ランクA〜A++
対軍宝具
ランサーが本来の性能で呼ばれた時、持つことのできる宝具。
この宝具は本来、御者であるレーグが引くものであり、厳密にはランサーが操縦するものではない。だが、ランサーはこの宝具に乗っている間だけ借り受ける形でレーグの騎乗スキルを備えることができる。ランサーのクラスでありながら戦車を出せるのはそういった事情があるからこそ。
ちなみにレーグの騎乗スキルの方はBランク。別に召喚しようと思えばできるのだが、なぜ、召喚されないかというとランサー曰く『俺が無茶した時に小言がうるさいから』。
太陽神の庇護を受けていることもあり、最高でA++とランクは非常に高く、破壊の規模こそ規格外の宝具などには及ばないがその破壊力の質そのものはランクEXの宝具に決して負けておらず、もし、魔力を全投資し、そのままその宝具との力のぶつかり合いになったとしてもダメージは受けるだろうが、それでも拮抗し得るだけの力を持ち、なおかつ、 下手を打てばランクEXであろうがその突進をもろに受ける可能性がある。
つまるところ、事実上、ライダーでもないのに最強の対軍宝具の一角と言ってもいい戦車を所有していることになる。だが、それは魔力を全投資した場合に限るので普段の突進にはさすがにA〜A+ほどの神秘しか宿っておらず、なおかつその全投資をした状態も何度も使えるわけではないので使いどころには注意が必要。
「な、なあ?絃神島って100年に一度白夜になるとかいう伝説とかってあったっけ?」
「い、いや、確かなかったと思うけど…」
普通白夜…というか、白夜に限らず夜というのは一定の周期がある。白夜だろうが何だろうが一瞬にして天蓋に太陽が公転を無視して出てくるなんていうことはありえないのである。
「笹崎先生!コレは!?」
「…取り敢えず、いざというときのために生徒はみんな避難できるよう準備しちゃったりしてください。」
いつもはふざけた喋り方を通す笹崎ではあるが、今回ばかりはそうもいかない。
(那月先輩の報告では、第四真祖の眷獣の中にこんな効果があるものはなかったはず…となると、十中八九あのサーヴァントとかいう存在が関係している確率が非常に高いんだけど…)
笹崎には分からなかった。それはそうである。彼女はサーヴァントの実力の一端をシロウを通してわずかに知っただけであり、実際、本気を出したらどこまでできるのかなどということ。彼女が知るわけないのである。
「それにしても…暑いわねー。」
これは後々分かったことだが、その日、常夏の絃神島は史上最高気温を示した。その気温はなんと43度。たとえ一時であれ、その時間内で絃神島の約5%の住民が熱中症患者になるという異常事態が発生したのだ。
ーーーーーーー
「シェロ…その姿は…?」
ラ・フォリアと紗矢華は今まで一緒にいた男の変わり果てた後ろ姿に絶句した。今まではそれ相応に鍛えているだろうぐらいにしか感じられなかった筋肉は極限まで引き締まり、鞭のようなしなやかさを持つ肉体に。そしてその体の内から放つ魔力は元から強大だったものが今までよりも輪をかけて苛烈さと静けさを帯びていた。
「…ああ。言ってなかったな。俺の場合、召喚の時、手違いがあってな。肉体年齢にだけ若干の不備があったんだ。なるべくなら、この封印を解かない方が良かったんだが…」
口籠りながらもシェロは、いや、アーチャーはランサーの方を睨みつける。
「あの男を相手に生半可な力は逆に死を意味するからな。」
並の者なら、息することすら難しくなるほどの殺気を込めた視線をランサーはことも無げに受け流し、それどころか、その視線から視線を外し遥か遠くの海岸の方へと目を向ける。
「ああ、別に今戦ってもいいんだが、さっきも言ったが、その前に…だ。」
そして、見つめた先の海岸の方へとランサーは馬車を向けた。そして
「まずは場所の移動だ!こっちに来い!!アーチャー!!」
