昔から物事に対してひどいずれを感じてた。
何してもそれはなくならなかくて。
日に日に強くなるそれがとても嫌だった。
でも一回だけ、ずれがなくなった時がある。
子供の頃にやった剣道で、どうしても両手で振るって行為が何故か違うと感じて。
試しに片手で振るうと、ずれは姿を潜めた。
おかげで片手で振るうことは俺の唯一の楽しみになっていった。
日常的に感じたずれが一時的にでもなくなっていくのはとても心地よくて。
でも、片手で振るう姿をずっと師範代に見られていたようで、3年ぐらい経った時、ついにはやめろと言われた。
理由は片手で振るうなんて、遊んでるとしか思えない。
こっちは遊んでなんか!... そう反論できたらよかったんだろうけど。
その時の俺はまだ幼かったから、言われた通り、その道場をやめた。
そして今、高校生なった今でもそのずれはなくならない。
むしろ昔よりひどくなってきていると思う。
両親が他界してからもう数年。
毎日アルバイトして生活費を稼いでる。
アルバイト中でもそのずれはとまらない。
・・・まあもう馴れたけど。
ある日の昼休み、ぶらぶらと廊下を歩いていた時だった。
とある三人組が目にはいる。
確か、元浜ってやつと松田ってやつ。それに兵藤ってやつか。
最近よく見かけるなぁ、と思っていたときだった。
兵藤一誠の左手を見たとき、異変が起きた。
「ん・・・あれ?ずれが... なくなった・・・?」
一瞬、ほんの一瞬だが。
もう一度見ても何も起きず、気のせいなのかと首を傾げる。
だが、それはないと首を2.3回ほど振る。確かに今、なくなったはず。
何故だろうか、必死に頭を巡らす。
でも結局は検討もつかず。
時が過ぎると言うのは今日だけとても早く感じて。
気付けば時間はアルバイトの時間を指していた。
その日は結局時間に遅れて、結構怒られた。
「「ありがとうございました!」」
「ありがとうございました~」
新人2人の言葉の後に気だるげに帰っていったお客に会釈をする。
今日はいつものようにアルバイトってわけでもなく、少し考え事をしながら。
考え事と言うのは勿論一誠のこと。
今日の昼休み、何故ずれがなくなったんだろうか... と考えてると扉が開き、鈴の音が響く。
お客が来たことを知らせるその鈴はやけにうるさく感じた。
「「いらっしゃいませ!」」
「いらっしゃいませ~... ってなんだお前か」
いつもどうりの営業スマイルで対応してみると、そのお客は俺の見知った人だった。
塔城小猫。俺の一つ年下の少女で本人は気にしているかわからないけど小さい。色々と。
そんな考えが伝わったのか、小猫が顔をしかめた。
「... お前じゃないです」
「ん、ああそっち。ゴメンゴメン」
どうやら伝わってなかったようだ。よかったよかった。
「?」
「気にしないでくれ。で、いつものか?」
「はい」
珍しく速答されて少し驚いたが、とりあえず注文は承った。
側にいた新人のにレジを任せて、厨房の方に歩いていく。
到着すると、さっそくとりかかるために材料を取り出し、ふっと一言。
「さて... 作りますか!」
~15分後~
出来た。久々の力作だ。
「さて、持っていくとして... よくいっつも羊羮15人前なんて食えるよなあいつ... 」
まあ、あいつがどれだけ大食いだろうがなんだろうが、職人はそれに応えるのみだ。
恐らく持っていった時、あの無表情猫が少し嬉しそうな顔をするだろう。
そんなこと考えて持っていくと、予想道理な顔をした。
案外わかりやすいなコイツ。
「... あ、お金です」
「ん、あーはいはいっと... 丁度だな。よし、ほらよ」
俺は手に持っている物を渡す。
あ、また嬉しそうな顔してる。
「しかし... お前もよく食うなホント」
「... 美味しいです。だから仕方ないです」
「そっか。作った側としてはそう言って貰って嬉しいよ」
職人にとって一番うれしいのはその人が笑顔になってくれることだ。
だからコイツの反応はとても嬉しいもんだ。
「ありがとうございましたー」
小猫の後ろ姿に一礼すると、その後を追うようにゆっくりと店を出る。
扉にかかってる札を『open』から『close』に変えると、再び店に入る。
今日のアルバイトはこれにてお仕舞い。
「それじゃお先でーす」
「「お疲れ様でーす」」
学校のカバンを持つと家への帰路に着く。
