ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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ここからは完全にオリジナルになっていく。何がって、それは後でのお楽しみ!


錬金術師の帰還 IX

旅行用のクルーザーの上から海を眺める。イルカが飛び跳ねているその姿は普段ならば元気を出させてくれる光景だが、なんの励みにもならなかった。

 

「あの話があってから、五年…」

 

覚えていた。彼女には忘れられなかった。

あの話の内容が一体何のことなのか、それはずっと分からなかったが、だが、確かにあの時の会話は記憶の片隅に残り続けていた。

まあ、初めての出会いの上に、体の調子を聞いたすぐ後に、至極シリアスにいきなりあんな話をされたのでは記憶に残るのも当然というものだが…

 

「五年…。長かったはずなのに、何だか」

 

すごく短く感じた。

別にそこに至るまで何か激動の歴史が存在したから慌ただしかったとか、そんなんじゃない。ただ、普通に過ごした5年間だった。普通に、会う時は話をして、普通にご飯を一緒に食べる。血は繋がっていないが、兄弟のように思っていた彼との生活は、それが普通だった。

なのに、短く感じるということは、それはつまり、この前の戦いがそれほどまでに鮮烈で、輝いていたからかもしれない。輝きが強いほど、それより過去の衝撃や輝きは否応なく霞んでしまう。

 

「やっぱり、気づかれてた…んですよね。アレは…」

 

自分が悩んでいる真っ最中にあんな優しく真摯な言葉を投げかけてたということは、自分があの戦いの最中に起きてたことを知ってたということ。そう思うと、なんだか、恥ずかしくなってきた。懸命に隠してた秘密事をふとした調子で暴かれてしまったような、矛盾した言葉のようだが、ほのぼのとした嫌な感じがした。

 

「素直…ですか…」

 

自分の気持ちを素直に吐露しろ。彼はそう言っていた。でも、その素直な気持ちというのが自分自身分からない。自分を守って、兄がわりのあの人が傷ついているなら、自分も一緒になって戦いたい。でも、自分を戦いに巻き込みたくないという彼の願いも無視したくない。相反するその感情が、彼女の中の博愛精神と相まって、悩みをさらに増大させていた。

 

「はぁ…」

 

何度目とも知れない溜息を漏らす。

 

「珍しいね。カノちゃんが溜息を漏らすなんて…」

 

すると、自分とよく一緒にいる友人の声が聞こえてきた。暁凪沙。ある事件で自分を助けてくれた男性の妹で、いつも自分に声をかけてくれる優しい友達。その子は少しだけ暗い目をしていた自分の目を見て何を思ったのか…

 

「あ、ごめんね。別に、悩むこと自体ないんじゃないかな?とか能天気とかそういうふうに思ったんじゃないの。ただ、なんていうか、カノちゃんってなんだか、私と同じで、悩みを溜め込みやすいタイプって言うのかな?なんか、1人で無茶しちゃう感じがしたから、だから…」

「い、いえ、大丈夫…でした。すみませんでした。心配をかけさせてしまったみたいで…」

「あ、ううん、別にいいの!それで、その、みんなでトランプでもやらないかって話になったんだけど、どうかな?カノちゃん」

「あ、私は…」

 

結構です。と言おうとして、一瞬言葉に悩む。凪沙の性格はよく知っている。この程度で自分のことに対して、嫌悪を抱くような人物ではないが、代わりに、余計心配させてしまうのではないかと考えたのだ。

 

それに加えて、現在は頭が煮詰まっている状態だ。となると、気分転換も少しはいいのではと考えた。

 

「…そうです…ね。それじゃ、お言葉に甘えて…」

「いいの!それじゃ、中に入ろう!みんなが待ってるよ!」

 

底抜けに明るい声が夏音の背中を押す。その緩やかな勢い強さが今の夏音には少し心地よかった。

 

ーーーーーー

 

「驚き…ました。」

 

まさか、女同士でポッキーゲームなるものをすることをになるとは…嫌悪感はないが、正直、自分が罰ゲームを受けるとどうなるのかということを考えると、本当にハラハラした。

 

「でも…悩みを紛らわすにはちょうど良かった…でした。」

 

自分の心の中の悩みが少しだけ紛らわすことができた。そのことを考えると、このゲームを受けて本当に良かったと思った。

そう思いながら、彼女はフェリーの鉄に囲まれた廊下を歩いていく。

 

「あ、そうでした。雪菜ちゃんを探さないと」

 

元々の目的は、ゲームから離れてお手洗いに行って、中々戻ってこない雪菜を探すためだった。少し駆け足になりながら、辺りを見回す。

すると…

 

