ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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長かった。いや、本当に長かった。お待たせして申し訳有りません。ではどうぞ。


観測者たちの宴 XVII

掲げた手の指を鳴らす。瞬間、切っ先を向けた剣軍が一斉に射出される。その攻撃を今度はセイバーは避けもせずにただ待ち構えるだけだった。そして、その剣軍を真正面からまともに受ける。

 

先ほどまで避けていたはずのセイバーが受ける。それはその映像を観ているものたちに否応なく残酷な場面を想起させた。剣が突きつけられたことにより起こった不可解な爆煙。その爆煙が明けた後、人々は更に驚愕することになる。なんとまともに受けたはずのセイバーの肉体には一片の刺し傷もなく、それどころか相手のセイバーはただ退屈そうに肩に手を置き、ゴキリと首を鳴らしていた。

 

首を鳴らした後、セイバーは尋ねる。

 

「デモンストレーションは終わりか?アーチャー。」

「ああ。今更ではあるが、やっておかなければ、色々とまずいのでな。」

「そうか。確かにその通りだろうな。本来ならば、最初にすべきこと(・・・・・・・・)だが、やる意味(・・・・)はあるだろう。貴公も大変だな。」

 

セイバーは心底からアーチャーに同情するような視線を送る。そんなセイバーの顔を見たアーチャーは僅かに苦々しく目を細める。

 

「…その辺りを君に見抜かれて、諭されるように言われてはこちらとしては立場がないんだがね」

「そう言うな。私としても貴公の心が分からないでもない。故に乗っただけのこと、責を負うことはない。」

 

ーーーーーーー

 

「どういうことだよ?デモンストレーション?」

 

古城は疑問符を浮かべる。それに対し、そのサーヴァントであるライダーはこう返した。

 

「申し訳ありませんが、今この場で彼が行なった『デモンストレーション』については説明を省かせてください。このような屋外ではどこに目があるか分からない。」

「……分かった。」

 

納得はできないが、とりあえず理解はした古城は、その代わりとして新たな質問をする。

 

「なあ、ライダー。あんたはあの二人の内どっちが勝つと思う?」

「…難しいですね。どちらも一つの国の歴史における頂点と言っていい実力の持ち主です。その二人のぶつかり合いと言うのは言ってしまえば二つの世界(・・)がぶつかり合っているに等しい。

 

そこまでの規模の戦闘となると、さすがに予想がつきません。」

 

誇張でもなんでもなく事実として答えているのだと言うことは古城にも理解できた。それ故、ライダーの発言を聞いた古城は一気に血の気が引いていく。

 

そして、重ねるようにして…

 

「どうなっちまうんだ?この戦い…」

 

そう呟く他なかった。

 

ーーーーーーー

 

言い終えると同時にセイバーが突貫してくる。それに対し、アーチャーは荒野に突き立った剣を抜く。そして、抜くと同時に後方に突如として現れたセイバーに向けて剣を振るう。セイバーとアーチャーの剣がぶつかり合い、辺りに火花が散る。両者の顔が近づき、目と鼻の先ほどになった後、両者が同時に離れる。

そして、離れると同時にアーチャーは自らの隣に刺さっている剣たちを抜き、セイバーに向けて射出する。その剣の弾をセイバーはコトもなげに打ちはらう。その合間を縫うようにして、アーチャーがセイバーの背後に回る。

 

「はっ!」

 

剣を振るうアーチャー。その一撃をセイバーは僅かに跳ぶことで躱す。だが、それを待っていたと言わんばかりにアーチャーが手に持っていた剣を捨て、もう片方の手を掲げる。掲げた手の先、中空には夥しい数の剣が存在し、地面へ突き刺さろう時を今か今かと待ち続けていた。そして、剣が落ち、セイバーの背中に向けて射出されていく。

 

空を切る剣たちはセイバーの下の地面にも突き立ち、そして、剣がセイバーの背中に近づいていくと同時に辺りは砂埃に覆われる。

少しして、砂埃が段々と収まっていき、流れていく沈黙。だが、アーチャーは油断せず、丘から剣を抜く。そして、僅かに聞こえる風切り音を聞き、アーチャーはそこに向けて剣を構える。