明日もきっと今日と同じようなんだろう。
いつも通り、ずれを感じながらもこれが日常だと思っていた。
「ああ、ちょっと疲れたな。... 少し休むか」
ベンチに腰掛けると、どっと疲れが体に襲いかかってくる。
今日の晩御飯は何にしようか... なんて考える余裕もなくて。
いつもと同じアルバイトのはずなのに5割増しぐらいで疲れてしまって結局寝てしまった。
ふと気付けば、自分の意識は一面真っ白な空間にあった。
何もないそこはある一点を残して無だった。
そしてその一点は人。
こちらに背中を向けた30代ぐらいの男性。
黒いコートを身に纏い、背中のところには真っ白なマークがある。
その後ろ姿には見覚えがあった。
『─る─ッ!あ──ッ!』
泣き叫ぶ声が響く。
『俺は... お前を使いこなすには至らなかったようだ... 。悪いな』
その声には覇気がなかった。
『嫌ですッ!そんなッ!』
その声と共に振り替える男性。
光が覆って顔は見えないけれど。
自傷気味に笑ったことはすぐに伝わった。
『来世というものが本当にあるのなら。
また会おう。──よ』
世界がその人を中心に暗くなっていく。
慌てて手を伸ばす。
何故なのかはわからないが、体が自然に動いていた。
追いかけようと走り出す。
追い付けるはずがないが、それでも足は止まらなかった。
引き止めようと声を出す。
もう遅いとしっても、叫ばずにはいられなかった。
『───ッ!』
と。
そこで全てが黒に染まり───
「ん・・・あれ?俺寝てたのか?」
意識が覚醒した。
どこか懐かしく、寂しい思いになったが何故なのだろうか。
・・・気にするほどでもないか
公園の時計を確認すると、短針は9の場所にあった。
アルバイトが終わった時間がおよそ7時なので2時間寝ていたことになる。
それがわかると、いそいそと鞄の中身のチェックを始めた。
流石に2時間じゃ盗る人もいないようで無くなっていたものはなかったようだ。
安心して溜め息一つ。
さてとっ、と掛け声一つあげれば立ち上がり、服に付いたゴミなどを払う。
と。そこで向こうから誰かが走ってくるのが見えた。
目を細くして誰かと確認すると、
「あれは... 一誠・・・か?どうしたんだ?アイツ」
大慌てでこちらに走ってくる一誠はその顔に大量の汗をかいている。
まるで追われているような。
何事かと思い一誠の後ろを見てみると、鴉のような翼を持った男がこちらに飛んできているのが見えた。
「って、え!?と、飛んでる!?」
つい大声をだしたのがいけなかったのだろう。
その男がこちらを見た。
面倒な顔を浮かべ、右手を上に掲げる。
「まさか見られるとは... 自分の運のなさを呪うのだな。人間よ」
「は?えっと... 」
いきなりの言葉に驚いてそこに立ち止まってしまった。
それでやっとこちらに気づいた一誠が必死な顔をして告げた。
「オイ!今すぐ逃げろ!殺されちまうぞ!」
「なっ!?こ、殺される!?」
男の掲げた右手に光が集まっていき、槍を形成する。
それが危険だと、感覚的にわかったからこそ今から逃げ出そうとするが、
「悪く思うなよ!人間!」
もう遅かった。
右手から放たれた槍はもはや人間の目に捉えられるものではなく気がつけばすぐ目の前に刃が向いていた。
「あ、危ねぇ!!」
迫り来る槍がゆっくりに見える。
ゆっくりと閉じられる瞳。
頭によぎる死の一文字。
(死ぬのかな... 俺... )
───頭の中に声が響いた
『僕らを呼んで』
『貴方様の光であり闇である』
『『私/僕達の名前を』』
─────不意に黒い月と白い太陽が浮かんだ。
体が軽い、と気付けばいつの間にか、風が吹き荒れる荒野に立っていた。
紅い空に溶け込むような色の紅い大地。
無限に続いているように見える境界線には、黒い男性と白い女性が見える。
二人の上にはそれぞれ黒い月と白い太陽が、その存在を示している。
その光景はひどい既知感があって。
見たこともない、聞いたこともないその光景が。
(知ってる・・・?どうして... )
わからない、そう口にしようとして。
微かに、この距離では本当に微かに、だが。
二人の口が動いていた。
そして、頭には聞こえるはずのない声がしっかりと聞こえてくる。
『思い出して』
『そう貴方は』
『『────』』
(お... れは... 俺は...)
