東方先代録   作:パイマン

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過去編その三。


其の十六「犬走」

『新たなる博麗の巫女、着任』

 

 ここ一年余り不在であった博麗神社に、ついに新しい巫女が誕生した。

 博麗の巫女は通常、先代の巫女が後継者を選ぶ形式を取っているが、今回は死去した先代巫女に代わって八雲紫が直接選定したという。

 歳若いながらも、幻想郷の賢者から見初められた才能は如何なるものか?

 今後の活躍に注目が集まる――。

 

 

『歴代博麗でも劣る才能!?』

 

 本来ならば、妖怪と人間、それぞれの代表である八雲と博麗が分担して管理するはずである博麗大結界。

 幻想郷を支える要ともいえるこの結界に携わることも、博麗の巫女として重要な仕事だが、なんと新しい巫女はこの役割を担っていないらしい。

 これは新しい管理体制の試行なのか、あるいは別の理由があってのことなのか。

 真相は定かではないが、これまで一定の信頼を持って行われてきた幻想郷の管理体制に波紋を投げかける事態には間違いない。

 独自に入手した情報によれば、当代の巫女は博麗の秘術に関する修行が滞っていると聞く。

 今回の事態に関しては、巫女自身の才能の有無が影響しているのではないか?

 一抹の不安を残す形となった――。

 

 

『博麗の巫女の活躍、是か非か』

 

 博麗の巫女の中でも異彩を放つ当代の巫女。

 本分である結界の技術に関してはお粗末なものだが、こと妖怪退治においては活躍を続けている。

 しかし、自らの領分を越えた活動が良い結果を生むとは限らない。

 人里の守護に留まらず、小規模な集落や妖怪の生息する領域にまで足を伸ばして力を振るう彼女の活動が、いささか度を越しているのではないかという声もある。

 加えて、人里では治安維持を名目として、人間同士の諍いにまで介入する始末。

 自警団の活動を無視したこの越権行為とも言うべき行動は、果たして同じ人間の中でどのように受け止められているのだろうか。

 当代の博麗の巫女がこれらの活動に精力的なのは、単なる意欲や義務感によるものか。あるいは、力を持つ者故の自惚れか。

 自らを弁えない行動は、危険な兆候である。

 歴代の巫女の中でも類を見ない彼女の特異な行動は、今後どのような影響を生み出すのだろうか――。

 

 

 ――『文々。新聞』より一部抜粋。

 

 

 

 

 妖怪の山を監視する哨戒天狗は数あれど、その中で最も優れた者は誰かと問われれば、皆一様に『犬走椛』の名前を挙げる。

 それはまず彼女の能力が一因となる。

 椛の持つ『千里先まで見通す程度の能力』は即ち千里眼であり、それによって広大で、起伏に富み、木々などの死角の多い妖怪の山を隅々まで見張れるのだ。

 侵入者や外敵を察知し、それらに素早く対応可能な戦闘力の高さも一目置かれていた。

 天狗社会の中において、白狼天狗は地位こそ低いが、個人の能力までそれに比例するわけではない。

 特殊な技や力こそ持たないが、実地で鍛え上げられた椛の剣術と戦闘法は、生死を賭けた戦闘において恐るべき殺傷力を誇った。

 しかし、何よりも彼女を哨戒天狗として最優とし、外敵からすれば恐れられる一番の理由となっているのは、その任務への姿勢だった。

 椛は自らの任務に殉じる覚悟があった。

 そこに意義があるのならば、容易く自らの命を使い捨てることが出来る、捨て身の強さがあった。

 同じ種族であっても、格下は見下すことが普通である天狗の中で、格差に関係なくこの犬走椛という天狗を一目置く理由がそれなのだ。

 地位が高くなるほど身に着ける『保身』というものを、椛は全く持っていない。

 必要であると悟れば、その瞬間に死ぬ覚悟を決めることが出来る。それこそ犬死することすら厭わない。

 だからこそ、上司である鴉天狗さえ彼女を一兵として信頼し、同時に忌避している部分があるのだった。

 椛は『狗』に過ぎない。しかし、手を噛まれるには少々危険な飼い犬だった。

 

 ――その日、天狗の集落に近づく存在に最初に気付いたのもやはり椛だった。

 

 山の麓から登ってくる人間の女を視界に捉えると、椛はすぐさまその場に駆けつけた。

 彼女の眼に距離など関係ない。既に、その姿を明確に捉えている。

 若い女だった。

 幼さの残る顔立ちに見えるが、長身で、体格から鍛えられているのが分かる。

 紅白の巫女服を着込んだ格好からしても、彼女が単なる旅人や人里からの行商人などではないことは明白だ。

 長い黒髪を一つに束ねて適当に結び、手荷物一つ持っていない身軽な格好だった。

 何よりも、擦り切れてボロボロになった裾から見える両手は傷に埋め尽くされている。それは明らかに鍛錬の痕だと椛には分かった。

 妖怪の山を登るこの女は、間違いなく『戦える人間』である。

 確信し、より警戒を強めながら椛は立ち塞がるように女の前に降り立った。

 

「――ここから先は天狗の集落。何者か?」

 

 哨戒天狗への支給品である何の変哲も無い剣と盾を携え、厳格に問いかける。

 人間の中にも妖怪にとって無視出来ない地位の者もいる。

 目の前の巫女らしき者が敵であると決まったわけではなかった。

 

「博麗の巫女」

 

 相手は言葉短く答えた。

 椛は口数の多い方ではないが、名乗った相手も同じような性分であるらしい。

 奇妙なシンパシーと、向かい合って改めて見つめた相手の顔に何故か懐かしさを感じながら、椛はそれらを全く表情に出さずに応答を続けた。

 博麗の巫女――事前に考慮したとおり、目の前の人間は門前払い出来る地位の者ではない。

 

「その巫女が何用か?」

「人に化ける妖怪を捜している。この山に逃げ込んだと聞いた」

「何の為に捜す?」

「人里で子供を一人、攫った」

 

 椛は相手の事情を把握した。

 博麗の巫女といえば、人里の守護者となる立場の者である。

 最も大きな人間の集落である人里を守る為、そこで悪さを働いた妖怪を退治することが主な役割とされていた。

 五年程前に先代の博麗の巫女が死去し、その一年後には新たな巫女がこの任に就いたと聞き及んでいるが、それが目の前のまだ歳若い少女なのだろう。

 

「子供の母親に頼まれたので、その子を救い出し、妖怪を退治する為に追っている」

 

 椛は天狗社会でも末端の存在だが、鴉天狗の新聞を読んで当代博麗の巫女のことを知り得ていた。

 いわく――先代までの巫女に比べていささか『領分』を飛び抜けている、と。

 それは、歴代博麗の巫女の中でも特に優れた力の強さを指す以外に、与えられた巫女としての任を行き過ぎて活躍していることも指していた。

 今回の件もそうである。

 たかが一匹の妖怪を追って妖怪の山へ踏み込み、更に天狗の集落にまで接触しようという行為は、これまでの博麗の巫女の中で誰も行ったことがない。

 明確な取り決めは無いが、天狗と人間は互いの生活圏を不可侵としており、時として天狗が個人の興味で人里を訪れることはあるが、種族としての力差関係からして逆は決して無かった。

