【読切作】Sword Art Online〜Unlimited Incarnation〜   作:なおTEL

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Act.3『ダンジョン』

 

「それで、このダンジョンからの出口はいつ現れるの?」

「まず、このダンジョンは本来迷宮区の追加エリアとして用意されていたあくまでも一時的な隠しダンジョンだ」

「つまり、このダンジョンが追加エリアとして情報更新(アップデート)されて初めて出口が現れる、と」

「聞けばいつの話だってなるけど、トニーの態度からするに、そこまで遠くない話なんだな」

「ああ。この追加エリアが解放されるのはフロアボス討伐後、正確には次層の有効化(アクティベート)後だ。これは全ての階層の迷宮区に言える話だ。無論、《αテスト》時の話で《βテスト》時にはオミットされたプログラムだ」

「だけど、実際には正式サービスに伴って再実装されているのよね」

「まぁこの際、この隠しダンジョンが全階層に実装されているかは今はどうでもいいな」

「そうね。というか最悪、解放条件が変わってる可能性もあるけど。兎にも角にも今ある情報から検証しないとね」

「だけど、この第一層のフロアボスがいつ討伐されるのかなんてわからないぞ」

 

 先の斬りつけ事態などなかったようにトニーから提供された情報から今後の活動方針を話し合う中で、おれは真っ先に浮かんだこの状況の打開策に対する不安材料を口にした。

 まず間違いなくこれから定期的にこのダンジョン内を探索してこの隠しエリアが解放されて出口が現れたかを確認することになる。もう一つ、このダンジョンの攻略に訪れたプレイヤーを待つという手段もあるがこれは後手に回り過ぎて論外とおれを含む三者三様の態度が物語っている。

 だがどちらにも言えるのは〝その時〟がいつ訪れるのか現状検討がつかないということだ。

 しかし、それは隣に座るスズカが何でもないとでも言わんばかりにあっさりと斬り伏せられた。

 

「それならわかるわよ」

「え?」

「実はね。もうすでにボス部屋までのフロアマッピングは一通り終わってるの。それで今日の午後にフロアボス攻略会議が《トールバーナ》で行われる予定だったのよ。私も参加するつもりだったけどこのザマじゃね。

 というか、結構伝聞されてたはずだけど、知らなかったの?」

「まったくサッパリちっとも知りませんでした」

 

 ──やはりもう少し他プレイヤーとの接触を果たした方がよさそうだ。

 意外なものを見るような視線を投げかけられながらおれは今後の攻略活動に注意することにした。

 

「ふーん。ま、いいけど。……そういうわけで早ければ明日にでもボス攻略戦が行われるはずよ。ダンジョン探索は……そうね、明日の昼過ぎにでも行えばその日の結果がわかるはずよ」

「なるほど……この情報は貴重だな。ありがとう、スズカ君」

「ん」

 

 あまり礼を言われることがないのか素直に礼を言われたのが恥ずかしかったのか、はたまた女の子として君付けで呼ばれたのがこそばゆかったのか、スズカはやや目をそらしながら小さく頷いた。

 なんというか、さっきまでとのこのギャップはなんなのだろうか。

 それを一番感じているはずの年長者は決してそのことを口にするどころか表情に出すこともない。改めて、目の前で温かく微笑む大人がとても大きく感じた。

 

「さて、今後の行動も決まったことだし。それまではゆっくりと休もう……と言いたいところだが」

 

 そこで、トニーはまた真剣な面持ちでこちら見据えてきた。

 

「不躾で悪いが、お前たちの今のレベルを聞こう。俺は14だ」

 

 一瞬、スズカの視線が鋭くなったのを感じておれはまた話が拗れる前に疑問で繋げる。

 

「おれは構わないけど、どうして急に?」

 

 プレイヤー情報──中でもステータス情報はこのデスゲームにおいてはリアル情報と同等以上にその秘匿性を高くしている。今現在は表立って確認されていないがPKプレイヤーが特定の個人を狙うのもいつの話になるのかはわからない以上、下手に公開するのは危険だと聞く。

 スズカの気配が険しくなるのも当然だろう。

 まだゲーム開始から間もなく攻略プレイヤーの間にそれほどの差はないであろうレベルだけでも、それを聞くのは普通なら非マナー行為と捉えられても仕方ないのである。

 