するとその場所を狙っていたかのようにセイバーの大剣が横振りで迫り、アーチャーの剣と衝突し、激しい金属音を立てた。剣圧は大地を死の風で抉り、ギチギチと両者の鍔迫り合う音が辺りに響く。力負けすることを確信していたアーチャーはそこから流れるようにして上体を倒し、そこからバク転することで距離を取ろうとする。だが、そのアーチャーの動きを正確に予知したセイバーは剣を持たない左手をアーチャーへと向ける。そして、その指をクイッと手招きするように上げた。

 

「!!」

 

アーチャーはセイバーの方を振り向いてはいない。だが、彼は自らの背筋に冷たいものを感じ、その本能に基づき、バク転する自分の体の回転を速め、更に遠ざかっていく。

瞬間、彼の足が離れていく場所に次々と火柱が立ち上がっていく。火柱を避けていくアーチャーの足は止められない。だが、わずかにアーチャーの速度が火柱よりも上回ったときを見切り、剣を数本投影しながら大きく跳躍し、それらを自分が踏んでいたであろう場所へと投擲する。地面が赤く燃え、盛り上がり一気に吹き出そうになった瞬間にその剣は地面へと突き刺さり、その盛り上がりに対し、栓をするように突き立っていく。そして、剣が刺さったことにより抑えが効かなくなった地面の盛り上がりは破裂、爆発し、辺りを爆煙で覆ってしまう。

 

その爆煙を目くらましにアーチャーは弓を手に持ち、剣を投影し、捻れさせ、矢へと変貌させながら即座に弓へと番え、狙いを定める。

 

そして、射出する。射出されたその矢は煙を丸く抉り取り、視界を明瞭にしながら、セイバーの元へと迫る。

 

「ぬっ!?」

 

セイバーは持ち前の常人離れした聴覚により耳に届いた風切り音を聞き、警戒を露わにする。そして、爆煙が晴れるとほぼ同時に目の前まで迫ってくる矢に対して、彼は大剣の切っ先を合わせる。合わせられた両者の武器は示し合わせたかのように衝突する。爆音は鳴らず、ただ剣同士の衝突の時のみ起こりうる火花が辺りに散っていく。

 

(これは…強烈だ!)

 

セイバーの強化された筋力でさえ、その一撃は強力なものだと感じられるほどのものだった。それ故、セイバーは無理に受け切ろうとはせずに、その矢の一撃を後方に回すようにして受け流した。

その様子を意外そうに目を向きながら見つめるアーチャー。そんなアーチャーを見たセイバーは挑発するように言葉を告げる。

 

「…何を驚いている?アーチャー。受け流すのは何も貴公の専売特許というわけではない。武を極めるとは、すなわち己の力の在り方、位置を見極めることでもある。故に、力の流れを見極められずして武を極めたなどとは言えん。『力』に対し『力』で返すのも英雄。だが、『力』に対し『技』、そして『知略』で返すのもまた英雄というものだろう?アーチャー?」

 

そんなセイバーの言葉に対して、アーチャーは言葉を返す。

 

「なるほど、その通りだな。失敬したセイバー。だが、一つ訂正させてもらおうセイバー。俺が驚いたのは何も君が受け流したからというだけではない(・・・・・・・・・)。」

 

その言葉を聞き、怪訝そうに眉を顰めるセイバー。

 

「君なら気づくかと思ったんだがね。矢とは、射出された後、絶対に中空で動かすことはできない。それはどのような弓兵であれ、当然の帰結だ。

 

精々が、風と相手の動きの流れを読んで魔力か矢羽根に仕掛けをして、ホーミング弾のように曲がらせるしかない。」

 

ーーーーーーー

 

そんなこともなげに話しているアーチャーの言葉を聞いた紗矢香の反応は次のようなものだった。

 

「いや、それ、弓の絶技の最奥なんですけど!?」

 

普段から弓を使っている彼女だからこそ分かる。今、彼が言ったことがどれだけとんでもないことなのかということなのか、それ故、彼女にしては珍しくつい口に出して叫んでしまったのだった。

 

ーーーーーーー

 

そんな彼女の反応など、映像越しにいるアーチャーが気にするはずもなく、話を続けていく。

 

「だが、何事も例外はある…とだけ言っておきたかった。」

「…?何を?…っ!!」

 

悪寒が走る。そして、その感覚を頼りにセイバーは後方へと剣を振るう。

すると、そこには先ほど自分に向かってきた矢がこちらへ向かい自分の命にさし迫ろうとしていた。その矢とセイバーの剣が衝突する。

 

先ほどと同様に火花が散り、閃光と化すまでになり、一帯を白く覆う。

 