 それは博麗の巫女であっても、同じ人間である以上変わらないものだ。

 

「……去れ。ここから先は天狗の領域だ」

 

 巫女の応答をわずかに吟味し、椛はハッキリと告げた。

 

「天狗の邪魔をするつもりはない。その妖怪を捜したいだけだ」

「去れ」

 

 椛は頑なに、ただ短く繰り返した。

 相手がそうであるように、椛の方にもこの対応に至る事情が幾つかあった。

 巫女の追う妖怪は、確かに天狗とは何も関係の無い存在である。

 あるいはあらかじめこうなることを見越して、妖怪の山へ逃げ込んだのかもしれない。だとしたら、人に化けて里から子供を攫うことも含めて中々狡猾な妖怪だ。

 他の天狗はどう捉えるか分からないが、椛個人としては攫われた子供やその母親がいささか不憫であるとも感じる。

 しかし、それらの事情全てを無視出来る程に、椛にとって自らの任務は絶対であった。

 天狗の領域に許可無く立ち入る者を見張り、時としてこれを排除する――。

 山に逃げ込んだ妖怪がこれに当て嵌まるのかどうかは分からない。

 妖怪の山は広く、天狗の領域から離れた場所に潜んでいるのかもしれないし、あるいは椛以外の者が哨戒を怠った隙を突いて入り込んでいるのかもしれない。

 幾らか、考慮出来る余地はあるだろう。

 

「お前の事情は関係ない。諦めろ」

 

 ただ今、確実に断言出来ることは自分が侵入者を捉え、これ以上の侵入を許さないということだった。

 どれだけこちらの事情の説明を重ねても、その判断が相手にとって理不尽であることに変わりはない。それを覆すつもりも毛頭無い。

 だから、椛はただ結論だけしか告げなかった。

 それが最終通告であるように、椛は己の剣に手を掛けた。

 椛の頑なな応答に対して、巫女は不動のまま沈黙を貫いた。

 互いの視線が交差する。

 敵対するかもしれない相手の全貌を油断無く観察しながら、不意に椛は先ほどから覚えていた懐かしさの正体を知った。

 

 ――人間の少女。

 ――鍛錬によって傷ついた身体。

 ――あれから経った月日は、丁度今日で五年だ。

 

「そうか……あの時の」

 

 椛の記憶の中にある子供の姿と、目の前の巫女の姿が一致し、知らず囁くような声で呟いていた。

 その呟きが聞こえたわけではないだろうが、巫女がゆっくりと動きを見せた。

 立ち去る仕草ではなく、両手足を戦いに備えた構えへと持っていく。

 

「ならば、押し通る」

 

 巫女がハッキリと告げた。

 

「ならば、斬る」

 

 椛もまた一切の躊躇無く断言し、剣を抜き放つと同時に、開戦となる雄叫びを一つ上げた。

 

 

 

 

 妖怪の山か。何もかも懐かしい……。

 

 そんな感じに遠い眼で見上げているが、あれからまだ五年くらいしか経ってないのよね。

 それなのに、こうも懐かしく感じるのはこの山を下りて以来、今日まで一度もこの山へ近づかなかったからだろう。

 実に五年ぶりに、私はかつて修行し、生き抜いた故郷とも言える場所へと戻ってきたのだった。

 いやぁ、しかしまさかこの山が東方で有名なスポットである『妖怪の山』だったとはなぁ。

 当然、それを知ることが出来たのは山を下りて、ある程度この世界の知識を学んだ後だった。

 幼少期の自分がどれだけヤバイ状況にいたのか理解して青くなったものだ。

 最初に遭遇した妖怪が天狗だったのも、これで納得である。妖怪の山っていえば、東方では天狗のテリトリーとなっている場所だからね。

 っていうか、ゲームでは有名な『射命丸文』や『姫海棠はたて』、『犬走椛』が住む場所なんだよね。

 子供の頃に彼女達に会えなかったのは、果たして運が悪かったのか、それとも良かったのか……。

 山を下って、博麗の巫女としての修行をしながら人里などへ赴き、幻想郷の世情を知る中で分かったことだが――どうにも、人間と妖怪の仲は宜しくないらしい。

 まあ、種族的に当たり前なんだけど、東方ってこういった人妖の関係が穏やかな印象があるから意外だった。

 てっきり、美少女な妖怪と人間がキャッキャッウフフって感じに戯れてる世界かと思ったが、普通に人食いとかあるし、スペルカード・ルールが未だ成立していないせいか、妖怪退治は互いに命懸けだ。

 私もこれまで博麗の巫女として何度も妖怪退治を行っているが、相手は全て殺している。

 そうしなければこっちがやられるくらいシビアな戦いだからだ。

 この殺伐とした世界では、果たして原作キャラ達と出会ったところで友好的に話し合いが出来るかも怪しい。

 今のところ、東方のキャラって紫含めても三人くらいしか出会ってないけどね。

 博麗の巫女として、修行や知識を学ぶ為に色々と世話になっているその紫だが、そんな友好的な関係の彼女に対しても、時折畏怖を感じることがある。

 スキマの能力を使っているのを見る時なんかは特に、だな。

 大妖怪の能力だけあって、その行使自体が人間である私には本能的に恐ろしく感じられるのだ。

 うーん、やっぱりゲームと現実は違うんだなぁ。

 東方って設定では結構エグイの多いし。本当は怖い幻想郷ってやつか。

 ……しかし、そんな恐ろしさを実感しながらも、ゆかりんの美しさにはついつい毎回目を奪われてしまう私は危機感が足りない人間なのかもしれない。

 だって紫ってばマジ美人なんだもん!

 原作キャラに対するミーハーな感情も手伝っているのかもしれないが、妖怪としての禍々しささえ魅力の一つとして受け入れてしまう。

 無警戒すぎて、最初の頃は呆れられながらいろいろ忠告されたものだが、今ではもう諦めたのか紫も何も言ってこない。

 えへへ、ごめんなさい。でも、やっぱり折角なんだから、知識として一方的に知っているだけとはいえ、原作の有名なキャラとは友好的にお近づきになりたいじゃない?

