行きつく先へ    作:たまてん

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行きつく先へ外伝五本目を書かせて頂きました。
時間軸はバレンタインのあと、そして前編になります。
構わなければ、読んで頂けたら幸いです。

可愛いらしい女の子を書こうとしましたがやっぱり難しいですね(笑)


行きつく先へ外伝5 かくも魅力的な貴方に 前編

ex.5

 

「……我ながら、恐ろしいことだ」

 

ーーそう言って上陰は悩ましげにため息をついた。

 

「あらどうしたのおじさま。何が恐ろしいというの?」

 

そう声をかけてきたホウライ。

そんな彼女を、上陰はちらりと横目で見る。

ーー机に積み上げられた雑誌の束。

脱ぎ捨てられた衣服。

そして一日中寝そべられたせいで張りのなくなったソファー。

……かくも悲惨な光景を見て、上陰は一際深いため息をついた。

「……君がいることに違和感を感じなくなった私がだよ」

 

「ほぇ?」

 

言われてきょとんとする彼女。

……この間の抜けた顔をした女が一時は人類滅亡を引き起こそうとしていた主犯だったと考えると、そのあまりの堕落した姿に怒りを通り越して脱力せざるえなかった。

 

ーーというより、何故自分の部屋に居座りたがるのだろうか。

理解に苦しむ、と彼が三度目のため息をついたときだ。

部屋の扉がノックされた。

……誰だかは検討がついている。

入れと上陰が言ってやると、「失っ礼しまーす」とおざなりな返事が帰ってくる。

そして部屋に入ってきた彼は「よっ」とこれまた砕けた挨拶をしてきた。

 

「召喚に応じただいま参上しました。上陰の旦那、調子はどうでありましょうか?っと、それにホウライちゃんもお久し振りで。元気してた?」

「元気元気ー。でも最近おじさまが冷たい」

「優しくする理由があるのか?」

「この通りでございます」

「ありゃりゃ、それは手厳しい。旦那ももう少し女の子には優しくしてあげないと。モテませんよー」

「興味がない」

「でしょうねぇ。おじさま、私以外に興味ないみたいだから」

「おや、これはとんだ無粋な真似を致しました。どうぞお許しください上陰次官殿」

 

「…………」

 

上陰は眉間に手を当てたまま無言だった。

 

……付け加えておくと、山村にはホウライとの経緯は話してある。

事情を教えておいて損はないことだ、いざというときのこともある。

判断は間違ってなかったと思っていたが……予想以上にこの二人に意気投合されたことに関してはいささか以上に後悔している。

おかげで、二人揃うと決まって面倒なことになる。

 

「とまぁ、その話は置いといてだ。そろそろ行きますよ次官殿。車は下に停めてありますので」

 

「ああ、分かっている。すぐに行こう」

 

「あらおじさま。またお出掛けかしら?」

 

「そうだ。今後の軍の在り方について北 良寛殿に大事なお願いをしてくるところだ」

「うわお。それは大変そう」

 

あそこまでの豪傑を攻略するとなると一筋縄ではいかないだろう。

自分の首をかける覚悟でやらねばなるまい。

難儀なことね、とついこぼれた。

 

「ま、おじさまなら出来るわよ。頑張っていってらっしゃいませ」

「……君はどうする?」

「飽きたら帰る」

「そうか……」

 

やれやれと上陰は肩を落とした。

……帰れといっても無駄というのはよくわかっていたから。

 

「それじゃあ行きましょうか。自分は先に下で準備してますよ」

「ああ分かった。支度をしたらすぐに向かうーーそれと山村。例の件についてだが……」

「ん?……ああ、アレか。えーとですね、それはなんと言いますか正直面倒くさいことになってる。今日もだしな。向こうのあれこれもあるし、すんなり解決は出来なさそう」

「やはりかーーわかった。先に行っててくれ」

了解、と言って山村は部屋をあとにした。

 

「どうしたのおじさま。何かお困りなのかしら?」

「まぁな。ほんの少し、面倒なことが起きてる」

「あらそうなの。なんなら、私がお手伝いしてあげましょうか?」

「結構だ。君が関わると、余計に面倒になる」

「まぁひどい」

 

それから身支度を整えた上陰が部屋を去ろうとする。

が、その時ふと何かを思いだしたのか彼は振り返った。

 

「ーーホウライ。次の日曜日は空いているか?」

「ええ。空いてはいるけど……なぁにおじさま。もしかしてデートのお誘い?」

 

なんてね、とホウライはくすりと笑う。

ーーが、次に上陰から発せられた返答は、彼女の予想を裏切るものだった。

 

「そうかーーなら構わなければその日は私に付き合ってくれ。食事に行こう」

 

「……………………え?」

 

ーー耳を疑った。

 

聞き間違いだろうと思った。

 

ついに自分の妄想力もくるところまできたのか……?

