たとえ彼女達の司どるものが「死」だとしても。
喪服のような黒ずくめの魔女から、一目散に逃げる勇者。
その姿は、すでに暗闇に紛れて確認できない。
魔女が呆然とたたずんでいる。
① 正体不明の亡霊戦車に追われ。
② 謎の兵士に狙撃され。
③ そして、アホな勇者に宝を横取りされて。
④ さらに、切り札の「フォックス(フェネック)」は、なぜだか動作不良
魔女は、ワナワナと震えながら考える。
魔女 「なんだってのよ、どいつもこいつも・・・・・」
さっきの戦いぶりから、多分②③は仲間だろう事は予測できるが、断定はできない。
偶然、魔女の敵同士が戦場で遭遇し、敵の敵は味方で共闘したのかもしれない。
さらに、①?
いやいや、さすがにそんな都合の悪い確率はありえない。
じゃあ、あいつらは何で、この私を狙うんだ・・・・・?
そして、予想外の④!
魔女はこれでもれっきとした、正規の凄腕ハンター。
真正面から喧嘩を売る行為は、下手をすればオフィスを敵に回すことになる。
サーベラはとんでもない悪女だが、賞金首ではない。
そんな訳で、彼女を敵視する者は多くても、彼女と敵対する「モノ」はほとんどいない。
魔女 「そうだよね、①②③に区別があるはずも無いね だったら④も必然か・・・・・」
サーベラ婆さんは、平然と、もの思いにふけている。
飛車を奪われたこの状況。
自分にとって最悪のシナリオと、それへの対処方法は2つ。
逃げるか、徹底的に叩き潰すか・・・・・
魔女 「・・・・・」
魔女 「ニア」
ニア 「はい美しきサー・・・」
魔女 「緊急信号」
ニア 「わ、わかりました、ですが・・・」
魔女 「いいから」
キャビン天上のランチャーから、信号弾が一発。
ぴゅるるるる~
・・・・・
ぐわわわぁぁぁぁぁぁぁんんんんん!
その信号弾は、青白く冷たい光と唸り声を上げた!
そして、大きな火球となって、上空にとどまっている。
普通の信号弾より、光質か暗い。
照明弾並みの光量を放っているが、やっぱり暗い。
閃光弾ほどの光圧もない。
これは、何を呼ぶための光なのだろうか・・・・・?
戦場に放たれたワンワンたち。
良くしつけられている、みんなおりこうさんだ。
ポチ 「がるるるるるるるるるるる!!!!!」
亡霊戦車に対峙するポチたちの理性が飛んでいく。
ポチ 「ぐるるるるるるるるるるる!!!!!」
戦場を索敵に走りまわるポチたちも。
ポチ 「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
トレーラーに残る秘蔵のポチたちも。
魔女 「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
そして、サーベラ自身も!!!!!
美魔女が、本当の魔女になった。
彼女は、苦しそうなうめき声を上げながら、ゆっくりとした足取りでコンテナに乗り込み、ガサゴソ。
ガサゴソ♪
ガサゴソ♪
ガサゴソ♪
しーん・・・・・
ずががぁぁぁぁぁんんん!!!
コンテナが叩き割れた!
まっぷたつに!!!
ぐわぁぁぁぁぁんんん!!! ごごぉぉぉぉぉんんん!!!
魔女 「ふうぅぅぅぅぅ~ ぐるるるるる」
婆さんとは思えない、筋骨隆々の肉体と、恐ろ美しい形相。
その手に握られているのは、笛のような斧のような、あの武器。
MADな彼女もやっぱり、化け物だった。
魔女 「さあ、狩りの時間だよ~❤」
ニア 「サーベラ様・・・・・、美しい❤ 」
魔女は鼻をスンスン鳴らした。
それから、首をコキコキ鳴らすと、見えないフィエのいる方角を見つめはじめる。
フィエを見ている? まさか。
魔女 「・・・・・(じーーーーー!)」
いやいや、ないない! この暗闇で見えるはずが・・・・・
だが、魔女は、お供のポチたちを置いて正確にフィエのいる方角に走り出した。
あっと言う間に走り去る魔女。
その姿はまさに風のよう。
理性を失ったポチたちは、さっきまでの統率の取れた動きをしなくなった。
何だか、おバカ丸出しな感じ。
ポチ 「ぐるるるるるるるるるるるるるるるるるるる」
ちゅどーーーん! どん! どぉぉぉぉぉんんん!!!!!