 まあ、それでも五年も博麗の巫女として過ごせば、この幻想郷の常識というものも身に染み付く。

 この意外と殺伐とした世界に揉まれ、色々と痛い目にも遭って、私は多くのことを学んだのだ。

 そうして、修行を続けながら、博麗の巫女としての職務も精力的にこなしていった、ある日のことである。

 

 ――人里で子供が一人、妖怪に攫われた。

 

 これが事件でも何でもなく、周囲が普通に受け入れてしまう出来事であるあたり、さすがの私も嫌になる殺伐とした世界観だが、もちろんそれを私自身が甘受するつもりはない。

 さすがに人里の内部で直接騒ぎを起こすようなバカな真似をする妖怪は――以前はたまに居たが、私が徹底的に駆逐したので――いない。

 人間に化けて紛れ込み、騒ぎになる前に逃走したらしい。

 目的はやはり人食いか。攫って逃げた先でゆっくりと食べるつもりだろう。

 幸い、私が人里を訪れたタイミングで起こった事件なので時間的な猶予はあるが、逃げた先が厄介だった。

 妖怪の山なのだ。

 さっきも言ったが、ここは天狗のテリトリーがある。

 具体的には天狗の哨戒が山の一部を見張っており、基本的に人間は入り込めないようになっていた。

 それは博麗の巫女である私も例外ではないらしい。迂闊に侵入すれば迎撃されると、紫から事前に忠告を受けている。

 意外と博麗の巫女って立場低いのよね。これは霊夢じゃないからだろうか。

 その名の通り『妖怪の山』であって、人間の為の場所ではないのだ。

 そして、肝心の紫はタイミングの悪いことに現在冬場の長い眠りに就いたところであり、その間の管理を任されている藍は基本的に私の職務に干渉してこない。

 っつーか、あれはどう見ても嫌われている。

 なんか、私への対応が事務的を通り越して冷たいんだもん。

 紫が冬眠するこの時期以外、積極的に顔を合わせようとしないし。

 結構ショックです……。

 話が逸れたが、とにかく私の立場や権力などが全く通用しない場所へ、その妖怪は逃げ込んだことになるのだった。

 さて、どうするか? と私は少しばかり悩んだが、周囲も事情を察して絶望する中、泣き崩れた子供の母親を見て、すぐに考えは決まった。

 

『分かった。すぐに助けに向かう』

 

 私は端的に告げ、母親の肩を叩いた。

 彼女も含め、周囲の住人が呆気に取られる中、私は妖怪の山に向けて走り出した。

 猶予はあるが余裕は無い。急がなければ、子供が食われてしまう。

 冷静に考えなくても、今回の件にはこれまで経験したことのない数々の障害が存在していたが、私は迷うことなく行動していた。

 攫われた子供は母親との二人暮らしで、父親は病で随分昔に死んだらしい。

 母親は一人で子供を育て、その為に働き通しだったようだ。

 少しやつれた顔と、ボロボロの両手を私は見た。

 何の根拠もないが、その両手の傷が私自身の両手のそれよりもずっと価値のある、重いものなのだと思った。

 私がこうして、妖怪の山への殴り込みにも等しい行動を取っている理由がそこにあるのかは、実のところ自分自身にも分からない。

 ただ、私は見て、思った。

 それだけだ。

 

 ――親子、か。

 

 なんとなく、自分の出生というものに考えを巡らせながら、私は妖怪の山に足を踏み入れていた。

 どの辺りからが天狗のテリトリーとなるのかは分からない。

 出来れば揉め事は起こしたくないが、子供を攫った妖怪を捜し出すには、虱潰しにするか、この山に住む者に協力してもらう必要がある。

 どちらにしろ、天狗との接触は避けられないだろうと思っていた。

 そして、案の定である。

 

「――ここから先は天狗の集落。何者か?」

 

 現れた白狼天狗らしき妖怪を見て、私は全身に緊張を走らせた。

 剣と盾で武装し、隙のない物腰で鋭くこちらを睨み付ける。

 油断のならない相手だ。

 でも、それは別に重要なことじゃない。

 これ……ひょっとして『犬走椛』じゃね!?

 私にはその疑問の方が超重要だった。

 うーむ、椛は原作で言うところのモブキャラなので、明確な立ち絵が存在しないからはっきりと断言は出来ないが、それでも各所の特徴が私の知識のそれと一致する。

 やべ、緊張してきた。原作キャラとの遭遇的な意味で。

 とりあえず、修行で培ったポーカーフェイスという名の仏頂面で内心の動揺を隠しながら自己紹介し、交渉に入る。

 いや、交渉というほど私の弁は達者ではないけど。

 むしろ、普段は誰も訪れない神社に一人で住んでいるせいで、コミュ障のレベルで口下手である。

 侵入者である私に対して厳しい態度を取る椛が相手ということもあり、会話というより、言葉のドッチボールみたいな感じで言葉を交わした。

 

「去れ」

 

 はい、ごめんなさい。帰ります。

 思わずそう言って、回れ右をしてしまいそうな、静かな凄みのある声色で拒絶されてしまった。

 ある程度予想していたが、やはり一筋縄ではいかないようだ。

 

「お前の事情は関係ない。諦めろ」

 

 駄目押しの言葉を貰い、交渉が完全に決裂したことを悟った私は、内心で諦めたようにため息を一つ吐いた。

 もちろん、その諦めとは、これ以上進むことに対してではなく、交渉によって許可を得ようということに対してである。

 あーあ、私がもうちょっと頭が良くて、口の回る人間だったら、穏便に話が進んだのかもしれないのに。

 博麗の巫女になって、実は何度も実感していることなのだが、私は全く不器用な人間である。

 不器用っていうか、脳筋っていうか。

 こんなんだから、修行の日々でも博麗の秘術がほとんど身につかず、肉弾戦の為の技ばっかり鍛えられていくのだ。

 そんな自分に呆れながらも、今は出来ることがそれだけであることを自覚し、私は静かに拳を構えた。

 

「ならば、押し通る」

 

 言葉で通れぬなら、拳で通る。

 椛の上げた雄叫びが、戦闘の始まりを告げた。

 

 ……今更だけど、これって後から問題になったりしない?

 紫に死ぬほど怒られるかもしれんね。

 

 

 

 

 椛の使う剣の特徴は『分厚く、切れ味が鈍い』という点が挙げられる。

 形状こそ片刃やその反り具合が日本刀に似ているが、刀身の幅は大陸の青龍刀に近く、重さと厚みは西洋の両手剣に近い。

 これは、有事の際には尖兵として働く役目も背負っている哨戒天狗である椛自身が、十分な手入れの行えない長期かつ不定期な出動に耐え得るよう『頑強さ』を重視して鍛冶屋に注文した結果生まれた代物であった。

