【恋姫†無双】黒龍の剣   作:ふろうもの

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《真名早見表》
 土方歳三――義豊
 趙雲子龍――星
 徐晃公明――香風(シャンフー)
 程立仲徳――風
 郭嘉奉考――稟
 孫乾公祐――美花(ミーファ)


白馬長史

 遼西にある公孫賛の居城に、歳三たちは辿り着いた。

 道中、なにごともなく至って平和だったのだが、歳三は内心不満だった。

 

(この俺が、普通に往来を歩けるとはねぇ)

 

 かつては悪名を轟かせ、常に暗殺の危険を日常に孕んでいた男である。

 喧嘩が、骨髄まで染み込んでいる。

 平和とか普通とか、そういうものにはどこか()いている。

 一種のきちがいと言ってもいい。

 

(まぁ、これからよ)

 

 歳三の脳裏には、戦がある。

 

(何事も、戦ってからさ)

 

 やはり歳三は根っからの喧嘩師である。

 趙雲や徐晃らも、先頭をむっつりと歩いているこの男の思考を読むことは出来ない。

 もちろん、郭嘉や程立でさえも無理だ。 

 

「随分とまぁ、普通という感想が似合う場所ですな」

 

 趙雲の言葉に、歳三は振り返る。

 

「そうなのか、星? 私はこういう城をあまり知らないのでな」

「おや、知らないとはどういうことですか? 主?」

「そのままの意味さ」

 

 歳三はそっけない。

 趙雲の追求をのらりくらりとかわしながら、歳三は函館の頃を思い出している。

 旧幕府軍が立て籠もっていた五稜郭、その先祖がこの城ではないのか。

 古来、欧州(ヨーロッパ)でも、街が高い城壁に囲まれた城塞都市が主流であった。

 それが鉄砲や大砲といった新兵器の発明によって、無意味となった。

 火砲の発達は城壁を無効化し次の城郭を産みだした、つまり星形要塞であり、五稜郭である。

 ということを、仏蘭西(フランス)人士官であるブリュネから歳三は聞き及んでいる。

 

(この高い城壁や(やぐら)は、槍や弓相手に意味があるから、ある)

 

 当世では、刀槍による戦闘が主流であるということを、歳三に伺わせるには十分だった。

 

(銃や大砲がねぇなら、俺()()十八番(おはこ)さ)

 

 無愛想な(つら)をして、趙雲の相手をしながら胸中闘志を燃やすのが、歳三という男だ。

 最も、仮に鉄砲があろうと大砲があろうと、それはそれで戦うのが歳三である。

 一行は大通りに入った。

 

「これは……普通と言うにはちょっと違いますねー」

 

 歳三が、程立の言葉でようやく通りに意識を向けた。

 忙しなく人々が行き交っているのが、よくわかる。

 商店も、賑わっているようだ。

 けれども歳三はこの地での“普通”を知らない。

 

「これは、普通とは違うとどうしてそう思う? 風?」

「お兄さんはどうしてだと思いますかー?」

 

 これは測られている、と歳三は思った。

 程立ほどの軍師となれば、趙雲とのやり取りで、歳三が当地の知識が疎いことがわかる。

 あえて聞き返すことで、程立は歳三の知識の程度を探ろうとしているのだろう。

 歳三はしばらく考える素振りをして、言った。

 

「町人よりもむしろ、商人に活気がある」

 

 これでも歳三、昔は薬の商売行脚(あんぎゃ)をしながら剣術修行をしていたことがある。

 加えて新選組時代における、京の取り締まりもある。

 人の流れや街の隆盛を見るのには、慣れている。

 

「そうですねー。ここを治める公孫賛殿は、商人を重用して富を得ているようなのですよー」

「なるほど。で、星がなぜ普通と評したのか、風はどう思う?」

「城割や城門の構え、街の造りに独創性はなく至って代わり映えしないものでしたからねー。そう評するのは妥当かとー」

「しかし、普通がそう悪いものかね?」

「いいえ、お手本という意味ではしっかりしていると思いますよー」

 

