ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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最近気づいた。このままだとXXまで行きそう。やべえよ。キリのいいところで切るってことを繰り返してたら、なんかやばくね。って思うくらい長くなってる。一応、頭の中に黒の剣巫篇まではどう言う話にするかまとまってるのに、全然時間が足りない。

すみませんでした。


錬金術師の帰還 XIV

「ニーナさん…」

 

物寂しげな女性の背中を見て、雪菜は思わず声をかけていた。

その声に少し困ったような笑みを見せながら、ニーナは答える。

 

「気にするな。どうあれ、ヤツは大罪人。私の修道院で多くの子供たちを殺し、生贄にした許されざるモノだ。ああなって当然。むしろ、ああならなければ、この船にいた他の子供たちがまたも犠牲になっていたことだろう。だが…」

 

そこで視線を青空に上げると、ニーナは言葉を締めくくった。

 

「やはり、師としてどうしても思ってしまう。もしも、子供たちを殺す前、本当に私の弟子だったときに、あの結論に達していたのならば、もう少し違う結末もあったのではないかと」

「……。」

 

問い返しようもない答えに対し、沈黙で返す雪菜。

静かに時が流れることを意識させたその空間は気まずいというわけでもなく、また、心地よいというわけでない微妙な空気だった。

安易に言葉を返せなくなってしまったその空間を敏感に察したニーナは、その空気を断ち切るように言い放つ。

 

「などと、感情に浸ってる場合ではないな。行くぞ。雪菜。次はあのデカブツが相手だ。」

「っ!はい!」

 

ーーーーーー

 

「くっ!」

「ちっ!」

 

そのデカブツ『真理の巨人(ジャイアント・ヴェルメスト)』の相手をしている古城とライダーは今現在、苦戦を強いられていた。

 

「デケエくせにえらく速えな。いや、これは…」

「ええ、アレは速いというよりも、動きが読まれているような感覚です。どうやら、あの方は私たちが次どう動くのか。それが正確に読めるらしい。あそこまでの域ですと、ほとんど未来視ですね。」

「マジかよ。」

 

攻撃体制としては、ライダーが前衛を担当して、防御と特攻を、古城が後衛を担当して、火力と支援を担当していた。最も、古城の能力からして、支援などからきしなのではあるが、ライダー曰く『そこにいるというだけでも、十分なプレッシャーですし、相手の集中を削ぐことができます。』などとえらい過大評価を受けてしまった以上、古城が担当するしかなかった。

 

そのようにして、巨人を攻略しようとしたのだが、先ほどから剣を振っても、当たらないわ。眷獣を召喚する前に、攻撃されて注意を逸らされるわ。どちらかを囮にしようとすれば、確実に二人が相手できるような位置を取るわで、こちらの策という策が封じられていた。

 

「さすがは物理学者の天才というところですか。ここまで正確に動きを読み、更にその意図さえも読んでみせるとは」

「感心してる場合じゃねえだろう。何か手を考えねえと…」

 

古城のその言葉が最後まで続くことはなかった。

巨人が古城たちに対し拳を突き出したためだ。

なんとか、その攻撃を避ける古城とライダーだったが、空中に避けたのがまずかった。

巨人の右手の緑色の鉱石でできた薬指が淡く光る。そして、巨人はその拳を空に叩きつけた。

 

「…?」

 

一瞬意味が分からず、疑問を浮かべた古城たちだったが、次の瞬間、変化は劇的だった。突き出された拳から先にある海がさざめきだし、一気に波を作り出す。その一瞬の光景から、ライダーはその攻撃がどのようなものかを理解した。

 

「まずい!古城は受け身を取れるよう体勢を整えてください!」

「っ!?」

 

古城も一瞬遅れて、攻撃の意図を理解し、腕をクロスさせ、防御体勢を取る。それに遅れじと、古城の前に回るようにして、ライダーは手に持つ聖剣を構える。

 

力屠る祝福の剣(アスカロン)!!」

 

真名を解放し、剣に膨大な魔力がこめられる。それと同時に空に放たれた拳から攻撃が迫る。それは全てを押し潰す烈風の衝撃波。それが空を伝ってライダーの元まで迫る。

 

その一撃を魔力がこめられた聖剣により一気に両断する。そのおかげで、風の衝撃波による直接的なダメージは負わずに済んだが…

 

(っ!まずい!浮かされている途中ではうまく衝撃を逃せない!)

