ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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戦王の使者VIII

「終わったか…」

 

古城は現状を眺めながら一息吐く。

すると、一緒に戦っていた二人がこちらに駆け寄ってくる。

 

「先輩!!」

「暁古城!!」

 

紗矢華と雪菜は心配そうな声色で駆け寄ってくる。それに対して、力は若干感じられないが、安心させるような笑みを送る古城。

 

「姫柊、煌坂。終わったな。」

「ええ。それで繰り返しますけど、本当に無理矢理やってないんですよね?」

 

と、何の脈絡もないのにいきなり姫柊は煌坂との吸血行為についての詰問を始めた。『信じてなかったのかよ』と心の中で思いながらとりあえず質問に答えなければ、今現在彼女が自分に向けて浴びせているこの氷のような視線からは逃れられないと感じ、

 

「ああ、さっき言ったろ?ちゃんと合意の下でやったって…なあ、煌坂?」

「え、ええ。緊急事態じゃなければあんなこと絶対にしないわよ!だから、その、安心して!雪菜!」

「そうですか…」

 

それでもなお機嫌が斜めな感じなので思わずといった調子で聞いてしまった。

 

「なあ、やっぱり怒ってるんじゃないか?姫柊?」

「いいえ、別に、全く怒っていませんよ。ええ、怒っていませんとも。私に吸血行為をしようとした時、先輩が私のことを可愛いって言ってくれたのに…なんて、全然思っていませんから…」

 

その言葉を聞いた時、彼はむせそうになる。いや、確かにあの時いったことではあったのだが、まさか、そのことについてそんなに怒っているとは思っていなかった。

 

「そ、そうだ!あのさっき、俺たちの手助けしてくれた奴は…」

 

そう古城がつぶやき、コンテナの上の方を見る。

 

「いない…」

 

だが、そこにはすでに誰もおらず、さらにはそれに続くように、ヴァトラーもそこから消えていた。

 

「一体、何だったんだ?あいつ?」

 

正体はわからないものの自分たちを助けてくれたのは間違いない。ならば、礼の一つでも言っておくべきだろうとも考えていた古城はわずかに名残惜しそうにその目を細める。

 

「先輩。その…コレ…どうしましょう?無駄になっちゃいましたけど…」

「ん?何がだ?」

 

姫柊が制服のポケットから携帯を出して、ある音声再生画面を古城へと向ける。

 

「藍羽先輩が私に持たせてくれたナラクヴェーラを起動させなくするコマンドらしいです。」

「え?マジかよ!?じゃあ、何でそれを…」

「いえ、コレは操縦席まで行って直接流し込まないとダメみたいなんです。ナラクヴェーラは音声を中心に命令系統を使っていたため、それを利用して、彼らが自滅する音波を流すというものでしたので…」

「そっか。けど、あの黒男が予想外にもあのナラクヴェーラの機能を破壊してしまったから…」

「はい。結局、使う間もなく終わっちゃったんです…」

「うーん…」

 

浅葱の性格からして、ここまでやっといて無駄骨だったなどということになれば、かなり怒りそうなものである。

ならば、彼女の怒りを鎮めるためにもやはり、このウィルスを使った方がいいということだろう。

既にガラクタと言っても過言ではないナラクヴェーラの軍隊に視線を向けて…

 

「んじゃ、まあ、使っとけばいいんじゃねーか?機能を破壊したとはいえ、その機能がいつ誰に再生されるかなんて分かったもんじゃないんだ。」

「そう…ですね。わかりました!」

 

彼女はそう言った後、ナラクヴェーラの女王の操縦席の方まで軽やかに移動し、操縦席の中に携帯の中に入っている音波ウィルスを打ち込む。

数秒後、ナラクヴェーラはまるで恐竜が化石になるかのように物言わぬ岩石の塊と化したのだった。

 

ーーーーーーー

 

「ちっ!悪い。古詠さん。見失なっちまった。それがとんでもねえ速さでよ。正直、ありゃあ音速を超えてたぜ。俺でも捕捉しきれなかったんだ。」

 

