【恋姫†無双】黒龍の剣   作:ふろうもの

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《真名早見表》
 土方歳三――義豊
 趙雲子龍――星


趙雲、白龍について語る

 趙雲が語り、喉を潤す為に酒を口にしたところで歳三は聞く。

 それに答えると、趙雲は先を続ける。

 そういう問答が、月が下がり始めるころまで続けられて。

 

「そして、今に至る、というわけですな」

 

 ようやく劉備についての長い話は終わった。

 半分以上、歳三についての愚痴であったのは言わぬが華であろう。

 歳三も、愚痴は苦笑しながら聞き流していた。

 明らかに程立のものと思われる愚痴まで含まれていたのである。

 本当に恐ろしい軍師だと思いながらともかく、歳三は劉備の行動を己の中で吟味し、言った。

 

「武勲は私に勝る、というわけではないのか」

「そうは言いますがね、あれだけ叩いた後にまた大兵力を動かすのならそれこそ馬鹿というもの。烏丸もそこまで愚かではありますまい」

 

 そう言われればそうだ、と歳三は頷いた。

 城内の者と通じるくらいの頭目が討ち取られたのである。

 それでもまだ公孫賛とやり合おうなどとするのは、歳三並の戦好きでなければ普通はしない。

 現に、歳三の脳内にはだからこそ烏丸は攻め立てるべきだ、という架空の戦術がある。

 が、言わない。ただ相槌をして返した。

 

「それもそうだ」

「ですが劉備の横に仕える関羽と張飛、あの二人は違いますぞ」

「違う?」

 

 歳三は疑問の形で返したが、あの二人が違うことはわかっていた。

 いつでも、どこからでも襲いかかろうと、すべて薙ぎ払い打ち勝つ。

 そんな強さを内に秘めていたのだから、歳三はもし二人が暴れ出したらと、嫌な考えを巡らせたものである。

 だから、劉備との話を多少なりとも煙に巻いたのは、そういう理由がある。

 

「私に勝るとも劣らない武の者です」

「つまり、私では勝てないというわけか」

「これは主、ご冗談を」

 

 趙雲は笑ったが、歳三は苦り切っていた。

 やってみなければわからないと人は言うが、好んでやりたいとは思わないのが歳三の常である。 

 集団戦の中で生き残るためになんでもするし、一騎打ちでもなんでもやった。

 そう、歳三は勝つ為なら火付けもするし銃だって使う。

 だから、歳三の悪評は鬼の如き政治だけでなく戦いにまで及ぶ。

 

(やはり俺ァ、蛇だよ)

 

 心の中で自嘲しながら、歳三はふと気付いた。

 趙雲はやたらと関羽と張飛を褒め讃えるが、では劉備は一体何なのか。

 あれだけの猛者を従えるのであれば何かあるはずと、歳三の勘が囁いている。

 

「で、劉備はどうだったのかね?」

 

 瞬間、趙雲の顔が困った、というものになった。

 が、すぐに元の飄々とした顔に戻る。

 言い難いことでもあるかのかもしれない、歳三はそう思った。

 

「何か、言い難いことでもあるのかね?」

「実はですね……不肖この星、劉備殿に呑まれかけたのです。」

 

 照れくさそうに笑う趙雲を見て、歳三は劉備に軽い嫉妬を覚えた。

 少なくとも趙雲は、こんな風に笑う姿を人に見せるような人物ではなかった筈だ。

 と、いう歳三の不機嫌を感じ取ったか、趙雲は慌てて訂正を入れた。

 

「いやいや! 呑まれる、と言いましても本当に呑まれそうになっただけで、今思うと何故あそこまで惚れこもうとしたのか……私は、その、主一筋、ですのに」

 

 歳三は嬉しくなったと同時に、少し怖くなった。

 手持無沙汰に机の上に置かれていた趙雲の手にそっと手を伸ばすと、軽く握り込んだ。

 

「主?」

 

 徐晃よりもやや冷たいが、それでも熱い血の奔流が感じられる、美しくしなやかな手だ。

 こんな綺麗な手を持つ者を、少し見ていなかっただけで失うことになっていたかもしれない。

 そう思うと、歳三はどうしてか手を離すつもりにはならなかった。

 

