ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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お待たせしました。どうぞ。


錬金術師の帰還 XV

「っ!?那月!?」

 

アリスが絶叫を上げながら、自らのマスターである那月の元へと駆け寄ろうとする。だが、その後ろ姿を確認したアイザックがそれを見過ごすはずもなく、手を手刀へと変化させ、アリスの背後へと迫る。

 

「よそ見とは余裕だね。まあ、マスターが死んでしまった以上、これ以上はやり過ぎな気もするが…」

「っ!?」

 

慌ててアリスは体を反転させようとする。だが、それよりも早く手刀は正確にアリスの背中を捉え、

 

ズサッという音と共に背後から胸部へとその手刀を貫通させ、刺し貫いた。

 

「あっ…」

 

事切れた。完全に確実に自分の命脈が絶たれたことを確信するアリス。だが、それでもなお、その掌は自らのマスターほど向けられる。

 

「な…つ…き」

 

それを最後にアリスはその場にドサリと倒れ込み、その体を静かに光粒へと変え、消えていった。後に残ったのは、一人の少女の死体と二人のマスターとサーヴァントのみだった。

 

「さて、それでは行こうか。マスター。」

「待て。まだ油断するな。」

 

自らのマスターである仙都木阿夜に声をかける。だが、その声を寸断するように阿夜は警戒をうながす。

一瞬、それに対して、疑問を持ったメレムだが、すぐにその警戒に対して答えを出した。

 

「ああ。前回(・・)は自分のバックアップを取って、どうにか自分の死を免れていたんだっけ?でも、大丈夫だよ。」

「っ!?」

 

その答えに対し、阿夜は驚きを隠せなかった。自分の思考のうちを読まれたからではない。この男がまるで、召喚される前…前回の戦いの一部始終(・・・・・・・・・・)を知っているかのように話したことに驚いたのだ。

 

(私はこの男に対して、一度もそんな話をした覚えがない。この男どうやって…)

「先に言っておくけど、僕は別に君の思考を読んだわけじゃないよ。ただ、今の僕は少しだけ、視界が広がっている(・・・・・・・・・)。だから、この島で以前起こったことも知っている。それだけの話なんだよ。」

「?どう言うことだ?」

「これ以上は敵地だから教えられないよ。で、さっきの答えだけど、彼女がバックアップを取る暇は万が一にもなかったよ。前回の戦いは彼女自身大きな力を使わずに済んでいた。結界を守ることを重視して、君の娘との戦闘にも自身の力を使わず、吸血鬼もどきのあの少年にすべてを一任していた。」

 

だが、と少年は締めくくりながら答える。

 

「今の彼女にそこまでの余裕はなかった。彼女は全身全霊で最後まで戦い続けるしかなかったし、何より、それ以外は僕が許さなかった(・・・・・・・・)。」

 

そう答えた後にメレムはパチンと指を鳴らした。その瞬間、自らの周囲を包み込む空気が軽くなったように感じられた。この感覚を阿夜は知っている。

 

「これは…結界!?いつの間に、いや、一体これほどの結界をどうやって那月や相手のキャスターに気づかせずに張り切ったのだ!?」

「一番最初、南宮那月とキャスターに不意打ちを喰らわせたときさ。攻撃を喰らった後じゃ、体の弱りから幾分か感覚が鈍るしね。かけるならその瞬間しかなかった。最も即興だったから、内部への妨害に特化させ、外部からの侵入に対する感知は若干甘いモノだけどね。」

 

その言葉を聞いて、阿夜は改めて確信した。この男が人外なる存在。サーヴァントであるということを…

 

「さてと、それじゃ、話も終わったし、行こうか。ねぇ、そっちのキャスターとそのマスターそれでいいだろう?」

「…ええ」

「はい。」

 

気軽な調子で声をかけるメレムの質問に対して、複雑な表情を浮かべながら、返答をする。

その様子に少し疑問を抱いたメレムだが、すぐに思考を切り替える。今はそんなことを考えている余裕がないと判断したためだ。

 

「さてと、あ、そういえばさ。君たちのこっちへの密航手段ってなんなのかな?」

「…ここでは言えないわ。誰が聞いているかわからないしね。」

「ああ、だよねぇ…うん。分かったよ。」

「というか、なんでいきなりそんな質問をするの?」

「ん。ああ、それは…ねぇ!」

 

