半ば、ヤケッパチのこの少年は、自分の命など、とうに捨てる気でいる愚か者である。
すでに2時間は経過しているだろうか。
冷徹な眼差しでスコープを覗き込むエイジだが、ガングリップを握る右拳には時折痙攣が走り、そのたびに発狂しそうになる心を歯をガタガタ言わせながら、破壊衝動を死物狂いで押さえ込んでいた。
一刻も早く飛び出したい気持ちを、必死でこらえている少年。
ヒロイズム(英雄主義)に駆られ飛び出して、もし自分が死んだら、彼女は一生救われない。
だから、エイジはそのチャンスを、じっと息を潜め待っている。
だが、その時!!!
エイジ 「あのバカ!!!」
ポチが数匹、生き残っている。
ポチ 「がるるるる!!! ぐるるるる!!!」
そのうちの一匹は、まだ動けるようだ。
近づいてくるポチは、明らかに機動力は落ちているが、その表情は凶暴性が増しているような・・・・・、そんな気がする。
ポチ 「がるるるる! ぐるるるる!」
血を流しながら、足を引きずりながら、それでもレイトに向かって来る。
その姿は、見ているほうが痛々しいほどだった。
レイト 「・・・・・」
凶暴な表情を浮かべる、顔色の悪い勇者。
レイトは、信号銃のトリガーを無言で引いた。
そして激しい爆発音とともに、ポチが吹っ飛んだ!
レイト 「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
レイトは、叫びながら走り出した!
ドーピング中の勇者。
動体視力、反射速度は上がり、疲れにくい上に、暑さ・寒さ・痛みをあまり感じない。
そして、銃弾の雨や殺気立つポチたちと対峙しても、ほとんど恐怖を感じない。
それでも、自分が使っているのは、たっつぁんの選んだパッシブタイプだろう。
さっきのポチは、明らかにアクティブをキメられて心を壊していた。
まして、フィエは・・・・・
レイト 「出てきやがれえェェェェ!!! ババアァァァァァ!!!!!」
その光景を見て、それでも息を殺し続けるエイジ!
隠れ続ける彼、隠れ続けなければならない彼。
声も上げられず、物に当たる事もできず、ただ怒りに打ち震えている。
レイト 「ヴァァァバァアァァァァァ!!!!!」
トラップを気にもせず、野営地に突撃するレイト。
有刺鉄線をグレネードで吹き飛ばし進入すると、野戦用大型テント(ビニールハウスのお化け)に向かって
走っていく。
だが、そのとき!
・・・・・シュン!!!
レイト 「 !? 」
エイジ 「 !? 」
ドォォォォォンンン!!!
レイト 「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
どこからとも無く、ミサイルが降ってきた。
レイトは、なすすべなく吹っ飛ばされた。
レイト 「・・・・・ぐ・・・・・うう・・・・・」
全身から、かなりの出血がある。
激しい痛みの自覚もあった。
レイト 「ひひっ・・・・・、いひひひひ・・・・・♪」
レイトーの意識は、とても冴えているが混濁気味だった。
痛々しい姿の勇者は、引きつった表情で奇声を上げていた。
幸か不幸か、激しい痛みがある種の興奮剤のように精神を覚醒させていく。
だが、その背中には、レーザーのマーカーが・・・・・
エイジ 「 !? 」
エイジ 「ちくしょー!!! バッカヤローーーーー!!!!!」
ガガアァァァァァーーーーーンンン!!!!!
エイジの構えるカスタムボルトアクション、特注鉄鋼弾を装填した7.62mmの長い銃口が標的に向かって動く!
ガガアァァァァァーーーーーンンン!!!!!
ガチャコン!
ガガアァァァァァーーーーーンンン!!!!!
ガチャコン!
ガゴオォォォォォーーーーーンンン!!!!!
エイジの放った弾丸は、何の変哲も無い砂漠に着弾していった。
だが、そこから突然、小爆発とともに3匹のポチが現れた。
と、同時に、レイトの背中のポインターは消えている。
ポチ 「がるるるるるるるるるるるるるるる」
エイジ 「クソッ! バレた、これで奇襲は無理じゃねーか! どうすんだよー!!!」
なおも冷静に狙撃を続けるエイジは、しかしパニクっていた。
レイト 「 ??? 」
レイトも瞬間パニクった。
突然、背負子から煙を上げるポチが出現していた。
彼には、いったい何が起こっているのか理解できていない。
だが、考えるより早く体は反応していた。
発狂気味に、ワンワンを追いかける勇者。
その戦闘用ワンワンは、勇者に恐れをなしたのか、どこかに走り去っていった。
レイト 「・・・・・ひひひ・・・ひひ」
青いレイトがテントに駆け寄っていく。
その時、テントからはもう一匹、ポチが現れた。
大型ポチ 「ぐるるるるるるるるるる」
そいつはかなり大型犬だが、背中には何も背負っていない・・・・・
ガチャン☆
大型ポチ 「ワァオウゥオゥゥゥゥゥゥンンン!!!」
キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンン!
見るからに凶暴そうな、低い唸り声をあげる大型犬。
一吼えして伏せるポチの目つきは凶暴なままだった。
そのお腹からは、激しいモーターの駆動音が聞こえている。
レイト 「ひぃぃぃぃぃ!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
レイト 「ああああああああああああああああ!!!」
ポチは、小口径化され小型軽量化された、それでも巨大なミニガンを腹部に吊っていた。
あんなモノで攻撃されればひとたまりも無いだろう・・・・・
レイト 「ああああああああああああああああ!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
レイト 「ああああああああああああああああ!!!」
エイジ 「うわああああああああああああああ!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
レイト 「ああああああああああああああああ、あれ???」
エイジ 「うわああああああああああああああ!!!」
その回転する銃口は、未知の敵を殲滅するために、あさっての方向を向いていた。
レイト 「 ??? なんで?」
ガレ山の岩陰に銃弾の雨が降り注いでいる。
当然、レイトのいる場所とは全く違う方角に。
あまりの火力に、爆煙が立ち込めている。
そして、その地獄の中をシートを振り払いながら慌てて逃げ出す人影が見えた。
レイト 「え? ・・・・・あっ!!!」
うつむく勇者、夕日に影が顔を覆う。
そして勇者は、ニヤリと頬を吊り上げ、血しぶきを撒き散らしながら走り始めた!