ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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いつも感想書いてくれる方々本当にありがとうございます。
最近驚いたこと、アンリマユとエジソンの声優って同じだったんだね。
お久しぶりです。長くなりましたが、今回、オリジナルサーヴァント登場です。
え?なんで天使炎上編のラストであんなこと言っておきながら、登場するんだって、ええ確かに五巴の戦い(・・)とは言いましたね。はい。けど、私一度だって五騎しかサーヴァントが出ないなんて言ってないのですよ。だって戦わなければ戦いにはならないでしょう?

ええ、まあ、つまりなんです?ミスリーディングというやつですね。(少々強引かもしれませんが…)


観測者たちの宴 XIV

戦闘が終わって直後、南宮那月は物陰にて壁を背にして座り込む少女の元へと近づいた。

 

少女の顔は南宮那月と瓜二つの容貌をしており、双子と言われても全く違和感はなかった。無論、血など繋がっておらず、そもそも那月に姉妹などいた試しがなかった。だが、そんな特異な状況にあっても那月はゆっくりと歩を進めて近づいたのだ。

 

「…目は醒めたか?アリス。」

「……。」

 

アリスと呼ばれた少女は黙ったままだった。そんな少女の様子に那月は嘆息する。そして、自分を中心に魔法陣を描き、そこから無数の鎖を召喚する。

 

「本来ならば、色々と話したいところだが、お前は未だ刑罰中の身。既に私一人の判断でお前を保護するか否かは決められん。それにどちらにせよ、今のお前は放置するには危険すぎる(・・・・・)

 

言いたいことは分かるな?」

 

「うん…めいわくかけてごめんなさい。」

「ふん…」

 

相手の返事に対し、不遜に鼻を鳴らした那月は術式を展開するために魔法陣を展開しようとする。だが、その瞬間…

 

「「っ!?」」

 

那月たちの肩に何百キロもの重りがズンと落とされたかのような重苦しいプレッシャーがのしかかってきた。

 

「なんだ!?この気配はっ!?」

「サーヴァント…それもすごくきょうりょくな。」

 

その圧倒的な気配に驚愕を示した両者。その気配に対して、那月は警戒を露わにし今まで出していた鎖を瞬時に鎖をを引っ込めた。

 

「…なつき?」

「…こうなってしまった以上、早々にお前を監獄結界に送り返すこともできなくなった。もうしばらく付き合ってもらうぞ。」

「でもさっき、ほごするか、どうかはじぶんできめられないって…」

「それは結果的な問題だ。別にその前に何か挟んだとしてもそこまで問題はない。」

「……。」

 

結構な問題があるように思えるが、アリスは口出ししない。別に断る理由もないし、アリスにもこの気配は到底無視できるものではなかったからだ。

 

「アリス。もはや、力を出すこともできんだろうが、お前のサーヴァントとしての見識が私には必要だ。」

「……うん。わかったわ。」

 

そう言ってアリスはその細い腕でなんとか立ち上がり、ゆっくりと那月についていく。戦場に向かうために…

 

ーーーーーーー

 

彫像がこちらへと歩を勧めてくる。ただそれだけで脳内が警鐘を鳴らし、頭のすぐ横に心臓でもあるかのように脈の音がうるさく聞こえてくる。

息が荒い。声が出ない。ただ、目の前にいるというだけで体が言うことを聞いてくれず、体力がどんどんと奪われていく。

 

(こいつ…ヤバイ!!)

 

それは古城だけの意見ではなく、その場にいる全員が瞬時に予感し、考えたことだ。だから、古城は誰もが後ろを振り向き逃げることを考えてると、そう思っていた。

だが、しかしこんな状況下だからこそ即座に動き出した人物が一人いた。

 

「はぁあああっ!!」

「ライダー!?」

 

その人物とは、マスターの盾足らんとするサーヴァント ライダー。

彼は自らの聖剣を片手に真っ直ぐと駆け出す。勝算があるわけではない。だが、今の自分はサーヴァント。ならば、この場は何としても持たせなければならない。どうあれ古城たちを守るためには、この場で誰かがあの彫像を…セイバーと呼ばれたあの男を止めなければならない。

 

サーヴァントの相手はサーヴァント。それは聖杯戦争においては自明の理と言っていい。

 

剣を振る。ひたすら真っ直ぐに、そして最高速で剣を横一文字に振り抜こうとする。その間にどのような障害があろうともこの剣を届かせ、足止めをしてみせると…

 

