長らくお待たせして申し訳ありません。
色々ドッタンバッタん大騒ぎしてしまいまして、中々執筆できませんでした。
さて、第五章が始まってしまいました。
これからこの幻想郷はどうなってしまうのでしょうか。
前書きはこのくらいにして、ササッと本篇に行きましょうか。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は、熱中症対策をしてから本文へお進みください。
EP,41 【襲撃】
「藍!」
「ゆ、紫様………」
魔法の森の一角。
紫と藍は黒コートを着ていた片腕のない男が使用していたボロボロな小屋の前にいた。
「消えたってどういうことなの? 二時間くらいずっと釣りをしてると、あなた言ったじゃない」
「すみません紫様……確かにあの男は二時間釣りをしていたのですが……」
「それが目を離したたった二十分くらいの短い間に消えた……というより、どこかにいってしまった、と」
「恐らく、我々の尾行がばれていたものかと…」
「そうとしか思えないわね。いくらなんでもタイミングが良すぎるもの」
紫はゆっくりと男が使っていた小屋の扉を開ける。
そして、その先の光景に紫と藍は驚きを禁じ得なかった。
その小屋の中は埃やカビ、さらには蜘蛛の巣までもができていた。男が寝転がったであろうベッドに埃はかぶっていなかったが、いたるところが破けていてマットのバネが何本も生えている。とても人が寝れる環境になく、もし寝てしまったのならば次の日は喉の痛みどころではないくらいの体調不良に苛まれることになるだろう。
「こ、これは……!?」
「…どうやら、ずいぶん前から尾行がばれていたみたいね。彼はここで私たちを撒くタイミングをじっと待っていたのでしょうね。釣竿も、ここにあるゴミで作ったのでしょう」
紫の視線の先には、彼が片づけた―――というよりかは、捨てた釣竿が無造作に転がされていた。
その釣竿の竿の部分はただの木の枝で、糸は毛糸のような裁縫の時に使うであろう糸が使われていた。明らかに使えるものではなく、この釣竿では何も釣れないのは誰の目にも明らかだった。
「いかがしますか?」
「……………彼を探しなさい。恐らく、どこか目的地をもって行動しているはずよ。そうね、まずは紅魔館に行きなさい。こうなったら順番通りに探っていくしかないわ。見つけたら捕まえなさい、殺す必要はないわ」
「わかりました」
そういうと藍はその場からふわりと浮いたと思えば、次の瞬間には風を切り裂くように飛んでいった。
それを見届けると、紫はスキマの中へと入っていった。
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「………」
「………」
「………………」
「…………ぼー」
「言わなくていいの」
「はい」
その頃、慌ただしい八雲一家とは正反対に、博麗神社の縁側では霊夢と理沙が平和ボケしていた。
霊夢がゆっくりとお茶を手にして、ゆっくりと飲む。そしてゆっくりと元の位置にお茶を戻す。たったこれだけの動作なのにもかかわらず、日が暮れてしまうのではないかと疑ってしまうほどだ。一方、ユウは掃除で疲れてしまったのか、いつのまにか霊夢の膝を枕にして夢の国へと旅立っていた。
その場から発せられる音は、ユウの規則正しい寝息とたまにしかならないコップと床がぶつかる音くらいだった。そんな、平和にまみれた、けれども幸せを具現化したような光景に邪魔が入るまでは。
にゅっ、と霊夢の後ろから妖怪が現れる。その口は三日月の形に歪んでおり、今にも襲い掛かろうとしている。
そんな、博麗の巫女の後ろを見事にとった妖怪は、まあ、いわずもがな紫であった。
紫はゆっくりと手を挙げ、霊夢の耳のすぐ後ろあたり、要するに「だ~れだ」の予備動作に入っていた。さらに耳元でささやくつもりなのか、頭の位置をしっかりと霊夢の頭の後ろに固定していた。そして、一気に手を霊夢の目に当てようとする………が、そこに頭はなく紫は空気を抱くような何とも言えないポーズとなっていた。
「あら? …へぶっ!?」
その理由は簡単、霊夢は紫に目を抑えられる前に頭を前に倒したからだ。そして、ダメ押しとばかりに頭を背中が反るほどに思いっきり振り上げたのだ。囁くつもりであった紫の頭に霊夢の後頭部がクリーンヒット。紫にほぼ致命傷レベルの大ダメージを与えていた。
「いてて…ちょっと、酷いじゃない」
「あんたがコソコソしてるからいけないんでしょ。で、何の用なの」
「ちょっと彼女、借りるわよ」
「ひゃっ!?」
隣でボケボケしていた理沙が悲鳴を上げる。
