ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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お久しぶりです。いや、結末まで自分の頭の中で浮かんでいても、時間がないというのはどうしようもないことがわかりました。はい。ではどうぞ。


錬金術師の帰還II

買い物がだいぶ進み、最後はランジェリーショップに入ると言うこともあり、古城とシェロは二人揃って外で待つこととなった。なったのだが…

 

 

「……。」

「……。」

 

外の日傘が立つ席、その空間は今、ただひたすらに沈黙に包まれていた。気まずい。別に焦るようなことはもう何もしていないし、話についてもいつのまにか華やかなお花の話にすり替わっていたので、何も気にする必要はないはずだ。だが、気まずい。

自分自身がタブーに少しでも触れようとした気持ちが原因なのだろうということは分かっていた。だからこその責任感などを感じてしまい、口を動かさずにいたのだ。手に汗が滲み、その手を開閉することで、落ち着け、落ち着けと心の中で命じ続ける。

そして、心の中で命じながら、先ほど買ってきた缶コーヒーをゆっくりと口に含もうとする。すると…

 

『マスター』

「っ!?ごほっ、ごほっ!!」

 

突如として、頭の中で響き渡る声に慌てて、口の中に含もうとしたコーヒーをわずかながら地面に戻してしまう。それを不審がったシェロだが、古城は、大丈夫だと言って、制して、頭の中での声に応対する。

 

『……なんだ。ライダーか。びっくりさせないでくれ。』

 

その相手は自分の使い魔(サーヴァント)ということになっているライダーという男だった。突然、頭の中で声が鳴り響くものだから、慌ててしまったが、すぐに落ち着きを取り戻し、フードに付いているポケットに手を突っ込みながら、平常を保って会話を続けていく。

 

『何だよ、いきなり?こっちの状況を見れないわけじゃないだろ?』

 

責めるような口調で古城は、頭の中に響くライダーの声に対して語りかける。それに対して、ライダーはわずかに申し訳なさそうに言葉を詰まらせながら、言葉を続けて行く。

 

『申し訳ありません。ですがマスター、一度、そちらへと向かってもよろしいでしょうか?』

『はっ?なんでだよ?』

 

突然の提案に思わずと行った調子で古城は尋ね返す。それはそうだろう。今までの様子からして、とてもではないが、人が話せる空間でないということはライダーとて分かっている筈だ。

以前まで古城はライダーに護衛については止めるよう頼んだが、現在は、距離を取りながらもライダーの護衛が付いている。理由は、先ほどテレビでもやっていたあの戦いにある。アレは自分とサーヴァントとの間に明確な差があることを十二分に理解させてくれた。それはもちろん、雪菜の方も感じていたことだった。

 

そのため、事件が終わってしばらく経った後に、雪菜からこんな声をかけられてきたのだ。

 

ーーーーーー

 

『先輩。今、ライダーさんはここにいますか?』

『?いや、いないが…』

『そうですか…では、これからは必ずライダーさんをそばに置いてください。』

 

突然の雪菜の言葉に古城は驚いて目を剥く。だが、古城のそんな顔を横目で確認しながらも、雪菜は無表情を貫いたまま、言葉を続ける。

 

『先輩も見ていたでしょう?これから、聖杯戦争が激化していくにあたり、先輩の命が狙われる可能性は格段に高くなっていきます。』

『そ、そりゃ、それくらいのことは予想がついてたけど、いきなり、なんで……』

『とにかく!これからはライダーさんをそばに置いておくように!分かりましたね。先輩。』

『あ、ああ。分かった。』

 

前のめりになりながら、有無を言わさぬ口調でこちらをじっと見てくる雪菜の様子に、古城は少し上体を反らしながら、思わず頷いてしまった。その半ば強引とも言える雪菜の様子に圧倒されてしまったのだ。雪菜はその古城の様子を確認した後に、スタスタと先に進み、古城は、その後を追うように慌てて駆け足で歩き出し、帰路へとついた。

 

そして、古城はライダーに事情を説明し、ライダーはその経緯からの古城の申し出に半ば安堵しながら了承した。

 

ーーーーーー

 

と、こういった事情から現在、古城はライダーを連れ歩いてるのだった。

当時の様子を思い浮かべながら、古城は今疑問に思ったことを念話の中で口にした。

 