ライダーの剣がセイバーへと迫る。対するセイバーはその剣が迫られて尚、自らの剣を構えもせず、ただ悠々と歩を進めるのみだった。

 

「…?なんだ?一体、何を…」

 

ライダーにはその真意がわからない。いくらサーヴァントとて、この一撃を喰らってしまえば、まともにはすまない。それは先ほどのキャスター戦にてはっきりしていることだ。

真意は分からない。さりとて、足は絶対に止めようとはしない。むしろ、この好機に全てを賭けんとより強く、足を、腕を振り抜こうと力を入れる。

 

そうして、ライダーとセイバーの距離が目と鼻の先ほどまでになり、剣を振に抜こうとする。意外なほど容易く、剣は首元に着いた。

 

「届いた!」

 

後はここから剣を一気に振り抜けば首が斬れると、そう確信した。

 

だと言うのに…首元に着いた瞬間、肉体だけを斬った場合、絶対に鳴らないはずの金属音が鳴り響いた。

 

「……え?」

 

思わず漏れる言葉。それは一体誰の驚愕だったか。しかし、いくら驚愕したところで目の前の事実は変わらない。ライダーの聖剣『力屠る祝福の剣(アスカロン)』は持ち前の防御の力を反転させれば、あらゆる鎧を貫く剣と成り得る最強の剣だ。

 

だが、振り抜こうと首元まで辿り着かせたその反転された聖剣は、

 

鋼のような筋肉を纏った首の皮膚によって完全に止められていた。

 

その光景を見て、誰もが呆気にとられたからだろうか、セイバーの次の動作は目に入らなかった。

天に掲げるようにして腕を振り上げたセイバーは、その腕にある拳を石のように硬く堅く握りしめ、

 

「ふんっ!!」

 

ライダーへとその拳を突き出した。

 

その拳に対し、ライダーは反応できなかった。そのため、拳は吸い込まれるようにして鎧を貫いていく。

 

それを見た周りの反応は静かなものだった。別に何も思わなかったわけではない。ただ、思えなかった(・・・・・・)だけ…その急展開に頭がついて行かなかったと言うだけだ。

 

諸に拳を食らってしまったライダーはそのまま吹き飛んでいく。何が起こったのか分からないまま、静かに、だがまるで流星のように苛烈に飛んでいく。

 

そうしていつの間にか、マスターの前へと進んでいたライダーは、マスターの背後の壁へと叩きつけられていたのだ。

 

「ごふっ!?」

 

叩きつけられたライダーは体勢を立て直すために、深呼吸をしようとしたが、逆に内臓を傷つけられた痛みに思わず、血を吐いてしまった。

 

その様子を確認したセイバーは言った。

 

「…残念だが、ライダー。あなたの剣で私は傷つけられない。私の体は特別性なのでな。」

「あ…あ……あ。」

 

ともすればうめき声にも聞こえてくる声を漏らす雪菜。当然だろう。弱っていたとはいえ、今まで自分たちを苦戦させ続けていたジャバウォックすらも傷つけることができた聖剣をその身に受けて尚、その剣の英霊は血一滴たりとも流れていないのだ。それに恐怖以外の感情などぶつけられよう筈もない。

その様子を見た古城は手汗で濡れた拳を力強く握り直す。

 

セイバーが古城たちの方へと振り向いた。

 

瞬間、腕を掲げる。呪文など唱えずに即座に発動するため、その名を呼ぶ。

 

獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!」

 

腕から血が霧となって吹き上がり、その血は見る見るうちに莫大な魔力の塊へと…つまり吸血鬼が従えし使い魔・眷獣へとその姿を変える。

 

現れた眷獣は獅子の黄金(レグルス・アウルム)。雷光の化身にして、その雷撃はある時は雷雲をも呼び、世界で最大規模の落雷すらも超えるほどの破壊力によって一つの街を消滅できるだけの力を持っている。

 

だが、そんな破壊の嵐を見てセイバーは一言つぶやくのみだった。

 

「…これは懐かしいな。獅子狩り(・・・・)か。ふむ、確か、あの時は…」

 

呟くと同時に高速で突進するセイバー。セイバーの突進に反応した獅子もまたその男に向けて突進攻撃を仕掛ける。

 