 趙雲は歳三の言葉に、眉を(ひそ)めた。

 

「主の言い方では、私が公孫賛殿を批判しているようになりますな」

「そんなつもりは、ないさ」

 

 歳三は笑わない。

 

「ただ、公孫賛殿に会う前に緊張しているというのは、ある」

 

 そんなことを言う癖に、涼しい顔をして落ち着いている。

 趙雲は、この男の肝は鉄か何かで出来ているのではないかと思ったほどだ。

 

 

 公孫賛の居城の一室の前で、歳三たちは待っている。

 孫乾の紹介状は、果たして効果的だった。

 公孫賛へ面会を求めるものは、城中、決して少なくなかった。

 中には朝から待っているような者をすっ飛ばして、一番先に迎えられたのである。

 どれほど孫乾という人物が幽州で名を知られているか、これだけでよくわかる。

 

(やはり、(じつ)はいるが名も必要だよ)

 

 歳三はぼんやりと考えている。

 新選組が天下に雷名を轟かせたのも、池田屋乃変があってこそである。

 趙雲と徐晃には、一流の武技がある。郭嘉と程立には、一流の頭脳がある。

 しかし、それだけでは駄目なのだ。

 

(なら、俺はなんだ)

 

 歳三は自問して、心内で自嘲した。

 

(喧嘩師だよ、ただの。武州多摩の喧嘩師、土方歳三)

 

 やることは変わらないのだ。

 この男が欲しいのは、手足の様な組、あるいは軍だ。

 打てば響く様な、人間の塊をとった軍が欲しい。

 その軍には趙雲も徐晃も、郭嘉も程立も必要なのである。

 

(だから震えるな、歳三)

 

 趙雲に対して緊張している、と言ったのはあながち嘘ではない。

 武士とは虚栄の生き物である。切腹など、その最たる例だろう。

 つまり武士の虚栄とは、即ち死。そういった思想が歳三の根幹にある。

 既に死んでいるという気組で、喧嘩に挑む。

 事実歳三はそうやって、各地で苛烈な戦いを生き延びてきた。

 そして今、死んでいる気組で公孫賛との面会に挑む。

 

(公孫賛など、恐れるな)

 

 公孫賛伯珪、近藤に言わせれば幽州の董卓。

 董卓が、三国志屈指の悪逆卑劣の徒であることは、歳三でもよく知っている。

 それはさておき公孫賛伯圭。

 異民族の懐柔策に反発し、北方異民族への恩賞を略奪は当たり前。

 懐柔策を取る穏健派を攻撃したり、異民族へも過激な攻撃を加えるなど、極端な武闘派である。

 どんな人物がこの部屋に潜んでいるのか。

 歳三の脳裏には、芹沢鴨のでっぷりとした姿が浮かんでいる。

 芹沢、剣の腕は立ち新選組結成の功労者であったが、平素粗野で悪行が目立った。

 そういった数々の乱暴狼藉が仇となり、遂に歳三らによって暗殺された男である。

 

(ああいうのが、居るのかもしれねぇ)

 

 歳三はそういう悪辣な人物が居ると思って、面会に望んだ。

 警備兵に促されるまま、部屋へと入り、面食らった。

 おそらく公孫賛であろう人物に、覇気が感じられない。次に、才気もない。

 特に目ぼしいところが見当たらぬのである。ただ、顔は良い。

 長い髪を飾りで纏め、白い鎧を着込んでいる辺り趙雲や徐晃よりは戦よりの見た目だ。

 それでも肌の露出が多いが、今更歳三に思うところはない。

 

「君たちが、孫乾の(ふみ)の者らか」

 

 声も、存外優しい。

 どこか威厳があるように、振舞っているようにも見える。

 

「貴方が公孫賛殿、ですか」

「あ、ああ。そうだ。私が幽州を治める公孫賛伯珪だ」

 

 歳三、答えない。

 歳三が無表情のまま突っ立っているのを、公孫賛は不審に思ったか。

 