「どうかされましたか。本当に?」

「すまんな。手を離せば、星が劉備の元に行ってしまいそうでね」

 

 珍しく、歳三が不安な心情を溢したのを見て、趙雲は己の失態を悟ると同時に嬉しくなった。

 歳三は徹底的な現場主義であり、基本的に必要なこと以外は喋らない。

 そして自身の心内に関しては秘密主義のきらいがある男である。

 そんな男がどこか弱々し気に頼りにしてくるのだから、趙雲としても満更でもない。

 

「大丈夫ですよ主。例えこの身が千里離れていようとも、私は……私たちは主と共にあるのですから」

 

 

 幾分、手を握り合っていただろうか、どちらかが言うまでもなく両手は自然に解かれた。

 歳三はこれまた珍しく、気恥ずかしそうに頬を掻きながら。

 

「星。すまなかった、酒の酔いということで二人の秘密にしておいてくれ」

 

 と、言った。

 趙雲は見た目にこそ出さなかったが、舞い上がるような気分でもあった。

 夜の密会での、二人の秘密、なんと甘美な響きを持っていることか。

 趙雲は、歳三の意外な一面を見れたことに気を良くしながら。

 

「相分かりました」

 

 と、答えた。

 その時には歳三既に、いつもの不愛想な(つら)に戻っている。

 が、何故かそれが面白かった。

 歳三は普段、人には鬼だ黒龍だと恐れられている。

 しかし、その実は糞真面目で不器用な男であるという違いが、そう感じさせるのだろうか。

 

「主は、面白い方ですな」

 

 思わず、趙雲はそう溢していた。

 対する歳三はどこか苦り切っていた表情で。

 

「最近星が、時々沖田の様に見えるよ」

 

 とだけ、言った。

 沖田とは誰か、と趙雲は聞こうとしたが、歳三が遠くどこかを見ている様な眼をしているので、やめた。

 代わりに歳三の頬をぎゅっと、抓った。

 

「痛いな」

「その沖田殿が男か女かは知りませぬが、主には大切な方のご様子。しかし、今ここに居るのは誰ですか?」

 

 言われて、歳三ははっとした。

 趙雲に沖田の面影を、無意識に重ねようとしていたのではないか。

 いや、もしかしたらまだ、あの蝦夷地で死に損ねたという未練があるのかもしれない。

 

(我ながら、女々しいことだ)

 

 歳三は軽く笑って頭を振ると、沖田の微笑を振り払った。

 

「そうだな、すまない星。では改めて教えてくれ。星が呑まれそうになったという、劉備玄徳のことを」

 

 

 趙雲はその秀麗な指を顎に当てて少し考えると。 

 

「劉備殿のことを一言で表すならば……仁義と徳の人ですな」

 

 と、言った。

 仁義が何かと簡単に言えば、人が行うべき正しい道のことである。

 では徳は、というと表現するには少し難しい。

 それは漢帝国の政治の根幹にあたる部分に、徳という概念があるからである。

 ともかく、趙雲は真顔で。

 

「丁度、主とは真逆に当たります」

 

 と、言うくらいには歳三には仁徳がないとするべきだろうか。

 

「そこまで言われると、流石にへこむな」

「まさか。では今回の敵陣への火付けの策、考えついたのは稟ですか?」

「私だよ」

 

 間髪入れずに、歳三は即答する。

 趙雲は思った通りだという顔をしていた。

 

「私が考えて、私が実行した」

「ええ、主の行動はそれはもう理に適い過ぎている。仁徳など関係ないくらいに」

 

 どういうことだ、と歳三は疑問符を浮かべた。

 趙雲が何を言いたいのか、わからないのである。

 わからないから、趙雲の言葉を歳三は待った。

 

「劉備殿は戦の先にも後にも降服勧告を行ってから、戦うのですよ。そして関羽殿と張飛殿が真正面からなぎ倒すのだから、例え負けても相手は恨むどころか清々しさを感じてしまう」

