MONSTER HUNTER DESTINY   作:N-ao

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まずはじめに、一ヶ月以上作品を放置しましたことをお詫びいたします。この一ヶ月間、自分なりに暇を見つけて創作の時間に充てたつもりでしたが、全くと言っていいほどに筆が進まず、結局インスピレーションが湧いた数日間で今回の話を書きました。心配していたファンの皆様に対して、このような姿勢で創作をしてしまったことを深く反省し、より良い、より速い創作を目指していきたいと思っています。

辛気臭くなりましたが、今回はちょっとボリュームを増やしてみたので、そこも含めてシンとミラの初クエストの続きを楽しんでください



HUNTING-05 「轟く竜、鋼の龍」

 シンとミラは、その場で左右に分かれ、全力を以て跳躍した。ティガレックスの巨体が直後にそこにダイビングする。舞い上がった雪煙はティガレックスの巨体を隠した。

 

「ミラは......ミラ!」

 

ミラの方に意識が逸れたシン。気づくと、雪煙の中から巨大な雪玉が飛んでくる。シンは軍属コーディネーターの反射能力と瞬発力(アドバンテージ)を存分に生かして再び跳躍し、安全圏へ逃れる。前回と違い精神的に余裕がある状況、まずは様子見と、立ち上がって轟竜の方を向く、そしてシンの背筋が凍りつく...

 

 

 ...轟竜が既に突進を始めていた。

 

「てぇぇぇえええいっ」

 

シンは大剣を取り出し、その腹を前に向け防御の態勢をとる。硬質な物同士がぶつかり合い、軋んだ音が響いた。シンは突進の勢いに負けじと声を張り上げ、後退しつつも致命傷を防いだ。

 

 

 ギシギシと、黒板をチョークで引っ掻くような音が連続して聞こえる。ミラが轟竜の足を狙って攻撃を仕掛けた、その音だ。しかし、初心者用のなまくらな武器であるためか、文字通り刃が立っていない。冷静に離脱しようとしたミラに、ティガレックスの丸太の如く太い尻尾が襲いかかった。

 

「うっ」

 

 

咄嗟に構えた右手の盾では、衝撃を押し返す力はない。シンより軽いミラは尻尾の一撃で大きく後方に吹っ飛ぶ。自分達のどちらも奴に有効打を与えられていないことに焦ったシンは、無謀にも轟竜に突撃する。

 

「おおおおおおおおおおおっ」

 

大剣を使う上での(教官曰く)基本にして至高の技、走行即抜刀切りを雄叫びとともに繰り出すシン。もとから狙いをつけることなんて考えない、只全力を以て振るった一撃は...

 

...や は り 、 刃 が 立 た な い (デ ス テ ィ ニ ー と は 違 う)...

 

...この瞬間にシンは撤退を考えたが、轟竜はそれを許すまじとシンを引っ掻く。一瞬の逃げの姿勢が彼の反応を鈍らせた。完璧な一撃を胴に食らったシンは吹っ飛び、痛みで立ち上がるどころか目を開けることすらできない。ここまでなのk...

 

 

「シン、目閉じとって!」

 

 ミラが何かを投げ、一瞬の間を置いて、瞼越しでも分かるほどの強烈な閃光が炸裂した。シンは痛みをこらえて起き上がり、轟竜の様子を確認する。あちらはまともに光を見て目を潰されたようで、その場で吠え続け、暴れまわっている。

 

「早く!こっち!」

 

どうやらシンが轟竜の相手をしていた僅かな時間でミラは閃光玉(スタングレネード)を用意し、退路を見つけてくれたらしい。また奴に跳ね飛ばされては堪らんと、シンは必死にミラの後を追う。深雪が二人の足に纏わりついて撤退を妨げる。もう少しで轟竜の通れない通路というところで、一際大きな雄叫びが上がった。二人は振り返り、表情を凍らせ、すぐに通路の方に向き直り、人一人が辛うじて入れる穴に、飛び込むように逃げ込んだ。轟竜がその入口に全力で突撃したのはその直後だった。

 

 

 

 

 

 

 通路の先は、少し開けていた、そして、麓のように草が生い茂って、しかも麓と違い一面に花が咲いていた。それでいて、眼下の、同じように花開く草原を一望出来る。まさに...