「ああ。お前たちはこの迷宮区のモンスターの中で最も強いのは何かわかるか?」

「それはボスを除いてって話だよな。それなら──「レベル6の《クラブコボルト》よ。それがどうしたのよ。流石にこの迷宮区まで来てレベル6以下の雑魚プレやってるアホなんていないわよ」

 

 実に辛辣にスズカは返す。というか被せないでいただきたい。

 

「確認だ。なぜなら、このダンジョンは追加エリアとして解放されるまでは罠として迷宮区とは別ダンジョンの扱いとなっていてな。

 ここに出現(ホップ)するモンスターはレベル8から10の《ワイリーコボルド》だからだ」

「えッ⁉︎」

「レベル10ですって⁉︎ それって第三層迷宮区クラスじゃない!」

 

 おれ以上に驚きの反応を見せたスズカによれば、第三層のモンスターは最低でもレベル5であり、迷宮区に出現するモンスターレベルは8から10らしい。

 

「それが今回の様な《(トラップ)ダンジョン》の特徴だ。〝その階層以上のレベルモンスターの出現〟というな」

 

 ──流石にモンスターの思考ルーチンはその階層に合わせているがな。

 最後にそう付け加えるが、確かにトニーがおれたちのレベルを確認したくなるのも無理はない。レベルによっては《安全地帯》に待機させておく必要が出てくる。

 

「おれは、一応レベル10までは上げてる」

「……私は14よ」

 

 つまり、おれが今回一番の不安要素というわけだ。

 というか、もしかして先ほどスズカの機嫌が悪くなったのはトニーと同じレベルで自分が一番じゃなかったからか? ──などと考えていたらスズカから半目で睨まれた。

 

「……なによ」

「いや、別に」

 

 言及はしないでおこう。当ってても外れてても怖いし。

 

「ふむ。念のため、一度《ワイリーコボルド》と戦っておくか?」

 

 トニーの提案にスズカは頷く。

 

「そうね。明日のぶっつけ本番で下手打たれても困るし。説明されるより自分で体験した方が早いわ」

「下手打つってのは、もしかしなくともおれのことだな」

「当然でしょ。悪いとは思うけど、最低でもレベルを一つ二つは上げてもらわないとね」

「そうなるよねー」

 

 つまり、これから一度と言わず相応の戦闘を熟すということだ。そうなると問題となるのは現在の所持品である。

 スズカもその確認は怠らない。

 

「一応確認しておくけど、武器の残り耐久値と回復アイテムの手持ちに問題ないかしら?」

「ああ。武器の方は今朝方メンテナンスしたから問題ない。副装備もあるし。回復アイテムもポーションが八本残ってる」

 

 ストレージに収納できるアイテムの数には当然限界があり、それは体積ではなく重量に容量制限が布かれている。武器などの金属類の類や回復アイテムたるポーションを代表とした液体類は特に容量の割合を占める。

 二本の剣と革製装備に携帯食料、加えてアルゴの依頼にて請けたクエスト報酬で得た複数のアイテムを所持していたおれはその残り容量から必要最低限の余裕を残して十本のポーションを揃えていた。

 所持していた内一本は攻略中に注意域(イエローゾーン)付近まで消耗したHPを回復するために、もう一本は先の落とし穴による落下ダメージから回復するために消費している。

 

「八本ね。まぁ、私も行くし問題ないか」

 

 そしてスズカが送ったパーティ申請に、了承を示す《Yes》ボタンをタップした。

 

 

 

 すでに五日もこのダンジョンで過ごし武器の耐久値に不安が出ているトニー一人を《安全地帯》に残して、おれとスズカはダンジョン探索兼レベリングを着々とこなしていた。

 

「この通路はここで行き止まりみたいだな」

「ならさっさとさっきの別れ道まで引き返しましょ」

「了解」

 

 探索開始から一時間。これで五つ目の行き止まりに行き当たっていた。

 トニー曰く、この地下ダンジョンは迷宮区の一階とあまり変わらない広さらしく、全ての通路を踏破すること自体はあまり時間はかからないとのことだ。

 

「それにしても……とっくに誰かに攻略(・・・・・)された(・・・)エリアを探索するほどつまらないことはないわね」

「ははは」

 