「ふむ」

「しかし主は、黄巾党のみならず孔融殿の配下にまで恐怖を植え付ける、まるで逆の関係なのですよ」

 

 なるほど、と歳三は思った。 

 何も歳三は好きで火付けをしているわけではない、戦に都合がいいから使っているに過ぎないのだ。

 だから、他に良案があれば諸手を上げて火付けなど捨ててしまうだろう。

 女だけでなく戦にまで節操なしの男なのである、これでは仁徳などあろうはずがない。

 孔融の部下たちが、孔融の遺言を聞いていても尚、歳三を信用できなかったのも、そこにあるだろう。

 苛烈さはいつかは敵ではなく味方に向く、歴史が繰り返してきた必然であるからだ。

 

「もっとも、私としてはこの国は少々孔融殿の徳治が行き過ぎている様な感じがしますが」

 

 と、趙雲は付け加えた。

 

「孔子殿の子孫故か、そういう仁徳に厳しかった。だから歳三様から離れていた私を担いで、青州から主を追い落とそうとしたのですよ」

「ふむ」

「無論、ぽっと出た主が気に食わないのも、いくらかはいるとは思いますが」

 

 趙雲が裏切ったなど(はな)から考えていなかった歳三にとって、青州兵の恐怖はようやく理解できるものであった。

 自ら信じてきた基盤を揺るがす存在が、新しい主人となる。

 それは恐怖以外の何物でもないだろう。

 丁度、武士という身分が揺らぎ始めていた幕末を生きた歳三には、それはよくわかる。

 が。

 

(他人の影に隠れて、っていうのが気に食わねぇな)

 

 青州に対する怒りは、また別のところにあった。

 これはまた怒ってらっしゃる、と趙雲は歳三の気を引くために新たな話を切り出した。

 

 

「この国は矛盾を抱えているのですよ」

 

 と、趙雲はそう切り出した。

 歳三は青州への静かな怒りを忘れて、趙雲の瞳を見た。

 

「矛盾?」

「そう、徳治と法治、この二つが陰陽の如く寄り添うことによってこの国は成り立っております」

「どういうことか、私にはよくわからんな」

「前代の秦の行き過ぎた法治を救うために、漢は立ち上がったのですよ」

 

 歳三は少しだけ思案した。

 徳治と法治、これら二つがあり、先に法治があって後に徳治が来た。

 しかし、二つの矛盾する政治が混在するというのならば。

 

「建前としては徳治ではあるが、中身は法治である、と?」

「正にそれ」

 

 少しだけ徳治と法治の説明を挟むとすれば、その矛盾がより際立つ。

 徳治とは主君の徳、多くは道徳や礼儀などの徳を指し、更にこれによって国を治めることを王道と呼ぶ。

 ただ、この王道政治の厄介なところは、自然災害や臣民の乱すら主君の徳に理由を求めるのだが、それは余談。

 逆に法治とは、読んで字のごとく刑罰や軍事で国を治めることであり、これを覇道と呼ぶ。

 

「今の漢は、徳治によって抑え込んできた法治の部分が表へと溢れ出し、悪用され」

「臣民は皇帝である霊帝の徳が失われたと嘆いている、ということか」

「主もなんとなく見えてきましたか」

「ああ。私にも見えてきた」

 

 漢帝国は全く異なる二つの主義を呑もうとし、遂に末期症状を呈し始めている。

 歳三と趙雲の共通の見解がこれだった。

 

「しかし、そうなるとこの漢はこのまま立ち枯れるか、倒されるかではないか」

「ええ、そうなるでしょう。黄巾党の乱はその発端、いずれ群雄割拠の時代が来ると私も風も話し合っておりました」

「で、何か良い案が浮かんだと言うわけか?」

 

 歳三の言葉に、趙雲はにやりと笑って答えた。

 

「主よ、以前の言葉に嘘偽りはありますまいな?」

「どの言葉かな?」

「まったく、主にとっては皇帝の席など本当に必要ないのですなぁ」

 

 趙雲は呆れながら笑って。

 

「だからこそ、付いて行く甲斐があるのですが」

 

 と、言った。

 

 

