオナが「ドンマイ」と慰めた。

 

ぎりぎりビケ決定戦から逃れたタカオがふぅと息を吐いて頬を伝う汗を拭った。

 

「何とか私の威厳は保たれたわね……」

 

「そもそもお前に威厳なんてあったのか?」

 

「シャァー!!」

 

 

キリシマの何気ない一言に、タカオが威嚇行動を取る。

 

さながら警戒心旺盛な猫のようだ。

 

「ふっふーん。どうやら私の方が格上だったみたいだねー。で、どうするホウライ?もう一回いっとく?」

 

 

「……そう言うお前も辛うじて下から二番目なんだがな。アシガラよ」

 

 

えっへんと胸を張る我が妹に、ミョウコウは深いため息をついた。

「ホウライ。リベンジ、する?」

 

イオナがそう提案すると、若干ショックを受けたままのホウライは首を横に振った。

 

「リベンジしたいのは山々だけど、残念なことに――そろそろ、時間みたい」

 

「えっ?」

 

どういう意味?、とイオナが尋ねようとした。

 

がその前に、立ち上がったホウライがその手を大きく横に振って言った。

 

「――火鼠の衣、起動」

 

その言葉と共に、彼女の本体である潜水艦からクラインフィールドが発せられる。

 

何事か、と一同が身構えたがその発生したクラインフィールドはホウライだけでなく、群像たちも、いや付き従っていた霧の艦隊全てを覆うほど巨大なものになった。

 

「ホウライ、いったいどうしたんだ?」

 

「――来た。総員、衝撃に備えて」

 

彼女が言うと同時に、重々しい炸裂音と、激しい揺れが群像たちを襲った。

 

何が起こったのか。

 

疑問に思った彼らが空を見上げると、クラインフィールド越しにそれは見えた。

 

――真っ赤に輝く、その閃光を。

 

「――振動弾頭よ。アメリカ政府が射った奴ね。どうやら、私からコントロールを取り戻せたから貴方たちもろとも沈めたいようね」

 

「――なるほど。そういうことか」

 

ホウライの言葉に、コンゴウが苦い笑みを浮かべた。

 

――ホウライが振動弾頭のコントロールを手放した今を好機とみたのだろう。

 

千早群像たち率いる蒼き鋼もいるが、彼らは依然として世界の敵のままだ。

 

巻き込まれたとしても、誰も文句は言うまい。

 

「――ったく、悪知恵の働く連中ばかりで疲れるぜ」

 

 

「まったくだね、本当に」

 

杏平の言葉に、いおりが同意した。

 

しかし、と群像は頭を悩ませた。

 

いつまでもこうしてホウライに守られているわけにはいかない。

 

かと言って下手に動けば惨事になりかねない。

 

どうしたものか……。

 

 

「――大丈夫よ。今度は、ちゃんと私が守るから」

 

 

「ホウライ……?」

 

 

そう言って彼女は微笑んだ。

 

 

「――システム起動。龍之首の珠」

 

 

すると、彼女の身体が一瞬だけ蒼く光る。

 

「――このシステムは、一定時間の間、攻撃対象を誤認させるシステム。本当は、貴方たちを同士討ちさせるために温存していたものだったんだけどね」

 

出す暇なかったのよね、と彼女は肩を竦めた。

 

――しかし。

 

それが意味することとはつまり……。

 

「ホウライ。まさか、君は……」

 

「そう。振動弾頭の攻撃対象を『私』のみに限定したわ。これで、貴方たちは安全に海域を離脱出来る。――二次が来るまであと五分。早く行きなさい、群像」

 

「待ってくれ!それはダメだホウライ!」

 

 

それでは、彼女だけが犠牲になってしまう。

 

自分たちを守るために、彼女だけが。

 

焦る群像に、ホウライは「別にいいのよ」と微笑んだ。

 

 

「――ちょっとアメリカ政府には持たせすぎている(・・・・・・・・)から、ここで少しでも消費してもらった方がいいわ。それに、ちょうど良かった。――この戦いには確かな、目に見える終わりが必要なのよ。だからそのためにも、『超戦艦ホウライ』はここで沈むべきなのよ」

 

 

それとそうだ、とホウライは思い出したように手を叩いて彼女は自らの腹部に手を当てる。

 

そして一瞬その部分が光る。

 

彼女は自らの中から取り出したそれを、イオナへ差し出した。

 

「――イオナ。これを貴方に返すわ。システムの維持はこれがなくてもしばらくは出来るようにしたから、気にしなくていいわ」

 

――差し出されたそれは、イオナのユニオンコアだった。

 

……まさか、自分の意思でこれを返す日が来るなんてね。

 

自分でもびっくりよ、と言って、彼女はコアをイオナに手渡した。

 

「――それじゃあ、さっさと行きなさい。じゃないと貴方たちもろともおじゃんよ」

 

「だから待ってくれ!それ以外の道があるはずだ!君が犠牲になる以外の、道が……」

 

必死になって群像がホウライを止めようとしてくれている。

 

他のメンバーもそうだ。

 

彼女を、ホウライのことを止めようとしてくれている。

 

 

――それだけで、彼女には充分だった。

 

 

