行きつく先へ    作:たまてん

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Where Do We Come frome ?

What Are We ?

Where Are We Going ?

これにて、完結となります。
ありがとうございました!


行きつく先へ 最終話 霧の向こうへ

Last ep.

 

「よお。おかえり上陰の旦那。お勤めご苦労様です」

 

「――何故君がここにいる?」

 

さも当然のように自身の執務室のソファにだらしなく寝そべっている山村に対し、会議から戻ってきた上陰は呆れた様子でそう問うた。

「いやなに、ちょっと仕事でこっちまで来たからついでに顔を出そうかなぁって思ったけど……アンタは相変わらず忙しそうだな」

「まぁな。首の皮一枚で繋がったようなものだからな。……ここで有用性を示さなければ、遠からずお払い箱だろうさ」

「ま、そうだろうな。まったく怖いお話だこと」

くわばらくわばら、と山村は呟いた。

 

 

――超戦艦ホウライとの決着から一ヶ月が経った。

当時、上層部の許可なしに軍部を動かしたことについて上陰は責任を追求された。

流石の彼もこれには腹をくくったが、それをのちに来日した蒼き鋼の艦長、千早群像の証言が覆した。

今回の事件解決における上陰の貢献、並びに現状の日本国において彼の有用性を改めて語りかけた結果、上陰の処分は見送ることとなった。

「確か千早教授ちょうど横須賀に来てたよな。俺が帰る時までいるかな。もし会ったら旦那の分のお礼言っときますよ」

「別にする必要はない。私は自身の立場を擲ってまで協力したんだ。彼が私を擁護するのはむしろ当然の対価だ」

「あっそう。けど、その彼が旦那のことを見捨てたら本当に危なかったんじゃないですかね?」

「その可能性は低いだろう。彼らにとって、事情をある程度知っている私にはまだ利用価値がある。これから交渉の場を設けるとき、単純に切り捨てるよりも何かと便利なはずだ」

それにだ、と執務机に寄りかかった上陰は不敵な笑みを浮かべる。

「――千早群像という男の性格上、そんなことは有り得ない。彼は私たち汚い大人と違い、色々と甘過ぎるからな」

「確かにそうだねぇ。けど、それでいて割りと抜け目がないから一筋縄ではいかない、だろ?」

 

「……彼がもう少し無能であったなら、こちらもやり易かったのだがな」

 

やれやれ、と上陰は苦笑した。

――けれどだからこそ。

周りにいる大人たちや、自分とも違う彼だったからこそ。

全てを賭けてみたいと思えたのだ。

……本当、今思い返してみても、我ながららしくもない博打をしたものだ。

 

すると山村は「あ、そういえば」と思い出したように手を打った。

 

「アンタに渡すもんがあったんだよな」

そう言って山村はソファの傍らに置いてあった紙袋を、上陰に差し出した。

「――何だこれは?」

「預かりもん。今朝会った女の人にアンタ渡すように頼まれた。イギリス行った時のお土産のマカロンだってさ。旦那もやるねぇ」

「……女だと?」

「ああ。すっごい美人だったぜ。けどどっかで見たことあるようなないような……あ、あとその人から伝言も預かってな」

 

こほんと、山村は咳払いをする。

そしてその伝言を一言一句違わずに彼は語った。

 

 

『――せっかく日本に参りましたのでお邪魔しようかと思いましたが、このたびはお忙しいご様子なのでまた次の機会にお伺いさせて頂きとうございます。それではご機嫌よう――敬愛する、上陰のおじさまへ』

 

 

――言い終えると同時にガタンっ!とよろめいた上陰が机に手を着いた。

そのあまりの様子に、流石の山村も慌てた。

 

「お、おい大丈夫かっ!?」

「大丈夫……ではないな」

 

――これまでの人生において、これほど心臓にくる伝言は未だかつて聞いたことがなかった。

一瞬にして額に掻いた大粒の汗を手でぬぐい、上陰は天を仰ぐ。

そしてぼそりと、彼は呟く。

 

 

「――本当。あんなものと付き合える千早群像の感性が、まったく以て理解不能だ……」

 