(くっ、これは…先ほどの矢か。自動追尾型…それでこれほどの威力の出せるのか。厄介な…)

 

セイバーは思考を早める。だが、そんなセイバーの様子など知った風ではないかのようにアーチャーは次の矢を違える。その様子を傍目で確認したセイバーは不相応にも口角を吊り上げる。

 

「私も一つ言っておこう。アーチャー。気づいていると思うが、私の剣は焔を操る。」

 

アーチャーが弓の弦を引き、魔力を溜める。その所作は彼の黒弓の宝具の能力をそんな光景を見ながらもセイバーは不敵に微笑みながらも、矢を弾く。

 

そして、不敵に微笑んだその顔からその言葉は出た。

 

「一つ聞くが、私の焔があの程度で前進を止めるとでも?」

「!!」

 

そこでアーチャーは気づいた。自分の立っている地面が先ほどよりもはるかに広範囲で赤く盛り上がっていることに…だが、アーチャーはそれに気付きながらもセイバーへ向けて矢を放つ。その真名は『赤原猟犬(フルンディング)』その矢を弓により二段階強化したものだ。これは先ほど放っていた矢と同じもの。それ故にセイバーに当たれば先ほどと同様の威力と効果が見込める。

だがその矢の行方を確認することはできない。アーチャーが矢を放った瞬間、天を突くほどの火柱がそこに顕現したからだ。

火柱は広がることなくただ一点に集中し、その高さを上げていく。

 

セイバーは火柱が上がっていく様子を確認すると同時に、自らに向かってくる二矢に対して大剣を構える。殺気が充満し、映像越しにいる絃神島の住人たちでさえ息が苦しくなるほどのオーラが放たれる。そして…

 

射殺す百頭(ナインライブズ)

 

セイバーがそう言うと同時に、剣を振るう。はたから見れば、それは一振りにしか見えない一撃。誰がどう見たところでセイバーがやったことはただ、剣をど真面目に一撃振るってるようにしか見えなかった。だが、その空中にて起きた現象が断じてそのようなものではないことを見ているもの達に暗黙の内に報せた。

先ほどまで、セイバーのところまで迫っていた、剣が捻れたような形をした矢。その矢二本が、まるで咀嚼されていく果物のように、粉々に砕かれているところを、島の住人たちは、まざまざと見せつけられたのだ。

 

ーーーーーーー

 

「何だ?今のは…?」

 

百戦錬磨と言っていい実力者である南宮那月でさえ、その光景には驚愕を隠せなかった。

 

意味がわからなかった。ただ地面へとまっすぐに振られていた大剣が一振り振られた瞬間、空中にあった矢が一瞬にして粉々に砕かれた。不可思議に過ぎる。

 

「…まあ、ありゃ英霊でも強者に分類されるヤツがようやく見える程度の攻撃だ。そこまでショックを受けることじゃねえよ。」

「!?…ランサー、あなたみえたの?」

 

那月と同じく今起きた現象について理解が追いつかなかったキャスターがランサーに問いかける。

 

「おう、オレは槍兵だからな。これでも全サーヴァント中最速を担う身。少なくとも速度という分野で出し抜かれやしねえよ。

 

ありゃぁな。九撃入れたんだよ。」

「入れた?…まさか…」

 

「ああもちろん、攻撃を(・・・)な。」

 

信じられないと言った表情で那月はランサーの顔を見る。

 

「まあ、俺の方も九撃入れたということが分かっただけで、正直な話、防ぎきれるかどうかは半々ってところだ。そんな気にするなよ。」

 

そう言うとランサーは再び、ビルに貼り付けられた巨大モニターへと目を向けた。

 

ーーーーーーー

 

天高くまで伸びきった火柱は段々とそのなりを納めていく。その様子をセイバーはジッと観察する間、不意に頭の中に声が響く。

 

『どう?セイバー。仕留めたかしら?』

 

それはマスターであるローリエスフィールの念話だった。彼女は余裕綽々といった様子の声で自らのサーヴァントであるセイバーに念話で尋ねる。

彼女は疑っていないのだ。自分のサーヴァントであるセイバーが負けることなどこれっぽっちも…

 

『すまないが、マスター。それは期待できんな。私は彼の英霊としての格はともかく、実力そのものは非常に高く評価している。

 

あの男のことをよく知っている(・・・・・・・)が故にな。

 

あの男は決して無茶な攻め(・・・・・)をするタイプの戦士ではない。』

 