 

体が宙に浮いているため、本来ならばショックを吸収するために必要な足場がなくなっている。そんな状態では風の余波などかわしようもなく…

 

「ぬおっ!」

「っ!?」

 

無色の衝撃により一気に体を吹き飛ばされる古城とライダー。

その衝撃により一時は崩れかけた体勢をなんとか立て直す。

 

だが、そんな様子をボーッと眺めるほど、敵は悠長にはしてくれない。

 

『チェックメイトだ。』

「「っ!?」」

 

響き渡るその声に総毛立つ。その声の主である巨人は人間を易々と握り潰せるほどの大きさもある掌を目の前に突きつけていた。

掌に強大な魔力の塊が集まり出す。次の瞬間、その集約された魔力の塊は、一筋の破壊の光となり古城とライダーに降りかかった。

 

破壊の光が収まっていく。巨人はその手を収め、もう一度目の前の敵を睥睨する。

水蒸気が朦々と立ち込め、霧が生まれていたその光景を見ながら、巨人は呟く。

 

『流石にそう簡単にはいかねえか。』

 

巨人の面白くなさそうなつぶやきと共に霧が段々と晴れていく。

その視線の先には、人影が見えていた。しかも先ほどよりも人数が増えている。二人だったはずが四人に増え…いや、この場合は、戻ったというべきか。銀色の槍を構えた少女と褐色の肌をした美女がその場に合流していた。

 

『状況から察するに、お前がオレの攻撃を止めたのか?ガキ?』

 

ギロリと殺気と共に雪菜は睨みつける。

 

「っ!」

 

鬼のような面相から放たれるその巨人の睨みに思わず背筋が凍った雪菜は後退りしそうになる。

だが、それを古城は優しく受け止める。

 

「大丈夫だ。姫柊。」

「先輩。」

 

雪菜はその何の根拠もない言葉に安心感を得る。

いつもそうだ。こういう時、彼はいつも、自分を勇気づけてくれる。かけて欲しい時に最良の言葉を投げかけてくれる。だが…

 

(この気の回り方がもう少し別のところにも回っていただきたいのですが…)

 

心の奥底でそう落胆してみせながら、前を見つめる。

 

『へぇ…意外だな。お前、そんな言葉を投げかけられるのか。』

 

そんな様子を巨人に意外そうな声を上げる。その意外そうな声を聞き、ムッとした古城は、反発するように声を返す。

 

「なんだ?そりゃぁ、どういう意味だ?」

『うん?なんだ?自分じゃ気付いてない(・・・・・・・・・・)のか?』

「……。」

 

その様子をライダーは警戒するように横目で観察する。そんなことなど気にも留めずに、巨人は話を続ける。

 

『ああ、なるほど、あれか?お前、自分のことに対しては無頓着だけど、他人の変化には敏感なタイプの人間な訳か。いや、だとしたら…』

 

そこでようやくライダーを見つめる。そして、心底呆れたように声を呟く。

 

『気付いているな?』

「何にでしょうか?」

『主人を守るためとはいえ、こういう時に惚けない方がいい。いや、しかし、なるほど、気付いていて今の状態を放置しているわけか。聖人と言われる割に

 

意外と罪深いなぁ。()

 

先ほどのように怒りに流されたような言葉ではなく、明らかな呆れを交えた言葉。

その言葉が合図となった。

弾かれるようにして、水の上を跳躍し、一気に巨人に肉薄するライダー。

それを待っていたかのように腕を上げ、掌をライダーへと向ける巨人。

攻撃魔術を放とうとする巨人。

 