そう言って馬たちに目配せすると、馬たちはその心の内をすぐに理解したかのように前へと向き直り、そしてこれ以上ここに用はないと背中で顕さんばかりの勢いで走り去っていく。アーチャーたちがその様子に呆気にとられている間に最早戦車は遥か彼方まで行ってしまっていた。
「シェロ…あの…一体、これはどういう…」
「いや、俺にも何が何だか…ん、待てよ。そうか。」
一瞬、なぜランサーがあのような行動をしたのか理解ができなかったアーチャーだが、すぐにその行動の意味を理解する。
「なるほどな。逃げるようで性に合わないだろうに、令呪で命令でもされていたか?まあいい。たしかに俺が相手の場合は
「はあ?それってどういう意味よ?」
「後で説明する。とりあえず追うぞ。」
そう言ってアーチャーは背を丸めて傅くように片膝をつく。
「えーっと、その、どうやって?」
「決まってるだろう?俺が君たちを肩に乗せて走って行くんだよ。」
「あぁ、なるほど、そういうアレ…って、嫌よ!!」
当然といえば、当然の反応を返してくる紗矢華に対して怪訝そうな瞳をアーチャーは向ける。
「今更何を言うんだ?これしか方法がないことくらい君だって分かっているだろう?」
すでに行きをサポートしてくれた叶瀬賢生はいない。となると、当然彼らに追いつくためには
「そうなんだろうけど…嫌なもんは嫌なのよ!!大体、あんた、本気で走ったらどれくらいになるのよ!?」
「……少なくともジェット機の最高スピードは超えるな。」
「人間がそんなのに耐えられるか!?」
紗矢華は全力の反抗をするが、薄々彼女自身気づいている。こんなのは
「仕方がありません。ではお願いします。シェロ。」
「ちょっ…王…!!?」
「了解した。しっかり捕まっていてくれ。」
「いや、あの…」
「大丈夫だ。さすがに音速を超えたりはしない。せいぜい…
ジェットコースターをほんのちょっと超える程度だ。」
紗矢華とラ・フォリアの足を掴んだシェロはそのまま彼女たちを肩車の要領で自分の両肩に乗せ、キーストーンゲートのタワー頂上の端っこまでズンズンと躊躇いもなく進み…
「では行くぞ。」
「ちょ…」
紐なしバンジージャンプをそこからやってのけた。
「い、いやああああああああ!!?」
この後、彼女・煌坂紗矢華のこの男に対する信用はある意味で地に堕ちたのは言うまでもないだろう。
ーーーーーーー
「な、何だよ?コレ…」
古城と雪菜は監獄結界の中へと歩を進めていた直後、いきなり夜の闇に覆われていた空がまばゆいばかりの蒼天になったのを見て呆気にとられていた。
「コレは…おそらくアーチャーか、ランサーどちらか一方が宝具を使ったのでしょう。」
「なっ!?宝具ってのはこんなこともできんのかよ!?」
デタラメすぎる。雨を上らせて晴れにするのならまだしも先ほどまでこの場所は確かに夜だったのだ。それを無理矢理晴天にするなど、どう考えても時間超越などの域を越した異能だとしか思えない。
「ですが、そうとしか考えられません。私としてもこれほどの神秘を見せられることは少なかったのですが…とてつもないですね。天候どころか時空すら超えて太陽を呼び出すなど…明らかに規格外です。」
そう言いながら、ライダーは別のことに気をかける。丸っ切り別というわけではないが、あのアーチャー…真名をエミヤシロウと言ったあの男は別段太陽についての伝承などはなかったはずだ。となると、コレは状況的に考えて、ランサーの宝具。
(神秘のレベルで言っても最高クラスであるのは間違いありません。果たして彼にこの難関を何とかできるのかどうか…)
と言ったものの実はそこまでライダー自身は心配していない。サーヴァントである以上、元々アーチャーとライダーは敵同士であり、そのことも理由に入っていないといえば嘘になるが、単純にあのアーチャーの実力も決してあのランサーに劣るものではないだろうと感じることができたためである。
それに何より、今の彼にはやるべきことがあった。
(この結界が出てきてから、アーチャーの言う異様な気配が濃くなった。最初の方は勘違いかとも思いましたが、どうやら、これは間違いなく…