だが、破壊力はともかく、身体能力では完璧にセイバーの方が上だ。それゆえ、セイバーが跳躍するその瞬間を見極められなかった獅子は即座に上を取られてしまう。そうして上を取ったセイバーは一気に腕をぐわっと広げる。

 

そしてその雷光の獅子の首目掛けてその柱のような腕をぐるりと巻きつけ、プロレス技でもかけるかのように尻を地面につきながら、首にその全体重を掛ける。そう。かつてと同じように(・・・・・・・・・)男はその獅子を絞め技で仕留めようとしているのだ。

 

「なっ!?獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!」

『があああっ!!!』

 

絶叫し、日輪と見紛うような発光を放つ。それは攻撃の…いや災厄の合図。あらゆる災厄の化身とも言える第四真祖の眷獣が本領を発揮し、辺り一帯を焼け野原にしようとする合図だ。だが、そんな分かりやすい合図に気づかないほどセイバーは愚かではない。

 

「ぬうぅん!」

『!?ガッ…カ……カ』

 

急激にセイバーの絞め方が強くなる。先ほどの絞めも十分に強力なものだったが、その絞めが可愛く思えるほどの万力の力が獅子の首を襲う。

 

眷獣は力の塊ではあるが、意思がないわけではない。故に膨大で単純な力に対し反応する(・・・・)意思もまた持ち合わせているのだ。

時間を重ねる毎に、絞めは強くなる。そうして、その力に抗おうとすればするほど反撃に出せる力も分散していく。呻き、爪を立て、牙と喉を鳴らし、威嚇する。しかし、そんなものは効かない。

 

そうして、ようやくその圧倒的な膂力に対し、獅子もこのままではマズイと悟ったのだろう。

 

獅子は潔く負けを認め、元の魔力の霧となって霧散していくのだった。

 

その光景にまたも唖然としてしまう古城一行。だが、古城はそこから即座に頭を立て直し、次なる眷獣を召喚するために手を掲げる。

 

双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!!」

 

莫大な振動音と共に双角の紅い馬の眷獣が牙はないはずなのに歯を剥きながら召喚される。

馬は召喚主の合図も無しに突進を開始する。古城の目から、心から、すでに有り余るほどの危機感情を感じていたこの双角の眷獣にそんなものは必要ない。歯を剥いた馬が突進する。

 

その様はまるで…

 

「今度は人食い馬(・・・・)か?全く…だが、まあちょうどいい(・・・・・・)。」

 

言いながら、セイバーは今度は横に避ける。その動作は単純ではあるものの武術を多少やっているものでも理解できるほど圧倒的に素早い身のこなしだった。

この場にいる四人の中で最も身体能力に優れた紗矢華はその事実に驚愕する。

 

(っ!?なんて身のこなし!?あの巨体で反則でしょ!!?)

 

今度もまた、セイバーはその眷獣の首に腕を回す。その仕草に不快感を感じ、深紅の双角獣(ヴァイコーン)は首と胴体を振り回して、セイバーの巨体を振りほどこうとする。だが、解けない。

 

先ほどの獅子ほどの力をかけられていないにも関わらず、だ。

 

なぜ、セイバーが先ほどとはかける力が違うのか?それは単純な話。今度は絞め技を繰り出すために腕を回しているのではないからだ。

暴れ馬よろしく暴れ続ける深紅の双角獣。そんな獣の様子を見てセイバーはわずかに苦い顔をして呟く。

 

「ぬぅっ……文字通りのジャジャ馬だな。まあ分かっていたことだが、これはさすがに

 

乗るのは無理か(・・・・・・・)

 

そう。災厄の化身たる第四真祖の眷獣の一角を前にして、彼は昔と同じように(・・・・・・・)乗りこなす気でいたのだ。だが、早々に諦めたセイバーは空いたもう片方の腕を天へとかざす。すると、手の甲を中心に突然周りが淡く輝き出す。

 

「ぐっ!?なんだ!?」

 

眩しくはないものの、その突如訪れた輝きに驚愕を示し、目を細める古城たち。

 

その輝きは見ていくうちに徐々に失われていき、やがてそこに一本の巨大な柱に近い何かが現れる。いや、柱ではない。その男の巨体よりも全長は長大だが、それでもあれは柱などでは断じてないと分かった。なぜなら柱というにはあまりにも、そうあまりにも統一感がなかったから…

 