第四真祖の真の監視役矢瀬基樹は、息を切らせながら、電話の相手と話を続ける。彼は音や気流を操る過適応能力(ハイパーアダプター)を所持し、その能力を活用することで周囲の状態を確認することができる。

その最大捕捉は標的を絞れば絞るほど上がっていくため、実質音速を超えたスピードを算出しなければ彼の追跡を躱すことは困難なわけである。

今回、彼は人工基島(ギガフロート)内にて見かけたあの謎の黒男について探りを入れようとした次第である。

そして、その音速を超えたスピードをあの黒男は算出し、振り切ってみせた。これは確実にあの男が人間の領域をはみ出た怪物であることを意味する。

 

「ああ、ああ。いや、この前のキーストーンゲートの一件とつながりがあるかどうかは不透明だな。何せ情報が少なすぎる。けど、憶測で話すのはあんまり好きじゃねーんだけど、多分、 関係はあるんじゃねえかな?と、悪い。これからあのバトルマニアのところに行かなきゃなんねーだろ?邪魔したな。」

 

矢瀬は電話を切り、そして、溜息を吐く。どうしてこう、この島はトラブルが絶えねーんだと思わず天に向かって吠えたくなるような現状に心底彼は嫌気がさした。

 

ーーーーーーー

 

アルデアル公ディミトリエ=ヴァトラーはある港にて海を眺めていた。すると、背後から強烈な気配がしたため、後ろを振り向く。

 

「あまり、勝手なことをされては困りますね。アルデアル公。」

静寂破り(ペーパーノイズ)…獅子王機関の三聖の長が直々にとは…」

 

強者に対してある一定の礼節を弁えるヴァトラーは、日本最強の陰陽師との名高い彼女に対しても礼節を持って対応する。

 

「それで一体何のようだい?」

「ご依頼の件の承諾が取れたことをご報告に…」

 

そう言うと、彼女は手に持っていた茶封筒を彼に渡した。

彼はそれを受け取ると、スラスラと貰った紙の文面を読み上げる。

 

「戦王領域特使にアルデアル公ディミトリエ=ヴァトラーを任命する…

これでしばらくは退屈しないで済みそうだ。」

 

ニンマリと笑みを浮かべた様子のヴァトラーを確認した静寂破り(ペーパーノイズ)と呼ばれた少女は口を開く。

 

「最後に二、三質問してもよろしいでしょうか?今回の黒死皇派の企みについて…これはあの方(・・・)が関わってきたのですか?」

「この騒ぎは全部僕が仕組んだことさ。そういうことにしておきなヨ。」

「では次に、あなたはあの黒い弓使いについてどこまで情報を所有しているのですか?」

 

そこで彼はピクリと紙を弄んでいた手を止める。

 

「さてね…今のところ分かっているのは彼は真祖と比較しても負けず劣らずな強者ということ。いや、ひょっとするとそれ以上かもしれないよ。まあ、僕としてはそちらの方が断然燃えるというものだから、大歓迎だけどね。

君たちはそういうわけにもいかないんだろう?」

「……。」

 

それに対して沈黙で答える少女。

それを是と受け取ったのかさらに言葉を続けていくヴァトラー。

 

「ふふ、大丈夫さ。聞いている感じでは、彼は自分の主人とやらをよほど大事に思っているらしい。つまりこの島に危険がない限り、彼はそこまで暴れないだろうサ。まあ、何の根拠も証拠もない僕の推測でしかないけどネ。」

 

ーーーーーーー

 

ここはある病院の一室。この室内にて今現在、ある一人の少女が体を養生するために眠りついている。

 

「ん……んん。」

 

少女 藍羽浅葱は少し体をよじらせるようにして、わずかな睡眠欲から脱却せんがために体を動かす。閉じられたその目を細めながらわずかに開くと、そこには見慣れた少年が彼女のことを見守っていた。

 

「!古城!!」

「お、気がついたか?」

 

だが、彼の素っ頓狂な返事を無視して掴みかかるように彼女は言葉を豪速球で古城へと投げかける。

 

