妖であるシロ
そして家族の
当然彼女は錯乱した。
「え・・・どうしてよ。なんで妖が私に手を貸そうとするのよ!」
「上司直々の命令だ。」
「上司? え・・・あんたが何言ってるのかがわからないわよ。」
「・・・はぁ。とりあえずは落ち着く場所・・・そうだな。お前の家に行く。そこで契約についても妖についてもすべて説明する。あとお前は服を着替えろよな。」
その時彼女は自分の身なりに気がつく。
真っ白なブラウスは赤く染まっており、スカートも血に染まっていた。
彼に指摘されるまで全く気にならなかったが言われてみると非常に危険極まりない恰好だった。
警察に見つかってしまうと間違いなく職質を受けるだろう。
「・・・・・・」
「どうした帰りたくないのか?」
彼女はまた家族の死体がある家に戻るのを躊躇していた。
それを悟ったシロは黙って彼女の返答を待つ。
アンリは暫く黙り込んだのち返答した。
「わかったわ。でも少し外で待ちなさいよね。」
「了解だ。それよりそこのロッカーに行っていいか?」
「何を預けたのよ。」
彼は近くにあるワンコインロッカーを指さす。
ロッカーの大きさはかなり大きく、滅多に使われることはないのだ。
シロはポケットから鍵を取り出してロッカーを開けた。
「これだ。」
「何よこれ。」
布で包まれている棒状の物だった。
大きさは80センチ程だ。
シロはそれを担ぐ。
「商売道具だ。今は気にしなくてもいい。それじゃ行くぞ。」
「・・・一応言っておくけど、私はまだあなたを信用した訳じゃないからね。」
「ハイハイ。」
彼は素っ気なく返事してアンリの後ろに続いた。
お互い何も話さずゆっくりと歩く。
空はもう真っ暗になっており、星が煌めいていた。
「・・・ここで待てばいいか?」
「ええ。待ってなさいよ。」
アンリはそして家の中に入っていく。
見るに堪えない光景がまた彼女の視界に入る。
だが、必死に堪えた。
そして彼女はリビングに死体引きずり全員を一か所に固めたのだ。
「・・・いいわよ。入りなさい。」
「おう。それじゃ邪魔するぞ。」
シロはアンリに招かれて家に入る。
行儀よく靴は揃えた。
その光景をみてアンリは驚く。
「シロって言ったわよね。」
「儂になんか用か?」
「意外と行儀はいいんだ。」
「閻魔のクソババアに礼儀作法は一通り叩きこまれたんだ。」
意外な一面を発見し驚きつつ彼を自分の部屋に連れていった。
リビングには死体があり、妖であるシロにそれを見せたくはないのだ。
そしてアンリはリビングに戻り服を着替える。
そしてお茶を二つコップに入れて彼女の部屋に持って行った。
「はい。これお茶ね。」
「おう悪いな。」
アンリは一応シロにお茶を出した。
彼はお茶を一口飲み、本題に入った。
「儂は妖だ。さっきも言ったな。」
「えぇ。忌々しいことにね。」
「それじゃ、まずは儂たち妖の説明からだな。」
彼はコップを机に置いてアンリの目を見て話す。
「妖ってのはな、絶大な力を持っている者なんだ。人間が束になっても敵うかわからない。」
「じゃあなんで今更妖が暴れまわっているのよ。それだったら昔から暴れててもおかしくないじゃない。」
「それが今まで人間には不可侵するという決まりがあったんだ。人間の恐ろしさを妖は知っていたからな。ほらよく童話で妖を殺す人間の話あるだろ? あのように英雄が出現されると儂らは一斉に殺されてしまうからな。」
「だったら尚更暴れる必要が無いじゃない!」
「そういうわけにも行かないんだ。妖は恐怖してるんだ。人間よりも今の妖怪のトップをな。」
「・・・まさか。」
トップに立つものが変わっただけで方針が変わってしまうということは人間でもよく起きる現象だった。