 

「...絶景やな」

「そうね...」

 

二人はそれきりその景色に魅了され、ただただ草原もとい花畑を眺めていた。シンは叢に腰を下ろし、先程の己の戦い方を見つめ直す。今の機動力は、愛機デスティニーの高性能なスラスター(ヴォワチュール・リュミエール)では決してなく、大剣にしても、アロンダイトみたく二十メートル近くもなければ、刀身にレーザーが出ているようなこともない。この身を護るのは、MS(モビルスーツ)用のシールドとPS(フェイズシフト)装甲ではなく、この大剣の腹と防寒着だけ。

 

 夏草や兵どもが夢の跡 

 

とは誰の短歌だっただろうか。自分もその状況に陥りかけていたことを考えると、急に何もかもが畏ろしく感じる。俺は、人は、何てちっぽけな...

 

 

「あ、ポポやん♪シン、行くよ!」

 

 ミラが今回の目的である草食獣ポポを見つけてシンを呼び出す。しかし、シンからの返事は一向に返ってこない。ミラは、またか、と呆れた時の口調で呟いて、シンのもとに駆け寄り、彼の両脇を抱えて無理やり立たせた。シンは、豆鉄砲を食らったような顔でミラを見つめる。

 

「行 く よ 。今回の目的は、アレの討伐じゃなくてポポのタンでしょ。」

 

シンの考えは既に看破されていた。その上でミラにここまで言われて、シンに、無視する、という選択肢は存在しなかった。仕方なく、ミラについて行く。

 

 

 二人は丈の高い草に紛れつつ、ポポが数頭固まっている場所へ、息を殺し、足音を殺してゆっくり近づく。定位置に就いたところで、ミラはシンに待機するよう指示した。そして彼女自身は、群れの方へ駆け出す。ミラの剣が一閃し、鼻の短いマンモスのようなモンスターの右後肢を切りつけた。シンの手汗が止まらない。ミラはポポが振り向くまで同じ足を切り続け、今度は別の足に対してそれを行った。ついにポポは態勢を崩し、横倒しになる。

 

「C'mon!シン!」

 

その声と同時にシンはポポの方にダッシュし、その土手っ腹に大剣を振り落とす。何回か切りつけ、最後に首元に渾身の一撃を加えると、そのままポポは動かなくなった。

 

 

 初めて生身の相手を殺した。

 

ポポの最期の鳴き声と、相手の首をへし折った感触は、シンに想像以上の高揚感と生理的嫌悪を催した。相手は息の根を止めた、自分は激しく息をしている。シンは二つの感覚に挟まれ打ち震え、腕を持ち上げることさえできない。彼が呆けている間に、ミラはポポのタンとその他食べられそうな部位を切り取り終えていた。

 

「どうしたと?大丈夫?」

 

ミラが肩を叩き声を掛けても、シンは震えて動かない。そんなシンの様子を察して肩に優しく手を回し、ミラは語りだす。

 

「今さ、このポポ一頭倒すにも、あたしとの連携を使ったし、凄く緊張したでしょ。生命(いのち)を討ち取るって、本来凄く手間がかかるし、自分の身体にも心にも負担を強いることなの。さっきシンが考えとったティガレックスとかまさにそれ。」

 

言われてシンはハッとした。MSに乗っていると、トリガー一つで相手を殺すところを見ることなく命を奪える。だから、戦争にて死ぬ覚悟もない者が、死にたくない者を簡単に殺していく。でも、俺はそいつらとは...

 

「やけんさ、あたしたちは協力しとっと。思った以上の覚悟(・・・・・・・・)が必要で、傷つけるのも傷つけられるのも怖くてたまらない時は、それを紛らわすために突撃とか逆効果なんよ。そげなことしたって、見たくないもの(げんじつ)とか怖いもの(うんめい)から逃げとるだけやん。」

 

...全く違わなかった。C.E.で、シンが覚悟を持って臨んだ戦など何一つなかったのだ。たとえあの世界で持っていた「もう失いたくないから誰かを護る」という覚悟を抱き続けたところで、今みたいに生身の人間を殺し、失った者達の叫びを聞けば、その覚悟など簡単に砕け散っていただろう。シンは改めて直面した事実に目眩すら覚える。自分が殺してきた命とは...