汝は龍なり(アヴィスス・ドラコーニス)!!」

 

だが、それよりも一瞬早くライダーの装備するサーコートが光り出した。

突然の光に巨人は視界を阻まれ、掌から発動する魔術をライダーから外してしまう。その先にライダーは巨人の腕を切り落とそうと腕を振り上げる。

その様子を見ていた巨人は落ち着いていた。

今までライダーの攻撃を受けてみて、分かっている。ライダーの攻撃は自分の腕を切り裂けるほどのものではないということを…だが…

 

『っ!?』

 

理由不明な怖気が全身に走る。その怖気に従い、腕を引っ込めようとするが、遅い。剣は既に腕へと到達し、その刃で一気に腕を切り落とした。

 

『何っ!?』

 

先ほどとは打って変わって焦った巨人は距離を取る。その様子をライダーは神妙な顔つきで見送った。

 

(なんだ?今のは攻撃力が急に上がった?いや、アレは上がったというよりも…)

 

自分の体が急激に脆くなっているように感じられた。

だが、防御力に何か変化があるわけではない。

 

(先ほどのあの宝具。アレはライダーの特性を引き出す何かがあったということか?)

 

ライダーの特性。既に真名はゲオルギウスと判明している以上、最も可能性のある特性は…

 

『…竜殺しか!?』

 

巨人は己の分析を口にする。

 

『なるほど。()が先ほど浴びた光。アレは、浴びたモノに強制的に竜属性を付与するモノか。君の特性を考えれば、なるほど厄介な代物だな。』

 

だが、と言葉を締めくくりながら、巨人は、すでに再生している右腕ではなく、左手で拳を握り、腕を突き出す。

 

『攻撃面では当てになるかもしれないが、別に防御面ではそこまで優れた代物ではないな。君が竜の攻撃に対しても耐性があるというなら、話は別…』

 

その言葉が最後まで続くことはなかった。

巨人の豪腕がはじき飛ばされ、巨人は一歩二歩と後退りをしたからだ。

 

『ぐおっ!?』

 

後退りをした巨人は、驚愕を顔に残しながら、目の前の敵を見つめる。

 

「舐められたモノですね。一回、二回ならばともかく何度も繰り出される拳をはじき飛ばせないと思われるほど、下に見られているとは…」

 

そうして、後ろにいる古城たちに目を向け、

 

「マスター、ミズ・姫柊、ミズ・ニーナ、少し退がっていてください。」

「え?」

 

その後、巨人に目を向けると、ライダーはその剣先を巨人の顔に向けながら宣言する。

 

「私のことを侮るのは構いませんが、その影響で今後、マスターが狙われやすくなるというのは頂けない。少し、教えて差し上げましょう。私という英雄(にんげん)を」

 

ーーーーーー

 

「……。」

 

その光景を見つめていた少女・叶瀬夏音はただひたすらに呆気に取られていた。

 

(すごい。)

 

戦いのことなどよく分からない。いや、そもそも、好ましいとさえ思っていない。ただ、そんな彼女から見ても、この目の前の光景は、間違いなく群を逸脱した光景だと確信できた。

無数の剣が飛び交い、巨獣の顎門から咆哮が放たれ、機械仕掛けの巨人の手足が兵器となり火を噴いている。

その光景は確かな神秘性と殺伐さを物語っており、見ているモノに対して、否応のない未知と恐怖を煽る光景だった。そんな光景の中で、彼女は確かな安心感をもってその光景を見ることができている。

 

なぜなら、自分を守ってくれている一人の男の背中に不安も焦りも感じられなかったから

 

その男と怪物たちの勝負だが、結果はすぐに出た。すなわち、男・アーチャー のほうの明らかな優勢。

 

「どうした?もう終わりか?」

 

余裕たっぷりの口調で、目の前の二体の怪物たちの様子を見る。

対する怪物たちは倒れ伏してこそいないが、全身を浅くない傷に覆われながら肩で息をしていた。

 