男が手にしている場所は持ち手のように細くなっており、その先は西洋剣によく似た剣鍔のような装飾が施されている。そして、さらにその先には鉄塊があった。分厚く、長大な鉄塊だ。少し違うところがあるとすれば、それはその形だろう。その鉄塊は一方には刃があり、刃先と剣鍔の両側が軽く反り返った諸刃をしていた。刃先の腹はまるで鉄板のように平たく伸び、剣鍔の側中央に、何やら文字のような装飾が施されている。そこまできて、サーヴァントではない彼らにはようやく理解できた。

 

あれは剣なのだ、と…あんな文字通り剣の怪物という言葉を体現したような造りをしている上に、どうやったらあんな物が振れるのか想像もつかないが、剣だということは分かった。

 

だって、目の前の男はその柱のような大剣を片手で振り上げているのだから…

 

「っ!?双角の深(アルナスル・ミニ)……!!」

 

その剣による裁断が行われようとした瞬間、ようやく、我に立ち返った古城は自らの眷獣に呼びかけその大男の腕を振りほどくように呼びかけようとした。だが、遅い。彼が声をかけようとした瞬間を見計らったかのように一切の加減なくその剣による斬撃が繰り出され、双角を持つ馬の首がもげるように斬られていった。

 

「ぐっ!くそーっ!!」

「っ!?先輩、ダメです!」

 

雪菜の止める声も聞かずに、苦悶と怒号を入り混じらせた声で吠えながら古城は最後の望みをかけ、『龍蛇の水銀(アルメイサ・メルクーリ)』と『甲殻の銀霧(ナトラ・シネレウス)』の二体を自らの手から即座に呼び出す。

先ほどのジャバウォック戦にて最も活躍した二体のコンビ。これが一番というわけではないが、少なくとも古城の中では最も自信がついた攻撃と言っていい。眷獣たちは呼び出されるとすぐに攻撃体制を整え、前者の眷獣たちよろしく勢いよく突進していった。

だが、今度は無闇矢鱈な攻撃とは違う。一方に動きを止める係を一方に攻撃する係を担わせたちゃんとしたコンビネーションだ。

自分の能力が非常にピーキーだということはよく知っている。だからいざとなれば自分たちの直前まで霧化させればいい。そうすれば、少なくとも一瞬ならば攻撃を止められるはずだ。その隙をついて一気に攻撃(・・)を仕掛ければあるいは…

 

戦闘において素人にすぎない古城が必死になって考え出した戦術だ。その意図を正確とは言わずともなんとなしに感じ取った雪菜たちは変わらず動かなかった。

 

これが精一杯…全身全霊の攻撃だ。そう思いながら、攻撃を仕掛けた。

 

だが、そんな必死さをあざ笑うかのように、それらを前にしても男は次のように呟くのみだった。

 

「ふむ…わざとではないのだろうが、こうまで続くと流石に疑いたくなるものだ。」

「…?」

 

男はそう言うと今度は動かず、じっと突進を仕掛けてくる眷獣の方を見つめながらゆっくりと剣を構え出した。一方の古城にはその男が一体なにをいっているのかは分からない。だが、とにかく今現在自分のできることに注力すべきだと判断した古城は眷獣の命令を継続し続ける。

 

銀霧を纏った化け蟹(・・・)が地面へと迫る。その幻夢の甲殻が一瞬でも触れればそこから霧化が発動し、あたりの地面を消し去っていくだろう。

力の加減などをかけない。今の自分たちにそれだけの余裕がないことは古城とて分かっている。だから、その全力をかける一瞬に全てを委ねる。

甲殻が地面まであと数センチのところまで迫る。眷獣の攻撃を継続してから、ここまで時間は一秒とかかっていない。しかし、極限の集中力が生み出した矛盾なのか、その一秒が古城には無限にも感じられた。

そしてあと数ミリというところまで迫る。なおも動きを見せないセイバーに安堵した古城は力を出し切る(・・・・)準備に入る。

 

だが、その準備も嘲笑われるかのように無意味と化す。あと1ミリ未満、そう1ミリ未満で接しようというところでその銀霧の甲殻は黒い何かに塗り潰された。

それがなんなのか、古城は容易に理解できてしまった。そう。それは先ほどのセイバーの足だ。足が自分の目には写っているのだと…

 

理解し、即座にもう片方の眷獣に命令を飛ばそうとする。だが、無駄だ。動きを止められているのではない。すでに龍蛇は首を斬られ、ただの魔力の霧へと姿を変えている途中だったからだ。

