ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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蒼き魔女の迷宮V

冷静になって状況を判断する。自分は昨日の夜、災難はあったものの姫柊の説教を聞かされた後、台所に行った彼は眠気覚ましのコーヒーを飲んでいたところだった。そんな時、彼の後ろから人の気配がした。

 

突然のことに慌ててしまい古城は持っていたカップを手放してしまい、そのまま割ってしまった。『あちゃー』と心の中でつぶやきながらもそのついでに背後を振り向くと、そこには優麻がいた。

優麻は割れたカップの方を見ると古城とすぐに割れた欠片を集めだした。その時に古城は指を切ってしまったため、優麻が治療してくれるということになったのだが…問題はその後だ。

 

絆創膏を手に取り、自分の指に巻きつけてくれた優麻は少し、自分との会話のやり取りをした時、こう言ったのだ。

 

『やっぱり、僕には古城しかいない…』

 

そう言って、優麻は自分の口元に軽くキスをした。すると、彼女の背後から何か青い影みたいなものが出てきて…

 

ーーーーーーー

 

とここで記憶が途切れてしまい、気がつくと古城の体は仙都木優麻のものになってしまったというわけなのである。

 

(あれは…一体…?)

 

あの青い影、あれが自分の体に異変を起こしたことくらい流石の古城にも気づける。だが、それだけだ。それ以上は分からない。自分に何が起こり、相手が何を起こしたらこんなことになるのか?

全くもって、戦闘の素人である彼にはそれ以上のことは分からなかった。

 

「…仕方ねえ。複雑だけど、姫柊に聞くしかねえか…と、その前に」

 

振り向き、何も映っていない虚空を向きながら、古城は声を上げる。

 

「ライダー!…いるのか?」

 

しばらくすると、虚空から赤銅色の鎧を身につけた男が姿を現し、そのまま、床に手と膝をつけた。

 

「はい…申し訳ありません。マスター。私が部屋にいるのも無粋なものだと考え、わずかな間、目を離している隙にまさかこのようなことが起こるとは…」

 

ライダーは人を導いてきた聖人である。彼は多くの者に対し、宣教を行ってきた。故に何が悪逆で、何が善行なのか見極めるだけの眼力はある程度持ち合わせているはずだった。だから、彼女から出てくる古城への親愛の情は間違いなく本物だと彼は判断したのである。

だが、その結果がこれである。ライダーは自らの浅薄さに嫌気が刺した。

そんなことを言っても始まらないのは分かっているが、このような事態になってしまった以上、ライダーは恥を感じざるを得ない。

 

「ああ…いいよ。実際、あの時のあの状態を第三者に見られていたっていうのもそれはそれで嫌だし…」

「は…?」

「ああぁ!いや、なんでもない。こっちの話だ。ってか、よく俺だって分かったな。」

「あなたの肉体とのリンクは未だに繋がっていますが、その時に魔力の流れが妙に変わりましてね…更に、その後を見るとあなたが使えないはずの魔術を使っていたのです。流石に違和感を感じますよ。」

 

なるほどと、そこで一拍置いた古城はふぅとため息を出して辺りを見渡し…とその前にとんでもないことを聞いた気がする。

 

「とりあえず、このことを姫柊に聞いてみるよ。この先どうして行けばいいかはその後、考えよう。…って、待て!魔術だと!?」

「ええ、あの時はそうですね。さほど、取り立てて騒ぐほどのモノではなかったですが、アレは間違いなく…魔術でしたね。」

 

ーーーーーーー

 

「シェロ…さっき言っていたことは…本当なのですか?」

 

ラブホテルのドアを出た先は今度はいきなりデパートの扉から街に出てしまった三者はもう慣れたものでそのまま、街を歩きながら話を続けていく。

 

「ああ、少々、あの男とは縁があってな…まあ、正直な話、腐れ縁と言っていいものなのだが…間違いないだろう。」

 

サーヴァントとしてアーチャーたるシロウは静かに、厳かにその名を呟く。

 

「ラ・フォリア…正確には西欧人が中心だが、君たち北欧人にとっても縁深いと言っても過言ではない男。『クーフーリン』が今、この島に現界している。」

 

その名を聞いたラ・フォリアは今までの微笑を消し、わずかに考え込むような表情で会話から一歩離れた位置へと移動する。ケルト神話と北欧神話はそれぞれまったく違う物語ではあるもののどちらとも縁深いものが存在している。例えば、クーフーリンの師である影の国の女王スカサハは北欧神話の女神スカジと同一の存在とされ、ケルトの魔術には一部、北欧でも有名なルーン文字が混ざっている。故にケルト神話とは北欧人にとっても忘れられない神話となっているのは何もおかしいことではないだろう。