そこで一息付くように深呼吸をしたライダーは改めてマスターである古城の方へと向き直り、
「…ですが、今の私たちがやるべきはもっと別のことのはずです。それを忘れずに行きましょう。マスター。」
「お、おう。」
まだ見ぬそのサーヴァントに対して警戒心を強めたライダーは主を先に促すように言葉をかけ、歩いていくのだった。
ーーーーーーー
「ちょっと!ランサー、私たちは聞いてないわよ!こんなコト!?」
「黙ってろ!オレはテメエの言い付けをただ忠実に守ってるだけだ!マスター!」
「忠実に…ですって、これのどこが…!?」
実はランサーは彼がマスターにアーチャーの存在を感知した報せた瞬間に、令呪を一画使うことにより命令されていた。
『これから先、あなたが私たちを危険だと判断した瞬間、あなたはまず、第一に私たちの身を守ることに専念し、それから戦いなさい。』
これはランサーの警戒心を見たエマが念のために命令したものである。エマは自分がランサーとは主従の関係だとはいえ、相性は最悪だという自覚があった。だからこそ、いざという時の保険のために告げたのだ。
ただ、本来、こんな漠然とした命令は受け入れられないのが常ではある。何が漠然かというと、一体、何を持って危険だと判断すればいいのか?ランサーの基準でいいのか?エマやオクタヴィアたち人間の基準でいいのか?その辺りが明確化していないからである。
だが、今回のものはランサーから考えても危険だと感じたため、その命令にランサーは応じ、行動したのだ。たとえ、その行いが自らの生き方に反するものだったとしても、その命令には従う。それが何よりも掟を重んじるクーフーリンという男の生き方だ。
まやかしの太陽の下、日輪を顕す車輪を回して空中を激走するランサーは言葉を続けていく。
「サーヴァントっつーのは、基本、それがどんな経緯を辿った聖杯戦争だろうが、英霊の座に戻されれば、そこでの記憶を失う。だが、例外もある。」
「は?ちょっと!いきなり何を!?」
「いいから黙って聞いてろ!俺はな、あのアーチャーとは
「…だった?」
「ああ。野郎は俺のような神代に産まれた英霊じゃなく、あんたらの時代に最も近い…歴史上…
「その影響で俺は
ビルからビルへと一瞬で200メートル以上も飛んでいきながら、シェロは話を続ける。
「え?ちょっと待ってください。なぜ、そのようなことに…」
「……。」
シェロはわずかに逡巡するように顔を翳らせた後、仕方ないという調子で息を吐き、言葉を続ける。
「…なぜなら、俺が生前、君たちくらいの頃に聖杯戦争はちょうどピークだったからだ。それはどのような時間軸、平行世界であろうともそうだった。」
「平行世界?」
ずっと項垂れていた紗矢華だったが、ようやく顔を上げてシェロに質問する。
「ああ。我々サーヴァントはいつ如何なる時であろうと世界の座から召喚される。それがたとえ、
「それは…」
言えるわけがない。なぜなら、これから起こる未来において有名な俳優になるモノが今はその夢のためにバイトをしていて貧乏人だと『今』言われたところで頭がおかしくなってるのではないかと思われるだけで、誰も相手にしない。
「そうだ。だからこそ、俺は信仰心が全く皆無の状態で召喚されることの方が多かった。その場合、俺の実力はほとんど出せないわけだ。我々はサーヴァントとして現界している以上は信仰心によって力を保ってるわけだしな。
だが、今回は違う。俺は人々から大いに信仰され、その能力は英霊本体にかなり近くなっていると言っていいだろう。だから、あの男は
「…?それは条件としてイーブンなのではないですか?私たちがこちら側にいるという時点で…」
「いや、残念ながら…と言うべきか、功を奏したと言うべきか…そうではない。何せ、俺は
あれに関しては自動的に動いたと判断していい。あの男はマスターの身を守るためにあの場を退き、今走っている訳だ。」
「…?つまり、どういうこと?」