「どうかしたか?」

「いえ、人から伝え聞いた知識など、案外役に立たないものだと思いまして」

 

 歳三は正直に答える。

 

(何が幽州の董卓だよ)

 

 人が良すぎる。

 これが歳三の公孫賛に対する第一印象であり、人物評だった。

 

「……そうか。ところで、私の事はどんな風に聞いている?」

「異民族に容赦のない、苛烈な人である、と」

「へっ、そんな風に言われているのか!?」

「あくまで、私が人伝(ひとづて)に聞いた上での話です」

 

 私が苛烈か、苛烈なのか、と唸る様に呟く公孫賛に、歳三は怪訝な視線を向けた。

 郭嘉が、歳三の雰囲気を感じ取ったか、耳元に口を寄せた。

 

「公孫賛殿は星がこの街を普通と評したように、所謂(いわゆる)凡将です。そういった虚飾の言葉、おべっかの類に慣れていないのでしょう」

「そうかね」

 

 歳三は、郭嘉の言葉がよくわからない。

 剣一本で生きてきた男だから、公孫賛におべっかを使った覚えもない。

 州を治めるということは、歳三の感覚で言わせれば、一国一城の主ではないか。

 凡将と評するには、些か統治の規模が大きすぎる。

 

(こいつァ、ただのお人好しの凡なんかじゃねぇ)

 

 眠たげな眼で、未だ何事かを呟いている公孫賛を見た。

 

(並の凡が、国を治められるかよ。こいつは凡は凡でも凡の大親分さ)

 

 随分とわかりにくいが、この男なりに褒めている。

 歳三は、上に立つ者の器と、将であることの器は違うと知っている。

 公孫賛には両方の器があると、歳三は思った。

 

「コホン、よろしいですか? 公孫賛殿?」

「ん? あ、ああ! 大丈夫だ!」

 

 郭嘉は咳払いを一つして、公孫賛の意識を向けさせた。

 

「文にもあったように、私たちは公孫賛殿のところで腕を振るいたいと思っています」

「ああ。皆が万夫不当の勇士と深謀遠慮の策士だそうだな。とはいえ、私もそれなりに他所(よそ)に目を向けているつもりだが、孫乾殿がこんなに褒める傑物を見逃しているとはなぁ」

 

 公孫賛が首を傾げている。

 徐晃は持ち上げられ過ぎていると思ったか、公孫賛に聞こえぬよう歳三に問いかけた。

 孫乾は確かに、褒めちぎるような旨を書いた、とは言っていたが。

 

「お兄ちゃん、文にはなんて書いてあったの?」

「私は、知らないよ」

 

 皆が、歳三の方に耳目を傾けた。

 郭嘉だけが、公孫賛から目を離さずに、意識だけを歳三に向けている。

 

「え?」

「任せた以上、全部任せるのが、私の流儀だ」

 

 だから、と付け加えたうえで。

 

「公孫賛との話は、全て稟に任せる」

 

 言い切った。

 これには郭嘉が、肩を震わせた。

 主君、と定めた人物に(はかりごと)の全てを託されることは、軍師の本懐である。

 同時に、郭嘉が思いついたであろう疑問を、程立が尋ねていた。

 

「でもー、風も稟ちゃんも、まだ事を任せられるに足る力を見せてないと思うんですけどー」

「それが、どうかしたか」

「最初の機会にしては、大き過ぎませんかー?」

「私は任せると言った」

 

 歳三は怖い目で、程立を睨んだ。

 殺気こそないが、震え上がるようなギョロリとした眼である。

 程立は、柳に風といった風に見返している。

 

「だから、いいさ」

 

 何が、とはまでは言わない。

 郭嘉が交渉で勝ち取った全てを、歳三は受け止めるつもりでいる。

 

「それは、稟ちゃんが本名を明かしたから、ですかー?」 

「さて、な」

 

 歳三、答えない。

 程立は歳三に問い掛けたのだ、郭嘉を信じたのか、郭嘉の名前を信じたのかを。

 そこのところ、歳三にもわからない。

 わからないから、答えなかった。

 