そして恐怖で統治されたら人は何をするかわからない。
妖でも全く同じ事態になっていることになっていることにアンリは気がついたのだ。
「そうだ。今のトップは人間を滅ぼし妖の住みやすい世に変えろって考え方だ。そして逆らう妖は皆殺しだ。当然人間は容赦なく皆殺し。だから必死に妖は長の言うことを聞いているんだ。自分たちが助かる為にな。」
「ふざけるんじゃないわよ!」
アンリは憤慨する。
そんな訳の分からない都合で家族を殺されてしまったのが非常に腹立たしいのだ。
「ふざけてるわけじゃない。それに妖達はそれを免罪符にして好き勝手暴れてるのも事実だ。楽しんでいるのだろうな。今まで鬱憤が溜まっているやつも多かっただろうし。」
「な!?」
アンリは言葉を失った。
本当に妖が楽しむ為に家族が殺されたと考えると
「でこれからが本題だ。儂は妖だが、他の妖とは少し違う。」
「何が違うのよ。」
「トップが違う。暴れている妖の
「空亡・・・それがこの馬鹿げた事件の黒幕って訳ね。」
彼女は胸にその名を刻む。
このような事件のきっかけとなった妖は絶対に許せないのだ。
何より彼女は愛する家族を奪われた悲しみ、怒り、憎しみ、負の感情をそいつに感じていた。
「そう。で儂の上司は閻魔のクソババア・・・つまり閻魔大王だ。地獄の妖なんだ儂は。」
「閻魔大王って・・・地獄はあるの?」
「あるさ。今は大賑わいなはずだ。一気に人が死に、地獄の妖も好き勝手暴れまわり始めたからな。儂は憤慨した閻魔の命で地上に来た。妖共を殺して、黒幕も倒しこの馬鹿みたいな騒動を止めてこいって命令だ。その為、儂と相性の良い人間を探していたんだ。協力者としてな。」
シロの話を冗談半分で聞くほどアンリに余裕はなかった。
父が最後に残した言葉。
そして母の無残な死に様。
それを考えると、ありえない話でも無いような気もしていたのだ。
「でお前を見つけた。儂も運がいい。お前程の器は滅多に見れないからな。」
「・・・一応聞くけど何を持って相性がいいと思ったの?」
「悪意だ。」
シロの顔は本気だった。
声色も静かだがアンリに突き刺さるような鋭いものだった。
「悪意って・・・私があったのは今日の朝よ。」
「儂は目がいいんだ。当然人を見る目も優れている。そしてお前には才能がある。悪になる才能だ。地獄の鬼の儂は悪を好む。そして悪を信仰するんだ。」
「悪ね・・・」
アンリは呟く。
そして彼女はシロに尋ねる。
「だったら私じゃなくて殺人鬼とか犯罪者に頼めばいいじゃない。そっちの方が悪意があるでしょ?」
「それは誰でも思いつく考えだがダメだ。そいつらの悪意は濁っている。悪意というのは純粋で尚且つ綺麗でなければならない。」
「綺麗な悪意なんてあるもんですか。」
「あるんだなこれが。そのうちお前も理解できるはずだ。」
彼は楽しそうにアンリに告げた。
顔は今にも笑いだしそうな、非常に愉快な顔になっていた。
そして彼は最後の要件を告げた。
「最後に契約だが・・・少し条件があるんだ。」
「条件?」
「ちょっと痛いが我慢出来るか?」
「・・・わかったわ。」
アンリは覚悟は出来ているつもりだった。
何が起きようが自分の予想より下回るだろうと高を括っていたのだ。
だが彼の条件が予想以上に恐ろしかった。
「目だ。お前の片目・・・儂に差し出せ。当然自分で繰り抜けよな。」
「は・・・嘘でしょ?」
「本当だ。契約が済めば目は返してやる。視力も格段に上げてな。両目ともに同じようにしてやる特典付きだ。一瞬痛いのを我慢すればいい。」
すると彼はアンリの部屋の引き出しを漁り、コンパスを取り出した。