『姫柊の様子に圧倒されちまったけど。なんだか、あの時の姫柊、随分機嫌が悪かったような…俺、なんか悪いことしたかな?』

『…いえ、彼女が苛立っていたのはそう言った理由からではないと思いますよ。』

『え?』

『ああ、なんでもありません。』

(彼女は、今まで自分が暁古城を守っていくと考え続けていたはず…そこに、サーヴァント(我々)のような存在を見せられ、そして、同時に、自分の無力さを痛感する。それは耐え難いほど苦痛だったことでしょう。だから、彼女は苛立っていた。なによりも自分自身に対して…)

 

その感情を正しく理解しているライダーは雪菜に対して同情の念が禁じ得なかった。いくら、今は強力な力を振るえる英霊だからと言って、ライダーとて元は人の子。無力感に苛まれることがなかったわけではない。

 

(いえ、今はそれよりも……)

『マスター。先ほどの話の続きですが……』

『ん?あ、ああ。そうだった。なんだってこっちに来たがるんだよ?ライダー。』

『それは…』

 

戸惑うように語尾を弱めるライダーにますます不審に思い、眉を顰める古城。だが、少しすると、決心した様子もなく、ただ理路整然と…

 

『今のうちに、そこにいるアーチャーと話しておきたいことがあるのです。』

 

と答えた。その言葉に対して古城は驚く。理路整然に述べられたこともそうだが、アーチャーと話しておきたいというのにも驚いた。いや、別に何もおかしいことはないのだが、現在、古城たちはショッピングモールを歩いている。そんな場でライダーが隣の男であるアーチャーと話したがるとは思えなかったのだ。なにせ、以前、アーチャーとセイバーの戦いが終わった後…

 

『ん?そういえば…』

『?』

 

なにかを思い出したようにポンと掌を叩く古城。

 

『いやさ、そういや、前のあの戦いの時にあんた言ってただろう?あの戦いが終わった後に、シェロがやった行動(・・・・・・・・・)の意味を教えてくれるって…』

 

行動、とは、シェロがセイバーと再度衝突しようとした時、シェロはなぜか、今までセイバーが避け続けるような攻撃ではなく、受け切っても特に問題がないような攻撃を仕掛けた。いや、まあ、そもそも剣を体で受け切って、なおも無傷な体というのがすでに異常なのだが、だが、それでも避け続けていたということは少なくとも、セイバーはそこまでの攻撃に脅威を感じていたということだ。つまり、そもそもとしてシェロがあのような行動をすることに意味などないのだ。と考えていたのだが…

 

『ああ、そのことについてですか。もう、随分時間も経っていますし、念話をジャミングしようなどというモノもいないのでしょうが……』

 

思い止まるように段々と語尾を弱くしてしまうライダー。その様子に対し、古城は覚悟を決めるようにスッと背筋を伸ばし、次に来る言葉を待つ。

やがて、ライダーが静かに重々しく、その言の葉を紡ぎ出した。

 

『そうですね。今話そうとしてることとも無関係ではありませんし、時間が経ってしまっている以上、もはや、アーチャーの語った言葉もそこまでの効力は持っていないでしょうから、言わせていただきますと…アレ(・・)は少しでも、聖杯戦争の参加者を減らそうという努力の現れだったのです。』

「はっ?」

 

予想外の言葉に古城は思わず声を上げてしまった。当然、隣の席にいるシェロがその言葉を聞き逃さないはずもなく…

 

「どうした?何かあったのかな?」

「い、いや、何でもねえ」

『どういうことだよ。ライダー、なんでアレが努力の現れってことに……』

『マスター。あなたはあの時のセイバーを見てどう思いましたか?』

『は?あの時って、どの時だよ…』

 

唐突に質問を切り出された古城は、その質問に驚く。それに対して、ライダーは補足するように言葉を重ねる。

 

『セイバーが私の剣やアーチャーの剣をその体で受け切り、そして、なお、無傷であったあの時です。』

『あ、ああ。あの体に次から次へと刃が突き刺さっていたはずなのに、煙が上がってみれば、身体中傷だらけどころか、全くの無傷で現れたあの時か…』

 

そこでようやく、どの時のことを問われているのか理解した古城は口元に人差し指と親指を顔に添えるようにしておきながら考える。

 

『そうだな。やっぱ、化け物かよって思ったわ。あんだけ剣が突き刺さって無傷で立っていることが…』

『そう。まさにその感情です。』

『え?』

 