 

そんなシンにも、ひとつだけ確信したことがある。命の価値は見えにくく、代償は安い、そんなC.E.の感覚なんざ今ここで捨て去らなきゃならない。その為に、

 

「...このポポを弔おう。俺は今ここで誓う。どんな生命も、価値ある存在として誇れる者達だってこと、俺は決して忘れたりせん!」

「そうね。あたしも今ここで改めて、生命の重みを心に刻もうと思う。」

 

二人はポポの前に跪き、目を閉じて、自分達にその肉を恵んでくれたポポの遺骸に、黙祷を捧げた。開いたシンの紅い目から、これまで奪った命の分も含めて、幾筋もの涙が溢れた。

 

「どんな命だって、生きられるのなら生きたいだろう。」

 

この言葉を放った友人の苦悩が初めて真の意味で理解できた、シンはそんな気がしていた。

 

 

 

 

 

 二人はその後、ポポのタンを必要量だけ集め、行きに使った洞窟の入口へ向かって、吹雪の中を突っ切って歩いていた。視界不良なのに無茶な行軍をしているせいで、精神疲労が早まり、二重に危険(奴の気配)を察知できなくなっていた。

 

「痛っ」

 

前方を歩いていたシンが何かにぶつかってこける。ミラは立ち止まり前方を注意して見るが、それでも黒い影しか分からない。ただ、嗅いだことのある匂いが...

 

「ぅぐっ」

「あぅっ」

 

突然何かの衝撃波が来たかのように、シンもミラも数メートルほど吹っ飛んだ。その時に発生した(こえ)は...

 

「ここまで来て、こいつとか...そんなあほな...」

 

もう一度、ティガレックスが吠えた。

 

 

 

 

 

 視界不良なのは向こうも同じであるらしく、さっきから咆哮か顎を噛み合せたガチガチというような音しか聞こえて来ない。二人はこれ幸いと、物音を立てないように慎重に慎重に洞窟へ向かう。シンとミラが背中合わせになって周囲を警戒しつつ、横歩きで離脱しようという算段だ。吹雪が、緊張でガチガチの二人の身体をこれでもかと言わんばかりに冷やす。

 

「これ、いつまでたっても洞窟に辿り着かれへんやろ。そろそろ走らんと凍えるで。」

「なんば言いよっとね。ここで走っても追いつかれるだけたい。」

 

当然、会話は耳打ちだ。だが、そこに思わぬトラップがあった。

 

「なあ、この状況で閃光玉ってどうなん?」

「試してみよっか。ちょっと待...」

 

顔を常にシンの方に向けねばならないため、ミラはポーチの中をよく見ずに閃光玉を取り出した。と同時に、剥ぎ取ったポポの肉がポーチからこぼれ落ちた。

 

「あ...」

 

瞬間、轟竜の咆哮が大音量で聞こえる。奴は存外にも近くにいたのだ。地を轟かすズシンズシンという音が猛スピードで迫る。そして不運なことに、奴が吠えたタイミングで丁度吹雪が止んでしまった。

 

 

二人と轟竜の間を遮るものは無い。

 

 

閃光玉も回避も不可能な距離。

 

 

残り十メートル、シンの紅い瞳に映るのは、まだMS戦も狩猟も知らなかった頃、一緒にいた父と母と妹。

 

残り八メートル、ミラの蒼い瞳に映るのは、生まれ育った、殆ど代わり映えしないポッケ村。

 

残り六メートル、二人の目前には、無限の時間をかけて、だが一瞬で迫る地獄の使者。

 

残り四メートル、奇跡は起こった。

 

 

 

 

 

 

 雪山の絶対強者、轟竜ティガレックスが、風に吹き飛ばされた(・・・・・・・・・)

 

シンもミラも、目の前のことを現実とは思えなかった。体長にして十五メートル以上、体重にして数トンはあるだろう巨体が、周りの雪もろとも紙の如く風に煽られているのだ。二回、三回と連続でこの謎の突風を受けて、二人とティガレックスの距離はみるみるうちに離れていった。ティガレックスは足を引きずってその場を離れる。

 

 

 一陣の、風が薙いだ

 

やがて、風の主は舞い降りる。ティガレックスとはまた違う、細身の、まるでドラゴンのような顔をシンとミラに向け、皮膜状の翼をはためかせ、その者は舞い降りた。四肢は華奢で、尻尾も鋭い円錐形。

 

「「...天使...」」

 

二人の呟きが重なる。状況だけなら、この者はいつもと環境が違う狩場(フィールド)で窮地に陥った新人(ルーキー)を助けに来た天使だろう。だが、その全身は錆の色。明らかに人型ではなく大型爬虫類型の、強いて言うなら西洋のドラゴンのフォルム。翼がはためく度に、雪が結界を成すかのように舞い上がる。これらの様子を見て、それでもこの者を天使と呼べるだろうか...