――これ以上ないほど盛大に、上陰は深いため息をついた。

 

 

■ ■ ■

 

 

「――すまない。思ったよりも会議が長引いて遅くなった」

「ただいま帰りました。遅れてしまい、申し訳ありません」

 

そう言って開いた扉の向こうから操舵室に入ってきた群像と僧は申し訳なさそうにクルーに頭を下げた。

そんな二人に、杏平は「気にすんなって」と気さくに笑い掛けた。

 

「別に急いじゃいねぇしそもそもお前らが悪いわけじゃないんだからそうかしこまるこたねーよ」

「そうですよ。お二人ともお疲れさまでした。あとよかったらこれどうぞ。インスタントですが」

 

「ああ。ありがとう静」

 

差し出れたコーヒーのマグカップを受け取りながら、群像は静に礼を言った。

一口それを口に含むと、中に広がった芳醇な香りとその暖かさにどこか穏やかでほっとした気持ちになる。

 

「……美味いな」

 

その温もりに、群像もふと一人呟やいてしまう。

会議中にもコーヒーを煎れてもらったが、ここまで心暖まるようなことはなかった。

そもそもどんな味だったのかすら覚えていない。

群像の呟きに、専用の容器で煎れて貰った僧も「そうですね」と同意する

 

「どうやら自分で思っていた以上に緊張はしていたようですね」

「そりゃそうだ。――で、結局会議の結果はどうなったか聞いていいか?」

 

「ああ。と言っても結果は概ね予想通りだ。互いに合意の上で、日本国の振動弾道の保有はこちらの想定範囲内で済みそうだ」

 

――それが今回の主な議題内容だった。

 

現在日本国は国内の統治もままならないため、海外との交流は極めて難しい状態にある。

不足した物資を調達しようにもそれを提供してくれる国とのパイプすらないのが現状だ。

ゆえに群像たち率いる蒼き鋼はそんな日本国に対し、海外の国々へ支援援助を要請するメッセンジャーたる役目を買ってでた。

その代わりとして群像たちが日本国に要求したのは――いずれ配備される振動弾頭の保有数の制限についてである。

かつてのアメリカのような事態は避けたい。

しかし、だからと言って振動弾頭の配備に反対するつもりはなかった。

振動弾頭は人類が霧に対抗するための唯一の切札だ。

それを得ることで、人類は初めて安心感を抱ける。

霧と人類、互いに対等の力を待つことでようやく話し合いのテーブルにつくことが出来るのだ。

 

「けれど、それでも渋い顔をされましたがね」

「だろうな。環太平洋統一国家なんて計画を練るくらいだ。どこよりも先にリードしたいのに、そこに制限なんてつけられちゃそりゃあちらさんも気に食わないさ」

「ごもっとも。だがこちらとしても流石にその要望は受け入れられない。――だから何とか受け入れてもらうように、お願いしたよ」

「うっわ悪い顔」

 

不敵な笑みを浮かべた群像に、杏平はふざけ半分でおどけたように言ってみせた。

僧も静も苦笑した。

――お願いの仕方は言わずともわかっていた。

ただ単に、ホウライから貰ったあのデータをちらつかせて、『お願い』をしただけだろうから。

 

「しっかしあれだな。あのデータさえあれば俺たち世界征服も夢じゃないんじゃないか?」

 

「――へぇ。群像世界征服したいんだ。ならアタシは降りよっかなー」

「私も。群像がそうゆうことしたいんだったら降りてもらいたい」

「どわっ!?いおり!?それにイオナも!?いつからいたんだよお前ら!?」

 

いつの間にか背後にいた二人に驚いた杏平が尋ねる。

そんな彼に「驚き過ぎだっての」といおりはため息を着いた。

 

「今さっききたばっかだよ。エンジンの点検終わって帰ってきたところ」

「全機能異常なし。明日の出航には問題ないよ」

「そうか。ありがとうイオナ、いおり。お疲れさま。――それじゃあ明日の出航の準備をしようか」

「あーあ待った待った群像。その前に買い物頼まれてよ」

「買い物?」

そうそう、といおりは言ってポケットから一枚のメモを差し出した。

「ここに書いてあるもの、よかったら休憩がてら買ってきてよ。それとイオナ、せっかくだから群像と町にでも行ってきたらどう?」

「私も?」

 

