案の定、と言うべきかやはり戦闘は起こった。
きっかけは少女の冷たい反応に男たちがしびれを切らし、スカートをめくって煽ってきたなどという極めて幼稚な動機ではある。だが、それでもまあ、彼女が怒るのも分からないでもない。結果、今現在戦闘を引き起こし、獣人を吹っ飛ばすなどという大した芸当をやってみせた。それよりも、問題は…
(D種だな。奴は…)
D種…つまりこの世界の吸血鬼は、その血の中に眷属としている獣「眷獣」を従えている。眷獣の戦闘能力は凄まじくそれ一体で弱いものでも、近代兵器を軽く凌駕する。だからこそ、この世界では吸血鬼は最強の魔族として根を下ろしているらしい…当初、アーチャーにはこの辺りの知識がまるっきり知らされていなかったので自分で調べただけの知識だが…
そしてそのD種であるが、完璧に怒り狂い眷獣の封印を安易に解いた。瞬間、莫大な魔力が炎とともに巻き上がり、紫とも赤ともつかない炎を纏った幻馬が吸血鬼の横に降臨した。
「やれやれ、まったく!」
世話のかかることこの上ない。と感じながら少女の元へと駆けようとすると、少女はギグケースの中身から先端がスコップのように開けている異様な金属の棒を取り出し、それを槍へと変形させた。普通の者ならそんなちっぽけな槍で何ができると思うだろうが、シロウは違った。
「アレは…」
男の方は油断しきっていたのだろう。『灼蹄』と呼ばれたその馬の姿をした眷獣は何の恐れもなく、少女の方へと突進していった。炎の嵐とともに突っ込んでくるその姿に対して少女は恐れず、ただ泰然とした構えをして槍の穂先を眷獣に向けるだけだった。
そして、炎の嵐が少女を焼かんと衝突した瞬間、眷獣を召喚した吸血鬼の男は一瞬少女が丸焦げになる幻覚でも見たのだろう。口の端がわずかに釣り上がる。
だが、そんな彼が見た光景は無惨にも自らの眷獣が裂かれ、その先に立っている少女の姿だった。
「バカな…!?」
そんな苦々しい一言を残した男は呆然と立ち尽くしてしまった。その一瞬を少女は逃さない。少女は真っ直ぐに男の方へと突き進み、槍を男へと突きさそうと突進する。
「ちっ!頭に血が上っているというにも程度があるだろう!」
シロウが前に出てその攻撃を止めようとした瞬間、彼と同時に前に出てなおかつ彼よりも近くにいた男がいた。そう、暁古城である。
「全くあのバカはせっかく手に入れた機会をふいにする気か!?」
そう考えたシロウはさらなる加速を行い、前にいる古城すらも追い抜き少女のほうへと突き進んでいく。
そして…
「そこまでだ。」
少女の腕を取って、少女の力を完璧に制御し、その打突を止めたのだった。
「えっ!?」
「やりすぎだ。全く…君は何かね?こんなことで一々腹を立て魔族を殺すというのか?」
「シェロ!!」
古城の方もいきなり出てきた自分に驚いているのだろう。走りながらも、自分の名前を叫んでいた。
「暁古城!!」
古城が近づくのに気づいた少女の方は、すぐにそちらへと視線を向け、自分の手を離そうとした。当然、ふつうは外されることはないのだが、このままにしておく必要も特に無いためすぐに放してやった。
放された少女はすぐに身を引き、上に大きく宙返りしながらジャンプすると、そのまま車の上に着地した。
「…おい、君。」
後ろにいる魔族にシェロは言う。
「これに懲りたら、中学生の少女などをナンパするなど止めておくことだ。街中で眷獣を使うのもな。分かったらとっとと行くことだ。」
「あ、ああ、悪い。恩にきるぜ!」
そう言って、軽薄そうな魔族の男は仲間の魔族と一緒に逃げて行った。
そして改めて、少女の方へと目を向ける。
「君も君だ。全く、いくら喧嘩だからといってやり過ぎだ。こんな街中で魔族を殺す気か?」
「どうして止めるんですか?」
「どうして止めるも何も、あんな風に喧嘩をやっているようでは、止めようと思うだろう?普通。」
「普通?普通の人間に攻魔機槍の打突を押し留めることなんてできないと思うのですが…」
疑わしそうな目でこちらを見てくるのに対し、シェロは、
「さてな、世界は案外広いようで狭いものだ。それにもしかしたら、君が無意識のうちに手心でも加えたのではないのか?」
「……」
正直少女の方は手心を加えなかったかといえば嘘になる。彼女には霊視という能力があり、一瞬先の未来を視ている光景だけならば、予見することができるからである。