 

「…試練(・・)焼き直し(・・・・)でもされているのではないか……とな。」

 

先ほどからの言葉をそう続けるセイバーがやったことは実に単純だ。

自らと自らの剣の魔力を組み合わせた足により化け蟹を踏み砕き(・・・・)、自らに牙を向ける龍蛇の首を剣により斬り落とした(・・・・・・)のだ。

 

まるで、自らの過去を振り返るかのように…

 

「少年よ。君の攻撃は確かに全てが私を絶命するに足る一撃だった。それは認めよう。

 

だが、今の君には絶対的に経験が足りない。いくら名剣を持っていようとも剣の振り方をろくに知らんうちに振ってしまってはいつかその刃は自分へと矛が向く。

 

例えば、今のように化け蟹の能力を発動する瞬間を注視し続け、他をおろそかにした結果。私の剣が今、君の目の前にあることが何よりの証左と言えるのでないか?」

 

鉄塊のような剣の切っ先を古城に向けながら、穏やかに言及する男の言い分に古城とその周りの雪菜たちは反応できなかった。ここまでの死闘ですでに疲労が溜まりきっていたこともあるが、何より古城たちが目の前で起きたことを認めたくなかったことが最もな原因と言えるだろう。どれもこれも正面からの力勝負はなかった。だが、不意を突かれようが、何であろうが結果的に力勝負で世界最強の眷獣が負けた。その事実は世界にすら衝撃を与えるだろう。そんな衝撃を今、少年、少女たちは受けてしまった。

 

セイバーもそんな少年、少女たちの心情を理解できたのか、わずかに憐れみの視線を向けた後に言葉を続ける。

 

「こちらとしても、君たちのような子供達を傷つけるつもりは毛頭ない。ただ、少年…いや、ライダーのマスターよ。君の令呪を我がマスターに譲渡して欲しい。それだけしてくれれば我々はここから退こう。」

 

その言葉には一切の虚飾が感じられなかった。おそらく、本当に古城が令呪を開け渡せばこの男は何もせずに去っていくのだろう。ただ、それをするのは、流石に憚れた。

今の今まで、古城はライダーに助けられ続けた。そのために赤銅色の鎧を着込んだ騎士は傷つき続けてきたのだ。そんな中、自分の令呪を明け渡す……それは、かの騎士に対する最大限の侮辱であり、裏切りだ。そんなことを許容できなかった。だから…

 

足が、膝が、腕が、喉が、唇が…体すべてが震える。

怖い、恐い、畏い(こわい)

 

恐怖が次に紡ごうとする言葉を鈍らせる。だが、彼は確かにその強大なる敵の目を堂々と見て宣言した。

 

「断る。こいつは……いや、あいつは俺の…俺たち(・・・)の仲間だ。」

 

言葉と同時に古城と同じようにして後ろにいる雪菜、紗矢華、優麻の三人が力強くその大男を見据える。

その言葉は無謀そのもの。だが、それは人の尊厳に満ちた勇気のある言葉でもあった。無謀と勇気は違うもの。だが、時に無謀と見えるものが、未来から見れば、偉大な勇気と称されることもある。その勇気と無謀に満ち溢れた所業。それこそが偉業と称される英雄たちの歴史そのものなのだ。

 

セイバーは彼らの態度に偉業をなす英雄たちの姿を微かだが見た。そして、少年を見た目を瞑目した後、彼は呟いた。

 

「そうか。ならばしょうがあるまい。君は…いや、ライダーのマスター、あなた(・・・)は今から

 

私の敵だ(・・・・)。」

 

言い終わるやいなや、再度剣を振り上げるセイバー。だが、振り上げた瞬間、セイバーの腕は固く固定されように止まった。

何事かと腕の方を振り向くと、その腕にはこれでもかと巻きつけられている魔の鎖があった。その鎖はただの鎖ではないことは理解できた。自分の肉体と原理は違うが、その鎖からは間違いなく神の波動と同等のものを感じ取った。

 

「邪魔な…」

 

腕に力を込めるセイバー。そんなセイバーを他所に、一つの幼げな声が古城の耳元に響き渡る。

 

「何をしている!?逃げるぞ!!」

 

その言葉を聞き終えると同時に、古城たちの眼に写る光景が急速にブレていく。そして、いつの間にか、彼らは工場の屋根へと移動していた。

その異常事態に古城は覚えがあった。そう。これは…

 