 

 公孫賛との交渉は、歳三が宣言した通り郭嘉に任せ、今は皆、用意された客室で(くつろ)いでいる。

 部屋の中の調度品は、誰が見ても見事と思うばかりのものであった。

 それだけ、公孫賛からの期待がある、と読み換えることもできる。

 

「練兵場か……」

 

 歳三を含め、趙雲も徐晃も武人であり、程立は軍師である。

 単なる虚飾に浮かれるような、(やわ)な性格をしてはいない。

 自然、皆の視線は眼下の練兵場へと向くようになる。

 部屋から訓練に明け暮れる兵士たちを見渡せるのも、この部屋の特徴だろう。

 貴賓室とも言える場所がこうなのだから、一種の示威行為、と見ることができる。

 戦争も外交の一手段である、と歳三はニコールから聞いている。

 

「あ、騎馬隊……」

 

 徐晃の声に、歳三は騎馬の姿を探した。

 

「ほう……」

 

 歳三が思わず声を漏らすほどの、見事な騎馬隊が土煙を上げて走り回っていた。

 一糸乱れぬ動きをした、統率が取れた動きである。

 そしてその騎馬のどれもが、美しい毛並みをした白馬に乗っている。

 

「白馬長史、か」

「おお、白馬義従ですねー。異民族に恐れられているというー」

 

 遠回しに、何故そんなに異民族に詳しいのかと、風に尋ねられている気がする。

 気が過敏になり過ぎている、と歳三も思わないでもない。

 だが程立だけは、歳三の出自を疑問に感じている節がある、と勘所が言っている。

 

(いつか、話すべき時が来るのだろうか)

 

 話さなければ、程立は自分の元から離れていくのではないか。

 歳三はそんな気がしている。

 

「白馬とは、ちょいと派手過ぎますな」

「ああいうのは嫌いか、星?」

「いえ、私は別段、派手が嫌いということではありませぬが、わざわざ白馬で揃えるのは無駄に思えまして」

 

 趙雲の言葉に、程立が口を挟んだ。

 

「白馬で揃える、ということはそれだけで敵に己の存在を示すことになります。ですので威圧効果は高いのですー」

「ほう、つまり高名な軍勢が、旗を掲げるのと同じ効果があの白馬にはあると」

「はいー。味方の士気を上げる事にも通じますし、同時に相手の士気を挫く事にもなりますねー」

「なるほどなぁ」

「もっとも、風は公孫賛殿がそこまで考えているとは思わないんですけどねー」

 

 公孫賛の居城で、堂々と本人の悪口を言う程立の心胆はどこにあるのか、よくわからない。

 ただ、程立の視線の先には、歳三が立っている。

 もっとも、当の歳三は赤地に誠の文字を染め抜いた旗が、新選組を示すのと同じことか、と一人納得している。

 思えば、あの旗の立つところ兵たちは奮い立ち、薩長は恐れ(おのの)いた。

 

(見た目から入るのも、肝要か)

 

 歳三とて西洋の流儀を取り入れるために、早くから(まげ)を切り洋装を着込んだ男である。

 何事も形から、と自分で言っていたことを思い出して、口元が緩んだ。

 程立は、そんな歳三を、例の眠たげな眼でじっと見ている。

 

 

「おおまかな内容が、決まりました」

 

 交渉を終えて、戻ってきた郭嘉を中心に皆が思い思いの相好で郭嘉の言葉を聞いている。

 趙雲は窓枠に腰掛け、徐晃はぼうっと立ち、程立は郭嘉の横に座っている。

 歳三も、郭嘉を眼の前にできるように、郭嘉の正面に座っている。

 この男から真正面から見据えられるなど、並の人間なら精魂萎え果てるところだが、郭嘉は並ではない。

 臆することなく堂々と、自身の成果を伝えていく。

 

「公孫賛殿は私たちに、2500の歩兵を預けてくれることを約束しました」

 