「せめて、『左足』も来ていれば勝負は分からなかっただろうが、悪いがお前たちだけでは役者不足だ。そもそもお前たちだけ来る意味もあまりない。まあ、俺に対するサプライズとしてお前たちを寄越したんだろうがな。」

 

その言葉を聞いた瞬間、明確に殺気が強くなった怪物たちは、一斉にアーチャー に攻撃を仕掛けてきた。怪物の一方、鯨犬の顎門が開き、攻撃を仕掛けてくる。

 

「ふん、怒ったか?人間如きに侮られたくない…と言ったところか。それか、単純に

 

俺なんかに主人を理解しているような口振りをされるのが不愉快か?」

 

余裕を持ってその顎門からの噛み付きを躱す。そこは更に足を鎌へと変形させたメイドロボットが追い討ちを掛けようとする。刃渡り5mに達する刃。その刃が振られる瞬間に、アーチャー はある一つの剣の名前を口にする。

 

「シュルシャガナ」

 

その言葉に応じるようにして、地面から山と見紛うような大剣が生え、鎌の斬撃を受け止めてみせた。

 

「安心しろ。俺も奴もお互いを友人などとは思ってない。むしろ、嫌いあっている。もっとも、やつは未だに俺のことを友だと言っているんだろうが」

「ふふっ…」

「っ!?」

 

一瞬の驚愕、そして、後方を見つめると、そこにはメレム・ソロモンその人が笑みを浮かべながら、自分の後ろに回り込んでいた。その瞬間が隙となる。

それを待っていた怪物たちは一斉に攻撃をする。巨獣の顎門には魔力が集まり、メイドロボの腕は巨大なミサイル発射管となる。

 

「ちっ!ロー…」

 

その攻撃を一瞬遅れて防御しようとする。だが、間に合わない。防御を展開する前に、すでに攻撃は発射され目の前へと迫ってきていた。

 

「っ!シェロ兄さん!」

 

今までとは違う明らかな危機的状況に夏音は思わず声を上げる。

その叫び声が上がった瞬間、爆発が起こる。いや爆発などという生易しいものではない。破壊が破壊を呼び、巨大な自然災厄の塊となったその衝撃は光の波となって、夏音も巻き込む。爆発の後にはキノコ雲のような破壊痕が残った。

 

爆発と煙が収まっていく。最初に出てきたのは、巨大な二つの物陰と一つの人影。二匹の悪魔とメレム・ソロモンだ。メレムソロモンは怪物たちの前に立ち、代弁するかのように声を上げる。

 

「…。」

 

その瞳には煙の中から出てくる二つの人影を写している。その人影の姿がだんだんとはっきりし出した。体には浅い傷が全身にあり、大怪我というレベルではないものの、見るものに痛々しさを感じさせる傷口。その背後にいる夏音には、傷一つ付いていない。その様子を確認したところで、メレムは再び攻撃を命令しようとして…

 

「不愉快だな。」

 

割り込むようにして声が響く。

 

「…?」

「貴様のその姿が不愉快だと言っているんだ。いつまで騙せる気でいる?左腕の悪魔」

 

その言葉を聞いた瞬間、メレムはいや、左腕の悪魔と呼ばれたソレの姿は心底愉快げに笑みを浮かべた。そして、次の瞬間、左腕の悪魔と呼ばれたソレの姿が煙に包まれる。次第に晴れてくると、煙の中から、王冠を頭に被った白いネズミがちょこんと荒野に立っていた。

 

「ネ、ネズミさん?」

「ああ、アレが奴の正体。だが、驚いたな。」

 

夏音に説明しながら、アーチャー は、言葉を続ける。

 

「わざわざ不意打ちのためだけにお前を寄越したのか?もしくは、お前に限っていうのなら、どちらについて行こうと構わないと、ヤツが最初から言っていたのか。まあ、どちらでもいい。

 