頭の回転が決して遅くはない紗矢華ではあるものの、流石にこうも言葉を羅列されては分かるものも分からない。シェロもそのことを理解していたのだろう。特に嫌がる風もなく、説明を簡潔に続けていく。
「つまり、アーチャーとして、俺はどこからでもあのキーストーンゲートの塔の頂上にいるあの魔女たちを狙えるが、ランサーの方は狙えることには狙えるが、それは自分の戦い方ではない上に、アーチャーよりかは射撃という点で出遅れる可能性があると判断したからこそ、
ヤツは
「なるほど…って、え?」
「シェロ…あなた、どこからでもあのキーストーンゲートを狙えるというのですか?」
「その話はまた後だ。長くなったが、どうやら着いたようだぞ。」
シェロが見ている先を二人が見ると、紗矢華にとっては見覚えがある場所にランサーたちは着陸しようとしていた。
「あそこって…」
「前にナラクヴェーラ共を相手にした時の基島だな。つくづく、俺たちはあそこに縁があるようだな。」
そう。何せ、彼らが最初に転移された先、それが今から行こうとしている基島だったのだ。
「さて、ではヤツも着陸したことだ。そろそろ、戦いのゴングを鳴らしてやるとするか。」
「は?…ゴングって何の…こ…と……を?」
言っているのか?と言おうとした矢先、その言葉は周囲から感じるとてつもない魔力によってかき消される。
そこには総数で約数100本の剣の群れがある。先ほど感じた魔力の正体がその剣それぞれ一本一本から放たれる魔力だと気付き、両肩に乗っている二人は息を飲む。
「さあ、開戦と行くか。」
ーーーーーーー
「…来たな。マスター、少しの間だが、この戦車に捕まってろ。振り落とされたくなかったらな…」
「え?」
「そんじゃぁ、ぶちかますぜ!マハ!セングレン!レーグが引く訳じゃねえが、大丈夫だろうなぁ!お前ら!!」
灰色の馬マハ、黒色の馬セングレンは馬鹿にするなと言わんばかりにブルルと鼻を鳴らしながら、いきなり発進する。それに驚いたメイヤー姉妹は思い切り尻を打つ羽目になり、ランサーを睨みつけようとしたが、そんな暇はなかった。なぜなら、目の前の光景に彼女たちは唖然としたからである。
空から無数の剣の流星が降ってくる。それだけならば、別に彼らは問題視しなかったかもしれない。だが、彼女たちはなまじ他の者より魔術の深奥に近づいたものだからこそ即座に気づいたのだ。
アレはマズい。あの剣一本が絶望的なまでの魔力の塊、アレは吸血鬼の眷獣にすら匹敵する。それが数百本。どう考えても詰みだ。
そう考えていた。
その剣の群れがまっすぐに自分たちに向けて刃を突き出したその瞬間…
音速を超えてその剣の群れが襲いかかってくる。もうダメだ。そう…そう思ったのだ。だが、
「はっ!なめんじゃねえぞ!アーチャー!!たかだか数百本…俺を殺してえなら、
数千本持ってこいや!!」
言った瞬間、戦車が更に急加速し、辺りを縦横無尽に駆け回る。それはさながら太陽が駆けるが如し…その疾走する躯体だけで剣の半数は折れ砕け、瓦礫まみれの基島は悲鳴を上げるように揺れ、瓦礫はその太陽の熱により砂つぶと化していった。
そして、残る半数の剣がランサーに向かっていくものの、その剣の軍団は今度はランサーが持つ一本の槍で悉く打ち払われていった。
打ち払われて行くうちにまた、そのうちの半分ほどの剣が折れ砕け、残りの剣は地上へと突き刺さった。
「…は…はははは!いい!いいわ!!ランサーその調子よ!!」
エマはそのあまりの光景に息を飲んでいたが、ようやく戦場が落ち着いたと思ったのだろう。彼女は心底安堵したかのように狂気を帯びた笑みを浮かべる。だが…
「まだだ!!舌噛みたくねえなら、ちゃんと口閉ざしときなマスター!」
「え?」
その言葉の返しにエマとオクタヴィアは唖然とするが、またもそんな余裕がないものだということを思い知らされる。
彼女たちが呆気に取られるような声を出した後、彼女たちの眼下が破滅を帯びた光によって照らされて行く。次の瞬間…
剣は爆発した。