メレムは空に向かいながら、声を張り上げる。すると、メレムの声に応じて『左足の悪魔』と呼ばれる怪物は応答する。

メレムは少しの間、怪物と何事かゴニョゴニョと話した後、改めて阿夜や恵莉たちの方へと視線を向けて言葉を放つ。

 

「話はついたよ。彼がこの島の脱出の手引きをしてくれるって」

「「「はっ?」」」

「いや、だから、彼の背中に乗って脱出しないって言う僕の提案なわけだけど、どうかな?」

「ああ、なるほど」

「「えっ!?」」

 

そこで阿夜は納得したように応答し、恵莉たちは信じられないものを見るかのような目を左足の悪魔へと向ける。

恵莉たちはすでに彼らの情報を得ている。確かに先ほどメレムからは協力を約束されたが、それだけだ。彼の、いや、彼ら(・・)の過去を知る限り、少なくとも人間に怒りを抱いていないわけがない。そう考えていた。なのに、そんな心中など覚えがないかのように、いや、いっそ、興味すらないように友誼を深める場を提供してきた。

 

(何というか、読めない上に、食えないわね。)

 

ここで断ったとしても、後々に影響が出ることはまずない。だが、一時的とはいえ、協力関係にある以上は万が一は避けたいところだ。

 

「…分かったわ。その提案に乗らせてもらう。」

「OK!それじゃ、頼むよ!」

 

メレムがそういうと、左足の悪魔と呼ばれるそれはゆっくりと首をもたげながら、地上に降下していく。そして、地面に当たらないギリギリのところでその体を停止させ、メレムたちの目の前に止まる。

 

「さ、それじゃ、乗ろうか」

 

ーーーーーー

 

「いざ、参る。」

 

剣の柄を両手で持ち、水面を弾き飛ばすようにして、宙へと飛ぶライダー。対して、偽・真理の巨人(ジャイアント・ヴェルメストII)は、右腕を宙へと向ける。

 

偽・真理の巨人(ジャイアント・ヴェルメストII)の特記すべき能力はその巨体から放たれるパワーではなく、両腕(・・)からはなたれる特異な魔術。その能力の多様性にこそある。

右手の指はそれぞれ五代元素を主軸として、ニュートン自身が当てはめた五色の鉱石が指の形をしており、これから放たれる魔術のその攻撃力、応用性は並の魔術師など優に超えている。

右手にある赤い鉱石が光り出し、巨人はその手をライダーはと向ける。

 

瞬間、放たれるのは熱線。白炎を纏ったその熱戦はライダーの目の前まで迫る。その熱戦が勢いよくライダーへと着弾し、そのまま、海にまでその熱戦が届くと海は蒸発し、あたりに蒸気が立ち込める。それを確認した巨人は目前の光景を鼻で笑った。

 

(なんだ。少し雰囲気が変わったと思ったけど、勘違いか。さて、後は…)

 

つぎに古城たちがいる方向へと狙いを定めようとした瞬間、先ほどできた蒸気から一つの影が勢いよく突き出てくる。

 

『なっ!?』

 

すでに古城たちの方へと狙いを定めようとしていた巨人はその光景に唖然としながらも、直撃を避けるためになんとか右腕を差し出す形で防御へと回す。

 

「遅い!!」

 

だが、すでにその腕を切り裂いてみせたライダーにとってそんなものは足止めにもなり得ない。左腕は瞬時に切り裂かれ、ライダーは巨人の目前にまで迫った。

もはや、巨人になす術はなく、誰もがその首を切り落とされる光景を想像した。だが…

 

『ちっ!』

 

巨人が舌打ちを鳴らした瞬間、右腕の残り一本の鉱石が光り輝き始める。残る鉱石は一つ。五代元素の中で『空』に対応した白い鉱石の小指が光ったその瞬間、巨人は目の前から消えた。

そして、その姿をライダーの背後に移し、右腕を振り上げて攻撃を仕掛けようとする。背後からの攻撃だ。さらに突進の途中下にあるライダーは方向を変えることも難しいはず…

 

ただし、それは、もしも、その動きを読まれていなければの話だが…

 

「甘い!」

 

瞬間、ライダーは背後へと振り返り、剣を光らせ始める。

ライダーは剣の伝説の他に投槍の伝説もある英雄だ。彼は前回、その正確無比な投擲術によって剣をアーチャーへと投げ渡した経緯があった。

つまり、その技術は未だなお、彼の中に息づいているわけだが、これを宝具として顕現させた場合、少し様相が変わってくる。

 