 二人は手分けして、話を盗み聞いているものがいないか部屋中を丹念に調べた。

 元々、二人は気に敏感な方だから人が近づけばわかるのだが、今度はもっと丁寧に調べた。

 これから話す内容は、聞くものが聞けば間違いなく訴えられ、首を跳ばされる。

 そういう話をしようとしているのだから、少しばかり神経質になろうというものである。

 もっとも、真剣な表情の趙雲と違い、歳三はいつものむっつり顔だから胸中伺い様がない。

 

「間者、密偵は居らぬようだ、星」

「そのようですな。では、私と風の策をお話ししましょう」

 

 今度は酒はなし、と趙雲自ら徳利に蓋をするほどである。

 二人、席に座って向かい合って、趙雲が先に口を開いた。

 

「まずは劉備殿。とりあえずは気を付けてくだされ。あの御方は危険です」

「私には、横の二人のが危険と思えたが、その理由は?」

「彼女の確かに理想家です。しかし彼女の天真爛漫さには人を酔わせる力がある。過程も現実も、全て放り出して成功させると思い込ませるような、そんな力があります」

 

 そいつは恐ろしい、と歳三は本気で思った。

 歳三、多くの剣客と斬り結び動乱を駆け抜けたが、そんな素質を持つ人間はたった一人しか知らない。

 

(坂本龍馬、だな)

 

 もっとも、坂本龍馬は目的達成までの明確な絵地図を持っていた筈、と歳三は思ったが。

 

(本当に、そうだったのか?)

 

 言われてみれば、到底無理ではないかと思う様なことを散々やり、あるいはやろうとしていた。

 もし、劉備玄徳が坂本龍馬と同じ魔力を持つのであれば。

 坂本龍馬は極端な武力を好まなかったが、劉備玄徳がこれから大きく飛躍するには。

 ぞくり、と歳三の背中に冷たいものが走るような気がした。

 と、同時に血が熱く滾るのを感じる。

 地に伏せる龍を、この目で二度も見ることになるとは望外の喜びである。

 

「わかった。風が劉備殿をやり込めたのはそういう訳だな?」

「そういうことです。何も知らなければ主すらも取り込みかねませんでしたからな」

 

 趙雲が呑まれかけたのだ、歳三も呑まれないという保証はどこにもない。

 だからこそ、程立は劉備の理想論を片っ端から否定した。

 そうすることで、劉備は歳三の前ではただの意気消沈した娘でしかなかったのだ。

 

「それで、どうするんだ。劉備殿が恐ろしいことがわかったが」

「そう、劉備殿は仁徳の体現者であると、誰もが思うでしょう」

 

 ここで趙雲は言葉を切ると、歳三をじっと見た。

 

「では、主は何の体現者になると思いますか?」

 

 歳三はじっと考えた。

 これは、一つ間違えれば趙雲と程立に見限られても可笑しくない問いだ。

 趙雲と程立の言わんとしていることを、ただ考える。

 劉備が仁徳の首魁であるならば、歳三は鬼であり黒龍であり。

 そういえば、と歳三は思い出す。

 劉備は先にも述べた、穏和とも言える戦い方によって、行く先々で白龍の化身と呼ばれていると聞いた。

 歳三、閃く。

 

「わかった」

 

 歳三は言った。

 

「つまり、白龍の対となる黒龍である私は、法治の体現者か」

「正解です」

 

 と、趙雲は満面の笑みで応えた。

 

「主と劉備殿が手を取り合うことは、今のところまず無理でしょう。しかし本当にそれでいいのかと私と風は考えましてな」

 

 趙雲は続ける。

 

「この漢帝国の様に、陰陽の如く混ざることもなく互いに関係し合いもう一度国を盛り立てていく。およそ間違いなく、この国は新しい時代を迎えることが出来る様になります」

 

 王道と覇道、その二つを同時にやってしまおうと、趙雲は言っているのである。

 一歩間違えれば反逆物の思想でもある。

 だが、歳三はそれを面白いと思っていた。

 その過程にあるに違いない、過酷な戦の存在に静かに血を滾らせていた。

 