すると、セイバーは顔を上げて目を細める。その視線の先には…

 

『…見るといい。マスター。』

『……?』

 

訝しみながら、彼女は視界のリンクをセイバーと繋げる。セイバーの超視力の影響で突如、望遠鏡を覗き込んだような奇妙な乗り物酔いのような現象が起きたが、そこは問題ではない。問題は…

 

その上空遥か20キロメートル先にて弓を構える戦士・アーチャーが服は焦げ付きながらも未だ体が無傷の状態でこちらを見つめ続けていることだ。

 

『なっ!?』

 

ローリエスフィールが絶句すると同時に彼女はアーチャーの弓から矢が放たれる瞬間を見た。それを確認したセイバーは視界のリンクを切り、その数秒後、自らの目の前にまで迫った矢を大剣で大地に弾き飛ばす。

 

「その距離から私を寸分たがわず狙ってくるか…面白い!」

 

猟奇的な笑みを浮かべ、セイバーは片手を大地にかざすように突き上げる。すると、彼の手に応対するように大地は盛り上がり、火柱が遥か上空にいるアーチャーに向けて放たれる。

 

「ちっ!」

 

上空で舌打ちをしながら、空中で翻ることでその火柱を躱す。だが、その先にまた火柱がアーチャーを仕留めようと、ふき上がり、近づいて来るのを見た。

 

(さすがはヘラクレスと言うべきか。弓の技量も他を抜きん出てる。俺の行く先を正確に予測し、火柱を矢に見立てて突き上げてくるとは…しかし、何が『焔』だ。そのようなチャチなものではあるまいに…)

 

火柱を確認すると共に矢を番え、昇ってくる火柱に向けて放つ。

 

放たれた矢は火柱を一気に突き抜け、地上へと下っていき、地面に衝突すると、爆風と砂塵を巻き上げながら強烈な爆発を起こす。

 

「ぬっ!」

 

視界を砂塵に覆われたセイバーは心の中で舌打ちをする。

 

しばらくして、砂塵が晴れると、セイバーは予想通りすぎる光景に思わずまたも舌打ちする。まるで道を開けるように開けた大地が申し分程度に遥か彼方まで設けてあり、その側面には死の壁とも言うべき、密集した剣の軍団が数万本と佇んでいた。

 

宙に浮いたその剣軍。それらを操るアーチャーは落下しながらも、両手をそれらを招くように掲げ、パンと掌同士を併せて叩く。

音が世界に響き渡り、剣は一斉にセイバーに向けてまるでギロチンのように規則正しく放たれる。その光景に島の者たちは思わず目を背ける。

誰もがこう考えたのだ。セイバーと呼ばれたあの巨漢は確実にその命脈を断たれたのだ、と…

だが、それを確認していたアーチャーはそんなことを信じず、剣軍が突き刺し会うことによって出来上がったその歪な壁に視線を向けていた。

彼はわずかに耳をピクリと動かす。他のものには聞こえなかったのかもしれないが、サーヴァントである彼にはその音(・・・)が聞こえたのだ。

 

「ようやく使ったか…」

 

アーチャーが地上にふわりと着陸する。すると、呟きに示し合わせるように壁が内側から破裂する。その光景は一度見てはいるもののまだ慣れないのか、アーチャーはわずかに顔をしかめる。しかめた顔の視線の先には相対していた巨漢が土煙を纏いながら出てくる。

だが、纏うものはそれだけではなかった。肩から腰にかけてタスキのようにかけられた布が纏われていたのだ。その布は紋様はないが、黒塗りされたその布をはみ出るようにして側面に毛皮が生え、言いようのない荒々しさ感じさせる装飾をしていた。

 

「それが…ネメアの獅子の毛皮か。よく加工されているな。」

 

解析を始めようとしたアーチャーだったが、解析はできなかった。どころか、その魔術を使った瞬間、電気ショックのような弾き返す衝撃がアーチャーを襲った。その様は彼が行う人の身の(・・・・)魔術を拒絶するかのようだった。

 

(なるほど、アレが否定しているのは『人理』。すなわち、人の身でしか起こせない事象をこそあの皮衣は否定する。)

(まあ、予想でしかないが、つまり人の要素が存在する限り、俺の攻撃は絶対に通じないと言うことだろう。)

 