「那月ちゃん……」

 

己の教師でもある攻魔官、南宮那月が空間魔術によって自分たちを転送してくれたのだ。見ると、傍らにはライダーもおり、ライダーはトランプの形をした兵隊たちによって抱えられ運ばれていた。

 

「ちっ!流石にこれだけの人数を一遍に飛ばすとなると、そこまでの距離は稼げんか。っ!?」

 

ゾワリと、背筋が粟立つのを感じた那月は即座に鎖を10本ほど背後に壁にするように縦に召喚する。その瞬間、錆びついているとはいえ、鉄板の屋根を何枚も突き抜けながら、先ほどの大男がやってきて、剣を横一文字に振ってきた。

そのあまりに巨大すぎる剣に当たった鎖はギリギリと音を立て、火花を散らし、欠け、ひび割れながらも何とかその一撃を止めきった。

 

「ほう。もともと避けさせる(・・・・・)ための一撃だったとは言え、これを受け止めるとは…これならば、もう少しばかり力をかけても良さそうだな。」

「何っ!?ぐっ!?」

 

掛けられる力が先ほどとは比べ物にならないほどに一気に強まってくる。そして、鎖が一気に5本ほど綺麗に叩き斬られ、残り5本になる。だが、それらも速度は収まっても、一本、一本徐々に斬られていく。そして、最後の一本になったのを見て那月は、込める魔力を一際強め、一気に硬度を底上げしようとする。

 

「はああああぁあ!!」

 

怒号とともに鎖に込められていく魔力。そうして、鎖は欠けながらもギリギリのところでようやくその剣の刃を止めてみせた。それを見て那月はフッと、余裕さを主張するように笑ってみせる。

 

だが、そんな彼女を見て、セイバーもまたわずかに微笑する。

 

そして…

 

「ぬうううぅうん!!」

「なっ!?」

 

一気に今度は剣に込められた魔力の質が変わっていく。剣が燃え、一気に周囲の温度が上昇していく。そして、その熱気に当てられた最後の一本のその鎖がガチガチと音を立てながら、一気に断ち切れていった。

それを目視にて確認した瞬間、ほとんど反射に近い形で一気に距離を取る那月。

 

(この男、あり得ん。私の戒めの鎖(レージング)をただの膂力(・・)だけで斬った。)

 

この『戒めの鎖(レージング)』とは巻き付けば、第四真祖の魔力を制御することすら可能であり、巻きついている間は、異能無効化能力も発現する。それ故にその鎖はほぼ無敵と言っていい強度を誇る。ただし、いっては何だが、ただそれだけだ。異能無効化もただの純粋な膂力(・・)の前では何の意味も持たない。だが、そうだとしても、獣人のパワーも押さえつけるほどの強靭さを誇っているはずなのだ。

 

つまり、ただ純粋にこの男の膂力が強すぎるだけ…途中、魔力を纏うことで斬撃を強めてきたが、それも元々の斬撃の強さがあったからこそできる芸当。

 

「幼き姿をした魔女よ。あなたの力は素晴らしいものだ。それこそ、並みのサーヴァントを凌駕していると断言できるほどに…だが、その程度では私は止められない。もし止めたいのならばせめて、あなたの内に宿るその闇を纏いし金色の騎士を召喚しない限り、不可能と言える。

 

もっとも、それでも私を止められるかどうかはわからないが…」

 

その通りだ。と那月も考えた。正体はわからない。だが、この男は確実に自らよりも力が上だ。この場にて最高の戦力となりうるのは南宮那月か、暁古城のどちらかである以上、出し惜しみしてはいられない。なぜなら、先ほどこのセイバーに言われた通り、古城には圧倒的に経験が足りないからだ。

 

意を決して自らの力を解放しようとする。

 

だが、そんな彼女の決心を遮るようにしてセイバーがいる地点が爆発する。

 

「「「「!?」」」」

 

驚愕がその場にいる全員に一斉に走る。

一体どこからこの爆発が起こったのかそれ自体も不思議だった。だが、それよりも驚いたのが…

 

「おらぁ!!」

 

掛け声とともに間に入ってくる青い影。その影は爆煙の中にいるセイバーを正確に捉え、そこに向け突進していく。だが、土煙に紛れたセイバーはその突進からくる打突を剣により難なく防ぎ弾ききってみせる。