 その重量級の武器を右手に。左手には半球状の小型の盾を携えた姿が、椛の基本的な戦闘スタイルだ。

 これもやはり、和風の格好に反して武士というよりも騎士に近いものである。

 扱う剣術も我流。

 一から完全な叩き上げの実戦派であった。

 獣の如く地を蹴り、椛が標的との距離を詰める。

 剣を抜き放っておきながら、それを振るえない巫女の懐まで踏み込んだ椛は眼前に掲げた盾をそのまま突き出した。

 不意を突かれ、なおかつ盾という広い面の打撃を避けきれず、咄嗟に両腕を交差させて受け止める。

 重く、硬い衝撃に耐え切れずに巫女の体がよろめいた。

 その一瞬の隙を逃さず、今度こそ白刃が閃いた。

 さすがに相手が特別な立場にある巫女であることを考慮してか、狙いは首などの致命的な部位ではない。

 しかし、敵対した者に対する容赦も無かった。

 狙った先は顔である。正確には眼を潰そうと、躊躇なく剣を一閃させていた。

 反射的に顔を逸らした巫女の頬を剣先が浅く薙いでいく。

 わずかな鮮血が飛び散り、返す刀が執拗に襲い掛かる寸前。巫女の掌打が盾を叩き、今度は椛が衝撃を受けて後方へ吹き飛んだ。

 いや、自ら後ろへ跳ぶことで体勢を崩すことなく衝撃を緩和したのだ。

 再び対峙する状況。

 椛は内心で僅かに感嘆していた。

 相手を人間風情と侮るような迂闊さなど、椛の性格上皆無であったが、一瞬で勝負を決める当初の予定を覆された事実には違いなかった。

 相手によれば軽口や挑発の一つでも口にするような状況だが、そこは椛である。無言のまま、目の前の巫女に対する警戒を強めた。

 対する巫女もまた、失明しそうになった状況に尻込みする様子など欠片も見せず、頬から流れる血を指で拭うと、それを軽く一舐めして構え直した。

 そこにはある種の不敵さがあった。

 言葉にせず、椛は歳不相応な巫女の胆力に感嘆した。

 息の詰まるような緊張感の中で、互いに叫び合うような熱狂などは存在しない。冷たい敵意だけがぶつかり合っている。

 おもむろに巫女が動いた。

 両手の袖から何枚もの霊符が連なった細長い巻物のような物を取り出すと、込められた霊力に操られてそれらが巫女の両腕に巻き付いた。

 指先から手首辺りまでを符で覆われた両手を構え、巫女が椛に向けて駆け出す。

 妖怪である椛に勝るとも劣らない瞬発力で間合いまで踏み込んでみせたが、拳よりもリーチの長い剣を持つ椛の方が先手を取った。

 横薙ぎの一閃。

 しかし、その一撃をあろうことか巫女は片手で受け止めた。

 蹴りや手刀を受ける時のように、無造作に手のひらで、である。

 十分な重さと鋭さを兼ね備えた椛の剣撃だったが、金属音と火花と共に、刀身が巫女の手のひらに弾かれた。

 

 ――結界か!?

 

 両手を覆うあの札がその機能を果たしているのだろう、とすぐさまあたりをつけた。

 結界という技術の常道を知る者ならば、あまりに変則的な使い方であると動揺するところだったが、椛はそういった雑念を挟まなかった。

 更に二撃、三撃と、剣を振り下ろす度に両手で弾かれる。

『生身で受けることの出来ない殺傷力』という剣の有利な点を抑えられ、代わりに肉弾戦による手数の多さと回転の早さが椛を押し始めた。

 繰り出される打撃の嵐を盾で受け止め、反撃の刃は素手で弾き飛ばされる。

 傍から見れば奇怪な戦闘であった。

 性質の異なる戦闘スタイルが、強引に噛み合っているかのように攻防が激しく繰り返されている。

 

「――はっ!」

 

 巫女が鋭い呼気を吐いた。

 それまでの連撃とは違う、力を集約させた正拳突きが繰り出される。

 拳を霊符で覆い、貫通力を備えたこの一撃をこれまでのように盾で受け止めることは出来ない。

 

「迂闊な!」

 

 しかし、椛はその渾身の一撃を『未熟』と切り捨てた。

 勝機という物を全く見極めていない、と。

 恐るべき威力を秘めた一撃を、しかし椛はあっさりと受け流した。

 文字通り、丸みを帯びた半円球の形状を持つ盾の表面を滑らせるようにして拳の軌道を逸らしたのだ。

 渾身の一撃であるが故に、巫女はそこで致命的な隙を晒すことになってしまった。

 盾で横薙ぎに叩きつける。がら空きだった脇腹に衝撃が突き刺さり、骨の折れる音が鈍く響いた。

 巫女の顔が歪み、食い縛った歯から呻き声が漏れる。

 追撃として突き出された剣先は、今度はもはや迷いなく命を刈り取りに来ていた。

 喉元目掛けて放たれたそれを間一髪避け、首筋を浅く切り裂かれながらも、巫女はかろうじてその場から大きく後退する。

 二度目の対峙。

 しかし、今度は一瞬の間だった。

 体勢を立て直す暇など与えず、椛がすぐさま追い縋る。

 椛はもはや敵を狩る猟犬となっていた。

 

 

 

 

 椛TUEEEEE!!

 これはもう椛じゃなくて『MO・MI・JI』だろ!

 

 自分が油断出来るような大層な立場でないことは自覚している。

 犬走椛という相手を事前に知識で知っていたからといって、それが『原作ではゲーム道中の中ボス扱いだった』と侮るような気持ちなどあるはずがない。

 そう思っていた――が、実際に窮地に陥ってみれば、私は想定外の事態に大きく動揺してしまっていた。

 足りないのは『危機感』だったか……!

 博麗の巫女として働くようになって、多くの妖怪をこの拳で葬ってきたが、それらが本当の意味での実戦の経験ではなかったのだと痛感した。

 これまでは敵に対して、全力で動き、全力で攻撃を叩き込めばそれで全て勝負はついていた。

 しかし、今回の戦いは違う。

 椛は、これまで戦った妖怪とはまさに格の違う相手だった。

 戦い方一つとっても、こちらの意表や不意を突く巧みさがあった。

 剣で来るかと思ったら、いきなりシールドバッシュかましてくるし、体勢を崩してからの追撃をかわせたのは運が良かったとしか言いようがない。

 しかも、全然容赦無いし。

 躊躇無く眼を狙ってきた攻撃をかわした後には背筋に冷たいものが走ったわ。

 これが本当に命を賭けた実戦に対して感じる恐怖ってやつなのか……。

 ブルース・リーを真似た仕草は余裕をかましてやったのではなく、本気でビビってしまったので、私の知る強い人の行動に肖ってなんとか動揺を誤魔化そうとしただけだった。

 っつーか、これまで特に何か考えて戦ったことないから、こういう追い詰められた状況でどういう行動が最適なのか全然分からん。

 圧倒的な経験不足だ。

 とりあえず、剣に対抗する為に両手を防御用の札で覆って即席のナックルガードを作り出す。もしくは『手甲』と言う方が機能としては近いかもしれない。

 博麗結界術のちょっとした応用だ――と、カッコつけて言いたいところだが、正直これは本来の結界のランクダウン版である。

 本来なら、もっと広範囲に防壁を作ったり、相手の動きを封じたりするものなのだが、私には博麗の秘術に関しては全く才能が無いようなので、これが精一杯なのだった。

 まあ、これで防御力は結構上がったと思うけど、事前準備に隙が大きいし、操れるようになった霊力を拳に集めて直接強化する方が早くて強力だと思うな。

 今度からその方向で修行しよう。

 剣を素手で受け止められるようになって、なんとか五分か少々有利になったかと思った私だが、それがまた新しい隙を生む結果になってしまった。

 両手が使える分、単純に手数で押せるようになってきたので、思い切って踏み込んだ一撃を繰り出した。

 連撃では盾を破れないみたいだから貫通力のある一撃を――という判断だったが、それは多分あまりに浅はかだったのだろう。

 椛はあっさりと渾身の拳を受け流し、手痛い反撃を受ける形となってしまった。

 手痛いっていうか……超痛い。なんかボキッって音がした。

 ふっ、修行で毎度のように指とかの骨が折れる経験をしていなければ、きっと悲鳴を上げていただろうぜ。

 内心、ドヤ顔しながら脂汗流しまくっているイメージ。

 やせ我慢しているだけであって、痛みを感じていないわけではないのだ。

 ううっ……マジで痛い。

 あと、ここからどう戦えばいいのか分からん。

 現在進行形で私は追い詰められていた。

 私が脇腹の痛みに意識を取られている隙を正確に見抜き、椛は息もつかせぬ怒涛の追撃を仕掛けてきたのだ。

 下手に反撃すれば今度こそ致命的な隙を晒してしまいそうな気がして、私は防戦一方のまま攻撃を凌ぐことしか出来なかった。

 あと、脇腹の激痛が要所要所で動きに制限を掛けてくる。

 正直、動きたくない。腹を押さえてしばらく蹲っていたい気分だ。

 私は今、確実に追い込まれている。

 しかし、私にはこの状況で取るべき行動が分からない。

 くっそぉ……私はこれまで何をやってきたんだ?

