一時期には、それなりに繁栄していたそうだが、今は名前すら失くしている。
そこに暮らす人々は、こっそりと、ひっそりと、まるで気配を隠すように息を潜めていた。
なんだか薄暗いその町だが、幸いにも豊かな水源に恵まれていた。
ただし、その水は腐っているが。
地下の下水道に住み着くみなしご達。
その町の大人は、なぜか子供達に手を差し伸べることはしなかった。
みなしご達には、名前すら与えてくれる大人はいない。
それどころか、彼女達の事を当然のように虐げるのだった。
「ボート」 と、罵りながら。
-
♪ふぉおおおぉぉぉぉぉあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんん♪
勇者たちは、再び砂漠を疾走していた。
エイジ 「突然だったんだ、みんな拐(さらわ)れちまったよ・・・・・」
レイト 「町の人たちは? 黙って見逃しはしないでしょ?」
エイジ 「それがよー・・・・・」
唇を噛み締める少年の表情は、とても悔しそうだった。
レイト 「どうしたの、何があったのさ?」
心情を察して、相手が心を開くまでは・・・・・。
とは思わない、自分正義(超おせっかい)の勇者レイト。
エイジ 「それが・・・・・」
レイト 「ねえ、ねえ、何があったの」
エイジ 「う、うう・・・・・」
レイト 「黙ってちゃ、力にもなれないだろ」
エイジ 「・・・・・」
レイト 「そうか! あのババアに返り討ちにあったんだ、こんチクショー!!!」
勇者が、勝手に怒り始めた。
そう言えば、父ちゃんはいつも言っていた。
「他人のために腹を立てるんじゃねー!!!」
でも、レイトは思うのだった。
「オレは、オレが腹立つから怒ってるだけだい!!!」
エイジ 「いやそうじゃないんだ・・・・・」
レイト 「じゃ!ねーのかよー!!!」
レイトの怒りは、激しく空振っていた。
レイト 「じゃー、どうしたの! 言ってくれなきゃわからないよ!」
エイジ 「それがその・・・・・」
無遠慮な勇者が、人の心を激しくノックする。
そして、コンコンノックされるエイジ少年だが、失意に暮れてはいるようだが、無思慮に振るわれる勇者のノックを気にも留めてないようだった。
エイジ 「恥ずかしい話だけどさ・・・・・」
レイト 「どうしたの?」
エイジ 「俺の町の大人たち・・・・・」
レイト 「うん」
エイジ 「・・・・・売りやがったんだ、アリさんを」
レイト 「アリさん??? フィエじゃないの???」
また、新しい名詞が出てきた。
勇者の頭はキレルほうだが、理路整然は苦手なのだ。
エイジ 「アリさん達だ! あいつら、フィエを含んだ8人の子供達全員を売りやがった!!!」
レイト 「なんで! 町の人たちがなんでだよ!!! 許せねーよ! こんチクショー!!!」
初対面の人の話に、親身になって怒るレイト。
エイジは、そんな人間に始めて出会った。
勇者の小さな村では、幸い他の町との交流がほぼ無かったため知らないが、不条理な人身売買は割りと一般的にまかり通っていた。
当然、オフィスも「ワレカンセズ」。
それに、金銭の授受がきちんと行われているだけ、まっとうな方だった。
エイジ 「・・・・・・・・・・」
エイジ 「おまえ、ちょっと変わってるな。 他人のために怒る奴はバカヤローなんだぞ、気をつけねーと死ぬぞ」
レイト 「バカヤローじゃねーよ、バカヤロー! そんな話を聞けば、誰だって腹が立つだろー!!!」
エイジ 「・・・・・」
レイト 「うがぁぁぁぁ!!! コンチクショー!!!」