しかし、この力。やはり、お前たちの全盛期というのは、あの最期の戦い(・・・・・)の時のことを言っていたのだな。」

 

その言葉を聞いた時、あからさまに三体の顔が苦虫を噛み潰したような表情になる。その様子に気づいたアーチャーは煽るように言葉を続ける。

 

「なんだ?最期という表現が気に食わなかったか?俺が勝ったのが気に食わなかったか?それとも、

 

 

俺に対抗するためにあんな手段(・・・・・)を講じた自らの主人の所業が気に食わなかったのか?」

 

その言葉が引き金となり、三体のうちのメイドロボと鯨犬の二体が一斉に駆け出す。その様子を見たアーチャー は背後の夏音から距離を取るために駆け出す。

三者の突進が中央で激突した瞬間、ぶつかり合う音とはとても思えないような爆音が響き渡る。そのあまりの事態に夏音は一瞬、目を瞬かせ、背ける。そして、改めて目を向けた瞬間、先ほどと同様、いやそれ以上に苛烈で尋常ではない闘いが幕開けていた。

さまざまな現代兵器が火を噴き、鯨犬の巨体があたり踏み荒らし、噛み砕き、吹き飛ばしていく。そして、それらを向けられている赤い外套の弓兵は万の剣を従え、操りながら、攻撃を捌いていく。

この世の終わりのような想像を絶するその光景に夏音は絶句する。

 

だが、そんな光景を生み出した夏音は主と定めた弓兵は淡々としていた。日常の光景を見るような驚きのない若干退屈そうな目を向けて、戦闘を続けていく。

戦闘を続けていく中で、弓兵はふと呟いた。

 

「しかし、まあ、良かった(・・・・)

 

ーーーーーー

 

「はぁ、はぁ…ゴホッ」

 

少女の姿をした魔女・那月は、息を荒くし、血反吐を吐きながら、前を向く。

 

「化け物め…」

 

悪態をつきながらも、考えを巡らせる。

全身に少なくない裂傷。さらに貯蓄された魔力はほとんど失われている。つまり、決定的な詰みの状態。この状態で魔女の守護者たる悪魔を召喚したところで、制御しきれず自爆するのがオチだ。

 

(いや、召喚したところで、あの怪物に対抗できるのか?)

 

そう考えながら、頭上に存在する怪物を眩しげに見る。

エイとクラゲを融合させたような半透明な美しい怪物はメレム柄の翼を羽ばたかせながら、空中を浮遊している。その目には那月のことなど写ってさえいない。

彼にとって、那月はその程度の存在でしかない。

 

そのことに若干腹立たしさを感じた那月だが、すぐに思考を別のことへと切り替える。すなわち、現在の状況について…

 

(目の前には魔術師が二人に、サーヴァントが二騎。応援は既に呼んでいるが、未だに来る様子がない。これは何かあったと見るべきだな。十中八九、目の前のやつの仲間か、もしくは目の前の奴ら自身の仕業なのか。)

 

ーーーーーー

 

那月の読み通り、現在、応援に駆けつけていたアイランドガードたちは全員、監獄結界への道の途中、とある交差点の道中でにて釘付けにされていた。

 

「第一、第二部隊、応答を!」

「ダメです。隊長。既に全滅しています。」

「くっ!」

 

隊長と呼ばれたその男は目の前の光景を見る。悪夢のような光景だ。それが男のその光景に対する偽りなき感想だった。

魔族特区『絃神島』その治安を守るアイランドガードはさまざまな事件が発生することを想定し、常に最新式の装備を取り寄せていた。獣人のスピード、吸血鬼の破壊力、そして、魔女・魔術師の魔術。それらに対抗するだけの装備がここには揃っているはずなのだ。

 

だが、その装備は一人の圧倒的武力によって完全に制圧されていた。

 

「なんなんだ。アレは…」

 