唐突に発言を止められるようにして、答えられて、古城が戸惑ってしまう。だが、ライダーは構わずに話を続ける。

 

『どうあれ、あの戦いが放映された以上、遠からず聖杯戦争の存在は浮き彫りにされることでしょう。であるならば、聖杯戦争を知った者たちはこう考えるはずです。自分たちもあの力を得られるのではないのだろうか、とね…』

『あ、あぁ』

『となると、一気に戦争は激化。被害は圧倒的なものになる可能性も当然あるわけです。そんな時に、アーチャーが見せた光景を思い出した場合、彼らは一体なんと考えるでしょう。』

『そりゃ、なんで傷つかなかったんだろう、かな?だって、それが分からなきゃアイツには傷一つつかないってことだし…あっ』

 

そこで何かに気がついたように口を手で覆う。

 

『そうです。聖杯戦争に参加する以上は必ずどこかであの二人とぶつかることとなる。であるならば、そんな不明点は致命的な隙になる。ならば、彼らの大半はこう考えるはずです。

 

負ける勝負したくはない。悔しいが、これは諦めるしかない。

 

と…そのような考えになれば、安易に我々の力に頼ろうとする者たちはいなくなる。そう考えたからこそ、アーチャーはあのような意味のない(・・・・・)攻撃をしたのです。』

『……。』

 

アーチャーの考えていたことに深い感嘆を示さざるを得なかった古城は声も出せずにただただ呆気に取られていた。もし、自分だったらそこまで考えられただろうか?目の前の敵に対して、刃を突きつける覚悟はある。これでもそれなりに戦場は経験した方だ。だが、その後のことまで考えて、自分は果たして行動できるのか。多分できないだろう。自分の力とは災厄という一言に尽きる。嵐のような暴威を振るい、それをなんとか使いこなそう、使いこなそうと必死になっている自分には敵対している者ならばともかく、未来のことを考える余地など残されていないのだから

 

『ですが…』

『ん?』

『これはあくまで予防策にすぎません。現実としては、あの攻撃以外は、アーチャーの攻撃をセイバーは確実に避けていた。つまり、当たっていれば効いていた(・・・・・・・・・・・・)のです。このことに気づかない者もまたいないでしょう。アーチャーのとった手段とはあの場では確かに最適と言っていい。ですが、これは一種の賭けに近い。アーチャー自身も理解していると思いますが、アーチャーの考えた予防策(・・・)を知って尚、聖杯戦争に挑むものがあるとすれば、それは余程の愚か者か、あるいは余程の…』

『実力者か、キレモノしかいねえってことか。』

『ええ、まぁ、ですが、そこまで考えた者はまた更に、他にも感づいた実力者とキレモノがいるはずだと勘づき、考え始める。結果として、聖杯戦争に参加するべきではないと考える者もまたいるかもしれませんが…』

『確証はないってことか……』

『はい。その通りです。』

 

脂の濃い食べ物を一気にを喉に流し込んだような気味の悪い痛みが腹の中でかけずり回った。それは恐怖からくるものではない。ただ、単純に目眩がしたのだ。あの戦いの中に秘められた権謀術数の奥深さに…

 

『ええ。ですから…』

「アーチャー、あなたは一体、いつまでそうしているつもりですか?」

 

責めるような口調で古城の背後隣に現れるライダー。古城は驚愕を露わにしながら、背後に首を向け、そして、声をかけられた当の本人であるアーチャーは静かにそして冷ややかな猛禽のように鋭い瞳で相手を見つめていた。

 

ーーーーーー

 

一方、ショッピングをランジェリーショップで楽しんでいた雪菜たち一行は修学旅行にはどんな下着を着けたらいいかと迷いながら、そこかしこを歩いていた。雪菜は初めての学校行事ということもあってか、淀みのない爛々とした光を瞳に含ませながら歩き、凪沙は無意識ながらも二人を盛り上げようと持ち前のマシンガントークを駆使して、一行を盛り上げていき、そして、夏音は……

 

そんな中にあって唯一を無理をしたような笑いを顔に浮かばせながら、一緒に歩いていた。凪沙も雪菜もその表情から夏音の精神状態を察することはできたが、敢えてなにかをいうことはしなかった。彼女たちとて伊達に友達歴が長いわけではない。友達の方から話そうとしないことを無理に聞き出そうとするほど野暮ではなかったのだ。だが、そんな彼女たちでも……