時を同じくして、暁を背負って現れた亡霊が、一網打尽で葬り去られた!
3両が一瞬で・・・・・
戦場に爆音が轟いた。
そして・・・・・
魔女が笑う。
ほんのりと青白い光の注ぐ不気味に薄暗い砂漠に、犬の遠吠えがこだましていた。
レイト 「なんだよー!これはなんなんだよー!!! うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
普通ではない狼達の遠吠え。
周囲にあふれる殺気とただならぬ雰囲気。
まるであの世を連想させるような薄ら青暗くぼやける視界。
ドーピングで、五感がいい具合になってる勇者だが、そのせいもあってか、ただならぬ感覚にさいなまれていた。
元々方向音痴の勇者の方向感覚は、完全に崩壊していた。
本当に、ここはまるで、あっちの世界のようだ。
トン☆
レイト 「あた!」
それでも、一心不乱に走り続けるレイトの肩に、軽い衝撃が走る。
そして、こけた。
レイト 「あ、あれ???」
転んだレイトは、膝をつき起き上がった。
だが立ち上がれない・・・・・
3重の防刃服を着ているレイト、なんだか左腕が真っ青だった。
レイト 「え・・・・・、いつ! ・・・・・いぃぃってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
左腕から青黒い滴が砂漠に滴り落ちている。
左腕を見つめる勇者は、その時、ありえない声を聞くのだった。
魔女 「うふふふふ~❤ かーわーいーいーフェーネーック♪ さあ迎えに来たよー、起きなさーい♪」
勇者 「なに!!!」
振り返るとそこに、青白く輝く美しい魔女がいた。
魔女 「あら? なんだい、私の言う事が聞けないってのかい? 言う事を聞かない悪い子にはお仕置きだよ~❤❤❤」
レイト 「ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・、ま、待って、待てって・・・・・」
勇者たちの命を狩りに魔女がやってきた。
魔の付く世界を引っさげて。
魔女は、嬉しそうに、楽しそうに、黄金の斧を振りかざす。
青白く浮かび上がる漆黒の死の神の衣、その長大な斧はまるで、首狩りの大鎌のようだった。
レイト 「ね、姉ちゃんは眠ってるんだ、起きないんじゃない、起きれないんだー!」
振り上げられた斧の下には、フィエがいる。
魔女には、かわいい彼女の命すらも、別にどうって事無いのだろうか。
魔女 「眠ってるって? なんで? どうしてかな~❤」
フィエだけを見つめていた魔女が、ゆっくりと勇者に向き直る。
とても無邪気な笑顔で♪
魔女は、ちょっとだけ勇者に興味がわいたようだった。
柔らかい表情の笑顔。
引きつっているわけでもなく、殺気を放つわけでもなく、ただただ柔らかい。
筋骨粒々だが、背い高でとても美しい魔女。
それはまるで、ダロスの世界の神々のように。
だが、魔女の瞳に魅入られた瞬間、勇者レイトは戦慄を覚えるのだった!
勇者 「!!!!! ・・・・・、・・・へ へへへ えへへへ♪ それはね・・・・・」
魔女 「うふふ~ うん、それは~♪」
勇者 「な ・ い ・ しょ ❤❤❤」
魔女 「・・・・・あはははは、ふふふふふ❤ そっか、そうなんだ、じゃーもういいや❤ バイバーイ」
魔女が笑う。
今度は冷たく殺気を放ちながら。
魔女 「ふ~ん、んっんん~♪ (全滅のテーマ)」
魔女が上機嫌で歩いている。
ゆらりと、ゆっくりと、何かの鼻歌交じりで近づいてくる。
肩に斧を担ぎ、膝を屈する勇者に向かって歩いている。
勇者 「へへへ❤ えへへへへへへ~❤」
魔女 「ふふふ❤ ははははは❤ いい♪ いいよお前♪」
少年は、魔女の激しいプレッシャー(殺気)に抗うため、精一杯強がって笑っていた。
瞳孔全開で、瞬きもせず、だが言わなければわからないぐらいに自然に笑っていた。
それができるだけでも、とても心の強い子、いや、男だろう。
彼の体には、ドーピングにもかかわらず激しい痛みが走っている。
どうやら左腕は、完全にイカレているようだ。
魔女 「はははは♪ 笑かす子だね、どうしようかな~❤」
勇者 「えへへへ~❤」
魔女 「お前も、わたしのかわいい「フェネック」になりたいのかい❤」
美しい魔女は、首狩りの鎌を青白い魔の月に掲げた。
魔女 「んー、んっんんっー♪ やっぱりいいや、 バーイバーーーイ❤❤❤ (ニッコリ)」
レイトの利き腕は、ありきたりの右。
そして、圧倒的な力の解放と、興味をそそる少年少女を痛めつけながら、性癖を刺激され興奮している魔女は瞬間、超ヘビーな大鎌を持ち上げる上体が死に体になっている。
フィエの時と同じように。
勇者 「えへへ・・・ ヒヒ・・・ヒヒヒ♪」
魔女 「あ・・・あれ・・・・・? なにこれ?」
魔女の首狩り鎌が振り下ろされた!