それを彼女の前に放り投げた。
「ほら。これで刺して出せ。」
「ふざけるんじゃないわよ!」
「お前その「ふざけるな」っての好きだな。だが儂はなーんもふざけてなんていないぞ。」
まただ。
彼が本気の時。
つまりは嘘偽りなく真剣に話すときの声色だった。
冷たく鋭く、恐怖すら感じる重たい声だ。
「鬼への
「ッツ・・・クソ。ホントありえないわよ!」
アンリはコンパスを握り締めて彼を睨んだ。
するとシロは彼女の傍により、彼女に言い放つ。
「儂をなんだと思ってるんだ? 悪なんだよ。そして儂は地獄の悪の代表みたいなものだ。だから信用しろとは言わん。だが儂の行動にケチをつけるな。儂でもお前を殺すぐらいの力は存在するだぞ。妖であるからな!」
彼は本気だった。
人一人殺すことぐらい彼にしたら余裕なのだろう。
だが彼女はこんなところで殺されるわけにはいかないのだ。
「シロ。私は妖を許さない。」
「そうか。それは勝手にしろ。」
「当然妖であるあなたも最後に殺すわ。それでもいいの?」
「いいさ。どうせ死んだらまた地獄に戻るだけだしな。」
「そう・・・なら安心してやれる・・・わ!」
そして彼女はコンパスを自身の右目に突き刺した。
水風船が弾けたようね音が響き、そしてアンリは絶叫した。
視界が片方無くなり冷たく、そして非常に鋭い痛みが襲い掛かる。
「ぎゃぁぁぁ!」
シロはその光景を何も言わずに眺めていた。
するとアンリはコンパスを両手で持ち、必死に痛みを堪える。
体は震え、冷や汗をかき続ける。
その手には目から流れた血が付着し続ける。
手は震え、恐怖していたが、彼女は必死にそんな感情を殺す。
唇を噛み歯を食いしばった。
そしてコンパスと一緒に目を抜き取りシロに渡した。
「っぐあぁ・・・あ・・・これで・・・どうよ!」
「お見事!」
彼は拍手し、彼女の目を受け取る。
そしてその目を食らった。
咀嚼し飲み込み呪文のように呟き始めた。
「妖の条件は守られた。我の力を貸すことを誓う。園原杏璃。お前を我の盟友として認めよう!」
すると不思議なことが起きる。
アンリの右目があった場所から光が出現する。
そして右目はみるみる元通りに戻っていく。
血涙を流しながらだが、確かに新たな目が出現したのだ。
「どうだ? 新しい目は。」
「まだ痛むわよ。でも・・・よく見える。」
「視力や動体視力を上げてある。それが妖と契約したご褒美だ。」
そして彼はその場で説明を始める。
「妖と人間が契約するといくつかメリットがあるんだ。」
「メリット?」
「そうだ。その目がわかりやすだろう。そのように普通の状態でも人間離れした能力を手に入れれるんだ。」
アンリは血涙をティッシュで拭き取り、彼の話を聞く。
「そして儂の能力を強化させてアンリ。お前に託すことも可能だ。それが一番のメリットだ。」
「・・・それってアンタに乗っ取られたりしないわよね。」
「意思はお前が持っている。儂はそうだな・・・何か物体の憑依して戦闘の補助をする程度だな。」
シロは思いだしたかのようにアンリに尋ねる。
「アンリ。お前何か身につけるもの持っていないのか? 髪飾りでもヘアゴムでもなんでもいい。」
「・・・ちょっと待ってなさい。」
アンリはシロを部屋に待たせてリビングに行く。
そして父のカバンを漁る。
「父さんありがとう。覚えていてくれたんだ。」
アンリはそれを持って部屋に戻る。
そしてそれをシロに見せる。
「これでいけるかしら?」
「ふーん。結構センスいいじゃないか。いい髪飾りだな。」
「父さんが覚えていてくれたのよ。私が髪飾り欲しいっていったことをね。」
「いい親父だな。」