 

けれど、それは聞き間違いでも何でもなくーー彼自身から発せられた言葉だった。

 

「時間は後日連絡する。君のほうもイエスかノーかは出来れば早めに連絡をくれ」

 

それではまた。

 

そう言って彼は足早に去っていった。

 

部屋にはぽつんと一人、残された彼女。

 

 

「……………………うそ」

 

ーーしばらくの間、彼女は呆然としているのだった。

 

 

■ ■ ■

 

「ーーというわけなんだけど。私どうすればいいと思う?」

 

「……何故、それを私に聞くのよ?」

 

そう尋ねてきたホウライに対し、ことのあらましを聞いたタカオはげんなりとした声で聞き返した。

ものすごい暗い面構えでいきなり「相談に乗って欲しい」と言ってきた彼女。

何事かといざ話を聞いてみれば、予想を斜め上を行くその内容に脱力させられた。

 

「あのねぇ。アンタそんな顔をしてるから相当マズイことなんだと身構えちゃったじゃない。一瞬真剣になったわよ」

「真剣な話よ。これが他の何だと言うの?」

「笑い話」

 

ばっさりと、タカオは言いきった。

そうして彼女は後ろで作業をしているもう一人にも声をかけた。

 

「ねぇヒュウガ。アンタの意見も聞かせなさいよ」

「私はパス。のろけ話を聞いてあげられるほど暇じゃないわ」

 

興味ないわ、とヒュウガは画面から目をはそらさず軽くあしらって終わった。

 

ーー気持ちはわかるし、言えた義理ではないが正直過ぎる反応である。

 

「っなんでよ!?二人とも冷たいわ!もう少し親身になってくれてもよいのではなくて!?」

「話すことなんてないでしょうが。第一、アンタまさかそんな話するためにわざわざ硫黄島まできたって言うの?暇ねぇ」

「暇じゃないわ!暇だけど」

「どっちなのよ」

 

半泣きになってすがってくるホウライの頭を抑えつけながら、タカオはため息をつく。

ーーまぁいつもの余裕ぶった態度に比べれば、こういうあわてふためく姿の方が幾分か可愛げがある。

……一周回ってかなり面倒くさいことになっているが。

 

「タカオ!バレンタインのチョコ手伝ってあげたでしょ!?その借りを返してよぉ!!」

「その借り、アンタが無断で私の部屋に艦長を招き入れたアレでチャラになると思うんだけど……それにしたってアンタも物好きよね。好きになる相手が相手よ」

 

……正直、あの男と好き好んで関わりを持ちたいとは思わない。

初めてあったときにはっきりとわかった。

あの男は優秀だが、それゆえに恐ろしい。

味方でいるうちは頼りになるが、いつ裏をかかれてもその裏切りにすら気付かずに終わりそうだ。

目的のためなら、とことん利己的に判断できる人間。

それが、タカオが上陰龍二郎という男に抱いた印象だった。

ーーだからこそ驚いた。

そんな利己的な人間が、彼女にそんな誘いをするなんて。

しかし、これはどう考えても……。

 

「ーー裏があるわよねぇ、やっぱり」

「あら。感づいてはいたのね。流石にそこまで乙女思考にはなっていなかったか。安心したわ」

「まさか。タカオじゃあるまいし」

「アンタさっきからちょいちょい失礼よね……?」

 

ぴくぴくと眉をひくつかせながらタカオは言った。

ごめんねーと心のこもってない謝罪をしたあと、ホウライはふぅーと息を吐いて上を仰いだ。

 

「ーーあのおじさまが何の理由もなしに私を誘うはずがない。だとしたらこれには他に何らかの意図があるはず。それはわかってる。わかってるんだけどなぁ……」

 

「前々から思ってたけどあれのどこがいいの?私には理解できないんだけど」

「逆に聞くけど惚れない理由があるの?あんなに素敵なおじさまに」

「あっそう。ちなみに外見?それとも中身?」

「すべてよ。おじさまの全てが素敵。まずは目。物を見てまず使えるか使えないか判断しようとするあの目が好き。それに口元。ナイフみたい鋭い正論を語ってくるあの唇、たまらないわ。それになによりおじさまの切り替えよさ。どちらにするのが合理的なのかを見極め、決してぶれないその利己的な知性。いとおしくてどうにかなりそう。それにおじさまのあの可愛らしいつむじ、あれもーー」