エイジ 「・・・・・、だよな、そーだよなあ!やっぱりそうだよなー! 俺、間違っちゃねーよなぁぁぁぁぁ!!!」
レイト 「あったりめーだー!!! エイジは間違っちゃねーーー!!!」
エイジ 「うぉぉぉぉぉ!!! 俺は間違っちゃねぇぇぇぇぇーーー!!!」
話の内容はともかくとして、暑苦しい、似た者同士だった。
レイト 「子供達ってことは、エイジもその一人だったんだろ」
エイジ 「いいや、俺は町のはずれで、「ガリィ」ってクソジジイと暮らしてんだ」
レイト 「ガリィはクソジジイ・・・・・???」
また、新しい名詞が。
エイジ 「みんながさらわれたその日、俺はジジイと隣町にお遣いに行ってたんだ」
レイト 「隣町? それってどんな街」
エイジ 「大きな街だよ、エルって名の」
レイト 「エル♪ 街か~♪」
エイジ 「レイトは街に行ったことが無いのか。 だけど、今は話を続けるよ」
レイト 「ごめんごめん、それで」
エイジ 「夕方に、ジジイの家に戻ってみたら・・・・・」
エイジ 「・・・・・・・・・・」
レイト 「・・・・・戻ったら? そしたら? どうした?」
エイジ 「そしたら・・・・・・・・・・・」
レイト 「どうしちゃったのさ、それから? どうなったの?」
エイジ少年は、何かを思い出して涙を流していた。
エイジ 「っくしょーーー!!! 俺が、無理にでも、あいつらと暮らしてやってればぁぁぁぁぁ!!!」
レイト 「だから、どうしたのさ? 泣いてちゃ、わっからないよー!」
エイジ 「泣いてねーよ!!!」
エイジは、涙をぬぐいゴーグルをかけなおすと、再び語り始めた。
エイジ 「ジジイのガレージに帰ってみたら、手紙が一通届いてた、フィエからの手紙だった」
レイト 「フィエから?」
エイジ 「フィエだけは、逃げ延びてたらしい。 だけどさ・・・・・、だけど、あのバカ」
レイト 「 ? 」
エイジ 「・・・・・手紙には、「ちょっとアリスを探しに行ってくる、バイバイ♪」って、それだけ書いてあった」
エイジ 「俺、何のことかわからなくってさ、意味がわかったのは次の日だった」
レイト 「人買いが、噂になってたんだね・・・・・」
エイジ 「俺、わけがわからなくなって、気づけばジジイの古い機関銃を持ち出してた・・・・・、金を受け取った奴らをよ・・・・・」
レイト 「・・・・・」
エイジ 「だけどその時にね、クソジジイは言ったんだ」
ガリィ爺 「おい、ガキ! てめぇーの命は何のためのモノだよ! この町を敵にまわして命を張るためじゃねーだろー!」
エイジ 「だけど! だけど、どうすりゃいいんだよ! 教えてくれよ、教えてくれるのかよ、ジジー!!!」
じじい 「余計な事に腹を立ててる時間があるのか? 余計な敵を作るじゃねー、 助けに行くんじゃろ!」
エイジ 「どうやってだよー! 無責任な事、言うんじゃねーよ、ジジー!!!」
がごぉぉぉぉぉんんん!!!
エイジは、ジジイの鋼鉄の右腕にどつかれた。
じじい 「ビービービービー、わめくんじゃねー、クソガキが!!!」
エイジ 「くぅぅぅ! 何しやがる、クソジジー!!!」
じじい 「ちょっとついて来い!」
エイジ 「うるせー!」
じじい 「いいから、ついて来るんじゃぁーーー!!!」
やり場のない怒りに感情がセーブできなかった。
根暗な町の人間にも、養われているのか養っているのかわからないクソジジイにも。
そして、こんなふがいない自分にも。
もう、なにもかも、うんざりだった。
やぶれかぶれの少年は、機関銃を地面に叩きつけ、右腕が機関銃のじじいについていく。
エイジ 「ちぃぃっくしょぉぉぉぉぉぉ!!!!!」