「んっ……んん?」
「あ、目を覚ましましたか」
白野が、呻き声を漏らしながら自分の上半身を起き上がらせるとともに、声が聞こえ、そっちの方向を見る。
そこには、紫色の髪を垂らし、前を開けた白衣を着ている少女がいた。
その向こうには、何やら包帯でグルグル巻きにされた蓑虫状の物体が、サンドバッグの様に吊るされていた。
「あ、私の名前は桜と申します。この保健室の管理を任されているAIです」
「……此処は?」
「ここは保健室です、さて。容態は大丈夫ですか?」
桜と名乗った少女が言う通り、周囲を見回すと、ガラス張りの棚の中には、包帯や薬品が入った瓶が置かれ、彼女はベッドに寝かされていた。
確かに、保健室そのものであった。
そして、白野は自分に何があったのか、何故ここに居るのか。それを思い出そうとし、自分の記憶を探る。
──そして思い出した。
これまでに何があったのか、人形により、負傷され、気を失う前に、見えた男性のことも──。
だが、どうしても出てこないものがあった。それは
「記憶が、無い……!?」
彼女の岸波白野という名前はわかる。だが、それ以外の彼女に関する記憶が無いのだ。
どこで生まれたのか、親の名前は何なのか、どの様な人生を歩んできたのか──。
そういった情報が白のペンキで塗りつぶされたように、真っ白になっていたのだ。
「……特に異常は確認されていません。何かの不備でしょうか……?」
桜はその事に困惑するが、暫く思考した後、このままウダウダやっていてもコトが進まないので、彼女に説明をする事にした。
「先輩、何が起こっているのか。ここが何処なのか、お話しします──」
桜の説明は、凡そ信じられないものであった。
現在、白野は月に作られた世界に、魂だけの『情報』によって存在し、彼女の本体は地上にあるということ。
そして、月面では、勝ち抜いたものは何でも願いを叶えられるという、『
そんな説明をされ、白野が真っ先に感じた疑問。それは、
「──私のサーヴァント?っていうのは、どこにいるの?」
「………………………」
「沈黙が長いよ!?」
確かに、その疑問は尤もなものであろう。この部屋には、白野と桜の2名しか居ない。少なくとも白野はそう認識していた。
その質問に対して、桜はだんまりを決め込んだままであった。
「それは、その……」
「ココ、ココでござるよー!マスター殿のサーヴァントはココ!」
「……………ッチ」
「舌打ち!?まさかの舌打ち!」
桜の背後に吊るされていた蓑虫状のものの、表面が解かれ、その中から髭を結えた男性の顔が姿を現した。
「あなたが、私のサーヴァント?」
「フヒヒヒヒいかにもたこにも!拙者、サーヴァントであり、あなたがマスターですとも、さて早速ですが──」
「……セクハラはアウトですよ?」
「自重します!」
彼の口から次の言葉が紡がれようとしたが、それは桜のゴミを見るような目と、ドスの効いた声によって阻止された。
彼は、己の体を拘束から完全に解き放ち、白野に手を伸ばした。
「拙者のクラスはライダー。共に歩みましょうぞ!」
「うん、よろし──」
白野が、彼の手を握ろうとした時、小さな声で「デュフフフフ……女子と合法的にボディタッチ……」という呟きが、白野の耳に入り、白野は伸ばしかけた手を引っ込めて頭を下げた。
「くおねがいします」
「アルェ!?」
「それで、ライダーは、どんな英雄なの?」
「おおっと、そうですなぁ。ズバリ、拙者の真名は──」
──エドワード・ティーチ。気軽にエドちゃんと呼んでもいいでござるよ!
「……え?」
白野は、ライダーの正体が信じられなかった。
エドワード・ティーチ。通称『黒髭』髭に導火線を編み込んだ最悪の海賊──。
それが彼女の中にある知識であった。
だが、目の前でキメ顔をしているつもりなのだろうが、女性にとっては不愉快でしかない表情をしているこの男とは、どうしても結びつかない。
「……桜?」
「……残念ながら、この方の言っていることは本当です」
「え、えっ?ちょ、何。この反応!?そこは「キャーステキー」といって拙者の胸に飛び込んでくる妄想をしてござったんですが!?」
──チェンジできないかな……?
そんな意思が、一瞬よぎるが。直ぐに振り払った。
────この先、彼等は生前、様々な歴史に名を残すのに相応しい活躍をした英雄達と相見える。
そんなヤツラに白野と黒髭はどう立ち向かっていくのか──!?
今日はこれで終わりにしようかと思います。
文字数は土日に投稿するときには、5000字行きます。
というか、平均文字数が4000字になるように、土日に投稿します。