 

「おっと」

 

そう呟きながら、男は南宮那月一行の前へと退いてくる。

その姿に一番覚えがあるものが叫ぶ。

 

「あ、あなた、確か…ランサー!?」

「おう、さっきぶりだなぁ。嬢ちゃん。」

 

叫ぶ紗矢華に続いて、古城や雪菜もその姿に驚愕を覚え、思わず呟いてしまう。

 

「な、なんで、あんたが…」

(わたくし)が協力を取り付けたのです。古城。」

「ラ、ラ・フォリア!?協力って、え?」

 

その疑問に対する答えを一際低く、だが、妙に聞き覚えがある声が返してくる。

 

「簡単な話だ。そこのお転婆皇女様はランサーの令呪を奪い、無理矢理、マスター権を取得したんだよ。」

「なっ!?」

 

答えを返してきた男が古城たちの前に出てくる。

 

その後ろ姿には既視感と初見感の両方が詰まっていた。後ろ姿からも確認できる褐色の肌と白い髪、その光景には既視感がだが、黒いプレートアーマーと赤い外套を下の部分だけ携え、その下には黒いパンツを履き、金属の装飾が目立つブーツを装着している姿と、180は優に超えているその長身には同時に初見感を感じさせた。

男の姿を見た瞬間、一人の少女ラ・フォリアがその名を呼ぶ。

 

「来ましたか。シェロ・アーチャー」

 

誰よりも聞き覚えのあるその名を聞き、驚愕を覚えたが、同時にどこか納得した古城は次のように言った。

 

「え?あ、そうなのか。やっぱり…」

 

驚くほどすんなりと納得した様子の口調でそう言ったのだった。

それに対し、相手であるシェロ…いや、アーチャーは呆れた調子で言葉を返す。

 

「随分と呑気なものだ。あの男を相手にここまで生き延びて緊張の糸が緩んだか?もっとも、あの男はほとんど本気など出していなかったんだが…まあいい。とにかく…

 

よく生き残ったな。」

 

振り返りながらそう、わずかに笑みを浮かべてそう言った男の顔を見て、肩の力が抜けたのか、ふうと息を吐く古城。

 

「あ、あれ?」

「さ、先輩!?」

 

だが、よほどいっぱいいっぱいだったのだろう。古城は膝からがくりと地面に落ちてしまった。

それを見て、微笑を消したアーチャーもランサーと同じように目の前の敵に対して鋭い双眸を向けた。

 

「ランサー…そして、アーチャーか。ここまで随分と早い到着だったな。」

「ぬかせよ。セイバー…あんたが本気を出していりゃ、遅れてたところだ。」

「ああ、どうやらあなたからとってしてみれば、たとえ、どのような状況であれ、子供に容易に手をかけることは憚れると見える。」

「さてな。なんのことだか?」

 

とぼけた調子で返すセイバーを他所にランサーとアーチャーは声を潜めながら会話する。

 

(さて、ここは任せていいか(・・・・・・)?ランサー。)

 

そのアーチャーの言葉は普段のランサーが聞いていれば驚き目を剥くほどの言葉だった。だが、そんな言葉を受けたランサーの調子は次のようなものだった。

 

(だろうな。いまのてめえ(・・・・・・)に、あの野郎の相手は少し厳しいだろうからな。)

(別に…そのようなことはないが、こちらとしても彼らを置き去りにはできないからな。)

 

いいながら、アーチャーは振り向いて、古城たち一行の様子を見る。

自分たちの登場で精神的にはだいぶ回復しているようだが、身体的にはすでに傷だらけであり、とても戦い続けるような体をしていなかった。そんな状態を放置して戦いに行けるほど、アーチャーたちは人から離れていない(・・・・・・)。だから、自然、彼らのうちどちらかが残るという暗黙のルールが敷かれていたのだ。

 

(ま、そういうことにしといてやるよ。じゃあ、行きな。)

「何やら話しているようだな。まあ、大体会話の検討は着きそうなものだが…そして、その言葉を踏まえて言おう。

 

悪いな。ランサー。私が相手をしたいのは…」

 

言葉を途中で切りながら、男は虚空へと姿を消した。それが超高速で移動した影響により生み出された奇跡だと瞬間に理解し、それを目で追ったアーチャーとランサーの両名は瞬時に武器を構える。

 

そして、構えてコンマ1秒と経たないうちに金属音鳴り響く。その鳴り響いた先は…

 