イオナが首を傾げた。

すると杏平が、唐突に「なるほど……」と手を打った。

 

「だったら群像、俺もコーラ頼むわ」

「は?いや確かまだ買い置きがまだ……」

「でしたら群像、私も電池をお願いします」

「あ、じゃあ私も、って、えーっと……」

 

杏平に続いて群像に言ってくるる僧や静に、群像は「お前ら……」と若干呆れたような息を吐く。

――この流れは前にも経験があったゆえにだ。

「と・に・か・く、群像とイオナで買い出し行ってきて!ついでに行きたいとこ行ってきていいから。せっかく横須賀に帰ってきたってのに二人ともアタシらと違ってろくに休憩とってないんだから。ほら行った行った!」

「……わかったよ。じゃあお言葉に甘えて行ってくる。僧、留守の間頼む」

「わかりました。お気をつけて、艦長」

僧は群像に敬礼した。

そして群像はイオナに向き直る。

「イオナ。よければ君も来てくれないか?父さんと母さんに挨拶がしたいんだ。君も来てくれると嬉しい」

「――わかった。じゃあ、私も行く」

 

ありがとう、と群像は言った。

操舵室を出る前に、二人はクルーに振り返った。

 

「それじゃあ、行ってきます」

「行ってきます」

 

いってらっしゃい。

そう言って、彼らは二人を送り出した。

 

 

■ ■ ■

 

廊下を歩いていると、通路の曲がり角である人物を見かけ、群像はその背中に声を掛けた。

 

「タカオっ!少しいいか?」

 

言うと彼女はその場でぐるん!と物凄い勢いで方向転換し群像の方へ優雅に、だが早足で歩み寄ってきた。

 

「な、何かしら?艦長」

「ああ。これから外に出るんだが父さんたちにも挨拶しに行こうと思ってるんだ。それでもしよかったらなんだが、君もいっしょに来てもらえないか?」

 

――それは以前、タカオに群像がお願いしたことだった。

言われたタカオは「あーそうね……」と少し考える素振りを見せる。

ついでちらりと一瞬イオナを横目で見た。

 

「……行ってあげたいとは思うけどこれから私用事あるの。悪いけど、今回は遠慮させて頂くわ」

 

「そうか。なら仕方ない。ではまた今度、都合が良かったら頼む」

「ええ。それじゃあ気を付けてね、艦長」

 

そう手を振って、彼女は廊下の向こうに去っていった。

 

「……群像。相変わらず鈍感ね」

「ん?何か言ったか?」

 

群像はそう聞き返したが、イオナは「何でもない」と首を横に振った。

 

 

■ ■ ■

 

「っっっああもうっ!!艦長のバカぁっ!!どうしてあーも鈍感なのよぉ!!」

 

「あーはいはいわかったわかった。ほーんと、御愁傷様ね」

 

部屋に戻ってくるなり、泣き伏して地面をバンバンと殴りつけるタカオを、パネルを操作しているヒュウガがおざなり慰めた。

 

「な・ん・で、あーゆータイミングで誘うのよ!?行きにくいじゃない!!それに二人っきりで行きたいし……私の気持ちも知らないで……艦長のバカ!ニブチン!朴念仁!!」

「今更何言ってんのよ。千早群像のあの鈍さは今に始まったことじゃないでしょうに」

 

馬鹿ねぇ、とヒュウガは呆れたようにうずくまるタカオを見た。

……まぁ、ほんの少しは同情するけどね。

それにしてもよくもまぁあの鈍感な艦長を相手にこんなにも長い間片思いを続けられるたのだ。

あーもリアクションがないと、好意を持っている相手は気が気ではないだろう。

 

