行きつく先へ    作:たまてん

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彼らは進む。
どこまでも

* * *

次回、第三十一話以て最終回となります。


行きつく先へ 第 三十話 航路を進め

30.

 

――また、一つの赤い花が蒼い海に咲いた。

鮮やかに輝くそれは、まるで花火のように美しいもの色をしていた。

しかし、あれはそんな優しいものではない。

ヒエイの甲板上からその振動弾頭の光をただ見つめることしか出来ない自分に、群像は苛立ちを感じた。

――戦いは終わった。

なのに、誰一人としてその事実に喜べなかった。

結果として残ったのは、一人の少女を犠牲にして、助かった自分たちという現実。

 

……こんな結末を望んでいたわけではない。

そうならないための答えを探していた。

なのに……。

――行き場のない憤りと悔しさに、彼は拳をきつく握りしめ、唇を噛み締めた。

 

その時だ。

 

「っ、これは……!?みなさん、これを見てくださいっ!」

 

そう言って、ナチは自らの手元の画面に流れてた映像を、彼らの正面に表示した。

 

その映像に、彼らは息を飲む。

 

――それは、あの大戦艦の姿をしたホウライが、群像やコンゴウたちの攻撃によって撃沈していく姿だった。

 

「発信源はわかりません。ですが現在、この映像が全世界に向けて放映されているようです」

 

「……なるほどな。単純ではあるが、効果的な演出だ。これで世間の人間たちに、千早群像がこちら側の味方と思わせることが出来る」

 

――しかし、それでもはじめに流したあの映像に比べると、まだインパクトが弱い。

一部の人間は信じるだろうが、その数が少なすぎればあまり意味はない。

――そうコンゴウが考えていると、再びナチが「わっ!?」と驚きの声を上げた。

「今度はどうしましたか?ナチ」

 

「いえそれが、大量のデータが一気に送られてきたものでつい……」

 

「データ?何のデータですか?」

 

こちらになります、と映像を切り替えてナチが一同に見せた。

表示されたのは、びっしりとアルファベットで綴られた紙一枚。

書き方から察するに、何かの報告書のようだ。

どんな内容なのか、と群像が読もうと目を細めると突然「あぁー!っ!」と蒔絵がそれを指差した。

 

「どうしたんだ蒔絵?」

 

「これ、振動弾頭の制作報告書だよ!私見たことあるっ!」

 

「マジで!?」

 

杏平が問い返すと、代わりにハルナが「マジで」と頷いた。

送られてきたそれは群像たちが届けたサンプルを元にアメリカが作り出した振動弾頭についての報告書だった。

技術顧問をしていた蒔絵も目を通したことがある。

――しかし、今更これが送られてきたとしていったい何の意味があるのだろう。

相変わらず発信元は不明だが間違いなく彼女、ホウライから送られてきたものだ。

「あの子、いったい何のためにこれを送ってきたのかしら……?」

 

ヒエイがそう呟くと、それまで表示された報告書を読んでいた蒔絵が「あれ?」と首を傾げる。

「これ、私が読んだのと内容が違う」

「何だと?それは本当か?」

うん、とキリシマの言葉に彼女は頷く。

「私こんな量の資材を使用したなんて記述読んでないよ。これじゃあ、私が知ってる数の倍ぐらいの数ができちゃう」

 

「――はっはーん。なるほど。そういうわけか」

 

蒔絵の言葉を聞いて、タカオがにやりと笑った。

 

それは群像たちも同じだった。

 

――つまりだ。

 

アメリカ政府が保持していた振動弾頭の数は、蒔絵が許容している以上の数であったという話だ。

 

振動弾頭は霧に対抗する唯一の武器。

故に、彼女の目を掻い潜ってアメリカ政府は量産したのだろう。

同時に、蒔絵の作ったブラックボックスの解析を進めながら。

 

ホウライの言っていた『持たせすぎている』という言葉は、このことを意味していたのだ。

「無論、これが世間に知れたりしたら大問題だな。国内外からも糾弾の嵐だろう。――こちら側の言い分を聞かせるには、充分過ぎる切札だ」

 

「それだけではありません。イギリスやドイツ、フランスや中国などの恐らく最重要機密とされるデータが同じく送られてきました。日本の、『環太平洋統一国家思想』についての、詳細な概要についてもです」

 

「おーこわ。ある意味、国家元首よりもやばい人質だったんじゃねぇか?」

 