 ただ妖怪をぶん殴っていただけの実戦経験なんてクソの役にも立ちやしない。

 血の滲む修行で身に着けた技があっても、それを使うべき機会を見極められないのでは意味がないのだ。

 ど……どうしよ?

 考えろ。経験云々は、今更どうしようもない。

 冷静になれ。

 今、必要な行動は何か?

 それは椛にとにかく一撃でも当てることだ。

 それには、あの盾をどうにかしなければならない。

 まず剣の間合いを避けて踏み込み、私の距離である拳の間合いまで詰める――ここまではなんとか行けるだろう。

 しかし、そこで繰り出す攻撃が問題だ。

 軽い攻撃では盾で受け止められる。

 だが、踏み込んで力を収束させた一撃を出しても、予備動作を読まれて先ほどのように受け流されるのがオチだ。

 受け止めることも受け流すことも出来ない、椛の先読みさえかわせるような攻撃手段が必要だった。

 確実なのは、今の私の奥の手とも言える『百式観音』を放つことだ。

 単純な鍛錬以外では一番最初に始めた漫画の修行で身に付け、現在も欠かさず磨き続けている技であり、こいつの威力と初動の捉えづらさならば、さすがの椛も捌ききれまい。

 ――が、しかし。

 そんな隠された奥の手の存在を見抜いているかのように、椛は激しい攻勢を止めない。

『祈り、突く』という一連の動作が必要なこの技は、繰り出すまでにどうしても一瞬の間が要る。

 椛の攻撃はその一瞬の間さえ与えてくれないのだ。

 マジで椛強い。

 強いっつーか、巧いっつーか、あるいは甘さが無いっつーか。

 とにかく、戦闘の流れは完全に椛が掌握していた。

 っていうか、防御が鉄壁すぎだろ。

 盾で受け流すとか、某心眼の琉球に伝わる剣法かよ!

 

 ……あれ?

 ちょっと待てよ。

 あの漫画のバトルの内容、参考に出来るんじゃね?

 

 

 

 

 眼は口ほどに物を言う。

 椛は劣勢に立たされている巫女が何かの光明を見出したのを正確に読み取っていた。

 

 ――何かを仕掛けるつもりだ。

 ――迂闊な、分かりやすすぎるぞ。

 

 警戒を強め、ついでに内心で無意識に叱責を飛ばしたことに遅れて気付いた。

 

 ――敵に対して私は何を言っているんだ?

 

 自分自身に呆れながら、そんな心の微妙な揺れさえ太刀筋には全く現れていない。

 椛の攻撃は変わらず正確で、冷徹だった。

 しかし、その鋭く重い斬撃を、巫女はとりあえず全て凌いでいる。

 戦いの構成や運び方こそ経験不足の為未熟だが、技の一つ一つが異常なまでに完成されていた。

 なんともチグハグな印象だ。

 人間の身で一体どんな鍛錬を重ねた末に身に着けたものか。地力は完全に巫女が上回っていた。

 その巫女が、状況を打破する為に椛には持ち得ない切り札を切る。

 振り下ろされた剣の横腹に手を添え、軌道を逸らして椛の懐へ踏み込んだ。

 間合いを潰し、踏み込んで拳を打ち出すことも剣を振るうことも出来ない。

 しかし、椛は既に互いの体の間に盾を割り込ませていた。

 急所である顔面を覆うように守る。

 攻撃手段の限られる状態で、この防御を貫く為にどんな一撃を放つつもりなのか。

 視線を落とし、相手の足の動きから盾越しに次の行動を見極めようとしていた椛は、次の瞬間凄まじい衝撃に襲われた。

 

「ご……っ!?」

 

 巫女の足はそこから一歩も動いていない。

 しかし、攻撃は来た。

 軽量化の為に木の骨組みで構成されているとはいえ、表面に鉄板を貼った盾を貫通して、巫女の拳が椛の顔面を殴り飛ばした。

 

 ――間合いの無い状態で、上半身の動きだけでこれだけの打撃を繰り出したのか!?

 

 意識ごと首から上を吹き飛ばされそうになりながら、椛は驚愕した。

 純粋に鍛えられた上半身のバネ以外に、関節の捻りや僅かな距離で拳に力を乗せる動きなど。全て一朝一夕で出来るような技術ではない。

 それは明らかに、こういった状況を想定して編み出された『技』だった。

 基本的な戦いの機微さえロクに読めない素人でありながら、まるで百戦錬磨の戦士のような発想を垣間見せる。

 やはり、この人間はチグハグだ。

 単なるまぐれなのか、実は底知れぬ力を隠しているのか。いずれにせよ……。

 

 ――強い!

 

 たった一撃で勝負は決した。

 朦朧とする意識のまま背中から倒れ込み――しかし、その寸前で踏み留まった。

 

「……ッガルァアアアアアア゛ア゛ッ!!」

 

 体勢を無理矢理立て直して、雄叫びと共に文字通り牙を剥いた。

 ほぼ密着状態だった巫女は避けきれず、拳を突き出したままだった右腕を引く間もなく、野獣の如く喰いつかれた。

 姿形こそ人型であれ、その本質は間違いなく獣である椛の牙が深々と肉に突き刺さる。

 鮮血が飛び散り、巫女の顔が苦痛に歪んだ。

 噛みつくなどという生易しいものではなく、椛はそのまま腕を食い千切るつもりで顎に全ての力を込めた。

 ミシッと腕の骨の軋む音が響く。

 

「っ……ぉ……ぁあああああああああああ゛あ゛あ嗚呼っ!!」

 

 悲鳴ではなく、巫女は正しく吼えた。

 このまま腕を失うか否かの分かれ目で、一切退くことなく、更に一歩踏み込んだのだ。

 右腕に椛を食い付かせたまま、渾身の力を込めて地面に叩きつける。

 食い込んだ牙が傷を広げることなどお構いなしに腕が振り下ろされ、椛の後頭部が嫌な音を立てて地面と激突した。

 今度は耐えることなど出来なかった。

 一瞬意識が途切れ、力が抜けて全身の筋肉が弛緩する。

 間髪入れず、緩んだ鳩尾に左の拳がめり込んだ。

 

「――っ!!?」

 