男は目の前の光景に唖然としていた。

隊長という職についている以上、既に情報から聞かされていたサーヴァントなるものだということは分かった。

だが、英雄とはいえ、過去の遺物。常に最新を取り入れているはずの自分たちならば、対応できるはずだ。わずかでもそんなことを考えていた自分の頭を今すぐに殴り飛ばしたかった。

 

フードを被り、十字に分かれた槍を手にしているその人物は、その槍にて斬り伏せ、刺してきた人間たちの上で君臨していた。そうだ。槍だ。よりにもよって、そんな原始的な武器が自分たちを押しとどめているのだ。

 

君臨している人物は、静かに周りを一瞥し、ゆっくりと退屈そうに息を吐いた。

 

「分かっていたことだが、やはりつまらんな。これでは戦いではなく、ただの掃除だ。いや、マスターからそう言伝ってはいるから、間違ってはいないんだが…」

 

ようやく、出てきた声はくぐもってはいるが、男のものだった。

男は更に言葉を続ける。

 

「まあいい。さっさと終わらせよう。こちらとしても、これ以上続けるのは不本意極まりないのでな。」

 

そう言って、顔色も窺い知れない男は一歩前に出る。

 

瞬間、足元から突如として、赤黒い雷が昇る。

 

「あ?」

 

それが魔術による結界発動のサインだということに気づいた時にはもうすでに遅…

 

「遅えな。」

 

否、誰もが気づいた時には、その男の姿は結界が発動するはずだった場所から消えていた。

 

「うそ!?」

 

その様子をビルの上から覗いていた煌坂紗矢香は叫びにも似た驚愕の声を上げる。

当然だ。なぜなら、その結界は…

 

「師家様の発動した結界を発動した瞬間に躱した!」

 

その叫びに隣にいた黒猫の使い魔を通して縁堂縁が応じる。

 

「…流石に驚いたね。あんな芸当はペーパーノイズぐらいなら可能かもしれないが、それはあの娘の能力の特殊性故だ。今のフードの男は、そんな特殊能力など使わずに…」

 

「おう。ただ、発動する前にその場から走って避けただけだ。」

 

背後から聞こえてきたその声に肌が泡立つ。瞬間、その声から遠ざかるようにして一気に距離を取り、片膝を着きながら声がしてきた方向に弓を構える。

だが、視界には人影らしいものはなく、驚愕したのも束の間。突如、自分の頭横に槍が伸び、またも、背後から声がかけられる。

 

「女だてらに中々大した技量だ。まだ青いが、筋もいい。」

「っ!?」

(振り向くな!紗矢華)

 

頭の中にその声が届く。自分の肩に乗っている縁堂縁のものだ。

 

(振り向いたら、こいつは確実にお前を殺しに来る。フードを被っているとはいえ、顔が見えないとは限らん。今の状態で、情報を得た疑いをかけられれば、奴は確実にお前の命を消す。

 

それが簡単にできるヤツだ。)

 

「振り向かねえな。恐怖で縮こまってるのか、それとも、その肩に乗ってる猫もどきに念話を通してアドバイスを貰ってるのか。いずれにしても、正しい判断だと褒めておくぜ。そのままじっとしてろ。一歩も動くな。オレがこの戦場を離れるまでお前らは何もするな。そうすりゃ命は助けてやる。元々、いけすかない任務だったしな。これくらいは許してもらう。」

 

(『いけすかない任務』ということは、この惨事はコヤツの本意ではないということ、交渉の余地があればよいが…)

 

そう思考する縁堂だが、その思考を読み取ったかのように

 

「交渉の余地はないぜ。俺は誰より英雄らしく生きたいと思ってるだけ…戦い方だろうが、思想だろうが、なんだろうが、それが一番英雄らしいということをするだけだ。だから、『主人を裏切って、あんたらの交渉に乗る』なんていう一番英雄らしからぬ行動はしねえ」

 