今なお光り続ける剣をライダーはそっと上空をなぞるように振るう。すると、その剣先から光が漏れ出るようにして一筋の線を生みだす。やがてそれは、一本の槍のような質量と形状を伴い、彼の剣先に追従する様に姿を現した。そう。これこそがライダー・ゲオルギウスのもう一つの宝具。

 

竜殺し(インテルフェクトゥム・ドラーコーネース)!!」

 

時に剣の姿をとり、時に槍の姿をとるゲオルギウスの絶技。その絶技が巨人へと、いや、今や竜種の一体となったモノヘと牙を向ける。

 

『っ!くっ!?』

 

慌てたようすで迎撃の態勢を整えようとする巨人。だが、遅い。迎撃用の魔術を発動する一瞬前に、光輝く一閃の槍が顔面へと着弾する。

 

『ぐおっ!?』

 

着弾した瞬間、巨人の顔は爆発にのまれる。巨人は瞬時にその顔面を再生させようとするが

 

(っ!?再生が遅い。竜殺しとしての能力が回復を阻害しているのか!)

 

当然そんな遅くなった再生をわざわざ待っているほど、ライダーは間抜けではない。すかさず、今度は巨人の足元を狙う。

力屠る祝福の剣(アスカロン)の刃が光っていく。そう。先ほど言っていたように竜殺し(インテルフェクトゥム・ドラコーネス)が剣の姿として顕現しようとしているのだ。

 

(っ!まずい!?)

 

自らの顔面が再生し切っていないところから予想すると、足を狙われると言うのは非常にまずい。

偽・真理の巨人(ジャイアント・ヴェルメストII)賢者(ワイズマン)の力を主軸に置き、作られた擬似宝具だ。それ故に、その性能の根本はどうしても賢者(ワイズマン)に依存する。そして、賢者(ワイズマン)の能力の最も厄介な点はその不死性にある。足元から吸い上げた海水より検出される微量の金を自らの肉体とすることで海に金が存在し続ける限りは、賢者(ワイズマン)に死はなく、それ故に完璧であり無敵の人間(・・)とされてきていた。

 

だが、今、目の前にいる男はその人間としての性質を無理やり竜種へと変貌させてきた。つまり、今の自分は不死性を持った一匹の竜に過ぎない。

 

不死身の竜というのは竜としてはありふれたテンプレート。ならば、竜殺しの概念が竜の巨人の体を殺し尽くさないなどとは譲り受けた不死性を持ってしても、とても言えなかった。

 

「チッ!?」

 

退避するために先ほどと同様に空間転移を使おうとする。だが、その魔術が発動するよりも先に偽・真理の巨人(ジャイアント・ヴェルメストII)の足元へとライダーの剣が届く。

 

「ふん!」

 

あっさりと、まるでバターのように切り裂かれる巨人の足。巨人はバランスを崩し、体が海面へと落ちていく。ザパーンと体を海へと沈めていく巨人。

 

それを見たライダーは油断なく、その巨人の体を見つめる。

 

「終わりです。キャスター!」

 

再び剣が煌めく。その剣光は魔力の爆発的な高まりとともに光り輝いていき、そして…

 

「ぜあっ!!」

 

一息にその光の筋は巨人の肉体を両断した。バクンと縦に裂けていく巨人。

ズウウンという重々しい音を上げながら、海へと沈んでいくふた別れした巨人の身体。

しばらくして、再生しない様子を確認したライダーはその場を後にする。

 

「す、すげぇ」

「あの巨人をああまで一方的に」

「ああ、しかも、我々を守りながら…な。凄まじいものだ。」

 

その様子を遠目で眺めていた古城、雪菜、ニーナの三者三様の感想を述べた。

 

『ああ、大したものだ。咄嗟にこの術式(・・・・)の発動が遅れていれば、巨人としての僕の意識は完全にあそこで途絶えて(しんで)いただろう。』

 

「「「っ!?」」」

 

だがそこで、三人の後方からさっきまで聞き覚えのあった声が響いてきた。

背後を振り向き、海から上がるその巨大な右手を認識する暇はなかった。

その反応よりも前に破壊の熱線が三人へと降り注いだためだ。

 

その攻撃に誰よりもまず真っ先に反応したのはニーナだ。瞬間、ニーナは自らの不死の肉体を膜のように展開し、古城と雪菜を守るために防御の体勢を取る。

そして、ニーナの次に反応した雪菜は迷わず古城の前に出て、雪霞狼の術式を展開した。

 