「っ!?」

 

ゾワっと、突然自分の背筋を撫でる殺気を感じた。本来ならば、そこで助けを求めるためにここから離れるべきなのだろう。だが、夏音はその殺気の奔流に対して、挑むように歩を進める。

不思議と恐怖を感じない。なぜなのか分からないが、自分はこの殺気に立ち向かわなければならない。そんな漠然とした予感があった。

 

ちょうど、大広間のように広がった駐車スペースに出たところでその光景を見た。

 

「はっ!」

「ほぅら!」

 

それは2人の人間が戦闘している光景だった。1人は、自分の友人である雪菜、もう1人はチェック柄のシルクハットとスーツを着た男だった。

男の方がまるで弄ぶように自分の腕から伸びた銀色の触手をまるで鞭のようにしならせ、飛ばすように振り、それを雪菜へ手元にある小さなナイフで防いでいるという図だった。

 

「やれやれ、厄介だね。そのナイフ、小さいが、君の持っていた槍と同じ魔力無効化機能を持たせているのか。だが!」

「うっ!」

 

銀色の鞭が横殴りに振られ、その一撃を雪菜はナイフで受ける。だが、受けきれずに、その場から後退させられてしまう。

 

「いくら機能が同じでも、規模と能力の大小も違う。ジリ貧だと思うし、ここで諦めた方がいいと思うな。そうは思わないかな?叶瀬夏音。」

 

その言葉にハッとし、雪菜は自分の後方を見た。そこに確かに夏音はいた。この状況から鑑みれば、一種異様とも思えるほどの冷静な空気を纏わせながら、自分同様に目の前の男、天塚汞を見つめていた。

 

「叶瀬さん。どうしてここに!?」

「すみません。雪菜ちゃんが中々帰ってこないので、ちょっと心配で来てしまいました。」

「はは、それでこんなところまで来てしまうなんてね。全く、とんでもなく愚かなお姫様だ!」

 

銀の鞭をしならせ振る。その一撃を雪菜は霊視により感知し、ナイフによって防ぐ。

 

「逃げてください。叶瀬さん!ここは危険です。」

「……。」

 

だが、応答はない。ただ、彼女は静かに佇み、男を見つめていた。

 

そして、呟く。

 

「ああ、そうでした。」

 

まるで、清水に落ちる水滴のように、その音の波紋は染み渡った。

静けさの中に絶対的なものを感じる。その予感が、雪菜や天塚の手を止めた。

 

「ようやく…思い出しました。」

 

そう言うと、彼女は困ったような笑みを浮かべながら、雪菜の方を振り向く。

 

「ごめんなさい。雪菜ちゃん。彼の狙いは私のようです。なら、私がこの場を離れさえ(・・・・)すれば、この船にいるみんなは狙われなくて済む。ですから、私、行きます!」

 

駆けていく。その姿には一片の恐怖もなく、ただ守るために逃げていく。その様子に一瞬唖然とした雪菜だが、すぐに意識を取り戻す。耳で聞いたからだ。自分の敵だった男がすでにこの場から離れ、今、正に夏音の元へと迫ろうとしている音を…

 

「待って、待ってください!叶瀬さん!…夏音(カノ)ちゃん!」

 

距離を置くように、今まで口から出ることのなかった彼女のアダ名を口に出す。だが、彼女は止まらない。

守る。その純粋な博愛が彼女を前へと突き出すが故に…

 

ーーーーーーー

 

気づけば、そこは船の甲板だった。

遠くへ、学校の皆からなるべく遠くへ、そう思考した結果、船の甲板に出てきたのだ。

 

「随分と逃げたものだね。」

 

自分が甲板についてから、モノの数秒も経たずに怖気が走るような殺気を振りまく声が聞こえる。

振り向く。すると、目の前から金属の塊が甲板の床から噴き出てくる。まるで、銀色の間欠泉のように噴き出てきたそれは、段々と人の形を取り出し、それが色を帯び始める頃には完全な人となった。

 

「ようやく…ようやくだよ。叶瀬夏音!これでようやく、僕は…人間になれ…」

 

と、そこで言葉を止めた。

夏音の顔を見た瞬間、天塚は自然と言葉を阻まれてしまったからだ。

彼女の顔は恐怖、焦燥それらからを前にした大抵のものが浮かべていた表情とは別種のものだった。彼女の顔はただひたすら、哀れむように目尻を歪め、眉を潜めていた。

 

「まだ、分からないのですか?」

 