何よりこの皇女は人並み以上に魔術を学んでいる。ケルト神話への理解がない方がおかしいくらいである。

 

「その…日本でもよく聞く名前なんだけど、クーフーリンって一体どんな英雄なの?」

「簡単に言ってしまうと、そうだな…最期まで、自分本位に生き続け、そして、鮮やかに散って行った英雄。というべき…いや、鮮やかというのは違うか…まあ、感じ方によるものがあるな。アレは…」

「そうですね。かの英雄の生き様に関しては、色々な感じ方の違いがあると思います。」

 

ラ・フォリアは考え込んでいた様子を解き、再び間に入ってくると説明を始めるように指を立て、紗矢華の方へと向き直る。

 

「クーフーリン…彼の話をすると、長くなりますので要約して説明しますと…魔槍ゲイ・ボルグの使い手にして、太陽神ルーの息子。数々の冒険譚、戦いの伝説を残してきた英雄であり、そして、最期は自らの魔槍ゲイ・ボルグにより心臓を刺されながらも日が暮れるまで戦い続け、自らの体を自分の腸により柱で結び付け決して倒れずに死んでいったという伝説までも残しています。」

「それは…また…」

 

確かに鮮やかというべきなのか、生き汚いというべきなのかよく分からない伝説だ。決して膝を付かずに逝ったというのは確かに鮮やかさが伴っていると紗矢華も同意できるのだが、そこまで道のりが日が暮れるまでといってしまうと、どう表現すればいいか分からない。

だが、これで1つだけ分かったことはある。もし、そんな人物が敵に回ったなどということが本当だとしたら、凄まじく厄介だ。間違いなく!

 

「流石は皇女だ。詳しいな。」

「ええ、ただ、やはり実物を見たことはないので良ければ、一体どのような方なのか?そのことについて聞かせてもらえませんでしょうか?シェロ」

 

その言葉に対し、ふむ、と人差し指を口元に曲げながら置き考える素振りを見せた後、口を開く。

 

「そうだな。まず、どんな人物であれ、マスターという枠組みに収まっている人物の言うことは何であろうと聞く。殺せと言えば、殺すし、生かせと言えば、生かす。一言で言うと非情な人物だ。だから、マスターがどのような人物であろうと命令であるならば、何であろうと聞くであろうな。あの男は…」

「……。」

 

その言葉に対し、ラ・フォリアがわずかな落胆の色を見せているのを見て、シェロはやれやれといった空気で言葉を続ける。

 

「あの男は裏切りを何よりも嫌うからな。忠誠心の塊というわけではないが、その辺りはヤツは頑として譲らんだろう。

ただ、反面…非常に動物的な人生観の持ち主でもある。好きなら好きだがそれが敵である以上戦い、嫌いなら嫌いだが味方である以上、絶対にその者を裏切ることはない。

だから、決して何も感じずに外道な行いを良しとしているわけではなく、度が過ぎれば、あの男は自分の誓いを裏切らずにマスターに反抗する方法をも考え出そうとするだろう。

 

まあ、だから…何というべきか、あの男はとにかく自分本位ではあったものの、それは決して自分の我儘を押し通すものではなく、自分の誓いのみを守り通すことを重きに置いた生き方をしていると言ったところだ。」

「……!」

 

最後まで聞いたラ・フォリアは今度は逆に感動の眼差しをシェロに向けた後、また何やら考え始めた。そして、しばらくして、ラ・フォリアは顔を上げると

 

「シェロ…お願いがあるのですが…」

 

ーーーーーーー

 

「なるほど、確かにもぬけの殻ですね。」

「ああ、探したんだけど、凪沙の方も連れて行かれちまったみたいだ。」

 

雪菜と今現在は、古城である優麻の身体は古城たちのマンションの部屋を見渡しながら呟く。

 

「ただ、そこまで気負いもしなくてもいいと思うぞ。ライダーが言うには、今現在も俺の身体とリンクが繋がっているから、場所を感知できるんだそうだ。な?」

「ええ、ただ、少々奇妙なのですがね。」

「奇妙?」

 

雪菜が首を傾げながら聞き返すのに対し、首肯し、言葉を返すために雪菜たちの方に首を向けると、

 

「はい。現在のマスターの古城の身体なのですが、どうも、リンクが切れているわけではないのですが、移動する速度がおかしいのです。今から感じる感覚からしますと、例えば、前から感じる気配が突如ありえない速度で後ろへと感じることがあったり…と、これではまるで…」