その爆発の勢いは尋常ではない。当然だ。魔女であるメイヤー姉妹から見てもアレらは全て超がつくほどの神秘の塊。そんなものの魔力を暴発させてしまわれればどうなるかなど、分からないはずもなし。
だが、そんな予想を自分の
「オーラ、よっと!!」
ランサーは手綱を右斜めに力強く引く。すると、マハとセングレンはその手綱に従い、斜めに動き、そして回り始める。そしてその動きは一秒とせぬ間に、巨大な車輪のような形態を取っていく。車輪が世を描くと同時に戦車を中心に小さな赤い竜巻が起こる。
そして…
ーーーーーーー
凄まじい爆音とともに基島は爆風へと包まれて行く。もはや、言うまでもなく明らかであろうが、この爆風が消えた後に残るのは恐らく島
それは何故なのか?英霊への羨望、敬意がそうさせるのか?あるいはもっと別の何かなのか?彼女たちに知る術なかったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
しばらくして爆風が完全に治り、爆煙だけとなったその基島を見つめながらアーチャーは呟く。
「…そろそろか。下に降りる。用意はいいな。」
「…はい。」
「…ええ。」
自然肩が強張る。彼女たちは別にランサーにたいして、恐怖を抱いているわけではない…といえば嘘になるが、ただ、今の戦いを見ていた彼女たちには今の光景が鮮明に頭に残っており、そのため、自分たちがあの戦場に立つかと思うと、自分たちは場違いなのではないかという感覚が捨てきれない。たとえ、肝がかなり居座っているラ・フォリアであってもそれは例外ではなく、彼女もまた首すじにわずかに汗をしたらせていた。
爆煙がまだ舞う中、彼らは基島に着陸する。煙のおかげで視界は塞がれている。だが、相手もこちら側も迂闊には攻撃できないなどとはとても思えずにいた。何故なら、未だ着陸したにもかかわらず、意識を集中させたシェロがラ・フォリアたちを離さずにいたからである。
これではとてもではないが、
『離してください』
などとはお願いできないほどには彼らの緊張感は高まっていた。
そして、その予測は当たっていた。
「っ!動くぞ!!俺の首に捕まれ!!」
「「えっ?」」
二人が驚きの声を上げたと同時に視界がまた横へとぶれていく。次の瞬間、ガラガラガラと現代では滅多に聞くことはないであろう車輪の音が横にて響く。速すぎて彼女たちの目では捉えられなかったが恐らく、先ほどの戦車が通ったのであろう。
「次々来るな…これは…しっかり捕まっていろ。」
その言葉通り、戦車は次々と迫り突進してきた。シ アーチャーたるシェロはその攻撃を抱えたままの女性に負担をかけないように最小限の動きで回避していく。
(っ!?コレはマズいな。突進の方も厄介だが、それ以上に厄介なのはあの車輪の跡だ。あの車輪…太陽神の庇護を受けているというだけはある。まさか、通った跡にすらその力が宿るとは!?)
サーヴァントに対してわずかにダメージ与える程度の熱攻撃であるモノのそれはサーヴァントに対してのみである。人間に対してどうなのか?などということは問うまでもない。そして、その人間を抱えている彼は自然、動きが制限される。
「!?だとしたら、マズい!」
地面を見る。そしてその悪い予感は的中した。車輪によって区切られてしまった地面はもう既に無事な部分が一歩分ほどしかない状況にまで陥っていたのだ。
そして、そんな彼が行動すべき選択肢はだった1つしかない。
アーチャーはランサーの次来るであろう攻撃を回避するために跳んだ。だが…
「っ!やはり読まれていたか!」
跳んだ先で見た光景はランサーがこちらに向けて突進の構えを戦車ごと傾けて向けていた姿だった。ランサーはそのままアーチャーに向けて突進してくる。
「もらった!」
戦車は見る見るうちに焔を帯び突進してくる。それはまるで流星が如く輝いていく。それに対し、
「その程度でやられると思われているとは心外だな。
紅い七枚の花弁は赤い太陽を迎えるように花開く。そしてその二つの宝具が…激突する!!
