ALIVE of infinity   作:ヨツムン

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2年前にライブアライブをプレイして以来、この組み合わせを絶対にやりたいと思っていました。ネタ切れで失踪するかもしれませんが、宜しければお付き合いください。


プロローグ-Ⅰ 『流動』

少年、織斑一夏の周囲には、常に理不尽が付きまとっていた。

 

女性にのみ操縦を許された新型兵器『IS』の存在とそれによって生み出された男性蔑視社会。ISの腕前に於いては世界一と持て囃される年齢の離れた姉。勉強もスポーツもその姉と比較され続ける毎日。

一夏を理不尽から守る筈の両親は幼少期に蒸発し、その代わりとなって彼を育てたのは姉、織斑千冬だった。しかし、世界から常に注目を浴びる彼女は多忙により家を空けることも多く、一夏が育つ環境は決して十分とは言えないものであった。

 

そんな一夏に転機が訪れる。従来より女性しか操縦を不可能とされた『IS』が、彼に適正反応を示したのだ。予(かね)てより『IS』の研究を行ってきた化学者、技術者にとってこの一件はまさに世界を揺るがす大ニュースだった。

 

その時より、世間の一夏に対する目は、「『ブリュンヒルデ』とあだ名される織斑千冬の弟」から「世界で唯一のIS操縦者」へと変化した。

 

その価値が新たな理不尽の火ダネになることは想像に難くない。

 

日夜、周囲の人間からは好奇の視線に晒され、世界中の化学者が彼を生体サンプルとして欲し、メディアからは客寄せパンダのごとく扱われ、同性からはいわれもない憎悪をぶつけられる羽目となった。

 

高校入学を控えた年齢とはいえ、まだまだ精神的に未熟な一夏がその理不尽から自分を守る術というのは、ただ考えることを放棄すること以外に知らなかった。

 

 

「自分がISに乗れるからっていい気になりやがって……ムカつくんだよ!」

「どうせ生身のてめえなんざ、なんの価値もありゃしねえ」

「俺らとてめえのどこに違いがあるってんだ!」

 

いくら世界中から注目を浴びているとしても、私生活全てを監視されているわけではない。街を歩いていれば路地裏に連れ込まれ、こうしてゴロツキの集団に因縁をつけられることも珍しくないものだ。

 

「くそっ! この! 自分だけいい思いしてんじゃねーよ!」

 

ゴロツキの一人が両腕を抑えられた一夏の顔面を殴りつける。

 

「……っ……!」

 

悲鳴はこらえたが、顔面に痺れるような激痛が走った。立て続けに2発、3発と拳が打ち付けられ、一夏の意識は何度も飛ばされそうになる。

 

(ちくしょう……、ちくしょう……)

 

一夏には剣術の心得が多少なりとあった。しかし所詮は多勢に無勢であり、ゴロツキ集団に一人で抗えるほどの力は持ち合わせていない。

 

(俺だって、好きで動かせたわけじゃない! 誰が望んでこんな世の中に生まれてきたってんだ……!)

 

その心の叫びは誰の耳に入ることもなく、尚も一夏に対する暴行は続く。

 

「おい、あんまりやり過ぎんなよ。後ろが控えてるんだからさぁ!」

 

ゴロツキの拳や蹴りは代わる代わる一夏を傷つけた。唇からは鮮血が止めどなく溢れ、殴打された脇腹は既に感覚がなくなっていた。

 

「なあこいつの腕、折ってやったらISに乗れなくなるんじゃなないかなぁ?」

「よっしゃあ 任せろ!」

 

ゴロツキの一人が地面に転がった鉄パイプを拾い上げる。腕を折るなどと聞こえたが、もはや一夏にとってはどうでも良かった。寧ろ、このふざけた環境から解放してもらえるのなら腕の1本や2本喜んで差し出そうとも思えた。

 

(……この音は……、バイクの排気音?)