「瞬間移動しているみたい…ですか?」

「はい。その通りでございます。」

「なんか分かったのか?姫柊。」

 

少しの間、黙考している彼女に向けて、言葉をかける古城。

雪菜はそれに対し、幾つかの可能性を口でゴニョゴニョと話した後、ようやく確信が持てたところでこちらを向き、

 

「はい。私の考えが正しければ、優麻さんは南宮先生と同じタイプの魔女(・・)だと思います。」

「え?でも、俺の精神は優麻の身体の中に入っているんだし、精神系の魔法かなんかじゃないのか?」

 

魔女であるかどうかという点については古城は抗議しなかった。確信があったわけではないが、後にライダーから聞いたのだ。あの一瞬、自分が気を失う瞬間、ライダーは彼女が発動する魔術を見たのだと…

その時は、まさかとは思ったのだが、雪菜からも魔女と言われてしまった以上、反論する気は起きなかった。

 

「いいえ、吸血鬼に関して言うのならば、それは不可能です。吸血鬼に対する精神干渉はいわば神が下した呪いを上書きするような行いです。

先輩の受けているそれは、詳しく言うのならば、空間を繋げられているんです。」

「空間を繋げられている?」

「はい。簡単に説明してしまいますと、先輩は今、自分の身体を動かしていると思っていますが、彼女はその感覚を空間で繋げることで、錯覚させ、優麻さんの身体を動かしているように感覚を繋げられているんです。」

「なるほど、つまり、相手の感覚空間そのものに干渉することで発動を可能にしている魔術というわけですか。これはまた…緻密な魔術ですね。」

 

ライダーは完全に理解したというふうに、首肯し、古城の方も要領はなんとか理解することができ、とりあえず首肯した。

 

「では、私が感じたノータイムで移動していると感じた感覚は…」

「ええ。優麻さんが瞬間移動したことによるものでしょうね。」

 

となると、厄介だ。瞬間移動ということは近づいたとしても確実に捉えられるとは限らず、すぐにその場を離脱される確率可能性が高いということである。おまけに…

 

「じゃあ、この空間異常についても…」

「まず間違いなく優麻さんが関係しているということになるでしょう。おかげで私たちは方角通りに進んだとしても優麻さんにたどり着けるというわけではない。事実上これ以上ないくらい絶望的な事態と言っていいでしょう。」

「……。」

 

雪菜たちが今後の作戦を考えようとしている最中、古城はどこか遠くを見るように天井を見つめていた。

頭にあるのは親友であり、幼馴染でもある優麻のことだ。彼女のことは幼い頃から知っている。だからこそ、こんな事態になっていることだけは未だに信じられなかった。たとえ、彼女が魔女だったとしても、それでは過ごしてきた時間は?思い出は?アレらも全て夢幻に過ぎなかったのだろうか?古城にはそう思えなかった。否、そう思いたくなかった。たとえ、自分に隠し事をしていたとしても、自分は仙都木優麻の親友である。それだけは動かない。動かされてたまるか!

 

(ぜってえ…捕まえてやるからな。優麻)

 

古城は静かに心の中でそう宣言した。

 

ーーーーーーー

 

少しの時間が経ち、古城たちは現在、ケーキが美味しいというカフェにいる。雪菜が言うには、いつまでも頭を悩ませていても仕方ない。一度落ち着く必要があるだろうと、こちらに来た。ライダーが居場所を感知してくれてるおかげでこれからの動きも大分取りやすくなり、とりあえず、動きがあるまでここに留まっていようとのことだったのだが…

 

「うわぁー、このモンブラン美味しいです。」

「はい。こちらのフォンダンショコラもすごく美味しいです。シェロさんがいつも作ってくれるケーキと負けず劣らずです。アスタルテさんはどうですか?」

「解答。こちらのパンプキンケーキは大変美味です。」

 

今、古城はそのことに対して疑問を抱くのである。もしかして、こいつらただ単に、ケーキ食いたかっただけなんじゃないか…と

 

「先輩は何にしますか?」

「ああ、じゃあこっちのショートケーキを…ってちょっと待てー!」

 

叫んだ古城に対して、あたりの視線が集中し、古城は居心地が悪くなり、すぐに座り直した。

 

「こんなことしてる場合じゃないだろう!すでに居場所が分かってるんだから、すぐにでも…むぐ!」

 

言葉を囃し立てる古城の口を雪菜は自分の食べてるケーキで塞ぐ。

 