「ナラクヴェーラは!?みんなは?無事!?」

「お、落ち着け。ナラクヴェーラは全滅。みんな無事だ。」

「そう…良かったー…」

 

心の底から安堵の息を漏らした彼女は、ため息とともにまたベッドに腰を下ろした。まだ、疲れが抜けきっていないのだろう。目をこすりながらも何とか意識を保とうとしている様子はなんとも微笑ましい。

と、ここで浅葱は顔を歪める。

 

「古城…なんか、あんた生臭いんだけど…」

「え?あ、ああ…コレはお前を助けようとして、港に着いたら…うみに突き落とされた。」

「はあ?何よそれ?何でそうなるわけ?」

 

実に苦々しく苦笑しながら言い訳を綴る古城を疑わしげに見る浅葱。

だが、やがてそんな表情を溶かすところを確認した古城は少しでも柔らかくなってもらおうと判断した。

 

「そうだ!水…飲むか?」

「うん…ねえ、古城、ピアス見てくれない?」

「うん?」

 

古城がピアスの方を見つめると

 

「もっと近く!」

 

そう浅葱がせがんできたので、仕方なく彼女の顔の近くまで腰を屈ませて顔を寄せた。女性特有の甘い香りが鼻腔をくすぐり、意識が遠くはならずとも、内から湧き出そうな吸血衝動を必死に耐える古城。

だからだろうか?次の瞬間、彼女にされた行動が古城には理解できなかった。

古城が顔を近づけた瞬間、唇が柔らかい感触に包まれる。

その柔らかいものの正体が浅葱の唇だと理解できたとき、頭が真っ白になる。少しして、浅葱が口を離す。

 

「そういうことだから…」

 

頬を薄紅色に染めた彼女の表情を見た瞬間、頭が沸騰しそうになった古城の鼻元が鉄臭い何かに包まれる。

そう。鼻血だ。

 

「こ、古城!?」

「あ、いや、コレは…」

 

当然心配になり、声を上げる浅葱から顔を逸らすようにして顔を上げた瞬間、彼の運命とでもいうべきだろう。運の悪さはやはり、天下逸品だ。

 

「浅葱ちゃん!大丈夫…」

 

そう。彼の妹 凪沙が浅葱の見舞いに来たのである。そんなときに、自分の兄が鼻を抑えながら突っ立っている姿など見たら、当然怪しむわけで…

 

「古城くん…何それ?何やってんの?」

「いや、だから、コレは…」

 

ひたすら刺々しい言葉が投げかけられる古城に対して更に追い討ちをかけるような事態が来る。凪沙の後ろ、病室の入り口前に仁王のようなオーラを出しながら、立っているのは…

 

「姫柊!?」

「……」

 

姫柊はしばらく黙ったまま、立っていたが、すぐに嘆息すると

 

「もう、知りません!先輩の…馬鹿…」

 

不貞腐れたようにそっぽを向きながら彼女はそう呟いたのである。

 

ーーーーーーー

 

「…やれやれ、少し心配になって、来てみたものの…アレは大丈夫そうだな。ああいう類は長生きすると相場が決まっている。」

 

そんな騒がしい病室の向かい側のビルにて彼らの様子を観察しながら、立っている真っ黒な出で立ちをした男は今まで頭に付けていたレーサーヘルメットを取り、この常夏の島では珍しすぎる黒いコートも脱ぎ捨てた。それらは脱ぎ捨てられた後、まるで淡い霧のように空気へと消えていく。

 

「争いごとが絶えないのは、世界にとって当たり前のこととはいえ、やはり争いというのはいつも何かしら決まったものたちが巻き込まれるな…まあ、俺の場合、巻き込ませてもらったと言った方が正しいが…」

 

だが、それが自分が英霊として召喚されて以降知り合った者たちだというのは何か運命染みたものを感じずにはいられない。そんな考えが頭によぎり、感傷に浸っていたシロウだが、すぐに気を取り直し、彼は夜の闇へと消えていく。

 

次また起こるだろうと考えられる争い…だが、なぜだかその争いのことを考えた瞬間、妙な胸騒ぎがするシロウであった。

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