 憮然としたスズカの言葉に、おれはなんとも言えぬ笑いをあげて、通路の隅に放置された()()()()()()()()宝箱を一瞥した。

 それは紛れもなくトニーがこの通路を通った証でもあり、すでに四度も目にした光景である。

 

「仕方ないさ。おれたちより先にあの人が落ちてきたんだから」

「それが余計に癪なのよ。〝先に罠にかかったから宝箱のアイテムが取れた〟ってどういう理屈よッ」

 

 その理屈の不自然さには同意するが、それ以上に目の前の少女が釈然としていないのは彼女が生粋のゲーマーだからなのだろう。

 すでに誰かにクリアされたゲームを貰って心から喜べるゲーマーはいない。自身がその自力で攻略する喜びを感じられないゲームに魅力など感じようはずがないのだ。

 もしかしたら、今この世界で我先にと攻略に勤しんでいるプレイヤーにはそういう感性があるのかもしれない。

 この世界からの脱出、生き残るための渇望、死にたくないという執念、殺されたくないという脅迫観念。プレイヤーの誰もが持つそういった願望とは別に、根っからのゲーマーとしての性分が、彼らを駆り立てているのではないか。

 何故なら、この世界における死が現実における死と同義しても尚、この世界がゲームであるという根本は何一つ変わらないからだ。

 

「────!」

 

 彼らは、いや、おれたちはゲームをしている。

 

「──え、────っ⁉︎」

 

 命懸けのゲームを──「ちょっと! 聞いてるッ⁉︎」

「はイィ⁉︎」

 

 気づけば、目の前にスズカの顔があった。それはもう凄い剣幕の。

 

「……あんたさ、死にたいの?」

「いや、なんか……すみません」

 

 まさか年下の娘にここまで軽蔑の眼差しを向けられるとは思わなかった。どうもこの世界に来てから新しいことばかりだ。基本的に悪い意味で。

 

「ハァ……やっぱりただの馬鹿なのかしら」

「……何の話だ?」

 

 ため息と共に呆れを全く隠さないその呟きに、おれは反論はせず──実際話を聞いていなかったこちらに非があるため──、その真意を尋ねた。

 

「あんた、どうして何も言わずに素直についてこれるわけ?」

「……」

「話は着いたとはいえ、目の前で人を斬った人間にもう少し含むところはないわけ? というか警戒心なさ過ぎ」

 

 ──ああ、そういうことか。

 正直、最初は何が言いたいかよくわからなかったが、つまりだ。

 

「何か文句の一言でも言って欲しいのかい?」

「誰も好き好んで言われたくはないけど、あそこまでやって何も言われないのはそれはそれで気になるのよ。テスターに関してはあの男ほどの話でもないけど」

「まぁ、確かに。ベータテスターと開発スタッフじゃあねえ」

「あの人、嫌いじゃないけどやっぱり気に入らないわ」

「あの人は良い人だよ。間違いなく」

「確かに悪い人ではないんでしょうね。それは私でもわかるわ。────じゃなくて!」

 

 解れたかと思った表情をたちまち険しくしたスズカはメンチを切るように怒りに整った顔を歪めながら近づけて逸らされた話をすぐに戻そうとした。

 

「私が言いたいのはねえ────ッ!」

「ッ!」

 

 そこで、おれたちの《索敵》スキルが反応した。

 そして、出現するは五体の《ワイリーコボルド》。通常の《コボルド》より濃い体毛にボロボロの革装備を身に纏った獣人は全員がナイフをその手に握っていた。

 

「行くわよ!」

 

 スズカの掛け声と共に斬り込む。

 まず出現(ホップ)したばかりの動き始めを狙って一体に片手左切上げからその勢いを利用して身体を捻った回転運動からの逆袈裟、そこから両手に持って踏み込んでの袈裟切りの三連撃。そして予備動作に入った曲刀の初級単発剣技(ソードスキル)《クレセント》を放つ。

 下方から切り上げられたその剣技は青い光の三日月を描いて《ワイリーコボルド》を斬り払う。

 

「グオオオォッ!」

 

