ふしぎ遊戯~四神天地之書火影異聞録~   作:英キョウ

2 / 2
序章其之二:集いし同胞

 

「本当に…本の中に入っちまったんだよな…」

 

光は立ち上がり、辺りを見回した。

目の前に広がっている世界は、先程までいた花菱家…それどころか日本ですらない。

 

遠目から見える街並みや通行人はまさに古代中国のそれなのだ。

 

「紙の中の世界なのに、本当にみんな、生きてんだな…

っといけね!」

 

ふと気付いて、各々目を覚ましたりキョロキョロし出した火影メンバーの方に向き直る。

 

「みんな、起きてくれ。こんなことになって本当に悪かった。

本当は何で俺が来たのか詳しく説明したり、行くかどうかの確認取ったり、あ!あと色んなものの用意とか…」

 

あたふたしている光の言葉を遮る声があった。

 

「異世界…ここは路地裏らしいな…。

元の世界に戻る手立てを考えましょう。

連れの何匹かは難しい話をすると壊れますので、僕の方に言って下さい。

申し遅れました、水鏡凍季也です。」

 

水鏡が言うと、近くにいる柳も自己紹介を交ぜる。

 

「えと、はじめまして。佐古下柳っていいます。

あの、『しじんてんちのしょ』ってあなたのですか?

すっごく面白そうだから私も読みたいな、って…」

 

柳がそう言い終わらない内に、少し離れた場所で風子の怒鳴り声が響いた。

 

 

「ギャアアアぁ──!

何しやがんだ変態!どスケベ!エロジジイ!」

 

声の聞こえた方向を見れば、小柄な老人が後ろから風子の乳房を鷲掴みにしていた。

「クソっ、よくも風子様の…オレも触りた…じゃねえ、何で居るんだジジイ?!!

起きろ花菱、ジジイが出たぞ─!」

 

土門はただ一人、未だ寝ている烈火を叩き起こした。

 

「痛ぇな腐乱犬、殴るぞ…

ええぇー、ジジイおま、虚空?!」

 

「おひさー。やっぱ生身のオナゴはええのぅ~。」

 

ニット帽にニコニコマークのアロハシャツとハーフパンツ、足下は草履サンダル。

サイドが派手に跳ね上がった総白髪にアイパッチ……この奇抜な老人は、どうやら何か訳を知っていそうだ。

 

 

光がそんなことを考えていると、早くも次のセクハラ被害が出始めていた。

 

「やあぁぁーっ! おじいちゃんっ、スカートの下から出てこないでくださーい!」

 

「ウヘヘ白のクマぱんか…、まあ老後の楽しみぢゃ許、げふっ!」

 

「柳ぃ!

ぶっ殺すぞジジイ、何しに来たんぢゃあ!」

 

「何が老後だ、成仏するより地獄に行け!」

 

烈火と水鏡に袋叩きにされる虚空に、走り寄る光。

 

「ちょっ、痴漢だからってお年寄り蹴るのは駄目だって!

 

「おー痛、こやつらは遠慮がないわい。

ありがとう、心優しき青年よ。ワシは虚空、魔導具造りとオナゴ観察が趣味のナイスガイぢゃ!タダでオサワリとは言わん、お主らにこれを。」

 

「てめーはオサワリが挨拶じゃねーか!

え、これ【風神】!?

【鬼の爪】に【深慮伸刀】まで─!」

 

怒り心頭の風子だったが、虚空が取り出したものを見て表情を変える。

 

コト、コトリ…次々と置かれていく魔導具達。

 

水鏡の【閻水】、土門の【土星の輪】【嘴王】【鉄丸】【藏王】そして、烈火の手甲。

 

役目を終えたはずの『戦友』との再会に、全員目を見開き固唾を飲む。

 

 

 

次に口を開いたのは光だった。

「これ! 夢に出てきた変な武器だ!」

 

「左様。お主『光』と言ったな。

朱雀星君殿にお主の夢枕で呼び掛けて貰ったのは、このワシら『八竜』なのじゃ。」

 

「は、はちりゅうて何だよ? でも確かに、俺の夢に出てきた花火工場は本当にあった訳だし。

あと変な武器と字が入った玉もちゃんと出てきた。

それじゃあ残りの、腕から炎って──!」

 