杏平が両手を上げて大袈裟な素振りを見せた。

……事実、ホウライはこのデータを使って、各国の官僚たちを脅してたりしたのだろう。

そう改めて考えてみると、恐ろしい話だった。

「確かに、これらのデータを使って各国に後ろ立てになって貰えれば千早群像は人類側としての立場は戻せるな。――いや、それどころか世界の王となれるやもしれん。さて、千早群像。お前はどうする?」

 

コンゴウの問い掛けに、群像はすぐには答えなかった。

 

……確かに彼女の言う通り、これがあれば世界を思いのままにできる。

しかし、群像にはそんな野心はない。

それ以外に、やりたいことがあった。

けれどその前に、どうしても問わねばならないことがあった。

「――イオナ」

 

そう呼んで、彼は傍らに立つ彼女に向き直る。

そして、再び自分たちの元に帰ってきてくれた彼女に、群像は問うた。

「――君は、これからどうする?」

 

 

■ ■ ■

 

 

――群像のその問いに、イオナはすぐには答えられなかった。

 

そもそも、本来なら今自分がここに存在していることはイレギュラーだ。

 

ホウライが現れなければ、起き得なかった事象。

 

ならば、とるべき行動は一つ。

 

総旗艦ヤマトは、自らの消滅を以て、霧の自我の成長を促した。

 

だから自分も再び消えるべき。

 

そう、分かっていたつもりだった。

 

――なのに。

 

「――分からない」

 

そう答えている自分がいた。

波風を立てることなく、潔く消える方法があるというのに。

イオナは、曖昧な返答をしていた。

 

「――別にいいんじゃないのか。ここにいて」

 

すると、悩める彼女にコンゴウがそう言った。

「でもコンゴウ。私は……」

 

「――なら尋ねるが401。お前は、総旗艦ヤマトそのものなのか?」

「それは……違う」

 

「ならお前は何だ?」

「私は――潜水艦 伊号401。イオナ」

 

「そうか。――なら、なんの問題もないではないか」

 

イオナの返答に、コンゴウが満足そうに微笑んだ。

 

「総旗艦でもない潜水艦の存在など、誰が気に止めよう。お前が一人のうのうとしていたところで、誰かに迷惑がかかることもあるまい。――なら、お前の好きにすればいいさ。お前の望む、お前の『ココロ』とやらに、素直に従えばいい」

だから401、とコンゴウは、ただの潜水艦である彼女に、改めて問う。

 

「――お前は、どこへ行きたい?」

 

――もしも。

 

もしも、何にも気にせず、自らの意思でそれを選びとっていいのなら。

 

私は――。

 

「――どこへでもいい。群像たちといっしょなら。私は、どこへでもついて行きたい」

 

そう、彼女は言った。

相変わらず表情の変化は乏しいが、それでも、確固たる意思を持って、彼女は言った。

 

「――だそうだ。それで、お前はどうする?千早艦長」

 

コンゴウが群像に視線を送る。

 

――なまじっか、男である自分よりよっぽど凛々しく見える彼女に、まいったなと彼は肩を竦めた。

 

それから彼は深く呼吸をし、改めてイオナ、そして401のクルーと向き合った。

 

 

「――みんな。頼みがある」

「いいよ」

「いいぜ」

「了解です」

「わかりました」

「ヨーソーロー」

 

群像が何かを言う前に、彼女たちはそう言った。

唖然とする群像に、杏平が屈託のない笑みを浮かべる。

 

「お前の考えてることなんてだいたいお見通しなんだよ。まったくよ。ここまで来て、水くさいのはなしだぜ」

「……風穴を開けただけではまだ足りない。群像、貴方は風穴を開けた世界で、まだやりたいことがあるのでしょう。なら、我々もお供します」

「艦長の進む道に、私たちは何処までついていきます。だって、私たちは仲間でしょう?」

「そーそー。どうせ戻っても山村さんたちにこっぴどく叱られるだけだし。それに、イオナもいるんだしねー」

うりゃうりゃと抱きかかえたイオナの頭に頬擦りをしながら、いおりは言った。

杏平も僧も、そして静も、真っ直ぐな眼差しで群像を見ている。

――貴方の選んだ道に何処までも着いていく。

厚い信頼と彼らの思いに、胸の奥が暖かくなった。

 

そして、最後に、イオナが言った。

 