だからと言って、彼は決して絶望などはしない。なぜなら、あの宝具が絶対に攻撃が通じず、斬りつけられもしないと言うのならば、まず、あの宝具の存在自体が矛盾を生む。

なぜなら、アレはすでに皮衣(・・)となっているからだ。生きている獣を持ち歩いているのではなく、皮衣も持ち歩いている。ということは、その過程でかの大英雄は加工するために何か特殊な刃物で(・・・)皮を剥いだにに決まっているのだ。そうでなくては、皮衣などができるはずがない。

 

(確か、ネメアの獅子を加工する際使われたものは『ネメアの獅子の爪』だったはず。

 

ネメアの獅子とはそもそも、怪物に変異した女神エキドナと全ての怪物の父とされている神テューポーンの子供と言われている。…最も、父の方は

テューポーンとエキドナの子供であるオルトロスという説もあるが……まあ、どちらでもいいか。

 

となると、神々に連なる何か、それかそれに近い概念に対してあの皮衣は弱い確率がある。さすがに、『獅子の爪しか効かない。』というのは無茶のある概念だ。歴史とは長いものだ。『獅子の爪』に似通った概念を持つものが必ずあるはずだ。その概念を見つけ出すことができれば優勢に運べるだろう。

 

最もその歴史そのものを否定するのがあの皮衣だと言われてしまえば、ぐうの音も出ないが…やるしかあるまい)

「来ないのか?アーチャー。ならば、今度もこちらから行かせてもらうだけだが…」

 

セイバーの挑発に対して、アーチャーは口の端を釣り上げながら告げる。

 

「いや、次はこちらから行かせてもらおう。」

 

背後に剣を召喚し、手にはよく馴染んだ双剣を手にアーチャーは地を駆ける。自らの勝機を探るために…

 

ーーーーーーー

 

「フフ、いやはや、これは痛快だネ。これほどの戦い、おそらくは真祖同士の激突と等しいかそれ以上と言えるだろう。」

 

心底愉しげな口調で喋る男の名はディミトリエ・ヴァトラー。彼は現在、高級ホテルをその階層ごと借りきり、その中の一室にてキャスターの傷を療養している真っ最中だった。最も彼自身の傷はすでに塞がっており、問題なく動けるまでになった。だから、彼は現在自分の身体の中に蓄積されている疲労感を回復させるために療養を行なっていると言える。

 

「しかし…ヴァトラー様」

 

と、ここで従者であるキラが声をかける。

 

「なんだい?キラ?」

 

機嫌がいいヴァトラーはその声に対し、嬉々として答える。その対応に内心安心したキラは質問する。

 

「先ほど彼らが言ってた言葉、アレは本当なのでしょうか?」

「言葉、とはどれのことかな?」

「彼らの名前のことです。」

 

それについてヴァトラーはああ、となんとなしに答える。そして、彼は言葉を続ける。

 

「アレは多分真実だろうネ。」

 

などと、特に間をおかずに言ってきたのでキラとそしてその隣にいるジャガンまでもが驚いた。

 

「失礼ですが、そのように簡単に信じてよろしいのですか?」

「信じるも、何も。君たちだって本当は分かっているんだろう?あの言葉はハッタリやごまかしなどでは断じてない、とネ。」

「っ…!」

 

そう言われたキラは押し黙ってしまう。ヴァトラーの言葉に対して歯噛みした訳ではない。ただ、彼は自分でも感じていたその確信に近い予感を信じきれずにヴァトラーに質問した己の愚劣さに憤ったのだ。

 

「なに、気にすることはない。こうは言ってるけど、僕とて未だに半信半疑なんだ。ただ僕たちは既に見てしまったからネ。あの男たちのあの苛烈なまでの戦いを……」

 

ヴァトラーの言葉は続く。

 

「あんな戦い方が出来る者たちが今まで無名だったとは考えにくい。…だけど、彼らがもうこの世にはいない死人だったと言うのならば話は別だ。

 

なぜなら、僕たちは見ていないからだ(・・・・・・・・)。彼らの戦い方も素性も…ネ。」

 

と、ここで一息置いたヴァトラーはクックッと喉を鳴らすように笑い始める。

 

「嬉しそうですね。ヴァトラー様。」

「それはそうだよ。ジャガン。彼らの戦いが放映されてしまった以上、世界の情勢は大きく変わる。それだけの影響力がある実力(チカラ)真名()が出されたんだからネ。となれば、思ったよりも早くに僕の望みに届くかもしれない。」

 

ヴァトラーの望み、それを側近であるキラとジャガンの二人はよく分かっている。なのでそのような分かりきったことは言わずに黙ってヴァトラーの後ろに立っていた。

 