「落ち着いてください。先輩。確かに居場所は分かっていますが、この状況下では安易には優麻さんの所には行き着けません。それは先輩だって分かってるでしょう?」

「う…うーん。」

 

居場所が分かってるという状態は大きなアドバンテージだ。だから、彼らは極めて冷静に現状を判断し、そこからどうするべきか選択できるわけだ。

だが、今現在、絃神島の空間は特殊な魔術か何かの反動で、異常が発生している。このおかげで、古城たちがどこをどう向かおうとその決められた道順通りには古城たちは目的の場所に行き着けないわけである。

 

「それに…この状況下で夏音ちゃんが狙われないとは限りません。」

 

叶瀬の方をわずかに確認した雪菜が小さく呟くように耳のそばでそのようなことを言う。

 

「叶瀬が?」

 

その辺りについては予想していなかった古城は首をかしげる。

 

「いいですか?叶瀬さんは、聖杯戦争という未だに信じがたい儀式の参加者に登録されてしまっています。そのような状態でアスタルテさんもいるとは言え、叶瀬さんを一人にするのはあまりにも危険です。」

「そう…だな。そんなこと言ってたな。あいつもこの前…」

 

それは、この波朧院フェスタが始まる前、正確には仙都木優麻がこの絃神島に来る前の学校の帰りでのこと

 

『古城…君のライダーと俺は同盟関係な訳だが、その際、頼みたいことがある。』

『頼みたいこと?』

『ああ。基本、聖杯戦争はサーヴァント同士の戦いだ。それは以前話した通りなわけなのだが、実は、そのマスターが契約したサーヴァントがあまりにも規格外な存在だった場合、その限りではないんだ』

『はあ?何でだよ?』

『我々サーヴァントは、マスターを依代にしなければ現界し続けることはできない。言ってしまえば、我らにとってマスターこそが生命線なわけだ。そうなった場合、相手側のマスターがこちらのマスターを狙ってくる可能性がある。』

『マ、マジかよ!?』

『大マジだ。だから、同盟関係の証として、少なくとも夏音の身の安全だけは保証してほしい。それが頼みたいことだ。』

『…分かった。』

(アレ?でも…今の話…)

 

古城自身、叶瀬という少女を友人として見ているところがあるため、その頼み事に対してはそこまで抵抗がなかった。

だが、そこではない。今の話、まるで自分が最強のサーヴァントである(・・・・・・・・・・・・・・・)と公表しているようにも聞こえたのである。だから、古城はわずかに首を傾げたわけである。

 

そんな話を思い出しながら古城は改めて叶瀬の方を見る。

叶瀬は何が起きているのかわからないようで、わずかに首を傾げ、

 

「あの、お兄さん…どうか…しましたか?」

「い、いや別に…」

 

そう返した古城は姫柊の方を向き、呟く。

 

「…まあ、確かにその通りかもな。こっちにはライダーがいるとは言え、こんな状況下では安心もできないか。」

「はい。ですから、少なくとも、状況が動き出すまで私たちはここに.…!?」

 

その瞬間、膨大な魔力が辺りを覆う。これほどの魔力はそうお目にかかれない上に二人にとっては馴染み深すぎるその魔力に二人揃って顔をあわせる。

 

「先輩!今のは!?」

「ああ、俺の魔力だ!ライダー!」

(了解しました。動きましょう。マスター。)

 

その応答を聞いた後、古城はわずかに首肯した後、夏 叶瀬たちの方を向き

 

「じゃあ、アスタルテ、叶瀬を頼むよ。」

命令受諾(アクセプト)。」

「お兄さん!」

 

強い口調で呼び止められた古城はバランスを崩すような形で慌ててそちらを振り向く。

 

「その…シェロさんのことをよろしくお願いします…でした。」

 

古城はその口籠りながら呟く彼女の姿にわずかな哀愁を感じ、それに対し、笑顔を出しながら宣言する。

 

「ああ、任せておけ!!」

 

ーーーーーーー

 

同時刻、シェロたちも古城の魔力を感じ、一斉にそちら側を振り向く。

 

「あそこは…キーストーンゲートか。」

「ええ、どうやら、早速あなたの出番が来たみたいですね。顕正。」

 

そう言って、ラ・フォリアが向いた方角はくたびれた調子の白衣を身に纏った妙齢の男が立っていた。

 

「ええ、分かりました。早速、空間魔術の準備を致します。少々、お待ちください。」

 

宮廷魔導技師としてアルディギア王国に在籍していたことのあるこの男は、魔術に対し、並々ならぬ理解がある。それは当然、空間魔術も含まれているため、顕正にとって空間魔術もそこまで難しい魔術とは言えず、時間はそれなりにかかるものの準備できた。本来、服役中であるこの男がこの場にいるのはそう言った理由がある。