非現実的な出来事ばかりが続いて、光の脳天は早くも悲鳴を上げ始めていた。

 

「光さん。あなたの夢のお話を要約すると。

八竜とこの世界の守り神の『スザクセイクン』の夢枕のお告げがあって、烈火や僕達魔導具使いを訪ねて来た。するとそれが全て真実だった。それでいいかな。」

 

「そ、それそれ!ありがとう、助かったよ!」

 

「ふぅ…一度頭の中で状況を整理出来ないですか。」

 

こんな時、水鏡の冷静さは助け舟になる。容赦ないツッコミに大量の棘が含まれているのだが。

 

そこへ烈火もやって来て話に加わる。

 

「オレぁ難しい話は分かんねんだけどよ。ジジイも何かあるからオレらを呼んだんだろ?

おい八竜!もっかい力貸せや─!」

 

そう言ったかと思えばふと姿を消してしまった。

 

「花菱君?さっきまでここにいたのに?!」

 

「大丈夫です。烈火は強くなりに行ったんです。」

 

 

その数十分後、何故か全身ボロボロの烈火が帰ってきた。

【崩】【砕】【焔】【円】【塁】【刹】……

 

腕に何やら文字が浮かんでいる。

 

「喧嘩か?…タトゥー彫った?」

 

「ちっがーう、まだ見せらんねーけど、これはオレの力ぢゃ!火影忍軍七代目頭首・花菱烈火!

助太刀すんぜ、ピカリン!」

 

「(え、俺ぴかりん?)よ、宜しく花菱くん…」

 

「烈火でいーよ。オレら今から仲間だべ?」

 

右手に手甲を嵌めながらニカッと白い歯を見せて笑う。

 

「烈火、痛くない?はやく治さなきゃ!」

 

柳が烈火の傷に手をかざすと、淡い光を放ちながら癒えていく。

 

 

「ヒーリング能力?!漫画でしか見たことねー」

 

続いて風子・土門も輪に入る。

「はーい、霧沢風子ちゃんでーす! セクシー格闘美少女野郎だv」

 

「石島土門だ。愛とセーギのパワーファイターってとこかな。次、ピカリンな!」

 

土門に肩を叩かれ、光もおずおずと自己紹介を始めた。

 

「俺は宿南光、20歳の大学生。好きなのは食べる事と貯金とスポーツ、かな…なんか普通で悪いけどさ。」

 

普通、か…。それにしても、と光は火影の面々をそれぞれ見比べてみる。

 

「んー。

(…烈火は潜在能力未知数だし、水鏡君や風子ちゃんも相当戦い慣れてる気がする。土門君は…もーガタイだけでも才能じゃねーか。

柳ちゃんは戦闘出来ないけど回復系使えるし…。

あれ?

俺一人ただの人だし!人間じゃない敵とか出てきたらやばいっしょ。うわぁ~。)」

 

気後れして目線を移すと、柳と目が合い、反らそうとしたのにじっと見つめ返されてしまった。

 

「あれ―。なんでだろ、光さんってこっちの世界の人みたい。 ごめんなさい、変なこと言っちゃって。」

 

「あ、あーいいって、そんなの。(このコ、侮れねえ! )」

 

「湿気たツラしとるのう、光。お前さんせっかく大人になったんぢゃ、ワシとキレイなおねーちゃんのいるところでスッキリ…」

 

「結構です!俺彼女います!」

「そんじゃま気晴らしに紅南国の宮殿でも行ってこーい。」

 

「…マトモな用件なら喜んで。」

 

不安と劣等感は拭えないが、とりあえず先に進んでみよう。

虚空のお下劣な軽口をかわしつつ、小さな決意を固める光であった。

 

 

 

 

 

ところが。

 

「水を差すようで悪いが…あまり長い距離は歩けない。光さん以外、全員靴を履いていないんだ」

 

水鏡の一言に全員が固まる。

火影一向は本に吸い込まれた時に屋内に居たため、花菱家に靴を忘れて来ている。

姿こそ間抜けだか不可抗力、そして深刻だ。

 

 

「大丈夫、そんなんどーにかなるべや!裸足案外痛くねーぞ!」

 

烈火は既に真っ黒に汚れた足の裏を指差した。

 

「お前やゴリラと猿はどうにでもなるだろうが、柳さんの足が…ぐぇっ?!」

 

「今度こそ三沢エルボー!レディは二人いるだろーが!!