「ふふ、さて、どんな風に変わるのかな?世界は」

 

再び沈黙が部屋を覆う中、彼はそう言って先ほどと同じように愉しそうに笑うのだった。だが、そんな彼の笑みは少しした後にわずかな翳りが見せる。自分たちが見ている戦いが思わぬ不完全燃焼を迎えてしまうために…

 

ーーーーーーー

 

「これで大分、君たちの望みに近づいただろう?マスター。」

「ええ。これが吉と出るか。凶と出るか。それは分からないけどね。」

 

キャスターとそのマスターはソファに座り、リラックスしながらも、会話を続ける。

 

「それでマスター。この放映の方はどこまで続ければいいのかな?正直な話、あんまり長い間放映し続けるのは愚策(・・)でしかないと思うんだけど…」

「そうね。だけど、これが一番最短の道筋のはずでしょ?危険は伴う。けれど私達が取り戻す(・・・・)ためにはそれくらいの危険は考慮しなければならない…でしょう?」

「まあ、そうだけどね。僕が言っているのはそのことだけじゃなくて……っ!?」

 

不意にキャスターが口を閉じる。それを訝しんだキャスターのマスターはソファにもたれながら質問する。

 

「どうしたの?キャスター?」

「……すごいね。彼女(・・)。僕は宝具まで使っているというのにそれをコンピュータと自らの技量のみでひっくり返そうとしてる。」

「…?何を言って!?」

 

言っている意味がわからず、首をかしげるキャスターのマスター。

それに対し、いとおかしと言った風にまるで他人事のように笑いながら、こう言った。

 

「いやぁ、あははは、実は最初からこの島のプログラミング任されているモノなのかもしれないんだけど、その子がこっちに対し猛攻撃しているんだよ。」

「なっ!?」

 

予想外のキャスターの受け答えに思わず声を跳ね上げる。

 

「なんとかならないの?キャスター!?」

「そうしたいのは山々なんだけどね。状況で言うのならばこっちが有利だけど、条件的に言うのならばあっちの方がはるかに有利なんだよね。これが…」

「条件?」

「もちろん、勝利条件のことだよ。マスター。」

 

今更になってとんでもなく重要なことをさらりと言ってのけるキャスターに目を剥きながらマスターである彼女は怒鳴る。

 

「ちょ、どう言うことよ!?それ」

「落ち着いて、マスター。いかなる時も優雅(・・)にだろう?」

 

未だに悠長な調子で会話を続けるキャスターにさらに頭の血が上りそうになるが、それでも懸命に優雅に徹しようと息を吐く。

 

「で、どういうことよ。勝利条件って」

「うぅん。マスターのことだからもうとっくに気がついてるのかと思ったんだけど、単純な話だよ。

僕はこの場にて任されているのは今この場にて、この島の全情報源の制圧だろう?

けどあっちは違う。あっちは制圧なんてしなくても勝利できるのさ。例えば……あ…」

 

言葉尻になって不意に小さく声を上げるキャスターに猛烈に嫌な予感がしたマスターは恐る恐ると言った調子で尋ねる。

 

「…どうしたのかしら?キャスター。まさか……」

「あぁぁはははは……ごめんマスター。勝たれちゃった(・・・・・・・)。早いところここ撤収した方がいいよ。やりたいこと(・・・・・・)があるなら早めに済ませてね。さすがに時間はそうないと思うから…」

「なっ!?」

 

ーーーーーーー

 

「ハァハァハァ…ハアァ…」

 

浅葱は最後に大きく息を吐いた後、全身から吹き出した汗を拭いもせずに椅子にもたれかかる。

 

『お疲れさん。嬢ちゃん。』

「ええ…正直、ハッカーとしてこんなに苦戦したのなんて初めてだったわ。」

『ああ、俺も驚いちまったぜ。まさか、こんな色気もクソもねえ所で、嬢ちゃんの艶姿が見れちまうなんてよ。』

「……モグワイ?」

 

疲労しながらも聞き捨てならないそのAIのセリフににっこりと極上の笑顔で返す浅葱。そんな彼女の姿を見ると、彩海学園の制服のベストは脱ぎ、シャツのボタンは胸元が見えるギリギリまで解き、その全身は汗にまみれており、シャツは半ば半透明の状態になり、肌が出ている部分からは汗の雫がポタポタと床に落ちている。充分に艶姿と言っていい風体をなしていた。