「……まったく、アンタも面倒なのを好きになったわね。重巡タカオ」

「……ふんだ。アンタだって似たようなもんでしょうが。そっちこそ、大好きなイオナ姉様が恋敵と二人っきりでお出かけだけどいいの?」

「まぁもの申したいところは多分にあるけど……アンタと同じく、流石に空気を読むことにしたわ。今回だけだけど」

 

……本当、私も他人の事は言えないな。

これが世に言う、惚れた弱味という奴なのだろうか。

――なんて女々しいことだろうか。

だというのに、その事実がなんだか面白くて、ついににやけてしまう自分がいるから、どうしようもない。

――しかし、それはさておいて。

 

「――けどアンタ、いい勘してたわよ。今回は遠慮しといて正ぇ解」

「……どうゆう意味よ?」

 

ぐすっと鼻をすすり、未だ若干涙目のタカオがヒュウガの言葉に怪訝そうな顔をする。

 

「――さっき、ここに反応があった。たぶん、あの娘が来てるわ」

「――なるほど。それなら確かに、行かないで正解だったわね」

 

そのヒュウガの言葉に、タカオは納得したように頷いた。

 

――もし彼女が来ていたのだとしたら、自分の存在は場違いだ。

不満は色々あるけど、今回ばかりは我慢せねばなるまい。

 

「――てゆうか、そもそも疑問なんだけど何であの娘メンタルモデルを保ててるのかしら?」

「それはイオナ姉様が演算処理の一部を肩代わりしているからよ。それとあのあと気付いたんだけど、どうやらペンダントといっしょに401を臨時起動させていた疑似コアも渡していたらしいのよね」

「――ああ。あの時か。でも別にそんな隠すように渡す必要あったかしら?」

「そうしたら素直に受け取らないとお思いになったのかもしれないわ、姉様は。現にあの娘、あそこで沈む気だったし」

「――なるほどな。ほぉら、あの時のあれは私の目の錯覚ではなかったわけだ。ハルナ、賭けは私の勝ちだな」

「はぇ!?ちょっ、キリシマにハルナ!?いつからそこにいたのよ!?」

いきなり背後に現れた二人に先ほどの杏平と似たようなリアクションをとるタカオに、ハルナが「結構前からだ」と答えた。

「何故メンタルモデルが、という話の辺りからいた」

「え、嘘でしょ?でも私のセンサーにまったく反応がなかったんだけど……」

「ああ。それはそこの眼鏡がお前にウィルスを仕込んだからだぞ。ほら、例のレーダーに映らなくなるやつ」

「――ヒューウガぁ?」

「あらごめんなさい。あの娘が使ってたウィルス、色々アレンジしてみててね。どんなもんか気になってたしちょうどいい実験台だったんで、つい……ね?」

「ね?じゃないわよけの腹黒眼鏡っ!!」

 

そう言って食って掛かろうとするタカオを、ハルナが後ろから掴んでなだめる。

するとキリシマがヒュウガに話しかけた。

 

「それでだヒュウガ。例のものは出来たか?」

「ええ。アンタの要望通り、ちゃんとあのクマの素体を作ってあげたわよ。――てことは、もう用事は済んだのね」

「ああ。先ほど蒔絵といっしょに、刑部博士への墓参りを済ませてきたよ」

 

ヒュウガの問いにタカオを押さえつけながらハルナが答えた。

 

――この二年間、世界中を転々としていたせいでろくに墓参りに来れずにいた。

ゆえに今回振動弾頭のについての技術顧問として同伴し、横須賀に戻ってこれたこの機会に、三人は刑部博士に挨拶しに行ってきたのだ。

その際、恩人である彼に対し、流石にクマの姿はどうかと思ったので、ヒュウガに墓参りが終わるまで待って欲しいと言っていたのだ。

何故ヒュウガに頼んだのかと言えば、唐突にボディチェンジのせいで、所々のメンテナンスが必要になってしまっていたのだ。

 