シェロ自身かなり抑えて加速したこともその要因ではあるが、いきなり自分の眼の前にあの白髪褐色肌の少年が前に出てくる未来が出てくるのだ。そんなものを見せられて手心を加えない訳がない。
一方シェロ自身もそのことを予想したからこそ、姿をなるべくバラされたくない身であんな無茶をしたのである。生前や英霊になって以降、未来視をする敵などそれこそ腐るほど会ってきている。特に未来視に関してはどこぞの気に食わない王様が最高クラスの千里眼として所有している。なので、そういう者たちがどういう戦い方をするかなどシェロにとってはお見通しであった。
「ですが、それにしたってなぜ止めに来たのですか!?街中での魔力の行使、しかも眷獣を召喚するなんて、彼は殺されても文句が言えない立場だと思いますが?」
「いや、それを言うんなら先に手を出したのはお前の方だろうが」
横から割り込むような形で口を挟む古城。それに対し、彼女はまたも攻撃的な視線となる。
「何を言うのですか!暁古城!そんなこと…は…」
どうやら、思い当たる節があったらしい。シェロ自身は、ではこれで、という感じで締めくくろうと思ったが、古城の方はそれを機に畳み掛けようとでも思ったのだろう。
「な?お前がどこの誰だか知らないけど、いくら魔族だからって、パンツを見られたらから殺すって、そりゃ、ねえよ!いくら魔族だからってパンツ如きで…」
「…古城…」
注意したときにはもう遅かった。古城はそんなシェロの注意を促す声を聞き、顔を前へと向ける。するとそこには恥ずかしそうに顔を俯かせながら赤くし、恨みがましそうにこちらを見つめる少女の視線があった。
「…もしかして、見たんですか?」
「え、あ、いや。見たっていうか…その…」
古城の方もようやく己が失言に気づいたらしい。それを見て、シェロはやれやれと言った調子で助け舟を出そうと少女の方を見つめ返し…
「すまないな。だが、こちらにも落ち度があるとは言え、これ以上見られたくないならそこから降りた方がいい。そうしないと…」
また見えてしまうぞとシェロが言おうとした瞬間、それは起きた。少女の制服のスカートはどこからともなく来た風によって舞い上げられ、その中にあるチェック柄のパンツがこちらの視線を釘付けにさせた。
「っ!?何でまた見てるんですか!!」
「いや、待て待て待て待て!お前がそんなところに立ってるからだし、それにそもそもそれを注意するためにシェロだって、忠告してたんじゃねーか!な?」
「ああ…まあ、そうだがね…微妙に俺に罪をなすりつけようとしてないかな?古城」
「いや、そんなことねーよ!」
わー、ぎゃーと騒いでいる自分たちを見て心底呆れたのだろう。少しして、少女が小さく溜息をつき、その手元にある槍をしまった。そして、改めて古城たちの方を睨むと…
「もう、いいです。」
そう言って、スカートを抑えながら車の屋根から飛び降り、着地し、そして自分たちに視線を向けると
「いやらしい人達…」
そう言って、スタスタと去っていくのであった。
「…なあ、これって、俺のせいなのか?」
「…少なくともあのとき、お前があんなことを口走らなければ俺たちは何も見ずにそのまま去れただろうな。」
「うぐ!?」
トドメの一撃だったのだろう。古城はダメージを食らったように顔を俯かせてしまった。
「さて、とりあえずとっとと行くぞ。このままではいずれアイランドガードが来るのは明白だからな。」
「あ、ああ。わかった。って、あれなんだ?」
俯かせた顔を少しずつ上げようとしたとき、古城の視界の端には手帳らしきものが映った。
「学生証…いや、財布か?状況からしてまず間違いなく彼女のものだろうが…」
「ああ、そういや、あいつ名前なんていうんだ?」
「気持ちは分からないでもないが、仮にも女性の財布だ。覗き見は感心せんぞ。」
「いや、でも気になるだろう!あいつあんな槍持ってた訳だし。」
そう言いながら、表にある学生証の写真を古城は覗き込む。
「三年C組 姫柊 雪菜?」
ーーーーーーー
翌日、古城たちは一緒になって学校の方へと足を運んだ。目的はもちろん昨日の学生証を持ち主に返すためである。本来、シェロの方は別に高校の校舎に行かなくとも良いのだが、やはりあんな現場を見た後だと気になるというものだ。
現在シェロは、屋外の廊下の方で職員室に向かった古城を待って立っている。