 声すら出せず、肺の空気が漏れる音だけが響いた。

 この状況に至るまで握り締めていた剣をついに手放し、ぐったりと椛が四肢を投げ出して完全に倒れ込む。

 だらしなく開いた口から、巫女は血塗れの右腕を引き抜いた。

 もはや千切れそうな糸一本で繋ぎ止めているような意識で、椛は焦点さえ定まらない視界の中に相手の顔を納めた。

 何故か自分にトドメを刺そうとしない巫女への疑念や、侵入者に対する戦意も既に無く、椛の心の中に残っていたのは奇妙なことに僅かな満足感だった。

 あの状況で、恐れず、退かず、あえて立ち向かったことが勝敗を決した。

 経験による判断とは思えない。本能的な閃きか、意思の力か。

 いずれにせよ、この人間は強い。

 そして、これからもどんどん強くなるはずだ。

 それを改めて確信し、何故か椛にとってはそれが救いのように感じられた。

 

「……おまえ」

 

 視界がぼやけているせいか。

 目の前の少女の顔が、五年前に見た幼い子供の顔と何度も入れ替わる。

 弱々しく、あどけなく、すぐにも死んでしまいそうだった幼子の顔。

 あれから五年。

 たったの五年だ。

 変わるものか、ここまで――。

 

「強くなったなぁ……」

 

 椛は自分でも気付かないほど小さく笑って、それから意識を手放した。

 

 

 

 

 ガトチュ・エロスタァイムッ!!

 

 技名を叫ぶならそんな感じの一撃が見事成功した。

 本来ならば刀で行うはずの攻撃を、正拳突きに置き換えて放った零距離での一撃は、盾を貫通して椛にクリーンヒットしたのだった。

 本当の技名は『牙突・零式』

 技の原理が打撃技にも応用出来そうだし、何よりカッチョイイから修行して身に着けた技だ。

 漫画のシチュエーションに倣って使ってみたが、なんかビックリするほど上手く決まったな。

 そうか、こういう状況で使えばいい技なのか。勉強になった。

 技を習得して活用するまでの流れが完全に逆のような気もするが、とりあえず結果オーライである。修行してて良かった!

 考えてみれば、東方だって元ネタはゲームだ。バトル漫画の展開や理屈も決して馬鹿には出来ない。今後も参考にしていこう。

 まさに一発逆転。

 ここまで全ての攻撃を防がれていた為か、右手に伝わる確かな手応えに思わず内心でガッツポーズをしそうになる。

 

 ――やったか!?

 

 それがフラグとか抜きにしても、実戦においてあまりに迂闊な隙であると、私は次の瞬間理解した。

 文字通り、痛いほど。

 勝負が決したものと勘違いした私の油断を突いて、椛が逆襲した。

 意識を失いかけていた両目がギラリと光り、それを見て『拙い』と思った瞬間には右腕に牙が突き刺さっていた。

 痛ってぇぇえええっ、噛まれたぁぁああああーーっ!!

 痛みに耐性はあったつもりだが、さすがにこれは初体験だった。

 深々と突き刺さった牙も単純に痛いが、何よりも椛に噛まれたこと、しかもシャレにならないような力が込められていることに恐怖を覚えた。

 

 ――こいつ、食い千切るつもりか!

 

 背筋に冷たいものが奔る。

 脳裏に浮かんだ凄惨なイメージと、それを現実にしてしまいそうな右腕の激痛が恐怖を倍化させた。

 や、やべえ! 悠長にしてたら骨が砕ける……っ!

 溢れそうになる悲鳴を食い縛って堪え、折れそうになる精神を無理矢理奮い立たせる。

 ここで私が『逃げ』の選択をしなかったのは、一重に前世の知識のおかげだった。

 普通ならば、腕を庇う為にガムシャラに椛に攻撃を仕掛け、なんとか隙を突いて状況を脱しようとするだろう。

 その『退く方向に向かう逃げ腰の行動』が、結局は致命傷を生むのだ。

 生存本能にはなかなか逆らえない。

 実戦で、こういった窮地での咄嗟の判断を行った経験の無い私では、なおのことだ。

 しかし、この窮地において私の脳裏にはあるイメージが連想され、鮮明に思い浮かんでいた。

 

 ――まるでアーロン戦の時のルフィみたいな状況だな。

 

 どこか現状を他人事のように捉えている、危機感の欠如したこの無意識の発想が逆に私を救った。

 

 ――ってことは、ここで逃げたら逆にやられる!

 

 漫画の中での展開を、絶大な信頼性によって確信した私は、脳裏に思い描く主人公の行動を真似るまま、捨て身の攻勢に移った。

 右腕の傷が開くのも構わず、そのまま腕をくれてやるくらいの覚悟で力を振り絞り、前へ押し込む。

 激痛と恐怖、そして後先を忘れる為に獣のような雄叫びを上げながら、椛の頭を地面に叩きつけた。

 後頭部を打ちつける鈍い音と衝撃が私自身の腕にまで伝わり、確かな手応えと共に牙の拘束が緩む。

 ここで腕を引き抜くような選択肢は、もはや頭の中には無かった。

 追撃を仕掛ける。

 空いた左拳を握り締め、鳩尾に打ち込んだ。

 力の抜けた腹筋は柔らかい肉の感触を拳に伝え、それが今度こそ大きなダメージを与えたのだと確信させる。

 

「ぐ……っ」

 

 完全に力を失った椛の口から、今度こそ腕を引き抜いた。

 抵抗は無い。

 これで本当に勝負は決したのだ。

 ……牙から引き抜く時、ズボッと非現実的なくらいデカイ音が聞こえた時は別の意味で背筋に悪寒が走りそうになった。

 自分が負った傷なのに、なんかもうゾッとする。

 明らかに一般的な傷跡じゃないし。

 痛いのはもちろんだけど、それ以上に怖い。見たくない。キモイ。

 喰いつかれた痕は穴として残り、腕は血塗れとなっていたが、とりあえず拳を握り込める程度には動くようだ。

 見た目的には全く安心出来ないが、とりあえず気持ちを落ち着ける要素ではある。

 大きくため息を吐くと、焦点の定まっていない椛と眼が合った。

 

「おまえ……」

 

 意識がある限り襲い掛かってきそうな怖さがあるが、やはり先ほどの一撃が決定的だったのは間違いないらしい。

 椛はただ弱々しく言葉を発するだけだ。

 何故かそれを聞き取ろうと、私は耳を澄ませていた。

 

「強くなったなぁ……」

 

 ――椛は、そのまま気絶した。

 

 私は先ほどまでの凶暴さが嘘のように消え失せた寝顔を見つめ、聞き取った言葉を反芻していた。

 強くなった……か。

 単純な称賛の言葉だが、不可解な部分もある。

 過去形ということは、椛は私が強くなかった時期を知っているということなのだろうか。

 私には、過去に椛と会った記憶は無い。

 妖怪の山で目覚めた時よりも更に昔の記憶にその出会いの経験があるというのなら、今の私には確かめる術は無いが。

 あるいは、幼少の頃に何度も助けてくれた恩人が実は椛だというのだろうか?

