ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

17 / 76
みなさん、竜殺しの武器を使えば簡単に倒せるだろうと考えていらっしゃるそうで、いや、実のところ自分もそれだとかなり戦い易いだろうなと思うんですけど、今回、それは使いません。
代わりに待ちに待った、弓を使い続けるアーチャーさんです。ではどうぞ!!


戦王の使者 V

最初に動いたのはヴァトラーの方だった。

ヴァトラーは跋難陀の鋼の体皮を使ってシロウに突進攻撃を仕掛ける。その突進攻撃をわずかに横にそれることで難なく躱すシロウ。

そして、躱すと同時に矢をほぼ同時に3発射る。

それを今度は、ヴァトラーは娑伽羅の超高圧水流の身体によって勢いを殺すことで内包された神秘を爆弾に変える『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』の爆風すらも抑えつける。

 

『ちっ!』

 

並の攻撃では当たりそうもないと判断したシロウであるが、そこからさらに強力な矢を出そうとしてその手を止める。

これ以上強力な宝具を出すのは、後々にとって非常にまずいことになる。それを予期したシロウは、もう一つ(・・・・)の手段に打って出る。黒弓に両手を添え、目を閉じ、深く深呼吸する。

これこそが、彼が持つオリジナルの宝具の一つ。

 

贋物を覆う(フェイカー)黒者(ブラック)。』

 

その真名を解放した瞬間、彼の弓から黒い魔力の奔流を弓を中心に生み出していく。

 

「…!?」

 

その膨大な魔力量に感じたこともない身の危険を感じたヴァトラーはますます笑みを深めていく。

まるで嵐のように黒い魔力の渦がシロウを中心に吹き上がっていく。それは、さながら黒い竜が天に昇っていくような、そんな姿を想起させた。

次にシロウが目を開いた瞬間、その魔力の渦は何事もなかったかのように搔き消える。

 

『さて、では、行くぞ。なにぶん、この宝具は俺が初めて持ったものでもあるからな。手加減はできんかもしれん。

だから、先に忠告しておくが、今までの攻撃とは段違いの攻撃性能を誇る。愚問かもしれんが、逃げるなら、今のうちだぞ?』

 

ハッタリではないことはその男の声音と、弓から放出される凶悪な魔力が如実に示していた。だが、そんないっそ慈悲と言っても過言ではない言葉を受けてなお、ヴァトラーは口の端を裂き続けていた。

 

「いいね。その魔力!やはり、僕の目に狂いはなかったようだ!君は下手をすると、我らが敬愛すべき“忘却の戦王(ロストウォーロード)”にも届き得る力を持っているとわずかながら思っていたが、

 

どうやらその予想は正しいようだ!!」

 

そう言った瞬間、娑伽羅と跋難陀の二体の眷獣を手の先で手繰るようにして集合させる。すると、二体はまるで粘土のように形を失ったかと思うと次の瞬間、体皮が鋼で覆われていながらも、高圧水流が全身を駆け巡っている一体の強大な眷獣が出来上がった。

 

『眷獣の…融合か?なるほど、それが君が“最も真祖に近い男”と呼ばれる由縁か』

「ほう。僕の二つ名も知ってるとはね。まあ、誰が付けたかは知らないけど、その呼び名は結構気に入ってるんだ。なにせ、その言葉を聞いた猛者たちが挙って、僕を殺して名声を手にしようとするからね。」

『そうか…まあ、どうでもいいが…』

 

シロウは言いながらも、一つの贋作宝具を手に取る。そのランクはCランク。ヴァトラーの攻撃力を考えるとわずかに心配かもしれないが、その剣は容易く他の眷獣を凌駕する。この弓の実験(・・・・・・)のためにはちょうどいい宝具である。

ヴァトラーはそれに気づいた様子もなく、手を挙げ己が眷獣に攻撃の命令を出す。シロウも矢を番え、再び魔力を込めていく。今度は弓の助力も得る形で…

 

(1…2…)

 

彼が頭の中で数を数えていくと、そして、彼の黒弓はその数に呼応するかのように矢に黒い魔力を帯びさせ、黒く染めはせずとも相手に伝わらせる雰囲気は別物となっていく。そんな、まがまがしいと言っても過言ではない雰囲気を漂わせた矢に対し、相対する蛇の眷獣とその主。

 

「行け!!」

「ふっ!!」

 