しばらくして、古城が戻ってきた。
「どうだった?」
「ダメだ。今日、C組の担当さんいないんだってよ。」
「そうか…では、どうするか?」
「うーん…仕方ねー。プライバシーの侵害は勘弁してくれよ。」
「は?あ、おい古城!」
制止させようとするシェロの言葉を無視して、住所を盗み見るために財布の中身を見始める古城。中身は女の子の財布というだけあるのか綺麗に整理されていた。それに洗剤か柔軟剤がつけてくれるようないい香りも…
「っ!?」
やばいやばいやばい!彼女の昨日のあられもない姿を思い出し、思わず興奮してしまった古城は自分の鼻を抑えた。古城はあまりに興奮してしまうと鼻から鼻血が出てしまう体質なのだ。そのおかげなのかなんなのか、その鼻血を飲むことで性欲から来る吸血衝動もこれまでなんとか抑えることができた。シェロには血を飲んでいるところを見られないように、背を向けながら自分の鼻血を飲む。
「くそ!どうにかならねえのか?この体質。」
「どうにもならないだろうな。少なくとも、今この場においては…」
「は?何の話…だ…?」
シェロの方を向き直り改めて視線を上げると、思わず自分の表情を凍らせてしまった。そこには昨日の少女『姫柊 雪菜』がそこで仁王立ちしながら構えていた。
「女子の財布の匂いを嗅いで興奮するなんてやはりあなたは危険な人ですね。」
「姫柊…雪菜?」
「はい。何ですか?暁
「えと、何でここに?」
「それはこちらのセリフです。暁先輩?ここは中等部の校舎ですよね?」
「昨日、君が財布を忘れていっただろう?だから、古城はそれを届けようと思ってここに来たわけだ。」
自分が言った方が説得力があるかと思い、シェロはここで口を挟む。
「それで女子の財布の匂いを嗅いで、鼻血を出すほど興奮していたというわけですか?」
…どうやら無駄だったらしい。結構なお怒りのようだ。
古城の方も慌てて自分の鼻血の跡を拭い、雪菜に反論する。
「っ!?違う!ただ、昨日のことを思い出して…」
「き、昨日のことは忘れてください!」
赤面しながら、スカートを手で覆う雪菜。
「いや、忘れろと言われても…」
「忘れてください!後、そのお財布も返してもらいます!」
そう言って、財布目掛けて突進してくる雪菜をバスケ仕込みの身体能力で何とか躱す古城。
「っと、その前に教えてくれ!お前一体何者だ?何で俺を付け回した?」
「っ!?まさか、私の尾行に気付いていたんですか?」
『気付かれないと思ってたのか、アレで?』
もうこの場の勢いに任せて後は天のみぞ知る、という感じで放置しようと思っていたシェロだが、さすがに今の彼女の言葉に対しては驚きを隠せなかった。
シェロからしても古城からしても、雪菜の尾行とはどう考えても追っかけの類にしか見えないほどの下手さだったからである。
「っ!?いいでしょう!それは力づくで取り返せということですね!?」
「おっと…」
そう言って、雪菜の方がギグケースに手をかけた時は流石に黙っていられなかった。
「…やめろ。全く。」
そう言って、シェロは間に入る。
「どいてください。あなたは確か…」
「シェロ=アーチャーだ。この馬鹿の友人でな。すまないが、こちらもてんやわんやな状態なのだ。そちらが説明してくれるというならば、この財布は必ず返すと約束しよう。だから、なぜ君が古城を付け回していたのか教えてくれないか?」
「それは…」
説明しようとした瞬間、ぐーという音が鳴る。
何の音かと一瞬思ったが、またも顔を赤くしている雪菜の方を見て、シェロは理解した。
「へっ?」
「…そうか。そうだったな。こちらが財布を預かっているのだ。これが君の全財産ということならば、君は昨日から何も食べてないことになるな。」
「あ、そっか。そうだな。そんじゃ…」
と言いながら、古城は前に出て財布を雪菜に差し出した。呆気にとられた雪菜は思わず古城の顔を見返した。
「昼飯くらいおごってくれ。財布の拾主にはそれくらいの謝礼を要求する権利があるだろう?」
ーーーーーーー
その後、シェロは一人で帰ることになった。本当は、あのまま彼らについて行って構わなかったのだが、それだと、古城に都合が悪いだろうと判断したためである。古城の方は自分を除け者にしたような感じにしたことを気にし、後で何か奢る、と言って去って行った。
(まあ、大体、何を話すかわかってるからな。さて、ではこれからどうするか?)