「貴公だ。アーチャー。」

 

そう。先ほどの戦闘の因縁など顧みず、セイバーはアーチャーに剣を振り下ろしていたのだった。

 

ーーーーーーー

 

「役者は、揃ったみたい…後は頼んだわ」

 

セイバーのマスター・ローリエスフィール・フォン・アインツベルンは念話を通して、その相手に話しかける。

 

『ええ、でもいいの?これが果たされれば、本当の意味で私たちに選択の余地は無くなる。』

「今更ね。私たちはそうするべくして、この5年間を積み上げたんでしょう?」

『それもそっか……じゃあ、始めて。キャスター(・・・・・)

 

そのクラスは本来の聖杯戦争ならばすでに呼ばれない名のはずだった。なぜなら、すでにキャスターとして収まっている英霊は存在しているのだから…

だが、念話の相手である少女は黒いソファに腰掛けながら、部屋の窓側に立っている少年をキャスターと確かに呼んだのだ。

その少年は緩やかにカーブを描いた長白髪を後ろで纏め上げ、上は青いカフスボタンをつけたシャツに黒めのベストとクラバット、下を関節まで覆いそうなほど伸びたブーツと茶色いブリーチズズボンで固め、ベルトがわりにポーチを取り付けていた。

顔は端正と言っていい形をしており、優しげに緩やかなカーブを描いた青い瞳の目に白い肌。そんな特徴的な容姿をした140cm前半の少年は静かにその言葉に対応した。

 

「了解だよ。マスター。まあ、僕の力ではあるんだけど、正直な話、あまり好きじゃないんだよね。僕の理念(・・)に反している。」

「…あんたの理念を否定はしないけど、仕事はきっちりしなさい。そういう契約でしょ?」

 

少女の言葉を聞き終えたそのサーヴァントは困ったように笑うと、一つの電源コードを両手に取り、流石に目を瞑った。そして…

 

「うん。了解したよ。それじゃ……

 

宝具発動

 

『ーーーーーーー』」

 

真名が紡ぎ出され、その少年の伝説であり、半身たる異能が顕現する。

そう予感したキャスターのマスターだったが、予想に反して部屋の中には何も異常が起こらなかった。

 

そのことに不安を抱いたマスターである黒髪の女は問いただすように声を上げる。

 

「ちょっと、これ、ちゃんと起動したんでしょうね?」

「うん。したよ。目に見えないっていうだけでね。何なら見せることもできるよ?ああ、でも僕生前(むかし)から、人にモノを教えるのは得意じゃないみたいだから…もしかしたらマスターには理解できないかもしれないけど…それでもいいっていうんなら、今僕の頭の中で(・・・・)起きてることを視覚化してもいいよ?」

「……いいわ。あんたがそういうんなら、実際の話ちゃんとやってくれてるってことでしょ?それならそれでいい。」

「…随分と信用してくれるね?僕がもしかしたら、余計なことをするとか思わないの?」

「生前にはそんな記述なかったけど、『あらゆるものに平等に』それがあなたの唯一の理念でしょ?キャスター?なら、あなたはこんなことで嘘はつかない。あなたにとって、私に嘘をつくということは同時に

 

全世界の人間を平等に(・・・)騙したも同然となる。なぜなら同じ人間(・・)なんだから…

 

あなただってこんなくだらないことでそんな重荷を背負いたくはないでしょう。違くて?」

 

少年はその答えに対し、いたずらが成功した子供のような笑顔でこう言った。

 

「うん。そうだね。その通りだ。よく正解してくれたね。マスター。

 

それじゃ、本格的に始めるよー!」

 

掛け声をかけるように叫びながらも、結局のところ、その部屋にて異変が起こることはなく、平常通りにしか時は進まなかった。

それゆえ、キャスターのマスターもだんだんと飽きてきたのか、手持ちの本を読み始めたのだった。

 

だが、一人だけ、この絃神島内において一人だけ、この少年がしでかしたことをありありと見せつけられるものがいた。その人物とは…

 

「何よ?これ…」

 

絃神島における管理システムを一手に担う(彼女は自覚していないが)人間離れした化け物ハッカー藍葉浅葱だった。




いうまでもなく、オリジナルサーヴァントですよ。はい。
こいつの正体?そいつは言えないですね。一つだけ言えるとしたら、ものすごく有名な人物ですね。はい。
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