先ほどと同様に静寂の中で沈められた言葉。

その言葉には強制力があった。カラカラに乾いた砂漠に垂らされた一雫の恵みの水。そんな印象をもたらす言葉だった。

 

「何を…言っている?」

「以前会ったときもそうでした。あなたは人に戻りたいから、ここにいるのだと…」

 

聞かなければ、聞きたくない、聞こう、聞かない。

形を変えながら、その言葉は自分を責めていく。

そんな中で彼女の言葉は彼の意思に反して、従って、続いていく。

 

「でも、そもそも、あなたは憶えているのですか?自分が人だったときのことを?」

 

決定的だった。その言葉が脆く、崩れやすい砂だらけの砂漠のダムのような頭の中を決壊させる言葉だった。

 

「はぁ、何を言っている。そんなの当たり…前…」

 

崩れていく。崩れていく。今まで持っていたはずの目的が砂のように流れ、崩れていく。

そして、理解する。理解してしまう。その砂つぶには一つとして、水のように映し出された記憶の映像がないことに…

 

「それが答えです。天塚汞。」

 

そう言うと、彼女はなんと先ほどまで自分の命を取ろうとした相手から目をそらし、空を見始めた。

 

「私たちは少し似ていますね。」

「私もそうでした。記憶を失い、あの時に必死に封をした。」

 

思い出すように目を細め、静かに言葉を紡いでいく。

 

「あの地獄を経験し、私は、もう誰にもあんな地獄を経験して欲しくないと思いました。」

 

思い起こすのは一つの記憶。瓦礫と化した教会を赤々とした化粧が埋め尽くす悪夢の光景。

 

ーーーーーー

 

絃神島の港近くで褐色の肌をした男は示し合わせたかのように、言う。

 

「ああ、そうだ。俺はいつもあの(地獄)を見ていた。その度に思った。この地獄を変えて欲しいと、変えたいと」

 

思い起こすのは一つの記憶。街ごと飲み込み、全てを喰らうように上がる炎の牙、残響する悲鳴それらが集合した地獄。

 

ーーーーーー

 

少女は言う。

 

「力なんていらない。でも、力でなければなし得ないことがあった。だから、私には私が出来る範囲で、私のような思いをする人を少なくしたかった。」

 

ーーーーーー

 

男は言う。

 

「力なんていらない。だが、力を欲しなければ、俺には決してなし得ないことがあった。俺はその力で自分を犠牲にしてでも、俺のような思いをする人がいなくなることを願った。」

 

ーーーーーー

 

「「だから」」

 

手を掲げる。その先にあるはずのない救いの糸に手を伸ばすように…

 

「私は選びました。」

 

手を掲げる。掌の先にある太陽に挑むように、迎えるように、掴むように…

 

「もしも選ぶなら、誓おう。」

 

「私は…」

「俺は…」

 

「「共に戦うと」」

 

その言葉が一つの呪文を解き放つ。令呪。マスターにのみ許されたただ三つの赤い紋様。絶対命令権が光り輝く。

その光に誘われるように一筋の光が絃神島から放たれていく。

 

誘われた赤い流星。飛行の準備を整え、今、正に発進しようとした瞬間、古城たちはそれを目で捉えた。

 

「アレは?」

「行きましたか…」

 

古城とライダーはその光景を捉えていた。

 

一瞬ライダーの言葉を理解できなかった古城だが、先ほどライダーが言っていた言葉を思い出し、すぐに理解した。

 

「ああ、そうか。」

 

少しだけ、悲しそうな、だが、嬉しそうに眉を曲げながら、その流星を追うようにして、巡航ミサイ…もとい、飛行機に乗るのだった。

 

ーーーーーー

 

「な、なんだ!?」

 

赤い閃光が輝きを強める。

その様子が先ほどのパニックを越すほどの焦燥を天塚に想起させる。

 

「くっ!死ね!」

 

銀の鞭を突き出しながらの単純明瞭な言葉。その単純な思考が自分の中を支配するその感覚だけは今のこのパニックを鎮めてくれ、殺意というこの上ない単純な感情を生み出した。

殺意に覆われた銀の鞭が夏音に襲いかかる。

だが…

 

「なっ!?」

 

ガキーンという鈍い音とともにその水銀の鞭が弾かれる。そのことが天塚のパニックをまた再発させた。

 

だが、注意をしている暇はない。気づけば、目の前にあった閃光が収束を見せていた。

 

「さて、本当に色々と周りを騒がせてしまった。まあ、全面的に俺が悪いわけなんだが…」

 