 そこに新たな二体が襲いかかるが技後硬直から解放されるや《クレセント》により未だ宙で体勢を崩している一体もろとも初級範囲剣技(ソードスキル)《スラッシャー》で横一閃に薙ぎ払った。

 これにより最初の一体がポリゴン片に砕ける。

 スズカもすでに一体を屠り、二体目を鮮やかな剣技で切り刻んでいる。

 ──やはり彼女は戦い慣れている。

 この世界での話だけではない。先のトニーへの襲撃からも感じていたが、彼女は〝剣を振ることに〟慣れているのだ。あの見事な体捌きは現代剣道レベルのそれではない。何よりあれだけ巧みに短剣を扱う技量は剣道で培われるものではない。当然、βテスト期間の二ヶ月でも不可能である。

 剣の心得はないおれでもわかる。

 あれは古武術の動きだ。

 

「疾ッ!」

 

 胸に向かって突き出されたナイフを刀身の腹で受け流しながら身体を旋回させてナイフを払いのけると共にそのまま二体目の《ワイリーコボルド》の胴を斬り裂いた。

 次で最後だと振り返ると、すでにスズカが最後の一体を相手取りトドメの短剣剣技(ソードスキル)を繰り出していた。

 それは目で捉えきれぬ神憑り的な剣速で重なる四連撃であり、発動を終えると共にパリィン、とポリゴン片の砕けた音が薄暗いフロアに反響した。

 そして、レベルアップを報せるサウンドエフェクト。

 これで、おれはレベル11になったということだ。

 

「行きましょ」

「ああ」

 

 レベルアップによるステータスボーナスポイントの振り分けをひとまず後回しに、おれたちは攻略を再開した。

 それから数時間のレベリングによってさらにおれはレベルアップしてレベル12に、スズカはレベル15となった。

 

 

 

 翌日。

 二〇二二年一二月三日一四時。

 おれたちはトニーを加えた三人のパーティですでに狩り尽くして再出現(リポップ)率も大幅に低下したダンジョンを進み、出口が出現するであろう地下フロアの最奥区にあたる広けた空間に踏み入れた。

 そこで、気づく。

 

「あれ?」

「広く、なってる……」

 

 昨日見た時よりも明らかにその空間は倍近くに広がっており、その広さはかつて通っていた高校の体育館を彷彿とさせた。

 

「おい、あれって」

 

 トニーが指差す先、広間の最奥には扉があった。決して大きくはない。精々、高さは人の倍もなく横並びでは二人が限界であろう大きさではあるが、確かにそこには扉があった。

 ここから脱出するための、上の階層に繋がるであろう希望の扉が。

 しかし、おれたちは動けなかった。

 三人が皆、感じていたのだ。

 ここには、何かがある──と。

 嫌な予感を。

 それは目の前に広がる不自然な空間がそうさせていた。

 壁や天井の石積みのデザインはここまで通ってきた通路と決して大きな違いはない。あくまでも通路がそのまま広がっただけの空間だ。見た感じではおかしなところは一つもない。

 しかしだ。何故ここはこんなにも広い? 他の行き止まりと区別するための広い空間だと昨日は考えた。だが出口の扉を追加するだけで済むものをさらにここまで広くする必要はないはずである。

 そう。ここには通路より広くする必要がある〝何か〟があるのだ。

 その〝何か〟が、想像できてしまった故に、おれたちは足を止めていた。

 

「……覚悟を決めるしかないな」

「そうね。どっちにしろもう進むしか選択肢はないわ」

 

 先に動いたのはトニーとスズカであった。

 両脇にいた二人が前に出るのを見て、おれもようやく覚悟を決めた。

 大きく深呼吸を挟んで、

 

「そうだよなー」

 

 おれも一歩踏み出した。

 さらに一歩、一歩踏み出していくと共にその空間には明かりが灯った。それは壁にて先ほどまで弱々しく灯っていた燈籠であり、左右の壁から順に燈籠の火は強くなっていき、やがて広間全体を明るく照らしていた。

 おれたちの歩速は増し、いつしか身体を前に傾けていた。その手にそれぞれの得物を強く握り締めて。

 

「おれたち()……倒すしかないよなッ!」

 

 眩い光の粒子と共に現れた、目の前の倒すべき門番(ボス)《ジ・エグザイルド・キングコボルド》を────!

 

 

 

 

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