 趙雲がほう、と声を上げた。

 孫乾の文だけで、それだけの兵を貸してくれるとは、確かに破格だろう。

 公孫賛の度量を尊敬すべきか、孫乾の名声を(たた)えるべきか、郭嘉の手腕を褒めるべきか。

 ですので、と郭嘉は続ける。

 

「私たちは形の上では、美花(ミーファ)の元に仕える属将となっています。つまり、今回は公孫賛殿に仮に仕える客将という形になりますね」

 

 郭嘉は眼鏡をきらり、と光らせた。

 

「これも歳三様が事前に知らせてさえいてくれれば、私も苦労することがなかったのですが」

 

 郭嘉の苦言に、歳三はさぁらぬ体で聞き流している。

 恐らくは公孫賛との会話の中で、孫乾の(したため)めた文の諸々を聞き出したのだろう。

 それも、こちらが文の中身を知らぬということを、悟られぬようにである。

 確かな弁舌の腕を、郭嘉は持っている。

 

「ともかく、実際の戦闘に関しては、歳三様、星、香風の三人でやってもらうことになります」

「それは、稟も風も、戦いには来ないってこと?」

 

 徐晃の言葉に、郭嘉は深い溜め息を()いた。

 

「どうやら公孫賛殿のところは、武官も文官も絶対数が不足しているらしく……」

「稟と風は内政の手伝いをしなければならない、ということか」

「星の言うとおりです。どうも公孫賛殿一人ばかりが働いているような有様らしく」

 

 珍しく、話を遮るように歳三が声を上げた。

 

「待て、それは公孫賛殿が自分で話したのか?」

「そうですね。多少は迂遠に訪ねましたが、そこを突いた後は(せき)を切った様に」

 

 歳三は腕を組んだ。

 例の、眠たげな眼が、ぎらぎらと光っている。

 

(お人好しの大将軍も、追加だな)

 

 公孫賛は決して、(ちまた)に言われるような普通の将ではない。

 幽州という、巨大な領地を治めるだけの、才覚もある。

 それほどの人なのに、悲しいかな周囲の人に恵まれていないだけなのだ、公孫賛は。

 歳三は公孫賛を、そう評価した。

 

(これで嫉妬心と無縁なら、公孫賛は大した玉だよ)

 

 乱世で生き残れるか、心配になるほどだ。

 が、今ここで歳三のような飛沫の存在が、公孫賛のような大河の心配をしても無意味である。

 歳三は、気持ちを切り替えた。

 

「よくやってくれた、稟」

「いえ、軍師として当然のことですから」

「そうだ、これからは私、星、香風の領域だ」

 

 冷やりとした空気が、辺りに漂い出す。

 歳三が、にやりと笑っている。

 眼が、爛々と光っている。

 郭嘉のみならず趙雲や徐晃ですら、(あやかし)の類を見るような眼で、歳三を見ている。

 それくらい、この男の闘気は尋常ではなかった。

 

「だから、全部話してもらう」

「全部、とは?」

「公孫賛との取り決めは聞いた。ならば貸与される兵の練度、持っている武器、支援してくれる物資の量」

 

 つらつらと、歳三は羅列していく。

 

「敵の数、場所、奪取すべき戦略目標など、とまぁ色々言ったが、とにかく全てだ。私たちが戦うのに必要な全てを、教えてもらう」

「わかりましたが……いくつかは歳三様が、直接聞いた方が良いのでは?」

「いや、私は稟の口から聞きたい」

 

 歳三は、笑った。

 先ほどとはまた別の笑みである。

 神や仏にも媚を売らない不遜な男が、撫でたくなるような笑みを浮かべている。

 

「駄目かね?」

 

 これで駄目と言える軍師はいない。

 誰よりも軍師としての郭嘉を認め、才を信じ、頼っているとわかる笑みだ。

 歳三に仕えることにして良かったと、郭嘉は頬を赤くしながら思っている。

 程立だけが、そんな歳三と郭嘉を冷ややかに見ているのを、徐晃は不思議に思っていた。

 




よもぎもち様、誤字脱字報告ありがとうございます。

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