煙幕が晴れる。そこには夏音と、もう1人褐色の肌の男が立っていた。赤い外套をたなびかせ、こちらに鷹のような鋭い双眸を向けてきている。

向けながら、男は後ろにいる少女に言葉を投げかけていた。

 

「これで、本当にいいんだな。夏音?」

 

その問いに少しだけ瞼を閉じ、覚悟を決めたように開くと少女は答えた。

 

「はい。私は戦うと誓いました!」

「そうか。ならば、俺も応えよう。」

 

そう言うと目の前にいる敵に対し、今までとは違った視線を向ける。スゥッと瞼が細められ、眉がシワと共に顰められる。そして、言葉を放つ。

 

「サーヴァントアーチャー、招聘に応じ、参上した。これより目の前の敵を…

 

討つ!」

 

ーーーーーー

 

(一体、なんだったんだ?今のは)

 

目の前の敵に集中しながら、天塚は頭の隅に置いた疑問を思い浮かべる。その疑問はアーチャーと自分のことを称した男が、いきなり現れたから出てきた疑問ではない。

 

(今、僕はたしかにあの赤い流星が衝突する前に(・・・・・・)、攻撃した。

なのに、僕の攻撃は弾かれた(・・・・)。)

 

おかしい。あの少女の霊能力、そして才能は大したものだ。だが、防御の術があると言うのなら、そもそも、甲板に来るまでの間にだって、その防御の術を発動することだってできたはず、だが、出さなかった。そっちの方がよっぽど安全に甲板にたどり着けると言うのに、出さなかったのだ。

 

(なんだ?あの娘、一体、何を抱えている(・・・・・・・)?)

 

だが、そんな天塚の疑問を他所に、バン、と目の前の甲板の床が沈む。沈み、凹んだ床。そこにはもはや、誰もいなかった。

移動したのだ。移動したスピードがあまりにも速すぎて、あまりも強烈すぎて、視線で追えず、床も耐えられなかったのだと、気づいた時には遅かった。

天塚の首筋に冷たい感触が波打つ。斬られる。その瞬間さえ、天塚は感じることができず、首を飛ばされるはずだった。だが…

 

「っ!おっと」

 

その刃は防がれた。天塚の体から出てきた銀の触手によって、弾かれたのだ。

だが、アーチャーはその触手に対し、特に警戒する様子もなく、少し距離を置くだけに留まりながら、敵を見る。

 

「ふむ。それがライダーの言っていた自動防御機能(オートディフェンサー)か…」

 

そう呟いた後、アーチャーは訝しげに眉を顰める。

 

「やはり妙だな。君は錬金術師…なのだろう?」

「なんだ?いきなりを何を当然のことを…」

「ならば、なぜ…」

 

言葉を続けようとしたところで、止める。船の横っ腹から向こう側に位置する海原からジェット音が聞こえてきたためだ。

 

「ようやく来たか…」

「なっ!?巡航ミサイルだと!?」

 

天塚は焦燥し、衝撃に備えようとしたが、すぐにそんな気は起きなくなった。

船の腹に衝突するミサイル。だが、その衝撃音はいつまで経っても響かず、代わりに少年の声が響いてきた。

 

「ぶはっ!死ぬ!マジで死ぬ!!もう、金輪際、あの王女様のことは頼らないわ。」

「私は未来視があるわけではないのですが、それは難しいと思いますよ。古城。」

「ふむ。私もそう思うな。アレは獲物を噛んだら離さない蛇のような性根を持ってると見た。」

 

少年の声にもう1人煙幕の向こう側から男の影が出てきて、返答を返し、それに自分が聞き覚えのある女性の声が同意する。

 

「うわぁ、実際、その通りな気がするから、反論できねぇ。」

 

心底嫌がるようにその2人の返答に聞いて、少年は沈むような調子で声を響かせる。

 

「先…輩?」

 

と、ここでその声と気配にいち早く気がついた少女が駆け寄っていった。

古城も少女の気配に気がつき、少し気まずそうに、目を向けながら、声を出す。

 

「よ、よう。姫柊、無事でよかっ…」

「一体、何をしているんですか!?巡航ミサイルに乗って、突撃してくるなんてまた無茶をして!」

「いや、アレは一応飛行機らしいぞ。王女さんが言うには。」

「こんな時まで意味不明な言い訳をしないでください!」

 

と、なぜかここで痴話喧嘩が始まった。ポカポカと少年の胸のあたりを少女が叩いている動作には緊張感のかけらもない。

事態が目まぐるしく変わっていく。

 

「……。」

 