最も緊張を覚えた瞬間的な攻撃に対し、ニーナと雪菜は即座に反応してみせた。それだけで手一杯だった。

 

だからこそ、両者はその時まで失念していた。そこまでの反応を見せることができた二人がなぜ、今の今まで巨人が背後まで近づいてくるまで、全く反応することができなかったのかという、簡単な懸念点を…

 

ギュルリと古城の足に何かが巻きついてきた。木の根が海中から這い出し、巻きついてきたのだ。

そして、木の根は一気に古城の体を海中へと引っ張っていく。

 

「なっ!?うおわ!?」

「っ!?先輩!?」

 

瞬間、古城が会場で見た光景は頭の中をゆっくりと流れていった。不思議なほどスローなその体験は、その場の状況を正確に見通せた。

 

今も続けられる攻撃から身を守るために、その場を見ることしか出来なかったニーナ。おそらく、巨人が突如として自分の背後に現れた時からこちらへと駆け寄っているライダー。そして、自分を助けるために慌てて手を差し伸ばそうとする雪菜。だが、それらの光景は無常にも自分の視界を通り過ぎ、その直後、自分の目の前に青一色の光景が広がった。海に沈められたのだ。

足元を見ると木の根はひたすら海の底へと向かっていた。明らかに自分を溺死させるつもりだ。たとえ不死の吸血鬼とて、溺れてしまえば、息ができなくなるし、当然苦しい。

 

(っ!?やばい!)

 

瞬間、そうかんがえた古城は眷獣を召喚しようと腕から血を噴き出そうとする。だが、そこで不意に思い至る。今、この魔力を暴走させたとして、自分は果たしてどこまで制御できるのか、と…

 

すでに意識の方は溺れかけ、混濁したこの意識の中で自分の魔力を暴走させてしまえば、海上にある姫柊や船の中にいるものたちまで巻き込んでしまう。自分の力は世界を破壊しうる第四真祖の力だ。ほんの少しつま先一つでも力加減を違えば、力の奔流はたちまち厄災となってしまう。

 

この状況下でそんなことが起こってしまえば、間違いなく大勢の命を犠牲にする。故に、古城は一瞬、逡巡してしまった。だが、その一瞬の逡巡が命取りだった。今も自分を海中へと引き摺り込んでいる木の根が掴んでいる足首あたりが、不意に妙に硬くなった。

 

怪訝に思った古城が足元を見る。すると、足首から先が鉄のような金属の膜に覆われていた。

 

「がっ!?(なっ!?)」

 

金属が覆われている箇所から徐々に魔力の操作が不安定になっている。しかも、速度が速い。足元が金属になったと思ったら、その数瞬後にはすでに顎のところまで金属の波が迫っていた。

 

(や、やばい!これは本当に…)

 

だが、その先の思考が続くことはなかった。その直後、全身を金属で覆われてしまった古城は物言わぬ鉄像と化したのだった。

その後は、ただ海中へと引き摺り込まれ、深い深い闇の底、深海へと堕とされていった。すると…

 

『全く、情けない。それでも第四真祖か。』

 

闇に飲み込まれていく中、不意にそんな声を聞いた気がした。

 

ーーーーーー

 

「いや、本当に良かった(・・・・)。」

 

その言葉を聞いた瞬間、文字通りメレムの手足となっている悪魔たちは、疑問を頭の上に浮かべた。

一体、何が良かったというのか?現在、戦局的に優勢な立ち位置にあるのは間違いなく我らが主の勢力だ。たとえ、自分たちがここで負けたとしても、それは特に戦局的に影響しない。あまり考えたくないが、消滅したとしても、メレムが無傷ならばまた復活が可能なのだ。そのことは、目の前の男とて知っているはず。なのに、何が良かったというのか。

 

そんな彼らの疑問に気付いたアーチャーは不適な笑みを浮かべてその疑問に答える。ちょうど良い時間稼ぎとなると考えたためだ。

 

「いやな。お前たちを地平線の彼方で目視した瞬間、俺は正直、この戦争はこのままでは敗北すると確信していた。我らが生き残れたとしても、戦局的には君たちに大幅に傾いた状態で終わってしまう。そのダメージは決定的だろう。

 

お前たちの主はそれができる力の持ち主だ。

 

俺はそれをよく知っている。」

 

その言葉に多少なりとも虚栄心を抱いた悪魔たちだったが、すぐにその考えは収まる。ならば、なぜこの男は『良かった』と言ったのかそれがますます疑問だったからだ。

 