 

『あぁぁ、ゴホン。ま、良かったじゃねえの。無事に勝ててよ。』

「…それ、本気で言ってるの?モグワイ。」

 

殺気が出かねないほどの目付きで聞き返す浅葱に、それを受け流すようにモグワイは返す。

 

『おう。確かにまあ、勝利条件そのものは対等じゃなかったかもだが、それでも勝てたじゃねえか。』

「そりゃぁね。あっちは全情報源の制圧をし続けるのに対して、私達は居場所を報せる(・・・・・・・)だけでいいんだから、これで勝てなかったら、飛んだ二流ハッカーよ。」

 

彼女が行ったのは次のようなものだった。現在正体不明の敵は全情報源の制圧を行なっている。これをし続けなければまずもって、全映像機器の制圧など不可能。この敵はハッカーではないとはいえ、情報源の制圧を行うためにダミーの拠点を作るなど相当に頭が回る。だが、浅葱はそんなモノをものともせずに突き進んだ。だが、その間の壁があまりにも酷すぎた。

今一度いうが、敵は全情報源の権限を奪取したのだ。

要するに、その“壁”とは日常、島民が使うために非常に重要なプログラミングだったり、もしくは超がつくほどの機密情報だったりなどと非常に悪意に溢れていたのだ。もちろん彼女の腕ならばその復元など容易くこなせる。が、一度完璧に消去して突き進もうと思ったところ、そこからまた別の情報が溢れ出てきたり、別の情報が消えたりしたのだ。

 

権限を握っているにしては雑な扱いではあるが、元々敵にとって情報が消えようが奪い返されようが、どうでもいいということだろう。切り離せば痕跡そのものは残らないのだから…

 

それに加えても、どう考えてもプログラミングの領域を超えているが、この分だと島中の全情報を消去し尽くさなければならなくなる。漠然的にそんな予感を察知した浅葱はその壁一つ一つに対し、超高速でどこまで情報を消去できるかを考え、その法則性を握った後に専用ソフトを作り上げた。ここまでかかった時間は合計で1時間。

そして、今度はその情報ひとつひとつに対し、マーキングをすることで足跡をつけておく。これで位置情報を割り出せるという仕組みだ。

 

「相手はこっちから奪った情報っていうメリットがあったにしても、あんな悪質なプログラムもう二度と相手にしたくないんだけど…」

『けど、リベンジはするんだろう?』

 

ふん、と不遜に鼻を鳴らした浅葱はこう返す。

 

「当たり前よ。私自身が納得してないんだから」

『そうかい。ま、頑張れよ。嬢ちゃん。』

 

ーーーーーーー

 

ブツン、と電源が切れ、映像と電気機器の光が切れ、また島中が闇に覆われていった。

島民全員が騒ぐ。その様子をビル屋上で見ていた古城一行にとってもまた予想外のことだったため、彼らは次々に口を開く。

 

「な、なんだ!?」

「一体何が?」

「分からないわ。また敵。」

「その可能性も十分あると思うよ。気をつけて!」

 

口々に警戒の念を押すように口を開く古城、雪菜、紗矢華、優麻。だが、その中で最も幼い外見をした少女は何か察したように目を細めて言葉を返す。

 

「いや、これは違うな。おそらく、その逆だろう。」

「逆…とは?」

「分からんのか?つまり、敵を迎撃したと言うことだ。」

「ほう。それは大したものですね。我々、サーヴァントの宝具に対し迎撃をしてのけるとは…もしや、なんらかの能力持ちですか?」

 

ライダーにそう問われた那月は実になんでもない(・・・・・・)と言う風に…

 

「いや、ヤツにはそんな能力などは何一つ備わっていない。」

(見かけだけ見れば…な。)

 

と返したのだった。

 

ーーーーーーー

 

何合目の衝突か。音速などはるかに超えた領域で戦う両者には腕の軌跡などすでになく、ただ刃同士が衝突し合う金属音が響き渡るのみだった。

 

((強い。))

 

それが両者全力を出し合った際の感想だった。

 

(剣技そのものと膂力では私の方が確実に格上。だが…)

(剣を兵として動かす戦略、手数ではこちらが上。それ故に…)

 

((互角!!))