もはや置いてけぼりにされた天塚汞。

何が起こっているのか分からない。先ほどまで緊張の糸が周囲を張り詰めさせていたと言うのに、これでは団欒か何かだ。呆れが一転して、驚愕しか出てこなかった。

 

だが、そんな男の驚愕を先ほどから前にいた男が塗り替える。

 

「さて、先ほどの質問の続きはさせてもらおう。」

 

そこでアーチャーは一拍言葉を置いた。

 

「君はなぜ、自分の体の改造などを他人にさせた(・・・・・・)?」

「はっ?改造。何のことだ?」

「とぼけなくていい。君は一度、ライダーと遭遇し、戦っていた。その時、君は自分の体のことだと言うのに、自動防御機能(オートディフェンサー)を見たとき、まるで初めてその機能を知ったかのように驚いたと言っていた。だが…」

 

訝しげに眉を顰める。

 

それはおかしい(・・・・・・・)。錬金術師の目的は知っている。曰く、完璧な人間になることこそが君の、いや、正確にはそこの金の杖に隠された賢者(ワイズマン)の目的なのだろう?」

 

突如として、黒幕の正体が挙げられ、周りが驚愕する中、天塚はゆっくりと己を半身にしながら、杖を隠すように動く。

 

「そんな研究者肌の君たちが、わざわざ会って間もない誰かに自分の研究成果を見せる?あり得ないことだ。利己的であればあるほど、そんな可能性はあり得ない。」

「だから、聞きたい。君はなぜ改造などさせた。その辺りがどうにも違和感になっていてな。聞き出さん限り、しっくり来ない。」

「だから、さっきから貴様は何を言っている?僕は改造などされてない(・・・・・・・・・・・)、と言っているだろうが?」

「だから…いや、待て…」

 

おかしい。先ほどからこの男、余りにも話の要領が得られなさすぎる。最初は嘘でも吐いているのかと思っていたが、どうやらそうではない。

 

あの男は本当に自分が改造などされていないと思っている。

 

つまり…

 

「ふん、どうやら、天は僕に味方したらしい…君たちには見えないのだろうな?先ほどから、僕の援護をしてくれている(・・・・・・・・・・)

 

キャスターという少年の存在が」

 

勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、天塚は挑発するように宣言した。

そして、それが決定的な違和感だった。

 

「キャスター…だと?」

 

そういえば、あの少年の姿をしたサーヴァントの姿を見ていない。

姿を隠しているのかと思ったが、ここに来て、はっきりと分かる。この船のどこにもキャスターはいない。

 

「まさか…」

 

キャスターがいないという事実。それが自分の中で不安となって、動悸と共に膨れ上がっていくのをアーチャーは感じた。

 

「まさか!」

 

ーーーーーー

 

場所は絃神島の港付近。南宮那月はそこで飛空船に乗り込み、先に行った古城たちの後を追おうとした。だが…

 

「っ!なんだ!?」

 

突如として自分の体から急激な脱力感を感じる。体から力が抜けていく。いや、抜けていくというより、体から無理矢理力を引き出されたような脱力感。それが意味することは何なのかを理解しようとし、そしてすぐにその答えは見つかった。

 

「馬鹿な!あり得ん!これはっ!?」

 

ーーーーーー

 

「ふう。成功したみたいだよ。マスター。」

「そう。」

「『そう』って、あのね、マスター。気楽に言ってくれるけど、マーキングを付けていたとしても正直成功できるかどうかは五分五分だったんだよ。もっと僕を褒めて欲しいな。まったく…」

 

外見年齢と同じ年頃のような口の利き方をするキャスターにマスターである女性。遠坂恵莉(めぐり)はわずかに嘆息した後に労いの言葉をかける。

 

「悪かったわね。よくやったわ。キャスター。貴方のおかげでとりあえず、当初の目的は果たせそうだわ。」

「当初の目的…か。そもそも、その目的だって僕が彼女を見てて、良さそう(・・・・)と思っただけであって、初めからあった目的じゃないだろう?本当に首を縦に振ると思う?恵莉」

 

少し不安そうに尋ねるキャスターに対し、恵莉は優雅に笑みを浮かべながら、キャスターに返答する。

 

「してみせなきゃ、ね。私たちに今最も足りていないのは、人員よ。少なくとも七騎、こちら側にサーヴァントを取り込んでおかなきゃならないわ。これからこの聖杯戦争はさらに激化するのだから」

「ま、そうだね。」

 

答えるとキャスターは恵莉に続いてある場所へと歩を進める。

そのある場所とは…

 

監獄結界

 

「さて、では始めましょうか。一世一代の勧誘(スカウト)を!!」


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