101番目の哿物語外伝 『4番目のG物語』 作:トナカイさん
お兄ちゃんが死んだ。
その知らせを受けたのは、私がアメリカのネバダでジーサードの手伝いをしていた時だった。
突然の知らせに。
何を言われたのか、理解できなかった。
頭が真っ白になった。
信じられなかった。
信じたくなかった。
だって……私のお兄ちゃんは
そんなお兄ちゃんが死んだ?
一体何の冗談を言ってるの?
混乱する私に、止めをさすかのようにジーサードが言った。
『兄貴は……死んだ』って。
死んだ。
死んだ?
死んだんだ。
ジーサードが見せてきた資料には確かにお兄ちゃんの姿が写っていた。
遺体安置所で撮られたのであろう。
その写真に写る顔は……綺麗な顔のまま、まるで今すぐにも動き出そうとしているかのようで。
とてもじゃないけど。
信じられなかった。
急いで日本へ向かうと。
お兄ちゃんの部屋には、鑑識科の生徒がやってきていて。
刑事や武装検事、あるいは公安0課といった国の重要機関までもが動いていて。
私は何が起きていたのか解らないまま。
捜査が終わるのを待つしかなかった。
本当はジーサードにも手伝ってほしかったけど。
ジーサードは私が日本に到着してすぐ、アメリカで大怪我を負ったみたいで。
私は一人で、お兄ちゃんの仇討ちを実行しようと動き出した。
だけど……。
それは『破滅』の始まりだった。
お兄ちゃんが闘った相手。
それは『鬼』の一味。
人間を軽く凌駕する身体能力を持つ化け物で。
私は先端科学兵装を駆使して闘ったけど。
まったく、相手にならなかった。
得意の科学剣も全て折られて。
私を護る最強の防御盾pファイバーは鬼の腕力によって破られて。
虫の息となった私は『殺せ』と鬼に伝えるも、私に鬼がかけたのは、屈辱の一言。
『汝は足元にある蟻の巣をいちいち壊して歩くのか?』
鬼にとって、私はたくさんいる蟻の一匹。
殺す価値もない。小さな存在。
その言葉を聞いた私は号泣してしまった。
『私には生きる価値も、死ぬ価値すらも……なかった』のだ。
それから、お兄ちゃんのお葬式があって。
私も参加したんだけど。
よく覚えてない。
何も考えられない。
何も考えたくない。
毎日が虚構のような、どうでもいいような。
そんな日々。
私の心は壊れていった。
誰か私を助けて!
誰か私のお兄ちゃんに会わせて!
誰か……私のお兄ちゃんを生かしてください。
そんなことばかりを考える日々を2年以上、一人で。
誰もいなくなったお兄ちゃんの部屋。第三男子寮の一室で過ごしていた。
私は高校三年生。
お兄ちゃんが消えた日から2年以上も引き籠もっていた。
誰にも会いたくない。
誰も信じたくない。
誰の言葉も私の心には響かなかった。
私は……。
私は一体誰なんだろう?
この心に空いた隙間を埋めてくれる人は、もういないのかな?
そう。そうなんだ。
もう、いないんだ。
私を……私の心の隙間を埋めてくれるお兄ちゃんはもういないんだ。
誰か私を助けてください。
誰か私を連れていってください。
誰か私を……私の大切なお兄ちゃんのもとに、連れていってください。
何でもするから。
お兄ちゃんの為なら何でもするから。
何でも出来るから!
そう願った私の耳元で。
その声は聞こえたんだ。
『君の望みを叶えよう』
誰?
という戸惑いと。
お兄ちゃんに会える! という嬉しさが同時に私の心に溢れて。
『君の望みは何だい?』
私の望み。
そんなのは一つ。
大好きなお兄ちゃんに会うこと!
『なら、君の望みを叶えよう。
君の願いを聞き入れよう』
その声が聞こえてきた方角に視線を向けると。
そこには何もないはずの空間に亀裂が入っていて。
その空間からは巨大なレンズが現れた。
『さあ、望むならおいで。望まなくてもおいで。
君の都合が良いならおいで。悪くてもおいで。
僕がその願いを叶えてあげるから』
その声は何処かで聞いたことのあるような。初めて聞くような……誰だかは解らないけど、逆らえない。
そんな声をしていた。
『全ては、よりよい______『世界』の、為に。
さあ、時間だよ。今から君に向けて僕は特別な『緋天』を撃つ。
撃たれた君は現在、君がいる世界とは違う別の世界に飛ばされるわけだが……どうか落ち着いて対処してほしい。
君はその世界でとある物語として、一生を送ることになる。
……ああ、安心してほしい。
ちゃんと君の望みは叶うからね。そこには君の想い人が存在している。
まあ、十中八九……彼は死ぬ運命《さだめ》にある。
そう推理出来たわけだが。
きっと、彼なら大丈夫だろう。
なんたって、彼は……この僕の推理を初めて覆した。『不可能を可能にする男』なのだから』
意味が解らなかった。
何を言ってるんだ?
よりよい世界?
物語?
謎の言葉を残すその声の人物は敵なのか、味方なのか。
解らない。
信用していいのだろうか?
なんとなくだけど、その声の主は本当のことだけを言っているわけではない。
そんな気はした。
だけど、どうしても。どうしても気になってしまう。
それは、私も知っている幾つかの言葉を聞き取っていたからだ。
『緋天』……それは緋弾の力により、時空のレンズである『暦鏡』を発生させる作用を持つ。
艦隊の主砲級の威力を持つ、
『不可能を可能にする男』……これはお兄ちゃんの二つ名。
『緋弾』とそのパートナーを示す言葉。
そんなことを言われたら、気にならないはずがない!
『準備はいいかい?』
私は、覚悟を決めた。
「私は……遠山かなめ。
お兄ちゃんの妹だ!
お兄ちゃんのいない『世界』なんて……非合理的!」
私は時空のレンズに自分から近づき……そして。
時空のレンズから放たれた赤い光線に撃たれて。
目覚めると。
私は見知らぬ空港の格納庫にいた。
格納庫の中には、様々な飛行機が陳列されていて。
私はその中の一つに一歩近づいた。
その時だった。
「お姉さん」
呼ばれた気がして振り返ると。
そこには、白い帽子を被った。
白いワンピース姿の女の子が立っていた。
年は小学生低学年くらいかな?
可愛らしい外見をしているけど、どことなく。
不気味な印象を持ってしまった。
「私……?」
「うん、そう。かなめお姉さん!
まだちょっと早いんだけど……一言だけ伝えたくて」
「私に?」
「うん。ちょっと、そこの飛行機を見て?」
女の子が指差したのは小型の飛行機。
セスナと呼ばれるものだった。
「あの飛行機がどうかしたの?」
「ちょっと、あの飛行機の側に行ってみて」
「え……でも」
女の子が示すその飛行機は見るからにボロボロで。
とても飛べるような飛行機ではなかった。
年代物のプロペラ機。
先端科学兵装を使う私なら、絶対に使わない飛行機だ。
「ちょっと、そこの飛行機の側に行くだけでいいから!」
女の子の有無を言わさない口調に、何故か逆らえなくなり。
私は飛行機の側に近寄った。
その時だった。
「コラー! そこで何しとるんじゃ!」
怒鳴り声を上げる男の声が聞こえてきた。