「それで、その蒔絵はどうしたの?」

「先に操舵室に行ってもらってる。……流石に、着替えてシーンは見せられないからな」

「てゆうかアンタ、本当にいいの?せっかく元のメンタルモデル持てたのに」

落ち着きを取り戻したタカオの言葉に、キリシマが「まぁな」と言って頬をかく。

「確かに色々不便だし、こちらの方が都合がいいこともあるが……いや、何よりあれだ。蒔絵が喜ぶ方がいい」

「ああ。ありがとうキリシマ」

キリシマに頭を下げるハルナを見て、ヒュウガとタカオが苦笑する。

――本当に。

自分の周りには、似たような連中が多すぎて困ってしまう。

 

「――アンタたちも、相当ね」

「ああ。お互いにな」

 

タカオの言葉に、キリシマが悪戯っぽくウィンクをした。

 

 

 

■ ■ ■

 

――沈みゆく日の光によって、世界の全てをが、紅に染まっていく。

夕焼けに照らされたその道を、群像とイオナは歩いていく。

 

――あの時のように。

 

「――懐かしいな」

「――うん」

「――もう二度と、君とは来れないと思ってた」

「――うん。私も、そう思ってた」

 

――戦いが終わって、またこの道を通ったとき、群像は一人だった。

そしてそれから二年間、彼は一人でこの道を歩いてきた。

父と母、そして、かつて隣を歩いてくれたイオナに花を捧げるために……。

 

「――だけど、また君に会えた。また君と、こうして肩を並べて歩ける。……それが、本当に嬉しい」

 

「――私も、嬉しかった。また群像と共にいられる。群像の艦として、いっしょにいられることに」

 

――もう戻れないと、覚悟を決めていたから。

群像たちの元へは、戻れないと。

だけど、それでも、伊号401が――私がいたという事実は皆が覚えていてくれるから。

それだけで、十分だと思えたから……。

 

――だけど突き進んだ先には、彼らが思いもしない事が待っていた。

 

「――本当、何が起こるかなんて分からないな。逆に怖くなってくる」

「そうだね。……でも、だからこそ――『自分』で選ぶんだよね、群像」

「――ああ。そうだね」

 

――このまま進めば、もしかしたらまた、失うかもしれない。

 

失わずにすむかもしれない。

 

全て仮定で、その場所に行きつくまで分かりはしない。

 

でも、その時に後悔だけはしたくないから。

 

俺たちは、きっと――。

 

 

■ ■ ■

 

――そうして、彼らは到着する。

いつか来た、その場所に。

父と母の墓前に持っていた花束を添えようとする群像。

けれど、その前に彼は気付く。

 

――その場所に置かれていた、あのブローチに。

 

――そんな彼らの背後で、足音がした。

 

振り返れば、そこには彼女の姿が。

 

「――遅くなってごめんなさいね。ちょっと私用でいろいろやってて」

 

肩を竦め申し訳なさそうにする彼女。

 

その姿を見て、群像とイオナは微笑む。

 

――そう。

 

先のことは分からない。

別れだってあるように。

再会だって、ある。

 

だから信じたい。

 

どうしようもない夢だっていい。

 

後悔はしない。

 

だってそれは――自分で選んだ、未来なのだから。

 

――そして、二人は言った。

 

おかえりなさい、と。

 

――だから、彼女も言った。

 

ずっと言いたかった、その言葉を。

 

ここにいると、決めたから。

 

 

「――ただいま」

 

 

――それは彼女が浮かべた、本当の、微笑みだった。

 

 

■ ■ ■

 

 

この先、何が起こるかなんて誰にも分からない。

 

出会いがあり、別れがあり、再会があり、何もないかもしれない。

 

先は立ち込める霧のように真っ白に塗り潰されて、行きつく先は、遠く果てしないけど。

 

だけどせめて、悔いのないように私の『心』を信じて、選びとろう。

 

大丈夫。

 

今は、この手を握りかえしてくれる人たちがいるから。

 

 

 

――私たちは何者なのか。

 

何処へ向かうのか。

 

 

……問う必要はなんてなかったんだ。

 

だって、だってそれは――。

 

 

 

 

 

 

「――それは私たちが、決めていくことだもの」

 

 

 

 

 

――彼女たちの航海は。

 

 

まだ、続いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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