 

「っ……!」

「「夏音ちゃん(さん)!?」」

 

目の前で顔を真っ青にしながら、倒れていく友達を見て見ぬふりができるほど非情ではなかった。

 

「大丈夫ですか!?今日、というよりも先程ランジェリーショップに入ってから、急に顔色が悪くなったのでどうしたのかと思ってましたが…」

「あの、変なことを聞くようだけど、夏音ちゃんって、こういう派手派手とした空気って苦手?」

 

夏音は先ほどランジェリーショップに入るまでは顔色が悪いわけではなかったのだが、ショップに入った直後、急に顔色が真っ青になった。夏音は大人の女性から見てもかなりおとなしい性格をしていた。そんな彼女にとって、派手派手とした空気を放つランジェリーショップは慣れない空気なのかと考えてしまったのだ。

 

「い、いえ…大丈夫でした。ただ、今日、あまり夢見が良くなくて…」

(夢……)

 

ーーーーーー

 

それは、学校から帰ってからのこと、ライダーが古城の家で生活し始めてからしばらく経った頃のことだった。流石に、ライダーを鎧姿のままにさせておくわけにはいかないと思った古城は、もはやほとんど使ってない父の部屋に服を借りようと赴いたのだった。雪菜もそれに同行し、しかし、いざ、部屋に入って、服を物色し始めようとした時、ライダーが突如として口を開きだしたのだ。

 

「そういえば、古城、あなたは、最近、自分が見るとは思えない夢を見た記憶はありますか?」

「?いや、ないけど…」

「そうですか…」

 

わずかに不安そうに語尾を弱めたライダーを不審に思った雪菜と古城はライダー一度作業を中止して、ライダーの方へと首を向ける。ライダーはというと、流石に自分のマスターの父親の部屋を勝手に荒らしては行かないと思っているのか、静かに佇むだけだった。

 

「何だよ?なんか、俺の夢が問題なのか?」

「いえ、なにも見ていないのなら、いいのです。私としてもそちらの方がありがたい。ただ、ここまで言って、問い質した理由も言わないというのはひどいですね。潔く理由を説明いたしましょう。」

 

そう言うと、意を決したように深呼吸したライダーは人差し指を立てながら、説明をはじめ出す。

 

「サーヴァントとマスターの絆が深まった場合、信頼関係を築かれる以上の変化が現れるのです。それは眠った場合の夢にて起こることなのですが、稀にですが、マスターはかつてサーヴァントが英雄として駆け抜けた時代の光景を夢にて見ることが可能なのです。」

「え、それって、つまり……」

「先輩は夢の中で昔、ライダーさんがゲオルギウスとして経験した記憶を共有する場合があると言うことですか?」

「そういうことです。……ん?」

 

話をしている途中で、ライダーがある一点で目を止める。それに吊られるように目をライダーが見る方へと向けると、そこには他のスーツとは違い、赤胴色を基調としたスーツが無造作に床に落ちていた。一度着られたようではあるが、見るに、どうやら、その後一度も着られていないのか他のスーツとはわずかに埃の被りが妙に厚い。

 

「なんだ?あの親父、あんなモン着たことあんのかよ。」

 

似合わないと、古城は内心で毒づいた。だが、ライダーの方はそのスーツが自分の鎧と同じだからなのか、気に入ったようで…

 

「古城、よければそのスーツを貸していただけないでしょうか?」

 

と言ったのだった。

 

ーーーーーー

 

そう言った経緯から私服として、赤銅色のスーツを着込んで現在ライダーはマスターのそばにいる。

とここで、話が食い違ってしまったが、問題は夏音が見た夢についてだ。

 

「夏音さん。その夢、どんなものでしたか?」

「……。」

 

夏音は少し迷ったが、やがて自分を心配してくれている友達のためにも悪いと考え、顔を上げて質問に答えた。

 

「火事の夢でした。見覚えがあるとは思ったんですけど、その夢、何というかどこか自分(・・)のものじゃないような気がして…へ、変でしたよね。自分の夢なのに、自分のものじゃない…なんて…」

 