 

心の中で全て投げだそうとした一夏の耳に、聴き慣れない音がかすかに入った。

 

「な、なんだテメエ!」

 

ゴロツキの一人が大通りの方角へ視線を向ける。

その先に立っていたのは、燃えるような金髪を逆立てた長身の男だった。肩パッドに改造ジャケット1枚だけ羽織ったその身なりは、大昔の不良漫画にでも登場する主人公のようにも見えた。

 

「ガキが……」

 

男は一言だけ誰にも聞こえないよう呟くと、今まさにリンチが行われている一夏の方へゆっくりと歩き出した。

 

 

「通りすがりの……たい焼き屋サンよ!」

 

 

「俺たちとやろうってのか!」

「へっ、たかが一人増えたぐらいで!」

 

息も絶え絶えの一夏を無造作に放り、ゴロツキ集団は一斉に男に殴りかかった。

 

「ぐわっ!?」

 

顔面を捉えたゴロツキの拳が、男の腕に捕まれる。ゴロツキの身体は拳ごと、何か得体の知れない力に抑え付けられたかのようにピクリとも動かない。

 

「が……がはっ……………」

 

ゴロツキの顔に焦りの色が浮かんだ瞬間、男の膝は彼の脇腹に深々と突き刺さっていた。地面に放り投げられたゴロツキは身体を痙攣させ、起き上がる気力を見せない。

 

「こっ、この野郎!」

 

次々と飛びかかるゴロツキを相手に、男は眉ひとつ動かさず、目にも留まらない速さの拳を突き出した。

 

「ぎゃっ……」

「うわあああ!」

 

男の一撃に一人、また一人とゴロツキが倒れる。男は既に何発も攻撃を受けていたが、全く効かんとばかりの様子を見せていた。素人目に見ても、並の鍛え方ではない。

 

(あの人……強い)

 

「く……くっそぉ、死ねやぁ!」

 

背後からゴロツキの一人が鉄パイプを男の脳天に振り下ろそうとした。いくら鍛えた身体とはいえど、頭蓋に一撃を貰えば無事で済むはずがない。

 

「危ない……ッ!」

 

意識が薄れながらも、反射的に一夏は男を守ろうとゴロツキに飛び掛かろうとした。しかしそれが間に合う訳がないと頭のどこかで理解していた。

 

「もーちょっと殺気を抑えて来な……」

 

ゴロツキの鉄パイプは地面を直撃し、微かな火花を散らす。完全な死角からの攻撃に、男が身体を僅か数センチ逸らし回避したのだ。

 

「嘘だろ……」

「ド根性ォッ!」

 

焦燥を浮かべる間もなく、男の膝がゴロツキの太腿を直撃する。容赦ないローキックだ。路地裏に鈍い打撃音が響き渡り、一夏は思わず目を閉じた。

 

「い、いてえよお……」

「お前らみっともないぜ。寄ってたかって一人を嬲るなんてな」

 

激痛にのたうち回るゴロツキを一瞥し、男は倒れる一夏に手を差し出す。どうやらこちらに敵意は無いらしい。

 

「おい、立てるか?」

「ああ……」

 

もちろん、と手を取ろうとしたが、体力の消耗と緊張の途切れによって一夏の意識は失われた。

 

一夏に手を差し伸べた男の姿は、あたかも夕陽のごとく煌々と輝いているように見えた。

________________

一夏が目覚めたのは、公園のベンチであった。既に陽は沈みかけ、街行く人は誰もが帰路を急いでいる。

 

「いてて」

 

上半身を起こした一夏に、肋骨からの激痛が走る。腕には包帯が巻かれてあり、身体の至る所に誰かが手当てした形跡が残っていた。

 

「よお。お目覚めか 」

 

先ほどゴロツキから一夏を救った男は、ベンチの前のハーレーに跨っていた。革の改造ジャケット1枚にノーヘルで佇むその姿は、どう考えても職務質問待ったなしである。

 

「あの……さっきは助けてくれてどうも。なんとお礼を言ったらいいか……」

 

男に向かって一夏は頭を下げる。毎日関わりたくもない大人と関わっている所為か、自然と畏まってしまう。

 

「礼はいらねえよ。お前が昔の俺に似てるもんだから、少しちょっかいかけたくなっただけさ」

 

男は視線を一夏の方へ向けることなく答えた。飄々とした男の態度に、一夏は自分の中を見透かされているような感覚を覚えた。

 

「ここン所ああいう奴らが多くてね。今日みたい俺のような誰かが助けてくれるとは限らねェ。特にお前みたいな有名人はな」

(この人俺を知ってるのか……って、テレビに出ることもあるんだから当たり前か)

 

自分が多少は他人から顔の知られた存在であることは、一夏も自覚していた。しかし年下相手とはいえ、初対面で「お前」呼ばわりとはなかなか馴れ馴れしい男である。助けてもらった手前、絶対に口には出せないが。

 

「ハッ、思ったより失礼な奴だな」

 

男が小さく呟いた。しかし気を悪くしたという訳ではなさそうだ。

 

「す、すみません……」

 

反射的に謝る一夏だったが、一瞬だけ考え現状の異様さに気付く。

 

(あれ、心を読まれてる……?)