「オレは気配感知などという上等なスキルは持っていない。気配を探れたとしても、こちらに殺気か視線を向けるか、もしくは自分が作った簡易的な結界内に限られる。」

 

以前、ランサーの気配を目視ではなく気配で感じ取ったのもそれが理由。周囲一帯に散りばめた宝石による簡易結界により、アーチャーは気配感知の感度を擬似的に上げることができたのだ。だが、ランサーの方からお返しとばかり殺気を流されたところから、簡易的にすぎる上に下手をすればキャスターなどには利用されかねないと判断したため、早々にセイバー戦の際に宝石内に結界用に貯蔵していた魔力を自分の中へと回収した。そのため、今では、あの島の中で結界など働かせていないのだが…

 

「そんなオレがだ。」

 

そこで言葉を区切りながら、苦々しい表情で次の言葉を続ける。

 

「お前たちを目視すると同時に気配(・・)を感じた。当然、ここにいる者たちを除いた、な。」

 

自分たちを除いたようなその言い方に悪魔たちは、一瞬、自らの主人の気配のことを言っているのかと思ったが、すぐにその考えを思い直す。目の前の男の言い方が明らかにそう言った意味を含んだ言い方でないことともう一つ、自らの主人がこう言っていたことは思い出した。

 

『ああ、うん。そりゃ、そうなんだけど、シロウのことだから、僕が見た(・・)瞬間、気付くと思うんだよね。それじゃぁ、サプライズとしては弱いだろう?だから、聞きたくてね。』

 

そうだ。確かに我らが主人はそう言っていた。つまりあの時、主人はこの目の前の男を見ていなかったということ。ということは誰だ?

 

「正直な話、戸惑っている。ヤツは本来なら絶対に召喚されないサーヴァント。いや、まあ、そのあたりは人のことを言えないんだが…ヤツが召喚されたということは十中八九この世界では厄介事が起こる。それもとんでもないレベル(・・・・・・・・・)のものがな。

 

あのバカは人でなしだが、人類のハッピーエンドをこそ好む。

 

逆にいえば自分も動かなければ、この世界はハッピーエンドにはなり得ない(・・・・・)と、そう考えたということだ。こんなめまぐるしい事態の真っ最中だというのにそんな悩みの種をボンと置かれてみろ。流石にボヤきたくなる。

 

だが…」

 

一体、この男を見ていたと言うモノは誰なのだ?三者が同時に抱いた疑問に対し、答えを与えるようにアーチャーは言葉を続ける。

 

「味方となれば、頼もしいヤツだ。気に食わないが、コレもとんでもないレベルでな。だから、ボヤキはしたが、『良かった』と言ったんだ。コレで少なくとも、こちらにも勝ちの目が浮かび上がる。」

 

ーーーーーー

 

メレムたちが悪魔の背に乗り、いよいよこの絃神島を出ようと思った瞬間、

 

突風が吹いた。

 

ただそれだけだったが、花の香りが鼻腔をくすぐったことでわずかな違和感を抱く。すると、そこで…

 

「いやぁ、それは困る。実に困るんだよね。実際…」

 

監獄結界の陰鬱な気配を吹き飛ばすような陽気な声が響いてきた。

その事態に対して、メレムたち四人は一斉に声が響いてきた場所へと視線を向ける。

 

すると、そこで一気に監獄結界に一輪もなかったはずの花の吹雪が舞った。目を覆わんばかりの花の舞。それらが舞い終わると、監獄結界は一面を美しい紫の花に覆われていた。その中心にその男は立っていた。

 

「君たちをこの場から離してしまうと、こちらとしても勝ちの目は薄くなってしまう。そういうわけで、君たちにはまだまだここにいてもらわなきゃ困る。」

 

 

男が杖の石突をコンと花畑に当てると、花畑の中から花に埋もれたその身を起こすように、先ほど首を断ち切ったはずの南宮那月と胸を貫かれたはずのキャスターが出現した。

 

「なっ!?」

「へぇ…」

「っ!?」

「わおっ!」

 

その光景に驚かされるメレムたち。そんなことを気にする様子もなく、男は、なおも笑みを浮かべて言葉を続けてきた。

 

「さぁ、ここから始めよう。君たち(・・・)の物語を」




終わりは近づいてる筈だ。だというのに、まだ終わらない。
だんだん「この続きはちゃんと考えているんです。」というのが嘘っぽくなってきた気がする。

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