両者がほぼ同時に声をかけた瞬間、矢と蛇の咆哮が空を切り裂く。

激突した瞬間、それらは巨大な魔力の爆風となって周囲を襲う。

キーストーンゲートの頭頂部はグラグラと揺れ続ける。そんな光景にシロウは内心安堵する。正直、今ほどの破壊力だとキーストーンゲートが倒れるのではないのだろうかと思った。それほどの衝撃だったのだ。

 

(今、試してみたが、宝具のランクを一段階上げるには、2秒。となると、二段階上げるとすると4秒はかかるな。まあ本調子ならばもっと早くランクを上げられるかもしれんが…)

 

だが、この状態だとさすがに最低2秒はかからなければ、矢のランクアップは不可能。これはかなりのタイムラグである。実際、これだけの時間があれば、サーヴァント相手だとその間に攻撃されかねない。

だが、それはサーヴァント相手ならば…今相対している吸血鬼はというとそこまで肉体が優れているわけではない。これならば、弓の能力を思い切り使ったとしても、大丈夫だろう。

 

『とはいえ…』

 

言葉を紡ぐと同時に上を向く。見ると、ヴァトラーの眷獣が健在し、こちらを文字通りのへびにらみで見つめている。

 

『なるほど…半端な攻撃では本当に無駄なようだな。攻撃が届いてすらいないとは…中々の力だ。』

「ふふ、その賞賛ありがたく受け取らせてもらうよ。ただ、僕も一つ気になることがあったから聞いていいかな?」

『…なんだ?』

 

すると、ヴァトラーは急に真面目くさった神妙な顔つきになる。

 

「僕は今まで多くの者たちと殺しあってきたから分かるけど、君、本来の力を隠しているだろう?一体、なんで本気を出さないんだい?」

『…さて、何のことかな?俺はちゃんと真面目(・・・)に戦っているんだがな…』

「真面目か、どうかではなくて。本気を出してるのか、否かを聞いてるんだけどな?僕は」

 

イラついているわけではないのだろうが、ヴァトラーはシロウに対して、強烈な殺気を放つ。その殺気の壁をことも無げに振り払い、また、弓に矢を番えるシロウ。

 

『それが真実だとして、どうする?君は俺に何をさせたいんだ?』

「決まってるだろう。徳叉迦!!」

 

もう一体の蛇の眷獣を出して、挑発するように微笑みながら、こちらに向かって宣言する。

 

「何が何でも本気を出せてあげるヨ!僕の力を以ってネ!!」

 

ーーーーーーー

 

「こ、これは!?」

 

目の前の光景に姫柊は絶句する。現在、姫柊がいるのは先日、古城とともに招待された旅客船洋上の墓場(オシアナス グレイヴ)の中である。

その中でも、一際厳重な警備が施されていた場所に突入した雪菜の目に映ったものは、蟹と蜘蛛のようなフォルムをした黒い機体が20台はあるという目を覆わんばかりの光景であった。

 

「まさか、これが全部…」

「そう。ナラクヴェーラだ。」

「…っ!?」

 

声がした方向から一歩距離を取るために退く。見上げてみると、1階程上のスペースにて不敵な笑みを浮かべながら、泰然と立っているテロリスト『クリストフ=ガルドシュ』がそこにはいた。

 

「クリストフ=ガルドシュ…」

「ふふ、そう睨みつけるな。まだ、戦おうとしているわけではないのだ。」

 

そう言って、下にある黒い蜘蛛のような機体を見つめる。

 

「こいつらの存在はヴァトラーも知らない。さすがに戦王領域を滅せるとは思っていないが、これだけ集めれば、充分に奴らの国を貶めることが可能であろうよ。」

 

ガルドシュの目的は、聖域条約の撤廃にある。たとえ、戦王領域を滅せなくても、その国の人々をある程度の数まで犠牲にすれば、国の機能は停止し、聖域条約を維持することはできなくなるだろう。

更に、その手始めとして、彼らはこの魔族特区“絃神島”を滅ぼすことを足がかりとするとも、先ほど、言っていた覚えがある。

 

「絃神島の人々だけでなく、戦王領域の人々まで犠牲にするつもりですか!?」

「ふっ、だからこそ我々はテロリストと呼ばれているのだよ!!」

 

瞬間、テロリストは二階のキャットウォークから飛び降りて、姫柊へと襲いかかってきた。

その攻撃を避けながら、まずい、と姫柊は感じた。先ほど、彼らは藍羽浅葱を利用し、このナラクヴェーラを制御しようとしていると言っていた。自分たちが人質に取られているために仕方なく従った浅葱。彼女は、すでに最初の起動コマンドも解読し終えたという話である。

ならば、他のコマンドも遠からず解読するだろう。

 

(その前に指揮系統だけでも潰さなくては!!)