彼の一言でアンリは少し泣きそうになった。
だが必死に堪える。
「・・・これでいいんだな。」
「ええ。よろしく頼むわ。」
「オッケーだ。」
そして彼は髪飾りを握る。
二分ほど握ったのち彼は髪飾りをアンリに返却した。
「これで終了だ。」
「・・・でどうすればいいの?」
「それを身につけてちょっとした呪文のようなものを唱えてくれればオッケーだ。それはもうわかっているだろ?」
「・・・この訳の分からない言葉ね。」
「儂の信念だ。それを語れば儂の力をくれてやる。」
シロはそして立ちあがった。
何かを感じたようにゆっくりと立ちあがる。
「・・・アンリ。お前は妖を殺すといっていたな。」
「えぇ。」
「その言葉嘘偽りはないな。」
「当然じゃない。」
「そうか。だったらそこから離れろ!」
シロはアンリを思いっきり蹴り飛ばす。
彼女はタンスに頭をぶつけた。
「何するの・・・よ?」
アンリはその場の光景に驚く。
自分の部屋の窓から扉にかけて刃が通ったあとのように真っ二つに斬れていたのだ。
幸い下まで届いてないが、シロが蹴り飛ばさなければ自分が真っ二つになると考えるとぞっと恐怖した。
「良い切れ味だな。」
「はー・・・お前よー。逃した獲物を殺しに来たんだが・・・なんで助けるんだ?」
隣の家の屋根に一人の青年がいた。
だが明らかに人間ではないと理解できる。
人なら手がありそこに指が存在するはずだ。
だが彼は違う。
手が存在するはずの部分は手ではなく鎌のような物が生えているのだ。
「悪いな。こいつは儂の契約相手だ。」
「そんなことは関係無い。俺はこの家の女を殺したんだ。それで「お姉ちゃん」とか言っていたから帰って来てみたら案の定もう一人いたんだな。」
「アイツが穂香を・・・」
アンリの心にある気持ちが出現した。
憎しみ、悲しみ、怒り、憎悪、驚き、軽蔑、恐怖・・・そして感謝だ。
わざわざ敵がこちらにやって来てくれたのだ。
喜ばないわけがない。
「そうだ。アンリ。その顔だ。悪意に満ちてる素晴らしい顔だぞ。」
笑っていた。
アンリは怒るはずなのに笑っていたのだ。
「白い髪の妖。俺は
「儂は・・・お前が死ぬときに教えようか。」
「ということはお前は俺の邪魔をする気なのか?」
「それ以外の回答に聞こえたか?」
彼らは睨みあう。
そして鎌鼬は鎌が生えている右手を上げた。
「だったら二人仲良く真っ二つになってな!」
腕を振りおろした瞬間刃が飛んでくる。
白く、そして鋭い刃だ。
「何ボケっとしている! とっとと逃げるぞ!」
「え!?」
シロに抱えられアンリは部屋から脱出する。
そして窓を突き破り、屋根の上に二人は降りた。
「ッツ・・・あいつの刃厄介だな。中々強いぞ。」
「あんた本当に勝てんの?」
「儂だけではわからん。だがお前がいれば余裕だ。」
すると彼は鎌鼬のほうを向く。
「さぁ、唱えろ。儂の信念を! 儂の力をすべてくれてやる!」
「・・・わかったわよ。」
「何ごちゃごちゃ言ってんだ! お前らも真っ二つにしてやるって言ってんだろ!」
鎌鼬はまた腕を振り上げてそしてそのまま振り下ろす。
真っ白の刃が飛ぶ。
だが彼女は逃げなかった。
シロが彼女の前に立ちはだかっていたからだ。
「おぉっと悪いな。こいつが儂の信念を代弁してくれてるんだ。邪魔はさせねえぞ!」
シロは布で包まれた棒で刃を防ぐ。
すると布の中からは刀が出てきた。
それで鎌鼬の刃を弾き飛ばしたのだ。
「この世に善など存在しない 悪を裁くは悪のみ なら我が悪となりて悪を裁く 我は鬼童丸なり!」
彼女は地獄の鬼・・・鬼童丸であるシロの信念を語った。
するとアンリは光に包まれたのだった・・・