忘れられた物語-魔法少女まどか☆マギカ(叛逆の物語ネタバレあり) 作:SabotenSS
目を覚ました時、そこがどこなのかを思い出すのに時間がかかった。ぼんやりとして、白いカーテンが揺れるのを眺めながら、風が運んできた朝のにおいを思い切り吸い込んで、それで、自分の名前と(ミオンというのがわたしの名前だ)、彼女のことを思い出した。彼女に会った場所、そこは光に包まれていて、春の平原のような清潔さの中で、たくさんの少女たちが彼女の周りで微笑んでいた。私はといえば、その輪から離れて、一人でぽつりと座っていたんだ。教室に一人、喧騒から離れて窓の向こうを見ているみたいな、やや寂しい感じ。彼女はわたしをどう思っていただろう。彼女はわたしに微笑みかけていただろうか、それとも軽蔑しただろうか。思い出せない。ただぼんやりとあの風景と、その意味が、わたしの脳裏に浮かんだ最初のことだった。ついで、もっと現実的なこと、いや、それは現実に起きたことなのだ、それがわたしに襲いかかってきて、わたしは両手のひらで顔を覆って、泣き出してしまうのを我慢した。大声でわめき散らして、たくさんの涙を流したら、そうしたら、わたしはわたしに同情するだろう。そんなことは許されない。それに何より、わたしの声があいつを呼ぶだろう。そしたら、わたしはあいつの胸の中にとびこんで、わんわんと泣くだろう。そんなわたしを、あいつや優しく撫でで、何も知らないくせにわたしを許すだろう。そしてわたしは自分の罪の重さを忘れるだろう。そんなことは許されないのだ。
ベッドから起き上がり、自室から出てリビングルームへと向かう階段を降りるその途中で、私は足を止めて深く息を吸った。この先に、あいつがいるのだ。
「おはよう、ミオン」
リビングルームで、彼はそう言ってわたしに微笑んだ。この状況は分かっていたはずなのだ。彼はわたしよりも早く起きて、あたたかな朝食を用意して、微笑みでもって、きまって私をなにかのなかで迎え入れるのだ。
そう、わかっていたはずなのに、覚悟をしていたはずなのに。それでも私は、涙をこぼすのに耐えられなかった。
「どうしたの?」
彼は慌てて私に駆け寄ってきたから、私は手で彼を制止した。泣きじゃくって、言葉を発しようとするたびに、それはどんどん意味を失っていった。
ずっとずっと長く感じられた何分間かの間、彼は何も言わずに私が泣き止むのを待っていてくれた。
「笑わないでね」私はなんとか言った。「あなたが死んだ夢を見たの。それがとても悲しくて、だからとても嬉しかったの」
そう言うと彼は照れくさそうに笑った。
「大丈夫だよ、僕は生きてるから」
さぁ、ご飯を食べよう。冷めてしまう前に。そう言う彼の背中に私は心のなかでつぶやいた。
私が、あなたを殺したんだ。
マドカ。
それが彼女の名前だった。わたしより少し年下の女の子。光の中の中心。彼女もわたし同様に、ここに戻ってきたのだろうか。であれば、聞かなくてはならないことがある。わたしの罪について。彼女の救いについて。忘れられた物語の、今では耐え難い軽さについて。
どこに行けば会えるだろう。彼女に。朝だ。人々が行き交い、電車が走り、鳥が飛んでいる。遠く、誰かの声が聞こえる。奴らを殺せ、奴らを殺せ。その声がどこから来るのか、不思議と私には理解できたけれど、その方向に足を進めようとはどうしてもその気になれなかった。
「ミオン」誰かが私を呼んだ。振り向いてもそこには誰もいなかった。けれど、声は続いて私に話しかける。「償うことを忘れないで。あなたのしたことを、私は知っている」
ぞっとして、私は駆け出した。でもどこに逃げれば、その声が遠ざかるのかそんな場所があるのか、私には自信が持てなかった。