フードの男はそう断言した。男は断言した後、ゆっくりと槍を引く。

行動を許したわけではない。ただ、自分の仕事のために、今は槍を引く必要があったというだけ、男は、ビルの下を一瞥した。すると、辺りを警戒し、その場を見回っていたアイランドガードたちが隊を固め始めた。このまま何もなければ、監獄結界に突入しようという算段を立てているのだろう。

 

「そうは問屋が下さねえってな。というわけで、これ以上何もするなよ。

 

次は、その命ないと思え。」

 

そういうと、フード男がまたも視界から消え失せた。少しして、またも下の方から悲鳴が聞こえてきた。男が蹂躙を再度始めたのだろう。

 

「っはぁ!!」

 

恐怖などとうに通り越し、息さえすることを禁じていた紗矢華はここで初めて息を吐いた。息苦しく、重々しい、あんな殺気の重圧は初めて感じた。

その様子に哀れみを感じた縁堂だったが、現状を鑑みて、心を鬼にし、言葉を告げる。

 

「紗矢華、この場を離れられそうか?」

「…いえ、無理そうです。視線を感じるわけではないですが、この場を動いた瞬間、あのフードの男が目の前に現れてくるような予感がします。」

(恐怖を刻まれたか。あるいは、本当に来ると予感しているのか。いずれにせよ、これ以上は、紗矢華に干渉すること自体もあまり良くないだろう)

「わかった。すまぬが、そのまま、ジッとしていてくれ。」

「申し訳ございません。師家様」

 

話を終えた後、紗矢華は肩の上にいる猫から呪力の気配が消えたことを感じとる。縁堂縁が使い魔の術式を解除したのだ。

その気配は感じ取った瞬間、ほうっとため息を吐くと同時に、一気に体が震えだした。

 

(やばい。やばい。やばい!)

 

その恐怖がなにに対するものなのかは理解している。それはこちらへと流してきた殺気。これで同種のものを直に受けるのは二度目(・・・)だ。だと言うのに、まるで慣れない。どころかあの巨人のモノとはまた別種の恐怖のように彼女は感じられた。

 

分かってはいた。それでも理解が未だに及ばない。

 

人の身でありながら、人ならざる力を獲得し、讃えられた者たち…

 

「英雄…」

 

誰もいないビルの屋上で彼女は呟く。

そのつぶやきは誰に聞かれることもなく、ただ、風にさらわれるのみだった。

 

ーーーーーー

 

ところ変わって、監獄結界内部。

 

「キャスターは…」

 

みずからのサーヴァントである少女を見つけるため!辺りを見回す。すると、キャスターがすでに立ち上がっている姿を確認できた。と同時に、そのキャスターを牽制するように前に立つ相手方のキャスターのサーヴァントも確認できた。

 

「ちっ!これは流石に…詰みか。」

 

絶望を少しでも払拭するために不適な笑みを浮かべる。そんな彼女の前にその絶望を叩きつけた張本人・メレムが牙を剥く。

 

「ああ、これで…終わりだよ。」

 

言うと同時にダッとその場を駆け出し、那月の元へと近寄っていく。

その姿を確認した那月は攻撃のための魔術を使うこともなく、静かに考えた。

 

(魔女となり、教師となり、28年生きてきた。正直、ろくでもないことばかり起きていたが…)

 

那月は最後に締めくくるようにして、笑顔で呟く。

 

「悪い人生ではなかったな。」

 

ーーーーーー

 

遠く離れた遠洋にて、古城はざわりと背中が泡立った。戦闘中だと言うのに、目の前の敵から目を背け、思わず呟いてしまう。

 

「那月ちゃん?」

 

 

ーーーーーー

 

静寂が場を支配する。ボタリボタリと粘り気のある水音が辺りに響き渡る。その中心にいる少年メレム・ソロモンは血に染まった手刀をそのままに、ほおを釣り上げながら、言葉を乗せる。

 

「愉しかったよ。南宮那月。」

 

 

少年が視線を向けた先には血溜まりがあり、その中心には首と胴が泣き別れしている少女・南宮那月の死体があった。

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