 

槍がないことに歯嚙みをしながら、雪菜は戦闘へと赴いていく。

 

ーーーーーーー

 

「いてて、何だったんだ?さっきの光?」

「知らないわよ!けど、あんな攻撃できるの、最低でも真祖クラスの怪物じゃないと無理なはずよ!それこそあんたみたいな変態のようにね。」

「何でいちいちお前は変態って言わなきゃ気が済まないんだ!念のために言っとくが、俺じゃねえからな!目の前にいたからわかってると思うけど!」

「知ってるわよ。そんなこと!私だって、そこまで馬鹿じゃないわよ!馬鹿にしないでくれる!!」

「どっちかっていうと、お前の方が俺のことを馬鹿にしてる気がするんだが!」

 

言い争いが絶えない二人はしばらく、ギャーギャー騒いだ後、両者が息も絶え絶えになると

 

「やめよう。今はこんなことしてる場合じゃねえ…」

「そうね。」

 

脱出のための経路探しを行うのであった。だが、探している間に妙な機械音が下から聞こえてきた。恐る恐る地下の方を見つめると、そこには自己修復を行っているナラクヴェーラの姿があった。

 

「嘘だろ。再生すんのかよ。」

「いえ、あれは再生っていうよりも、大地の組織を機体に合わせて再構築してるんだわ!」

 

見ると、足の部分が大地をわずかに抉ると同時にまるでその大地を機体の一部に変えるかのように機体が修復していってる。

 

「ちっ、だが、今はとにかくここから出ねーと、行くぞ!煌坂!!」

「えっ」

 

無意識だったのだろう。古城は紗矢華の手を引っ張り、ズイズイと前に進む。そんな光景に紗矢華は呆気に取られるようにつられるように付いていくのだった。

 

ーーーーーーー

 

『ちっ!』

 

一方シロウはヴァトラーの蛇の眷獣を避けながら、矢を放ち続けていた。

接近戦に持ち込んでもいいのだが、それはあえて選択しなかった。このまま力を隠し続けるためにはどうしても、弓だけでこの敵を撃退しなければならない。この絃神島にいるサーヴァントがライダーだけとは限らない。

もしかしたら、他のクラスのサーヴァントもこちらの戦闘の様子を観察している確率がある。

 

「…やれやれ、頑なダネ。そこまでして力を隠すからにはそれなりの理由があるんだろうケド…でも、こちらとしても、ここまで力を出しているんだ。いい加減、全力を出してくれないというのは失礼だと感じないのかな?君は?」

『君も言ってただろう。その『それなりの理由』を押し通すにはどうしてもここで力を出し切るわけにはいかんのだ。それにそれを言うのならば、君だってそうだろう?先ほどから、眷獣への魔力の流れをわずかに制限している。おそらくは、俺が全力を出した瞬間一気に畳み掛けるように力を出すつもりなんだろうがな。』

「…参ったネ。本当に君は只者ではないようだ。さて、ではどうするかな?」

 

本当に愉快そうに腕を組みながら、考え事をする。

それに合わせるようにシロウも作戦を考え始める。

 

(さて、どうするか?この男の実力、正直言って予想外だった。まさか、ここまで出来る男がこの世界に存在しようとは…力を解放すれば、倒せない敵ではない。

ただ、それは全力を出した場合の話だ。さて、本当にどうしたものかな?)

 

少なくとも、目の前のこの男はシロウにそこまで迷わせるほどの強敵だった。おそらくは、この男、かなりの戦上手なのだろう。これほどの大火力を扱い切るとなると、それは必須であり、その点で言うのならば、古城はまだ落第点といったところだろう。彼は、まだ力を漠然的に放出しているに過ぎず、力もましてや戦略眼もこのヴァトラーという男には遠く及ばない。

まあ、相性的に言うのならば善戦はするだろうがそれでも今の古城では確実に敗北するだろう。

 

(世界最強の吸血鬼とは、火力という一点を取り除いてしまえば、ただのメッキが剥がされた雑魚に成り下がる…か。まあ、火力に関しては人のことを言えたものでもないどこぞの王様が一人いるから、火力を取り除くという思考自体はナンセンス極まりないのだが…と、こんなことを考えている場合ではない。)