 

セイバーとアーチャーの戦闘は未だ膠着状態であり動く気配がまるでなかった。

だが、そんな膠着状態は思わぬところで決壊する。

 

不意にセイバーが目を見開き、攻め立ててくるアーチャーを剣で押し返しながら、地面に足を引きずらしながらブレーキをかける。

 

『どうした。マスター。』

『撤退よ。セイバー。どうやら、キャスターの方がしくじったみたい…』

『……了解した。今すぐ撤退する。』

 

名残惜しそうにアーチャーを見返したセイバーは静かに構えを解いた。

 

「残念だが、アーチャー。戦いはここで終わりとしよう。」

「…何?」

 

構えと警戒を解かずに怪訝そうに質問を返すアーチャー。

 

「マスターの命令でな。これ以上は戦えん。」

「勝手なことだ。俺がこのまま逃すとでも…」

「このままやり合えば、3日ほど経ってようやくどちらかが勝つといったところだろう。

 

……いや、言いたくはないが、そうなって仕舞えば、マスターの差が露骨に出てくる戦いとなってくるだろう。一つ聞きたいのだが、アーチャー。最初に溜め込んでいた魔力、アレはどれだけの貯蔵がある?精々が2日分、それ以上は溜め込めていないのではないか?」

 

その言葉にアーチャーは苦々しく目を細める。そう。そのことは誰よりもアーチャーがよく理解している。だからこそ、看破されたことに顔を歪ませたのだ。

 

「ならば、アーチャーよ。この戦いは一時休戦。後日、改めて勝負を申し出たい。むず痒いことを言うようだが、貴公とは正々堂々と勝負をつけることを望む。」

 

言葉を聞き、静かに目を閉じる。そして数秒が経つと、アーチャーは一気に力を抜いた。すると、今まであった退廃とした赤い空が一気に夜の闇に覆われ大地は荒野から氷の大地へと変わった。

 

「感謝する。アーチャー。」

「感謝など述べるな。セイバー。だが、もしも、感謝を示したいと言うのならば俺の質問に答えてもらおうか?バーサーカー(・・・・・・)?」

 

突如として変わった呼び名に対し、セイバーはさして驚きもせず、覚悟をしていたと言う風に顔をしかめた。

 

「その様子。どうやら、俺の勘は当たっていたと言うことでいいか?」

「……ああ。その通りだ。アーチャー。この身はセイバーであり、そしてバーサーカーだった(・・・)ものだ。」

「やはり…か。本来ならばサーヴァントは過去に起こった聖杯戦争の記憶など記憶してはいない。だが、記録(・・)には残る。この星で起きた事象として記録には…な。おそらくだが、セイバー。貴様はバーサーカーだった記録を持っているのだろう?

 

おそらく、令呪(・・)によって持たされている(・・・・・・・)。そうでなければ…」

 

そこで一際殺気を強め、拳を握り、視線を鋭くする。

 

あの名(・・・)は絶対に言わなかったはずだ。」

「……。」

 

今度はひたすら沈黙で返すセイバーに対し、立て続けに言葉を重ねるように述べていく。

 

「随分と…奇特なマスターだな。セイバー。たかが、そんなことだけのために令呪を使うとは……」

「………。」

「無駄を嫌う魔術師らしくもない。それとも、そうしなければならない(・・・・・・・・・・・)理由でもあったのか。その辺りはどちらかとは思うがね。」

「…………。」

「…なんとか言ったらどうかな?今更、沈黙することになんの意味がある?」

「…ローリエスフィール」

「なに?」

「それが我がマスターの名だ。アーチャー。」

 

沈黙を貫き続けたセイバーはそう言うとアーチャーに背を向ける。

いきなりマスターの名を言われて訝しんだアーチャーだが、その姿を見て、これ以上行っても仕方ないことを察し、口を噤んだ。

 

「ではな。アーチャー。貴公の討伐は我がマスターにとっても重要なことだ。それ故、この戦争がどのような結末になったとしても、貴公とは必ず決着をつけることをココに約束しよう。」

「それは最初の方に言っていた八つ当たり(・・・・・)に関係があるのかね?」

「さてな、その辺りは自分で考えるといい。」

 

そう言うと、セイバーは霊体化し、自らの体を魔力の霧へと変えてその場から姿を消し去った。

 

アーチャーは誰もいない氷が広がった孤島に尻をつけて座り込む。その時に思い出すのは。あの粉塵にまみれた工場での一戦での一言だった。

 

ーーーーーーー

 

『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』

 

 

ーーーーーーー

 

紛れも無い最強の大英雄から漏らされたその言葉がアーチャーの頭の中で木霊するのだった。

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