 

 

 その天使龍(仮称)が四肢を雪につける。そして一歩ずつ、シンとミラの方に歩き出す。雪の結界は、翼が動かずとも作られるらしく、消え去る気配は全くない。やがてシンとミラの眼前まで龍が来ると、いよいよ風が強くなり、二人共立っていられない。

 

 

尻餅をつき、見上げる二人

 

 

雪の結界をつくり、只見下ろす龍

 

 

龍は翼を拡げて飛び上がり、くるりと向きを変えて、山頂へと飛び去った。シンとミラは驚いて顔を見合わせる。何故に自分達を攻撃しなかったのか、あれは一体何者なのか、山頂で一体何をするのか。

 

「追ってみる?」

「無論。いつ行くの?」

「今でしょ!」

 

既に互いの心は分かっていた。二人は落としたポポの肉を拾い上げると、山頂に向かって走り出した。幸い山頂は目前の位置であり、ルートは確立されている。新雪に足を取られつつもスピードを緩めず、思ったよりも早く山頂に着いた。

 

 

 

 

 

 予想通り、龍は山頂にいた。しかし様子がおかしい。その場にうずくまったまま全身を震わせているのだ。シンとミラは岩陰に隠れて様子を伺う。やがて龍が暴れだし、しきりに鳴き叫ぶようになった。その音を形容するなら、まるで普通の獣の叫びに、耳をつんざく金属音が混じったような鳴き声、とでも言うべきだろうか。耳を塞いでも全身を伝って聞こえてくるその鳴き声は、二人の本能的恐怖を呼び起こす。二人は全身の震えに立ち向かいながら、龍の様子を見続ける。

 

「この鳴き声、長いこと聞き続けたらまずいんちゃう?」

 

シンがぼやいたところで龍が大人しくなって、再びその場にうずくまる。そして次の瞬間、二人は信じられない光景を目にした。

 

 

バキッと、龍の背中が、割れた。

 

 

中から、白く光る、龍が、現れた。

 

 

ここでやっと、これは脱皮行動だと理解した。やがて龍の全身が顕になる。直後、銀白色だったその身体はどんどん黒ずんでいき、最終的に龍の全身は鋼色となって眩しさが和らいだ。シンはその様子には見覚えがある。灯油から取り出したカリウム片は、外気に触れた瞬間から急速に酸化されて光沢を失い黒ずんでいく、その様子と全く同じだった。

 

 鋼色の龍は新たなる翼を掲げ、飛び立ったと思ったら既に虚空に消えていた。シンはすぐさま龍の抜け殻に駆け寄る。詳しく見てみたかったが、抜け殻に少しでも触れると、その部分が錆びた粉になって落ちてくるため、結局シンは調べるのを諦めた。その代わりに抜け殻の色々な部分を注意深く眺めた。色こそ三価の酸化鉄(赤錆)だが、空気に触れてすぐ酸化したことから、この龍の外皮は純粋な鉄ではなさそうだ。C.E.では、深海の巻貝しか確認されていない金属甲殻の生物の存在は、シンの知的好奇心を呼び起こす。

 

「帰ったら、ギルドに報告ね。」

「...この抜け殻のことは隠しておいてくれ。」

 

不可解な発言をするシンに、ミラはその理由を尋ねる。

 

「やがて土に帰るこの抜け殻を、俺たち人間が粉々にしてまで持って帰ってさ、それをただの鉄に戻したところで、あの龍には失礼だと思う。ただそれだけさ。今は『鋼の外殻を持った四つ足の、風を操り空飛ぶ龍がいる。』この情報だけで十分だろ。」

 

...納得したミラはそれ以上何も言わず、下りの、雪まみれの家路(やまみち)を歩き始めた。シンも彼女を追って家路についた。

 

「早く帰ろう。色んなことがありすぎて疲れちゃった。」




というわけで、二人の初クエストは無事終了です。ティガレックスのくだりを超えたら筆がするすると進んで、
「今までの苦労は一体...」
というN-aoです。

クシャル登場させちまったよ。この色々まいたものを無事回収できるか...自分自身わからんけど期待しないで待っててください
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