「――群像。私は、私たちは貴方の艦。いっしょに目指そう。貴方の行きたい場所に」

 

そう言って、彼女は群像に手を差し伸べた。

――ああ。

 

今なら君の気持ちがよく分かるよ、ホウライ。

 

こうやって自分を認めてもらうことが、どんなに幸せなことか。

 

だから――。

 

「――ありがとう。みんな。もうしばらくの間、俺の我が侭に、付き合ってくれ」

 

――手放さないように、大切にしていこう。

笑って受け入れてくれる彼らを見て、群像はそう心に誓った。

 

■ ■ ■

 

「――いい仲間を持ちいましたね。彼は」

「なんだ。羨ましいのかヒエイ」

群像たちの姿を見てしみじみと言う彼女に、コンゴウはからかった様子で言うと、ヒエイはまさか、と首を横に振った。

「……多少難はありますが、いい子たちだと分かっていますよ」

 

「――おや。これはまた意外なお言葉が」

「へへぇーヒエイってばそんな風に私たちのこと思ってくれてたんだー」

 

いつの間にか、ヒエイの周りにミョウコウたちの姿があった。

「そこまで信頼されていちゃあこちらも忠義を尽くさなくてはいけないな。――これからも末永く頼むぞ。生徒会長殿」

「……ふん」

「素直じゃないなぁヒエイったら。えいっ!」

「ほんと、バレバレ。うりゃ!」

「こ、こら!?勝手に抱きつくんじゃありません!」

びっちりと自分に抱きついてくる彼女たちにヒエイは顔を赤くしながらそう言った。

 

そんな彼女たちを見て、コンゴウはふふふと口元を押さえる。

「……今のお前たちになら、安心して任せられるな」

「コンゴウ様……?」

彼女の呟きに、ヒエイは怪訝な顔をする。

コンゴウは真っ直ぐな瞳で、ヒエイを見つめた。

 

「――ヒエイよ。本日付けを以て、私コンゴウは『黒の艦隊』旗艦の任を降りる。代わりに貴艦を『黒の艦隊』旗艦に任命する」

 

「はいっ!?」

 

唐突なコンゴウの言葉に、ヒエイが目を見開いた。

 

「驚き過ぎだぞヒエイ。――お前は立派に成長した。もう私の支えなど必要ないくらいに。なら、私が前に立っていては邪魔なだけだ」

「しかしコンゴウ様!私は、私にはコンゴウ様のあとを継ぐことなど出来るはずありません!」

「それはどうかな。――異論はあるか?お前たち」

「いいや」

「全然」

「まったく」

「おっけーだよ!」

ミョウコウたちの誰にも異論はなかった。

――これまでヒエイの姿は、彼女たちが信頼するには充分な振る舞いだった。

異論などあるわけがない。

「貴方たち……だけど、私……」

 

「情けない顔をするな。もっと自分に自信を持て、大戦艦ヒエイ」

 

それでもまだ決めかねているヒエイを、コンゴウは叱咤する。

 

「お前が今までしてきたこと、努力してきたこと、それらは全て素晴らしいものだった。私も、ミョウコウたちも皆がそう思っている。――だから信じろ。お前を認めた、私たちのことを」

 

「コンゴウ様……」

不安に満ちた瞳がコンゴウを見る。

……まったく、先ほどまでの威厳は何処へやら、本当に、可愛らしいな。

その頭を撫でてやりながら、コンゴウはやれやれと苦笑する。

 

「――大丈夫だ。困ったことがあったら、必ず私が力になろう。お前は、もう一人じゃない」

 

「――会いたいと。コンゴウ様に会いたいと思ったら、また来てくれますか?」

 

「もちろんだとも。お前が望むなら、いつだって。――だからヒエイ。これからは、お前の意志で、進んでごらん」

優しく彼女はささやいた。

その言葉に、温もりを感じた彼女は、静かにこくりと、涙を堪えて頷いた。

肩を震わせる彼女を、コンゴウは優しく抱きしめる。

それはそれは、愛おしく思いながら。

 

 

……これから何が起こるかなんて、誰にも分からない。

 

先は真っ暗で、どこへ向かうのか定かではないけど。

 

それでもやがてくるその時に、出来るだけ後悔はしたくないから。

精一杯進んで行こう。

 

新たな思いを胸に彼らは進む。

 

――ただ、今より先を目指して。

 

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