だが、勇者は魔女の一撃を紙一重でかわした。
おかしな奇声を上げながら。
勇者 「イーッヒッヒッヒーーーーー!!!!!」
魔女 「なんで・・・・・」
振り下ろされた斧は大地に刺さり、激しく震えながら埋もれていく。
勇者 「ヒッヒッヒッヒ! 成功じゃー!!!」
成功じゃ・・・・?
勇者が両腕を青白い月に掲げ、左腕は半分しか上がっていないが、痛々しいその姿で叫んでいた。
なんだか、そのしぐさはまるで、あのはた迷惑な博士のようだ。
大体、何に成功したのか?
一撃目を交わしたからといって、動ける状態に無い事に変わりないレイト。
当然、魔女の二撃目がくる。
魔女 「お、おまえ・・・、まさか、昼間の・・・・・」
しかし、魔女は二撃目を構えなかった。
それどころか、鎌にもたれて苦しんでいる。
魔女は一瞬、昼間の戦闘を思い返していた。
暴走するフェネックに、ポーチから取り出した中和剤(黄色)を投げつける魔女。
その直後に現れた、ボロの少年を成り行きから張り倒している。
不自然に、気持ちよく決まる魔女の拳。
そして、とどめの右ストレートを顔面に叩き込むときだった。
魔女 「 !? 」
ほんの刹那の時だった。
勇者は瞬きせず、確かに魔女の目を睨みつけている。
そして、もろに炸裂したストレートを受け、魔女に抱きつき崩れ落ちた。
用心深いサーベラだが、不覚にもそのことをあまり気に留めていなかったが。
魔女 「お、おまえ・・・・・」
その戦闘で魔女のポーチは行方不明になっていた。
魔女の首元には、黄色いタグの付いた羽の生えた大きな針のようなモノが刺さっていた。
それは彼女が昼間、フィエに投げたものにそっくりだった。
その片鱗を、ここまでときどき披露していたが、レイトの一番のスキルは「スリ」なのだった。
それは当然、父ちゃん直伝。
だから、見切る力と手の速さは、以外にも既に、かなりの領域に達していた。
レイトの命の炎。
今はまだ、散る運命(さだめ)になかったようだ。
フィエはどうだろう?
ヨロヨロと立ち上がりフィエを担ぎ上げると、勇者は再び歩き出した。
レイト 「ヒヒヒヒヒ・・・じゃなかった・・・・・ ぬ、ぬぐぐぐぐ! ぬぐおぉぉぉぉぉ!!! 博士のバカァァァァァ!!!!!」
魔女 「はぁ、はぁ、はぁ」
魔女は虫の息だった。
意識はあるが体は動かないようだ。
魔女 「ま、待ちな! おまえ・・・・・、お前の・・・名・・・は、 う! ぐふぅ!!!」
ドーピングしてでさえ満身創痍の勇者は、少女を担いだまま振り返った。
勇者 「よーーくおぼえとけーーーーー!!! オレがぁぁぁ! オレは勇者レイトさまだあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
遠吠えをかき消すほどの大声で、叫んだ。
魔女を鋭い眼光で睨みつけ、青鬼な小さな勇者が魔女を威嚇する。
だが、魔女は許せないが、今はそれどころではない。
勇者は、ガタピシの体を引きずりながら、恨めしそうに睨む魔女を置き去りにして、魔に魅入られたかのような青白い世界を越えて行く。
だが、勇者のどでかい叫びに答えるように、遠吠えが呼応して、こだましていた・・・・・