 分からない。

 心当たりは幾つかあるが、どれもハッキリとはしない。

 ただ、不思議な気持ちだけが沸々と湧き上がっていた。

 

 椛に褒められたこと、認められたことが、私には何故かちょっとだけ嬉しかったのだ。

 

 うーん……何なんだろうね、この気持ち。

 自然とニヤついてしまうというか……確かに大好きなゲームのキャラが相手だけど、なんかそれを抜きにして純粋に嬉しい。

 元々誰かに認めてもらう為にやってたわけじゃないけど、修行頑張った甲斐があったなぁと考えてしまうね。うへへっ。

 ……まあ、右腕の痛みがシャレにならんくらい酷くなってきたから、すぐに冷静になるんですけどね。

 これやったの、目の前の可愛いわんこちゃんな二次創作のイメージがあった彼女です。

 そんな相手にちょっと褒められたくらいでニヤニヤしちゃうとか、チョロすぎだろ私……。

 もちろん、痛い目に遭ったからって椛のことを嫌うはずもないですけどね。

 殺し合いやっておきながら、今回のことを切欠にお近づきになろうという打算さえ浮かぶ。

 前世の知識による補正すげえ。

 この知識が私の判断を結果的に良いものとしてくれているのか、悪いものとしているのか未だ分からないが……まあ、大丈夫だ。後悔だけは無いし!

 椛に対して身構えていた体勢をようやく解くと、私は右腕の処置に取り掛かった。

 脇腹も痛いが、こっちの方が深刻だ。

 正直、すぐにお医者さん呼んで欲しいけど、今から人里に戻るわけにもいかない。

 私は両手を覆っている物と同じような長い札の束を取り出すと、それに霊力を込めて傷に巻きついた。

 右腕を覆った札が強く傷口を縛りつける。

 凄く痛いが、我慢だ。失血死するよりはマシだし。

 本来ならば、こういった霊符は敵を拘束する為の捕縛結界用である。

 しかし、やはり私にそういった術の適性は無く、通じるのはせいぜいが妖精や弱小妖怪程度だった。

 とはいえ、札自体の拘束力はなかなか強いので、こうやって傷口を抑えたり、骨折を固定する為に活用している。ばい菌も入らないから便利。

 ……逆を言えば、私の術はこういったことくらいにしか活用出来ないって話なんだけどね。

 だから殴る蹴るがメインな戦い方なのだ。

 当然、巫女の役割の一つである博麗大結界の管理なんかは紫に丸投げしてしまっている。

 時々思うんだけどさ、紫…………私を博麗の巫女に選んだのって失敗じゃね?

 そんなネガティブな意見が毎度の如く浮かんでくるが、だからといって私の方から弱音なんて吐ける資格は無い。

 せめて出来ることは全力で頑張ろうと、妖怪退治や人里の治安維持に励むようにしているのである。

 そんなわけで、妖怪の山に入って早々死闘を演じてしまった私だが、ここで退くような選択肢は持っていない。

 なんとしても攫われた子供を取り戻すつもりだった。

 妖怪の山は広く、先は長いが、なんとかして天狗とはこれ以上衝突しないよう気をつけて、子供を見つけ出さないと――。

 

「いたぞ、侵入者だ!」

 

 ……はい?

 

「椛がやられているぞ!」

「馬鹿な、あいつがか!?」

「油断するな、囲め! 警告は要らん! 確実に殺すんだ!!」

 

 呆気に取られる私を尻目に、突如現れた椛と同じような格好をした者達が三人、周囲を取り囲んだ。

 既に剣を抜いて、完全な敵意と殺意を私に向けている。

 えーと……椛さんの同僚の方々ですか?

 …………えっ、なんで?

 この状況での弁明がどう頑張っても通じないことを悟りながら、別の疑念が頭の中を飛び交っていた。

 何故にこのタイミングで応援が駆けつけるんだ!?

 おかしいって! だって、椛が仲間を呼ぶ暇なんて、あの戦闘の中であったはずが……!

 

 ――『椛の上げた雄叫びが、戦闘の始まりを告げた』

 

 あ……あああああああああっ! あの時かぁぁーーーっ!!?

 あれは戦いに備えた雄叫びじゃなく、仲間を呼ぶための遠吠えだったのか!

 ちょっ……待って!

 ずるいって、だってどう見ても一対一の決闘の前だったじゃん! そういう仕込みアリなの!?

 

「殺せっ!」

 

 予想外の事態に、半ばパニック状態のまま棒立ちするしかなかった私に向かって、新たな三人の哨戒天狗達は問答無用に襲い掛かってきた。

 状況が一気に悪い方向へと飛躍し、拡大しつつある。

 

 ――何が始まるんです?

 ――第一次妖怪の山大戦だ!

 

 いや、マジでそんなことになったら収集つかねーぞ。

 どうすんだ、オイィィーーーッ!?

 

 

 

 

「おっほほ! こういう展開か、いや結構結構。面白くなってきたわ」

「変な笑い方しないでよ。あんた、今すっごく嫌な面してるわ……」

 

 哨戒天狗と博麗の巫女の衝突を、離れた木の上から眺めている二つの影があった。

 射命丸文と姫海棠はたてであった。

 明らかに体重を支えられるはずのない細長い木の枝の先端に、足一本だけ乗せ、もう片方の足を組んだ奇妙な体勢で空中に『座って』いる。

 風を操る文にとって、地面も空中も足場としては大差なかった。

 椛ほどではないが、文とはたても視力は人間の比では無いほどに優れ、現場の声や音は風に運ばせることで離れたこの場所でも正確に聞き取っている。

 やっていることは野次馬そのものだが、用いられる能力の高度さにはたては内心呆れていた。

 射命丸文の持つ『風を操る程度の能力』は、この通り応用の効く幅があり、なおかつ純粋に強力だ。

 天狗の中にはもちろん『かまいたちを発生させる程度の能力』や『竜巻を起こす程度の能力』など、風に関わる能力を持つ者も多い。

 上位の天狗ならば、その威力も災害並にまで跳ね上がる。

 しかし、風そのものを全て操る能力を持っているのは文だけだった。

 まるで風神だ。

 立場こそ鴉天狗の一端に納まっているが、妖怪としての年季も天魔に迫ると聞く。

 だからこそ、文は天狗の間でも上下関係無く名が知れているのだった。

 恐ろしい妖怪なのだ。

 

「いやいや、これが笑わずにいられますか!

 あのクソ真面目な番犬ちゃんが人間如きに負けてんのよ? 普段の無駄な威圧感は張子だったのかって話よ。あーおかしっ!」

 

 ――それを踏まえた上で、己の実力に自覚があるのかないのか微妙な同僚の小物臭い言動を、はたては生暖かい眼で眺めていた。

 天狗の中でも人間寄りの良識を持つはたてにとって、文の嘲りはいささかどうかと思うものだったが、聞き慣れる程度には付き合いが長かった。

 戒めても、調子に乗って軽口を返してくるだけと見越し、話題を変える。

 

「人間如きっていうけど、あの博麗の巫女も相当やるわよ? あんたも随分前から目に掛けてたじゃない」

「ああ、まあ確かに。人間にしては、ね。

 私の期待通り、いーい感じに力をつけてくれたわ。やっぱり博麗の巫女としての立場だけじゃ、話題にする際の『いんぱくと』ってヤツが足りないからね」

 

 文の浮かべる満足そうな笑みは、嘲笑の域を出なかった。

 はたてはその表情や仕草を注意深く観察し、言動が本心そのものであると悟ると、呆れたようにため息を吐いた。

 まったくもって――捻くれている。

 

「五年前に世話した子供が、博麗の巫女になったのよねぇ……」

 

 犬走椛を下し、今も三人の敵を前にしながら一歩も退かず対峙し続ける少女の姿を遠目に見つめ、はたては文に聞こえるように呟いた。

 

「何か他に思うところ無いわけ?」

「つまり『立派になったなぁ』とか感慨深く言わせたいわけね、私に」

 

 文は小馬鹿にするような笑みを浮かべた。

 

「文があの子を気に掛けてたのは確かでしょ?