そういう夏音の言葉に確信を抱いた雪菜は手元にあるスマートフォンで即座に衛宮士郎についての情報を漁った。すると、火事という部分で目が止まり、その項目をタッチする。開かれたページには『冬木の大火災』という文字が大々的に書かれており、当時の状況などが鮮明に文字で表現されており、雪菜は眉を顰める。

 

(このことが本当なら夏音さんは多分、全部(・・)は話していない。なるべくなら、話を最後まで聞いて聞き出して、確信をより深めたいところですが…)

 

雪菜は横目でチラリと夏音の方を見る。夏音ひどく衰弱してるのか、顔色が真っ白で唇は紫に染まっていた。そんな状態の彼女にこれ以上質問するのは酷というものだろう。そう考え直した雪菜は夏音に肩を貸して立ち上がろうとした。だが、その行く手を遮るようにして、一人の影が雪菜たちの前に現れた。

 

「きゃっ…」

 

雪菜が小さな悲鳴と共に尻餅をつき、一体なんの影なのかと腹立たしげに視線を上げると…

 

「……。」

 

そこには、苦虫を噛み潰したような顔で佇むシェロ・アーチャーの姿がそこにあった。

 

ーーーーーー

 

「行っちまった。いいのか?あれだけの質問で?」

 

顔色を険しくしたシェロがランジェリーショップに豪速球で向かう、というなんともシュールな事態を目撃した古城は、傍にいるいるライダーに質問する。

 

「ええ、彼とて一体何を問われたのかぐらい理解できているでしょう。彼とて英雄なのですから…」

「そこ、英雄理論いるか?」

「ええ、なにせ、英霊(私たち)にとってそれこそが存在意義ですから…」

 

古城とライダーはその後も話を続けていく。それはまるで、旧年からの知り合いのようでもあり、また、どこか教師と生徒を思わせるような微笑ましい空間だった。そんな他愛のない会話を続けている様子を一人の男が殺気を沈めながら、観察していた。

その男の名は天塚汞。彼は今か、今かとその殺気を刃物のように研ぎ澄ましながら、古城たちを観察していた。

 

「ようやく二人か…少し面倒だけど、まとめて始末するか。」

 

天塚は静かに舌舐めずりをするように、顔を歪め、歪めた顔に同調するように手が金属に流動しながら変形する。

いざ、戦闘に赴かんと姿勢を低くした瞬間、

 

「やめときなよ。君じゃ、彼らに勝てないよ。」

 

その場の空気には果てしなく似合わない子供の声が響き渡った。天塚はその声に反応した瞬間勢いよく顔を回しながら、その子どもの命を奪おうと流動した金属の手を瞬間的に槍に変えて放った。だが…

 

その槍は子供に触れようとした瞬間、まるで固まった紙粘土が、水を含まされて崩れるようにボロリと音もなく壊れた。

 

「なっ!?」

 

呆然と天塚は自らの手先を見る。それを見た少年…キャスターは手元のりんごに歯を立てながら、心底くだらないと行った表情で諭すように語り出す。

 

「ほら、こんな風に全力も出せない状態の僕ですら君の力を無効化することは簡単なんだ。ま、僕の場合、少しばかり錬金術にも心得があるからというのもあるけどね。」

「なんだい。君は…?」

 

警戒しながら、ゆっくりと尋ねる。そんな天塚の様子を今度は少し悩むように頭に手を押しながら答えた。

 

「うーん……ま、とりあえず、君の敵ではないよ。名前は確か天塚汞だったよね?」

「そうだけど……」

 

警戒心を解かずに天塚はキャスターが接近してくる様子を静かに受け止める。そうして目と鼻の先ほどまでにキャスターが近づいた瞬間、耳に心臓でもあるかのように脈の鼓動が激しくなる音を天塚は聞いた。そこで、理解した。自分の本能が感じているのだ。この少年には絶対に敵わないのだと…

 

少年が手を突き出す。瞬間、敵わないながらも、自らの手を槍にして突き出そうとして…

 

「初めまして、君に協力しに来たものだ。名前は…そうだな。イサクとでも呼んでほしいな。」

「……はっ?」

 

その手をすんでのところで止めたのだった。




キャスタープロフィール②

錬金術に関心がある。

ここまででわかる人っているのかな?果たして…
あ、いた場合はなるべく間接的な表現で答えてください。例えば、アキレウスなら足速いやつ、とか、カルナならスーパーインド人…みたいな?

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