罰としておんぶしろアホみー!」

 

「風子、おんぶならオレが!」

 

「行こうよ、ガマンしたら大丈夫だと思うよ?」

 

「俺のせいでこんな…ごめん、本当にごめん!

俺の靴でよかったら使ってくれ…うぅ…」

 

騒ぎ立てる青少年たちを見て、虚空はぼそっと言い放つ。

 

「…アホじゃのー、助けを呼べばええのに。」

 

 

「助け…そうだ、母さんの話だと…こんな時には…」

 

「お、何か思いついたんか、ピカリン?」

 

それぞれ意見を交換してみてはいるが、意外に難しい問題である。

この平成の世の日本ですら無一文の異邦人に、無料で靴をくれる者はそうはいない。ましてや自給自足に近い文明のこの世界では…。

 

 

 

「チチリ・チチリ・チチリ…頼む、来てくれ『チチリ』…」

 

 

「遂に宇宙との交信? ピカリンショックすぎて頭おかしくなったんか?」

 

座り込んでひたすら『チチリ』と唱え続ける光は、当然だが変な人だ。

 

「お前程じゃないと思うぜ、モヒカンゴリラ」

 

「土門くん、風子ちゃん、しーっ。チリチリさん来てくれないよ。」

 

 

 

 

「…オイラはチリチリさんじゃないのだ…」

 

 

 

 

後ろから突然聞こえた声に土門・風子・柳が振り向くと、不思議な出で立ちの青年が真後ろに立っていた。

 

「すっげ─、宇宙人!

どっから来たんだ、ニホンゴワカリマスカァ?ヘロー?

あ、後でサインくれ!」

 

謎の人物・『チチリ』に烈火は興味津々だ。

 

「へー、宇宙人って案外あたしらとおんなじ指5本なんだな―。」

 

「オスみてーだな。オレぁどーせならこうボインボインのメスが良かったぜぃ」

 

土門や風子も無遠慮に至近距離で観察している。

 

「あの。君たち、もういいのだ…?」

 

困惑しているチチリを見て水鏡が烈火達を制する。

 

「どうぞ、続けて下さい。」

 

「オイラは朱雀七星士が一人、七星名を【井宿】(ちちり)と申しますのだ。

朱雀の神座宝と新生火影忍軍をお迎えに上がりましたのだ。」

「あの!シチセイメイってなんですか?」

 

「星の名前さ。あれは本名じゃないんだ。

彼らは体のどこかにその星の名前が字になって浮き出るんだ。それが7人いて、井宿さんはその中の一人なんだ。」

 

柳の質問に光が口を挟む。

 

「そう言えば、貴方は朱雀と言っていた。占いに出てくる方角の守護神だな。

玄武・青龍・白虎…七星士は他にもいるのでは?」

 

「それじゃあいっぺんに七星士さんが出てきたら28人だね!」

 

水鏡や柳の応答に、井宿はそっと目を細めた。

烈火達は訳が分からずポカンとしている。

 

「答えることがなくなっちゃったのだ。君たちは中々切れ者なのだ。

さあ、そちらのお三方も。みんな、準備はいいのだ?

宮殿に向かうのだ!」

 

そう言って、井宿は肩から下げていた袈裟を地面にふわりと広げた。そして風呂敷のように6人を包んで浮き上がる。

 

 

 

 

「あ! 待って!虚空さん、俺達が異世界に呼ばれた理由は何なんですか?! これ、一番大事じゃないっすか!」

 

光は必死に最後の質問を投げ掛ける。

 

「それはもう言うまでもなく、王道の中の王道ぢゃ。」

 

「世界を救って…てか?」

 

「健闘を祈る!あでおす!」

 

そう言い残して虚空は烈火の腕へと飛び込み、【虚】の一文字を残して姿を消した。

 

 

 

 

「なんじゃそりゃ───ッ!」

 

 

 

 

空間移動の衝撃でもみくちゃにされながら、またしても虚しい絶叫をせずにはいられない光であった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:5文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。