衝撃は一瞬音すらも殺し、その短い瞬きの間に静寂をもたらし、次の瞬間、その衝突が音となって再現されていく。その爆音は絃神島全体に響き渡っていき、その時、パレードが開催されようとされた最中でありながら誰もがその方角を見た。
「はっ!その程度の結界宝具で俺の戦車を止められると思うのか!?アーチャー!!」
「確かに無理だ。」
その突進に耐え切れず、アーチャーの宝具はひび割れて行き、一枚、二枚とその花弁を無くしていく。残り三枚となったところでアーチャーは不意にかけた魔力を緩める。
「だが…逸らすくらいならば、できる!」
シロウはわずかに解けかけたアイアスの盾を斜めに逸らす。すると、戦車はその意思に従うように自然と方向転換してしまう。
「っ!野郎!」
「遅い!この距離は俺のものだ。
方向転換をさせられ、思いがけず背後を取られる形となったランサーは急いで後ろを向く。だが、それよりも早くアーチャーは弓を用意し、そして即座に矢を番え、10発ほどをほぼ同時に放つ。ランサーはその攻撃を自分の槍で何とか弾いて行った後体勢を立て直すために基島に降りて行った。
アーチャーもそれを確認し、基島へと降りていく。
そして、ようやく、肩に乗せていた少女たちを降ろしていく。
「…大丈夫か。なるべく、Gをかけないようにしたんだが…」
「す…すみません。ちょっとこの状態では…」
「大丈夫とは言えないわ…」
「…だろうな。すまない。」
向こうもそれは同じだったようで…
「おぇえぇ…」
「うぷっ…」
「ああぁ…大丈夫か?マスター」
「「これのどこが大丈夫に見えるのよ!!」」
さすがにこれ以上自分たちの戦いに巻き込ませてしまってはマズいと両者は判断しながら、どこに移動すべきか最適解を両者は出していく。
だが、これについてはアーチャーの方が分があった。なにせ、アーチャーはこの島に5年も住んできた身だ。その最適解を出すのにさほど時間は必要なかった。ランサーもその辺りは早々にあきらめ、代わりに先ほどの戦闘を思い返していた。
(相変わらず…大した戦術家だな。あの野郎。あのまま押し切れていれば、俺は必ず
当然だ。どこの世の中にあんな緊張の一瞬に力を抜かすなどということをすると思おうか?そんなことをすれば、間違いなく死んでしまう。そう、そんな不明点が逆に一瞬の硬直を生んでしまったわけである。
そして、その一瞬をアーチャーは見逃さなかった。
緩急をつけられてしまった一瞬の隙を突き、アーチャーは見事に戦車の軌道をずらしてみせたのである。
(恐らく、2度とは使えねえ手だ。だが、そもそも2回も使うつもりはねえだろうな。野郎の技量なら、その程度容易いだろう。
ま、突き詰めちまえば俺たちは三者揃って野郎に一杯食わされたっつーわけか…やれやれ…)
馬達の方も一杯食わされことには気づき、不服そうにブルルと両者は鼻を鳴らす。
「認めるしかねえな。今回のあのアーチャーは間違いなく、今までとは何もかも違うってことをよ…」
認めねば、前に進めない。今の内容にはそれだけのモノがあった。
少しして、アーチャーは改めて、ランサーの方へと向き直る。
「さて、これ以上ここで戦っては、お互い損をするばかりだ。もう一度場所を移す。今度は俺の行く先に行ってもらうが、構わないな?ランサー」
「ああ、もともと、貸しを作ったようで嫌だったからな。それでいいぜ。」
両者の合意を得られたこともあり、アーチャーは発進の準備をするために両足に力をこめながら、後方を確認し、話しかける。
「そういうわけだ。俺たちはまた場所を移動する。相手も相当厄介な魔女だろう。苦戦はするだろうが君たちに倒せない敵ではない。だが…気をつけることだ」
「はい。お気遣い有難うございます。シェロ=アーチャー」
その王女のどこまでも気丈な瞳を見て、安心したように微笑んだアーチャーはバッと虚空へと姿を消し、ランサーもその姿を追うように戦車に指示を出し、空へと消えていった。
「さて、準備はいいですか?紗矢華?」
「ええ。何とか持ち直しました。」
そうして、ラ・フォリアと紗矢華はようやく戦闘態勢に入る。対する魔女もようやく気分が落ち着いたようで、キッと忌々しげに見つめ返してくる。
「さあ、行きますよ!紗矢華!」
「はい!王女!!」
ーーーーーーー
「っ!止まってください!マスター、雪菜さん!」
「えっ?」
ライダーの突然の指示に古城たちは驚き、足をすくませるように立ち止まった。
「な…何だよ?」
「…出てきたらどうですか?ここまで近づかれれば嫌でも分かるというものです。」
一体どこに話しかけているのか理解の外だった古城達は首を傾げたが…
『クスクス…なぁんだ?バレちゃってたんだ?つまんないの〜』
陰湿な光景が広がるこの監獄結界には似つかわしくないほどの明るい子供の声が響き渡る。その声にゾッとした古城はおもわず尋ねる。
「だ、誰だ!?お前!」
『わたし?わたしはそうだな〜…うん!やっぱりこう呼ぶ方がいいわ!わたしの名前はね騎士さんのマスターさん…アリスって言うんだよ。』