 

今のシロウはこの場をいかにして切り抜けるかが、重要課題となっている。すでにキーストーンゲートから遠く離れ、同程度の高さのビルを跳躍移動しながら、徐々に、徐々に古城たちがナラクヴェーラと激戦をしている戦場へと近づいて行っている。

もちろん、わざと近づいているのである。

 

(…やはり、この手しかないか…すまないな。夏音。君との『近づかない』という約束どうやら守れそうもない)

 

目の前の自分の命を狙う敵のことを注意しながらも、自分のマスターに向かって心の中で謝罪をするシロウ。

見ると、ヴァトラーの方も考え事を終えたようである。

 

「さて、では行くよ!徳釈迦!」

 

ヴァトラーが声を上げる。

緑色の蛇が再戦の合図とでも言うように、目から熱戦を繰り出してくる。その熱戦をジャンプして避けると、下から今度は鋼の体皮を持った跋難陀が噛みつき攻撃を仕掛けてくる。

 

『チッ。ビルの中を通ってきたのか?』

 

シロウは今度は避けずに弓の穂先と穂先を蛇の口を開かせるように合わせることで噛みつきを回避する。そして、そのまま口の中に向かって矢を1発放つ。喉を抉りこむように入ったそれは口の中で勢いよく爆発する。

それを確認したシロウはすぐにその場を離脱する。だが、今度は見たこともない眷獣が足元全体に広がっていた。それは蛇の集合体と言ってもいい眷獣。無数の蛇が集まり、できている渦の姿は否応なく生理的嫌悪を抱かせる。

 

「さあ、こいつを出させたんだ。君はどうやってこれを回避するというんだい?」

 

蛇たちが足に絡み付いてくる。これを全身に喰らえばまず間違いなく並の相手ならば再起不能に陥ることだろう。だが、それは並の相手だったらの場合である。絡み付いてくる蛇に対して無造作に剣を数本投影し、足元に落とす。自分の足に対するダメージを考えずに足元に宝具の神秘による爆発を発動させる。

するとわずかの間だが、足元から蛇たちが離れていく。

そして一気に離脱した瞬間、投影した剣を矢に番える。そして…

 

『消えろ。』

 

シロウの持ち前の連射技術が火を噴く。無数に枝分かれし、それぞれがそれぞれ正確に蛇の頭を直撃していく。文字通りの矢の雨である。

恐ろしいほどまでの正確性である。爆炎の煙などがあるにもかかわらず、ヴァトラーは召喚した眷獣が一体、また一体と消えていくことが魔力のパスを通して確認できた。爆煙が収束した後、そこにはヴァトラーが召喚した眷獣などは一体も残っていなかった。

わずかに傷ついた足で着陸したシロウはその後、ヴァトラーの様子を観察するように確認する。

ヴァトラーはらしくもなく、持ち前の不敵な笑顔が崩れた。

代わりに、目を大きく見開く姿がそこにはあった。

 

『ようやく、笑わなくなったな。実を言うと、先ほどからその笑顔が癇に障ってたものでな。さて、その様子を見ると、どうやら随分驚いているみたいだな?君は』

「…そりゃ驚くサ。僕のあの眷獣はね、倒しても倒してもすぐに攻撃を繰り返す連続攻撃が売りの眷獣だったんだ。それを防御や結界などではなく、攻撃する前にそれよりも早く撃ち抜くことで確実に倒し切るなんて…そんなヤツ今まで見たこともないからネ。」

『それは結構。ではどうする?これで終いにするか?』

「それこそ、まさかさ!ようやくお互い暖まってきた頃だろう!?」

 

先ほどの驚嘆の顔から一転して獰猛な笑顔をまたもこちらに向けてくるヴァトラー。

 

『…だろうな。そう言うと思ったよ。』

 

うんざりといった調子で肩を竦め、黒弓は唸りを上がらせるように魔力の渦を作り出す。そうして、前方を牽制しながら後方をわずかに意識する。

 

(後少しでナラクヴェーラが暴れてる場所に着く。

さて、問題はそこからだ。一体どうやって周りに情報をなるべく取得させないように脱出するか…)

 

最早、この男から何とか逃げおおせるためにはそれしか方法がないという結論に至ったシロウは、また新たに召喚されていく蛇の眷獣を見つめながら深く思考を重ねていく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。