「――いいのよ。ほんの一時だったけど、私には帰る場所が出来た。受け入れてもらえた。――嬉しかった。これ以上ないほどに。任せて。ちゃんと群像たちの帰る場所も取り戻してあげる。だから、もう充分だから――ありがとう。みんな」

 

 

そう、彼女は笑った。

 

――止めたかった。

 

何としても、彼女を。

 

だけどその笑顔が、あまりにも清々しくて、眩しすぎて。

 

誰も言葉をかけられなかった。

 

群像さえも……。

 

 

 

 

「――ううん。私はまだ、充分じゃない」

 

 

 

――しかし、彼女は違った。

 

 

今度はイオナがホウライの手をとる。

 

そして、彼女のその手に、何かを握らせた。

 

「イオナ……?」

 

「――ホウライ。貴方に、これを貸してあげる」

 

 

訝しげにホウライは視線を手元に向けると、握らされたそれがなんなのか理解してぎょっとした。

 

――それは、あのブローチだった。

 

群像がイオナにプレゼントとした、あのブローチ。

 

「ちょ、ちょっと待って!こんなの受け取れないわよ!だって、私これから沈むのよ!?壊れちゃうし、失くしちゃうじゃない!」

 

 

「貸してあげるんだから、もし失くしたり壊したりしたら、許さない」

 

「八方塞がりじゃないっ!?」

 

「――だから、必ず返してね。それまで、ずっと待ってる」

 

 

真っ直ぐな瞳が、ホウライを見つめる。

 

 

――待っている。

 

ずっと、どれだけ時間が経とうと。

 

 

彼女は、自分の帰りを待っていてくれると。

 

そう、言ってくれた。

 

「――貴方はそれでいいの?群像」

 

 

ホウライは群像に問い掛ける。

 

彼は構わない、と答えた。

 

「待っているよ。君が帰るのを。俺たちみんなで。――それとホウライ。一つだけ、君に伝えて起きたいことがある」

 

「何かしら?」

 

「それ、結構値が張ったから、大事にしてくれ」

 

 

「……すこぶるどーでもいいわ」

 

 

至って真面目にそう言う群像に、彼女は苦笑する。

 

 

そして、握らされたブローチに彼女は視線を戻す。

 

「――重いわね、これ」

 

ぽつりと、彼女が呟く。

 

それにイオナがこくりと頷いた。

 

「それが、帰る場所のある人の重み。――つらい?」

 

「ええ。――でも、悪くないわ」

 

――押し付けられたこれは、背負うには少しで重たいものだったけど。

 

この重さも、温もりも、決して嫌いではなかった。

 

愛しいとさえ、思えた。

 

だから――。

 

「……分かったわよ。必ず会いに行く。少し時間がかかるけど。それまで――待ってて、くれる?」

 

――背負えるなら、背負いたい宝物だ。

 

ホウライの問いに、イオナが微笑んだ。

 

「うん。待ってる。だから――いってらっしゃい。ホウライ」

 

 

「――うん。いってきます」

 

 

いつの日か、ただいまと言うために。

 

 

彼女はイオナたちに背を向けた。

 

 

――これ以上ない、希望の溢れた、微笑みを浮かべて

 

 

 

 

 

■ ■  ■

 

 

 

「――あーあ。また随分な約束しちゃったな。私」

 

 

だんだんと小さくなっていく彼女たちの姿を見送りながら、ホウライは一人呟く。

 

 

――潔く消えるつもりだった。

 

『ホウライ』という存在は、やはりこの世界にとって異質なものだ。

 

ヤマトたちの憎しみが消えたわけではないし、これから何が起こるかなんてわかりはしない。

 

なら、さっさといなくなった方が後々になって面倒事が起こる心配もない。

 

……本来なら、一人寂しく消えるはずだったんだ。

 

それがほんの一時、あんな幸せな時間を過ごせた。

 

彼女にとっては、充分満足できるものだった。

 

だというのに――。

 

「……未練、出来ちゃったな」

 

 

――待っているという彼らの言葉。

 

返せなきゃいけない大切なもの。

 

それらを、放り捨てるわけにはいかない。

 

何よりホウライ自身が、捨てたくないと思っていた。

 

仕方ないと、そう言えることが幸せだと分かっていたから。

 

 

「――こんな私でも、帰る場所があるんだ……」

 

 

――ババ抜きにおいて、ジョーカーは嫌われものだ。

 

 

それが残ることをみんな何より嫌がる。

 

だけどババ抜きが終われば、ジョーカーは帰れる。

 

他のカードたちの元に、そして違うゲームでもジョーカーにしかできない役割を与えられる。

 

 

帰る場所があって。

 

 

いてもいい場所がある。

 

 

迎えいれてくれる人がいる。

 

 

――ああ。

 

 

それはなんて――幸せな夢なんだろう。

 

 

そんな未来を、今の私には選べる。

 

 

だから、今は――。

 

 

「――バイバイ」

 

 

――彼女の視界を、赤い光が満たす。

 

 

崩れゆく我が身を見つめ、自らの意思で選びとった未来へ進むために。

 

 

 

――私は『超戦艦ホウライ(わたし)』に別れを告げた。

 

 

 

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