 

「わかったわかったもういい。わかったから」

 

止めなければ永遠に続きそうな語りだった。

そして話を聞いてもやっぱり彼女の趣味は理解不能である。

とゆうか流石のタカオも若干引いた。

 

「……まぁとにかく。私には専門外だから他をあたりなさいな。一応健闘を祈ってるわ。無理だと思うけど」

「む。心の込もってない声援ね」

「正直な感想を言ったまでよ。望み薄よ、アンタ」

「群像にチョコスルーされた人に言われたくないわ」

「アンタだってチョコスルーされたどころか部屋から追い出されたんでしょうがっ!!」

「追い出されてないもん!部屋に入れてもらえなかっただけだもん!」

「なおひどいわよ!」

「なんだと!?」

「なんですって!?」

「うっさい!一旦アンタら頭冷やしなさい!」

「がっ!?」

「ぐっ!?」

 

過熱した二人の頭をヒュウガが拳で殴る。

 

ゴスっていうこれまた鈍い音に、二人はしばらく身悶えることになる。

 

「っヒュウガ!もう少し加減してよねっ!首がもげるかと思ったわよ!」

「うっさい!アンタはまどろこっしすぎ。横で聞いててイライラするわ。目的とか趣味とかはどうでもいい。重要なのはーー」

 

びしりと、ヒュウガはホウライを指差して、そして言った。

 

「ーーアンタが、どうしたいかよ」

 

「っ!」

 

そう真っ直ぐに直球に言われたホウライは、しばし戸惑いを見せる。

ーー何も関係なく、何も気にしないとしたら。

自分はどうしたいのか?

 

「で?どうしたいの?」

 

「わ、私は……」

 

ーーしたいこと。

やりたいこと。

それはごく単純なこと。

それを願っていいのか、悪いのか、それはわからない。

でも、言っていいのなら。

私はーー。

 

 

 

 

「ーーデ、デ、デー、ト……したいわよっ!!」

 

 

 

ーー顔面真っ赤になりながら、彼女はそう言った。

 

 

「ーーそ。ならいいんじゃない。向こうには向こうの意図があってそれをアンタが割りきれるんなら、せっかくなんだから楽しんできたら?どうせ暇なんでしょ、アンタ」

「まぁ……そうね」

「だったらこの話は終わり。さっさと返事してきたら?」

「……ん。そうする」

 

こくりと、ホウライは頷いた。

そして立ち上がり、部屋を出ていこうとしたが、その前にもう一度彼女は振り返る。

 

「ヒュウガ、タカオ」

 

「なぁに?」

 

「……ありがとう」

 

「……どういたしまして。頑張りなさいな」

 

「うん。じゃ、またあとで」

 

そうして彼女は部屋をあとにした。

ホウライが去ったあと、ヒュウガはやれやれと肩をすくめる。

 

「お守りは大変ねーーんでさタカオ。アンタいつまでうずくまってんの?」

「……うるさいわね。てゆうか、もう少し手加減しなさいよ」

「ごめんなさいねー」

 

ひらひらと手を振るヒュウガ。

悪いとは全く思ってないらしい。

恨みがましくタカオは睨むが、ヒュウガはだってさーと唇を尖らせた。

 

「アンタら回りくどすぎ。見ているこっちがどうにかなりそうよ」

「あの子がうぶすぎるだけよ。こっちは話聞いてるだけで胸焼けしそうだったんだから」

「私はいつかの誰かさんを思い出したけどねー。でも大人気なさすぎ。も少し優しくしてあげないと、みっともないわよ」

「わかってるわよーーだけどさ」

「何?」

 

タカオはボフっとソファーに寝そべり、クッションに顔を埋めながら言った。

 

「……羨ましい」

「アンタのそういう正直なところ、嫌いじゃないわ」

「……一応ありがとうと言っておくわ」

 

……まぁ正直、そんな単純な話じゃないのはわかってる。

裏のない話、と信じるにしては相手が相手だ。

たぶん、楽観視ばかりは出来ないだろう。

けど、まぁ……。

 

「……がんばんなさいよ、ホウライ」

 

掛け値なしの本心から、タカオはそう呟いてやった。

 

 

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