もう少し時間があれば思い出せていたのかもしれない。
しかし突然後ろから聞こえた声に意識が暗転する。
『「安心しろよ。
俺がお前だ」』
───世界がモノクロに変わった。
体が重さを取り戻す。
瞳に入ってくる景色が夜の筈なのに明るく見えてくる。
それと共に徐々にピースが当てはまっていく。
ずれた感覚がなくなっていく。
なるほど。
──これが俺の世界か
「
右手と左手が光に包まれると同時に少し重みを感じる。
感覚に身を委ねて右手を振るうと金属と金属のぶつかる音が辺りに響き、槍が空を舞った。
「なッ!?そ、そんなバカなッ!」
「ハッ... そのうるせぇ口を閉じてろ三下」
ニタァと凶悪な笑みを浮かべる。
足に力を込め、右足で地面を強く蹴ると、一瞬にして男に迫った。
驚いている男を嘲笑うかのよう、今度は左手の光を横に切り払う。
それにより大きく鮮血が飛ぶ。が、思ったよりも浅かったらしい。
上下を切り分けるつもりがどうやら存外、しぶとかったようだ。
男は驚異と思ったのか、自分から距離を離す。
その間に地面に足を着けると、上空から男の血が数滴落ちてくる。
それを防ぐために左右の剣を頭上に交差させて、血が全身にかかるのを防いだ。
その時だった。
左右の光が、血を浴びたのを始まりとしてその姿をゆっくりと形成する。
両手に、それぞれ異様な存在感を出している黒と白の双剣がその姿を現す。
右の剣は刀身が黒く、左の剣はその逆で刀身が白い。
どちらとも片刃で、柄はなく、刃の部分は持ち手のところまで伸びており、指の部分がガードされている。
それぞれ1Mぐらいの長さで神々しさを感じさせる反面、禍々しさも感じさせる。
神剣であり神剣で非ず
魔剣であり魔剣で非ず
されどその力は強大で
二振りの剣はそれぞれ
月と太陽を表している
それが
無二の無敵を冠するこの双剣
ふと、先程の男が逃げる姿が目にはいる。
何をしている?
どこに行こうとしてんだ?
お前が俺を呼び起こしたんだ
お前には俺の渇きを潤す義務がある
──ああ、そうだ
せっかく呼び起こしてくれたんだ
せめて散るには華々しく散らせてやるよ
空気が淀み、空は赤く染まる。
知らず知らず、口角は歪につり上がっていく。
『「蘇る。ああ蘇る。」』
───今までずっと亡くしていた者達が
『「そう。それはきっと幻影に留まらない」』
───再び生に群がる
『「無限ではない夢の果て」』
───光と叫んで走り出す
『「私の総てを形作る」』
───ならば私が光となって導こう
『「黒き月と白き太陽よ」』
───私を崇めよ
『「いま再び力を貸すのならば」』
───恐れ戦け
『「私の手の中で」』
───私こそが
『「永久に輝き続けろ」』
───新たなる神だ
『「
言葉と共に振り下ろされた双方の剣は、命を刈り取る牙を飛ばす。
黒と白の斬撃は男を切り裂き、それでもなお、止まることを知らない。
木に、岩に、大気に牙をたてる。
地面が赤く染まる時には空の彼方へ。
──これだ... これだこれだ!
この地面に着く赤い血が
錆びた鉄の匂いが
俺を渇きを潤す!
「... ククッ」
──ああ。だから世界はまだこんなにも
『「美しいんだ」』
その一言で俺、
感想など頂けたら幸いです。