いざという時のために、すぐにでも現場に向かえるようにするためにラ・フォリアは一時仮釈放という形で彼を連れ出したのだ。

それについてはシェロもそこまで反対しなかった。実際、その手段は必要だろうと考えたためである。

だが…

 

「…ラ・フォリア、本気か?」

 

もう一度確認するようにシェロはラ・フォリアの方を振り向く。

 

「はい。どの道、アルディギア王国としてもその聖杯戦争という儀式は無視できないものがあります。ですから、どうしても私も参加しなければならないと考えたまでです。」

 

一理ある。この王女のいるアルディギア王国とは、霊的なシステムに対して他の国とは一線を画した国となっている。

それは、彼らの技術の粋である聖剣(ヴェルンド)システムを見れば分かるだろう。そして、あの聖剣(ヴェルンド)システムは精霊を精霊炉に宿すことで爆発的な力を精霊から借り受けることができるシステムだ。

さて、そんな彼らにとって精霊と同格、又はそれ以上の霊格を所持しているシェロたちのような存在がどのように映るか?

正に宝の山と言えよう。彼らの国の防衛ラインをより強固なものとするには、最早、英霊という存在は無視できない。

 

そこまではシェロ自身理解ができる。

 

「…だが、それだったらもっと別の方法があるだろうに…何だってあの男に執着する?」

「あなたも言っていたでしょう。西欧人が中心ではあるものの、私たち北欧人にとっても、彼の名前は特別な意味がある…と」

「俺が言っていたことを覚えていないわけでもあるまい。」

「それでも…何もやってみないよりかはマシではないでしょうか?」

 

 

さっきからずっとこの調子である。どうやら絶対に譲る気は無いらしい…

 

「やれやれ、分かった。降参だ。無駄だとは思うが、やるだけやってみるといい。どの道、あの男を止めなければならないという点では一緒だからな。」

「ありがとうございます。シェロ。では、参りましょう。」

 

ラ・フォリアは諦めたシェロの表情を見ながら、満足そうに笑顔を浮かべ、空間転移魔術が出来上がっている場所へと振り向く。

それに対し、シロウの方もやれやれと首を振りながらそちらの方へと歩いていくのだった。

 

いよいよ、3騎のサーヴァントが1つの場所に覇を競うため集う聖杯戦争の本当の幕開けが音を立てて近づいてきている。そのことをこの場にいるサーヴァントたちはひしひしと感じていたのであった。

 

ーーーーーーー

 

ココは暗い監獄の中、拷問器具が立ち並び、まるで暗闇の中に溶け込むように存在している。けれども、1つそんな中でまるで冗談のような明るい色彩をした本が宙に浮いていた。

 

『うふふふふ、ねえねえ、帽子屋さん、ウサギさん、一体外はどうなってると思う。最近、ここを作ってる子がちょっとだけ力が緩んだからちょっとだけ外のことが分かるの。でも、詳しくは分からないわ。一体外で何が起こってるのかしら?』

 

本は未だに形を保てずとも、話し相手として帽子屋とウサギを召喚しながら、まるで狂ったように話を進めていく。

 

「あははは、そうだね。アリス。きっと、こんな陰気臭い場所なんかとは比べ物にならないほど盛大なパーティーが開かれていることだろうさ!」

 

ウサギが答える。

 

『そうかしら。』

「ああ、ああ、そうだとも!きっと、楽しいパーティーが開かれているさ。煌びやかに彩られたネオンが夜の闇をも真昼に変えるようなそんな煌びやかなパーティーがね」

 

帽子屋が答える。

 

『そう。そうなのね。』

 

本は呟くと、パタンとそのページを閉じる。すると、その場にいたスーツ仕立てのウサギと帽子を被った男が幻のように消えていった。

 

『じゃあ、おめかししなくっちゃ!これから楽しい楽しいパーティーが始まるんですもの!私も彩るためにおめかししなくっちゃ!うふふふふふ…』

 

本は子どものように笑い続ける。当然だ。これから始まるのだ。パーティーが!そんな楽しそうなことは想像するだけでも、この本にとっては嬉しくて、面白くて、そして何より…

 

『うふふふ…楽しいわ!楽しいわ!!楽しいわ!!!』

 

本の狂ったような叫びはいつまでも木霊する。そんな保証はどこにもないのに、自分がその聖杯戦争(パーティー)に参加するのだと確信するかのように。




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多分返せないと思いますけど、すみません!図々しくて!
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