「そしてゆくゆくは、現皇帝の血筋である劉備殿を皇帝に(おだ)て挙げる、では語弊がありますな」

 

 と、趙雲は言葉を変えて。

 

「祭りあげた上で、主が将軍となって政治をする、というのはどうですか?」

 

 と、言った。

 歳三は無言でそれを受け、ぎらぎらと眼を光らせ始めた。

 

(面白れぇじゃねぇか)

 

 近藤という無名の田舎剣客を、大名格にしようとし、実際に押し上げた男である。

 趙雲も程立も、歳三の気質をよくわかっている。

 歳三自身を祭り上げるより、他の誰かを祭り上げた方が燃える男なのだ。

 

俺ァ(・・)皇帝に興味はねぇが(・・・)、大将軍にも興味はねぇ(・・)

 

 あまりの興奮に、地言葉が出てしまっているが、歳三気付かない。

 趙雲も、歳三の素性を知っているのだから、何も言わない。

 ただ、燃える男の姿を眩しそうに見つめていた。

 

俺ァ(・・)、天下第一の副将軍でいい」

 

 

「すまんな。久しぶりに熱くなってしまった」

「いやいや、主はとんでもない野望の持ち主でございましたか」

 

 少し気を落ち着けた歳三は、またいつもの言葉遣いへと戻っていた。

 しかし趙雲は一見、歳三の鉄を張り付けた様な心の中で燃える炎になんとも心を躍らせていた。

 ぞくりぞくりと、身体中が歳三を求めている様な、そんな気さえする。

 しかしそれを気取られぬように、とあくまで話の続きに興味があります、という風に話を続けた。

 

「主君に大欲あらば軍師はより張り切る、と風は言っておりましたが、これは張り切り甲斐があるでしょうなぁ」

「なんでかね? 皇帝になろうとする方が余程大きいと思うが?」

「皇帝と大将軍を意のままに操り、しかも自分は副将軍を牛耳る。いやはや、これが皇帝以上の大望と言わんとして何というのか、この星に教えてくれますか?」

 

 今すぐにでも抱きつきたい、という胸中を抑えながら、趙雲は歳三の鉄面皮を見る。

 

「ないな」

「でしょう?」

 

 二人、顔を見合わせて大笑する。

 笑い終えてから、歳三はいつもの不愛想に戻って、今後の話を始めた。

 それが、趙雲の心をざわめかせた。

 

「つまり、劉備とまた会え、ということか」

「そういうことになりますな」

 

 趙雲の心を、ちくりとしたものが刺した。

 歳三はそういうつもりで言っているのではない、わかってはいるが、心が嫌がった。

 ここに居るのは趙雲子龍星ただ一人であると言うのに、という叫びが、喉元まで上がってきた。

 それでも、趙雲は忠実なる臣下であるべく、言葉を続けようとした。

 

「ですが白龍(・・)はまだ幼い。必要な分の血を浴びてはいません、だから」

 

 趙雲の言葉は、歳三の唇によって塞がれた。

 何をされたのか趙雲は理解できない、出来ないうちに、唇は離れていった。

 

「星の唇は果実の様な味がするな」

「あ、主。主は一体何を」

「もう一度」

 

 もう一度、言葉通りに、唇を塞がれた。

 先に何か()んできたのか、歳三からは甘い液が流し込まれてくる。

 趙雲は顔を赤くしながら、負けじと舌を入れ返して歳三の口内を貪った。

 月が二人の情事を恥ずかしがってか、地平の先に沈もうとしている。

 それから二人は、息を欲してか唇を離し合った。

 

「そう、星の唇は何度も、味わいたくなる」

「そういう主の唇は、血の味が強いですな」

 

 自分の心を見透かされたくない一心での、趙雲の抵抗だったが。

 

「嫌かね?」

「それは!」

 

 接吻一つで陥落させられた。

 

「っ……何度も何度も卑怯でございますよ、主」

「そうだよ、私は卑怯なんだ」

 

 少年の様な声色で、少年の様な無垢な笑みを浮かべる歳三に。

 

「主よ、はしたないと思わないでくだされ」

 

 趙雲はもう、しなだれかかるしかなかった。




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