 

普段よりあまり顔には出さない性格のため、表情から読み取られたとは思えない。反射的に身構える一夏を他所に、男はハーレーのトランクから何かを取り出した。

 

「ほらよ。腹減ってんだろ?」

 

男が差し出したのはたい焼きだった。だいぶ時間が経ったのだろう既に冷めていたが、そこから漂わせる甘い香りは空腹な一夏の胃を刺激するには十分な代物である。軽く会釈すると、一夏はおずおずと受け取りそれを頬張った。

 

(うまい)

 

熱はないものの、少しも損なわれていない甘美で素朴な味わいは一夏に沁みた。普段からあまり人の手に作られたものを口にしていなかったせいか、見た目は普通のたい焼きにも関わらず一生忘れないと思えるほどそれは美味だった。

 

「それ1万円な」

(ブフッ!!)

 

唐突な男の一言に一夏は吐き出しそうになる。いくら美味いとはいえ、どこの世界に1つ1万も取るたい焼きが存在するというのか。

 

「嘘だよ。1コだけ特別にタダにしてやる。ゆっくり食いな」

 

ジョーダンじゃない……、と胸中で呟きながらものの数十秒でたい焼きは完食された。決して大きいとは言えないが、確かな充足感を一夏は感じていた。

 

「ごちそうさまです」

「おう」

 

一言だけ交わした後、互いに沈黙したまま数分が経過した。陽はどんどんと傾き、夕陽のように燃えている男の金髪も次第に影を濃くしていった。この数分間を一夏は痛いほど長く感じた。

 

「お前、今幸せか?」

 

またも唐突に男が口を開いた。しかも今度はえらく漠然とした内容だ。

 

(……親はいないし、世界中の化学者から実験ネズミにされかけるし、テレビで見世物になるし、こんな人生幸せなもんか……)

 

口には出さなかったが、一夏の半生にはおおよそ幸せと呼べるものはない。いつだって自分を抑え込んで、他人の顔色を伺いながら期待に応えるのが精一杯だった。

 

「そいつはお気の毒様……、けどお前の人生はお前のモンだ……誰も手を貸しちゃくれねーよ。自力でなんとかしな」

 

さすがに表情に出てしまったのか、男の口ぶりは全て見透かしているようだった。しかし、歯に衣着せぬ物言いに一夏少し眉をひそめる。

 

「おっと説教じみちまったな。ま、俺も昔はいろいろあってね。気付いてると思うが、俺は昔から他人の心を読んだり、手を触れずに物を動かす不思議な力を持ってたり……、その所為でけっこう苦労したもんさ」

 

(やっぱり……)

 

にわかには信じ難いが、この男は所謂「超能力者」らしい。こうして心を読まれた今も半信半疑だが、本当なら先ほどの殴り合いの時に、背後の攻撃をものともしなかったのも頷ける。

 

「さて、そろそろ日も暮れるし俺たちも帰るとするか。乗ってくだろ?」

 

さも当たり前のように、男の親指はハーレーの後部座席を指した。心を読んでいるということは、このまま何も言わずとも家に送ってくれるということだろうか。

しかし政府やメディアの関係者でもない、顔も知らぬ男について行くのは危険ではなかろうか。

訝しむ一夏を察したのか、男は視線をこちらに向けた。

 

「……ん? ああ、自己紹介してなかったな」

男はトランクから丁寧に畳まれた暖簾を取り出した。広げられてはいないが、豪快に書かれた「た」の字が見える。

 

「俺は田所《タドコロ》アキラ。たい焼き屋サンだ。よろしくな」

 

それが、アキラとの出会いだった。

やがてこの出会いが一夏自身を大きく変えることとなる……。

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