理沙が座っていた位置には人一人分の大きなスキマができており、一目でそれに吸い込まれたものだとわかる。
しかし、霊夢は何も感じないかのように引き続きお茶をゆっくりと飲み続けていた。
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「………ぁぁぁああああああッッ!?」
スキマから落ちてきた理沙は、ひかれていた座布団の上に不時着する。
畳から埃が舞い、天井からは何かの破片がパラパラと落ちた。
「いっててて……」
「大丈夫かしら?」
「な、何があったんですか…?」
理沙がゆっくりと顔を上げると、ちゃぶ台を挟んで反対側に紫が座っていた。
「私があなたをここに招待しただけよ。質問するだけだから、そんなに緊張しないでちょうだい」
「あ、はい……で、質問、というのは…?」
「ユウのことについてよ」
「ドンとこいです」
ユウのことについて、と聞いた瞬間、理沙は背筋を伸ばして先ほど縁側でだらけていた時からは想像もできないシャキッとした顔つきになった。
「そう、じゃあさっそく聞くわね。ユウの能力、知ってる?」
「あー………知らない、ですね…実際に使っているところを見たことがないので……」
「そう…」
「というより、私が知りたいくらいなんですよ。そもそも、ゆう君自身に能力なんてあったんですか?」
「ええ、あるわよ。一時期は『能力を受け付けない程度の能力』とかかと思っていたのだけれどね。にしては矛盾が多かったのよ」
「ほうほう、して矛盾とは?」
詰め寄る理沙に、紫は話してもいいものかと一瞬考えてみるが、「ま、いいか」と話し出した。
「咲夜という従者がいたでしょう? 紅魔館の」
「ああ、確か『時間を操る程度の能力』でしたっけ?」
「ええ、そうよ。彼女が能力を使ったとき、もしゆう君の能力が『能力を受け付けない程度の能力』だとしたらどうなると思う?」
「えーと……あ、ゆう君の時は止まらないから…」
「そう、そのとおりよ。でもね、そうならない時が度々あったのよ。来客を迎えに行こうとした時は咲夜の能力は効かなかったのに、介護しようとした時にはしっかりとゆう君の時間が止まっていたらしいわ。それと、離れていてもダメみたいね。宴会の時も、心をあっさり読まれていたし」
「最後は距離ってことでしょうけど、最初の二つが説明つきませんね……。ところで、心を読むって…」
「そういう妖怪がいるのよ」
「なるほど……あ、あの宴会の時にゆう君が途中で離脱したのって…」
「彼女に悪気はないから許してあげてちょうだい? 癖に悪意や悪気が入り込むすきなんてないんだから」
「いえ、むしろ羨ましいなと」
「これが姉で大丈夫なのかしらね」
紫がユウの未来を思いため息をつく。
「ま、いいわ。次の質問よ」
「あ、はい。なんでしょう」
「もう一度聞くけど、今回は拒否権はないと思ってちょうだい。この仮面は何なの?」
理沙の時が一瞬止まったような気がした。
なぜなら、紫が取り出したのは、真っ白な仮面だったからだ。
理沙は、何も言いたくないのか、顔を伏せた。
「答えないと、これ、壊しちゃうわよ?」
「…………せんよ」
「え?」
理沙は、俯いて呟くように、力無く言った。
「壊せませんよ…絶対に」
「壊せない? どういう意味かしら」
「………わかったら困ってませんよ。分かるのは、呪いの仮面だってことです」
「心が削られる、と?」
「違います。乗っ取られるんです」
「乗っ取られる……?」
「その仮面は、ゆう君の家の家宝みたいなものなんですよ。そして、その仮面には意志があります。能力もあります。ゆう君の親が遺した、最悪の仮面です」
「ちょっと待って、意志がある?」
「はい。まあ、どんな性格は知りませんけどね。名前は、『心呪面』です」
「…そう、わかったわ」
「……話したくはなかったんですけどね。私が、辛いので。でも、紫さんにも事情があるんでしょう?」
「………ええ。そうね」
「先に言っちゃうようであれですけど、どうやってここに入ってきたのかは、私にもわかりません。いつの間にか、ここにいました」
「そう、わかったわ。なら、もう何も聞かない――」
その時だった。二人の間に、藍が乱入してきたのだ。
未来を左右する、衝撃的な言葉とともに。
「紫様! 紅魔館が……紅魔館が、何者かに襲撃されています!」
はい、いかがでしたでしょうか。
あわわ……紅魔館がえらいことに……
今こそブンヤの力を発揮する時! さあいけ……あ、違う? これは失礼。
それでは、また次回お会いしましょう。
ではでは。