 当代の博麗の巫女について新聞に載せてたのなんて、あんたくらいのものだったわよ。あんたの言う『人間如き』の活動を、大した話題性も無いのに取り上げてさ」

「こういう時の為の下積みに決まってるでしょうが。

 そう、全ては予測され得る事態の為! これまで散々持ち上げて、煽った成果がここに活きてくるのよ。私の期待通り、彼女は騒動を起こしに来てくれたわ。

 八雲紫に横から掻っ攫われた時は随分と落胆したものだけど、こういう形で恩を返しにきてくれるとは思わなかったわ。いやはや、何事も面白そうなことにはチョッカイを出しておくものね。

 博麗の巫女、ついに暴走! 妖怪の山に殴り込みをかけた、無謀なる行為の結末はっ!? ――今回の新聞の見出しはこれで決まりね!」

「……可愛さ余ってなんとやら、って感じなのかしら」

 

 嬉々として思い浮かんだ文句を手帳に書き込む文に気付かれぬよう、はたては自分なりの解釈を呟いた。

 文の言葉は人間である博麗の巫女を見下し、嘲った、何処までも悪辣なものに聞こえる。

 事実、彼女自身はそういう意図で言っているのだろう。

 この態度が同族の下っ端にも向くから、悪名が蔓延るのだ。

 文の性根が捻じ曲がっていることなど、はたても十分に知っている。

 それを理解した上で、はたてはまた別の視点で文を捉えていた。

 文自身はその見解を誤解であり、間の抜けた勘違いだと思っている。

 しかし、少なくともはたては自分の見立てを疑わず、信じていた。

 だからこそ、友人でいられるのだろう。

 

 ――あの子が八雲紫に連れ去られた後の文の様子を知っている。

 ――あの子が新しい博麗の巫女として選ばれたのだという情報を、文が一番に手に入れたことを知っている。

 ――人間であっても妖怪であっても、誰かに好意を向ける素直さなど欠片も持っていないことを知っている。

 ――少なくともあの子に対する興味という点においては、今も変わっていないことを知っている。

 

 いずれの要素も、多分に好意的な解釈をしているという自覚はあるが、はたてはそれを理由に考えを改めるつもりはなかった。

 傲慢で嫌味だが、決して下種や外道にはなれない――それが射命丸文という天狗だった。

 

「それで、文はこれからどう動くつもりなわけ? このままデバガメしてんの?」

「んー、まあ放っといても人数が動員されれば、騒ぎはそのうち収まるわね」

 

 文は少し考え込み、やがて何かを思いついたのかニヤリと笑った。

 はたてが表現するところの『すごく嫌な面』であった。

 

「うん、折角だし。ちょっとチョッカイ掛けてくるわ」

 

 何が折角なのか。おそらく悪意による思いつき以外の何物でもないだろうことを察して、はたてはうんざりするような表情を浮かべた。

 

 ――そんなんだから、友達いないのよ。

 

 口にしたら、きっと自分のことを棚に上げていると言い返されるので言わない。

 はたては黙って、妙に腹の立つ笑い声を上げながら飛び立つ文の姿を見送った。

 五年前に唐突に別れることになってしまった、人間の少女と妖怪との再会だ。

 取材の為に何度か博麗神社を訪れているようだから、顔合わせという意味ではこれは初めてではない。

 しかし、取材の時の文はあくまで記者としての心構えを崩さない。私的な会話を挟んだ本当の意味での交流はこれが初めてとなるはずだ。

 もちろん、それが感動的なものになるとは到底思えない。

 あれから精神的にも成長しただろうあの子供が、文と言葉を交わし、その人となりを理解した際に果たしてどんな感情を抱くのだろうか?

 本来ならば、文は人間からも同族からも嫌われるような奴だが――さて?

 あの人間も、子供の頃から相当な変わり者だった。

 不安よりも期待があった。

 きっと、面白いことになるはず。多分。だったらいいな。

 

「ま、どうにでもなるでしょうよ。深刻になるだけ無駄だわ、あんたは自覚している以上に小心者なんだからさ」

 

 遠目に見える文に対して意地悪く笑い、はたては最後まで見届けることなく背を向けた。

 今は自分もやっておくべきことがある。

 自身のことに対してはものぐさな引き篭もり気味の鴉天狗は、無駄にお節介な性格と苦労人としての性質を知らず発揮して、行動を開始した。

 

 

 

 天狗の集落へとすぐさま戻り、普段は滅多に訪れない下っ端天狗達の集まる場所へとはたては向かった。

 椛の千里眼ほどでは無いにせよ、哨戒天狗の中には何かを捜索、探索することに適した能力を持つ者が多い。

 上司の立場でありながら異様に緊張する内心を、努力して作った不遜な表情で隠し、はたてはその日初めて下っ端の天狗達を顎で扱った。

 

 ――あんた達に至急捜してもらいたい妖怪がいるわ。言っとくけど、拒否権はないわよ。

 

 内心では嫌な顔してるんだろうなー、私のことウザイって思ってるんだろうなー、と勝手に想像して落ち込みながらも不慣れな命令口調を続ける。

 

 ――人里から子供を攫った妖怪を捜して頂戴。この山の何処かに、獲物を連れて隠れているはずよ。可能な限り急いで、この場の全員で手分けして探しなさい。

 

 拒否出来ないことを知りつつ、非番の者にまで命じる自分の行動が理不尽であると自覚しているからこそ余計に心が痛む。

 きっと、捜しに出掛けた先で私の陰口言い合うに決まってる。

 勝手にその様を想像して、心だけでなくお腹まで痛くなってきた。

 気分も悪い。

 吐きそう。

 それを堪え、決死の覚悟で声を出す。

 

 ――さっさと行きなさい! 時間が掛かるようなら……分かってるわね?

 

 子供が妖怪に殺されてしまったら手遅れだ。

 そうなる前に見つける必要がある。

 そう、必要なことなのだ。

 だから脅して急かせるのだ。

 その為に嫌な奴と思われても仕方ないのだ。

 全て丸く収めることが出来るなら、ちょっと嫌われる程度なんでもない。

 必死に自分を奮い立たせ、はたては強い態度を貫き通した。

 命令を受けた下っ端天狗達がすぐさま飛び立つ。

 

 

 ――去り際、その内の一人が小さく舌打ちするのを、はたては見てしまった。

 誰もいなくなった後で、耐え切れずにゲロ吐いた。




<元ネタ解説>

「ガトチュ・エロスタイム」
ニコニコ動画で流行った「牙突・零式(ガトツ・ゼロスタイル)」の空耳。

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