シェロはこれから何をしようかそれを考えていると…
「そうだな。あそこにでも行ってみるか。」
ーーーーーーー
そう言って、シェロがたどり着いた場所は5年前自分が召喚された時に勢いよく燃えていたあの修道院だった。確か、名前はアデラード修道院院といったはずだ。
「相変わらず、ひどい火災跡だな。」
言いながら、シェロはその焼け落ちた修道院に入る。すると、そこには猫に囲まれている少女が座り込んでいた。太陽によく映える銀髪と蒼天のような碧眼をしている少女は猫を抱いて遊んであげたり、撫でたりしていた。
(我がマスターながら、随分と聖女という言葉が似合う様だな。)
そんな感想を抱いたシェロはしばらく邪魔しては悪いだろうと考えて、柱に体重をかけながら見守っていた。
10分後ようやく、こちらの存在に気付いたのだろう。こちらを向いて、抱いている猫を床だった地上に起き、こちらに小走りで駆けてきた。
「こんにちは!シェロさん。」
太陽のような笑顔でそう挨拶をしてくる。自分のマスターである『叶瀬 夏音』。最初は彼女がマスターであるという保証がなかったので、半信半疑であったが、もう5年も経っているのである。さすがにどんなにリンクを薄くし『単独行動』を併用することで現界を保ち、彼女には気付かせない程度の魔力しか消費させないからと言って、ここまで時間が経てば嫌が応でも気がつくというものである。
実のところ、シェロが(復学というべきなのか、入学というべきなのか迷うところだが)学校に入った理由は大半が彼女にある。己がマスターということもそうだがどうも気が置けない存在であり、なるべく近くで観察し、護衛する意味合いも含めてこの絃神学園にいるわけである。
「また、増えたな。」
修道院の床だったその大地から自分を見つめ返してくる猫たちを見つめながらそう呟くシェロ。
「はい。何だか、最近段々と増えてきて、これだとここが猫さんで溢れちゃうかも、でした。」
「はぁ…何度もいうが、君がこんなことをする必要はないんだぞ。元々、この猫を放置し、生き物の尊厳を何とも思ってない戯け者どもがしたことだ。君が尻拭いをする必要は全くない。」
「はい…でも…」
「…分かってる。放ってはおけないと言うのだろう?だがこうも増えてしまうと、そろそろ問題になりかねんな。近いうちにちゃんとした貰い手を捜さなければならんだろう。」
「はい!…あの…ありがとう、でした。シェロさん!」
「?別にお礼を言われるようなことはしてないだろう?」
「いえ、いつも何だかんだ言って私の相談にちゃんと乗ってくれて、私を助けてくれるのはシェロさんでした。だから、私すごく感謝してる、でした。」
満面の笑みを浮かべて、こちらにそう返してくるシェロはそれを見ていつも戦った後に同じ笑顔で出迎えてくれた白銀の髪の義姉の面影を感じた。
(…やはり、彼女を巻き込むべきではないな。彼女には確かに一流となりうるほどの才能があり、力も無意識ながら存在する。
だが、我ら英霊同士の争いにこの笑顔を巻き込むべきではない。)
面影がよく似てることもあり、その表情がかつての義姉に似ていたなどという曖昧な理由を昔は抱いていた。
だが、今は違う。明確に彼女はこちら側に来るべき存在ではないと、確信した。
それはシェロにとって、とてつもないハンデが伴うこととなる。実際、今のステータスは、未来から過去へと召喚された時と同じくらいなのだから。
だが、それでも彼は彼女のこの笑顔を守りたいと思った。
それが、かつて多くを救うために少なきを捨ててきた彼が取った決断であった。
そして、だからこそ彼は彼女の変化に気づけなかった。今現在も、彼女の身体はドンドンと人外のものへと近づいているということに、近くにいてそれでいて遠ざけたからこそ気づかなかったのである。
彼女が天使と呼ばれるものに近づいていることに。
どうでもいいんですけど、フェイトグランドオーダーのマシュの正体って、アーサー王なんじゃないですかね。
いや、そう思うのは、ブーディカというサーヴァントがいるんですけど、彼女の説明欄に「アーサー王を妹のように可愛がるだろう」と書かれているんですよね。で、実際マシュのことをすっごく可愛がってたんですよね。
しかも、アーサー王って「ブリウェン」っていう盾も持ってるんですよ。
まあ、推測の域を出ないから、分からないんですけど…