「んー……なーんかこの前から、うちの雰囲気変わってねーか?」
「えっ? そーですか?」
「見るからに対人上がりっぽい奴が増えただろ。ま、やる気のある連中が入ってくるようになったのは良いんだけどな」
「う~ん、言われてみれば……で、それがどうかしたんですか?」
「つまりこうなったのもだいたいお前のせいだから、少しは仕事手伝えつってんだよ」
「えぇ~、イヤですよぉ~……そんなことしてる暇があったら、素振りでもしてますって」
「なんかお前、幹部になってから態度デカイなおい」
「いえいえー、気のせいですってばー」
「クソッ、なんでオレはこんな面倒な仕事を引き受けちまったんだろうなぁ……」
「あ、あの、良かったら僕も手伝いますよ」
「おおっ、助かるぜシュピ……お前はなんて良い奴なんだ」
「それくらい、お安い御用ですよ。それにその、新しく入ってきた人達をいびるのも嫌いじゃないですから」
「あー、前言撤回……お前、入ってきた頃はいじめられっ子オーラ全開だった癖に、いい感じに毒されてきたよなー」
「えっ、そうですか? まあたしかに最近は、学校でも手を出してくる人は減ってきましたけど。やっぱりここで度胸を付けたお陰ですかね? 」
「かもなー。あっちの奴らの動きなんて、ノロすぎてマジ笑っちまうだろ?」
「たしかにそうですね……一度思い切って反撃してみたら、カウンターで綺麗に入っちゃったことがありまして。鼻血だらだら流しながら泣いてる顔は、なかなか傑作でしたよ。おかげでしばらく謹慎でしたけどね」
「ふーん。ま、いいんじゃねーの。あっちでもこっちでも、舐められたらオシマイだかんな。ああそうだ、シュピ。ちょっと耳貸せ。今度2人でよ、…………、…………、どうよ?」
「……え、えぇぇっ!? それはまあその、興味がないこともないんですけど……」
「おい、オレの弟に、妙なことを、吹き込むな」
「かてーこと言うなよザザ! ヘッドがなぜか禁止してっから、こっちじゃそういうコトもできないしよー。シュピの顔とオレのトークスキルがありゃ、ガンガンお持ち帰りできるって! 時代はショタだよ、ショタ!」
「お前は、何を、言ってるんだ……」
「あ、あはは……そうだ兄さん、勉強でまたちょっとわからないところがあるんだけど」
「ん? それなら、夕飯の後に、教えてやるか」
「お前ら仲良いよなぁ……しかも親が医者とか、勝ち組もいいとこじゃねーですか……」
「うーん……そう見えるかもしれないけど、それなりに大変なんですよ」
「オレのせいでこいつには苦労を掛けてるからな……しまった」
「ザザの貴重な素トークシーン……バリレアだな、こりゃ」
「フン、たまには独りで狩りでもと思い立ったは良いが、ロクな獲物がいやしねぇ。とんだ無駄足……ん?」
(何だ、あの女……とてもソロには見えねぇな。装備も動きもまるでなっちゃいねぇ。パーティーで来たものの予想外の事態で崩壊、1人だけ逃げ遅れて立ち往生ってところか。
ブラッキーとの協定はたしか、『中層以下のプレイヤーには手を出すな』だったか……? そんなモン、律儀に守る必要も義理もないんだが……さて、あるどうしたもんかね。このまま放っときゃそのうちくたばるだろうが、それまで待つのもダルいしな……。
それに見捨てた場合、どういう扱いになるんだ? ケチなMPK扱いなんぞにされたら、うちのメンツに関わる大問題だぞ……。
一番良いのは、『何も見なかったことにしてこのまま立ち去る』だ。お前によし、オレによし。最もCoolな選択肢。これ以上誰も傷付かない、みんなハッピー。ラブアンドピース。なんだが……あーもう面倒くせぇ!)
「おい、お前」
「!! いつからそこに!? それにそのカーソルにエンブレム……まさかあの、ラフィン・コフィン!? どうしてこんなところに……」
「ンなこたぁどうだっていいんだよ。それより、ここでなにがあったのか言ってみろ」
「……なぜそんなことを聞く? どうせ殺すつもりなんだろう?」
「まあそう死に急ぐな。オレにはオレ流の楽しみ方ってのがあるんだよ。何があったか知らんが、冥土の土産に話ぐらいは聞いてやらんこともないぞ?」
「……別に、知られて困る話でもないか。ここには最初、私を入れて6人で来たんだ。たまたま臨時で組んだだけの、即席パーティーだったけど。気が付いたらモンスターの大群に囲まれていて、それなのにみんな私を置いて逃げ出して……幸いモンスターは全部そちらを追いかけて行ったから私だけは奇跡的に助かった。それでも、仲間に見捨てられたという事実に変わりはない……ちょっとチヤホヤされたくらいで、何をいい気になってたんだろう、私。あはは……」
「ハッ、案の定だな。ひとつ付け加えるなら、そいつらはその状況で最も合理的な選択しただけのことだ。自分だけは何が何でも生き残るっていうな」
「…………」
「それで? お前はこれからどうしたいんだ?」
「えっ? どうって……」
「このままここでオレに殺されるか、Mobに襲われるまで虚しく待ってデスルーラするか、それともお前を見捨てた奴らが助けに戻ってくるのを待つか。まあ最後のは期待しない方が良いだろうがな」
「わ、私は……死にたくない……」
「なぜだ? こいつはただのゲームだぞ。痛みなんて無いし、デスペナだってたかが知れてる。それとも、お前を見捨てた奴らに顔を合わせたくないのか? なぁに、心配するな。仮面みたいな笑顔を貼り付けながら『わたしも死んじゃいましたー、てへっ』とでも言っときゃ、すべて丸く収まるさ。それがお前らの大好きな、慣れ合いってやつだろ?」
「それでも……たとえ仮想世界でも、これ以上嘘は吐きたくない。私は死ぬのが怖い。彼らに顔を合わせるのが怖い。でも一番怖いのは、もし優しく気遣う振りでもされたら、自分がどんな態度を取ってしまうのか考えることだ……」
「はぁ……。興が冷めた。オレが安全な場所まで連れて行ってやる。そこから先は一人で帰れ」
「……えっ? ど、どうして……」
「お前みたいな怖がりなだけの雑魚を殺しても面白くもなんともないんだよ。道中精々誰にも出くわさないように祈っとけ」
「でも……」
「……いいか、笑ったらブッ殺すぞ? ……死んだ婆さんの遺言でな。女には優しくしろって散々叩き込まれたんだよ……だが勘違いするな。地獄でもあのババァに怒鳴られるのはまっぴらごめんなだけだからな」
「は、はぁ……」
「わかったらさっさと付いて来い。ボヤボヤしてると置いてくぞ」
「……あ、あのっ!」
「何だよ。まだ何かあるのか? オレの気が変わる前にさっさと言え」
「助けて貰う身で厚かましくて申し訳ない。実はもう一つだけ、お願いがあるのだが……」
「なに!? なんなのあの子! 超絶可愛いんですけど!?」
「ヘッドばっかずりぃーっすよ!」
「あ"あ"っ?」
「な、なんでもないです……」
「チッ……おいお前、軽く自己紹介しとけ」
「あっ、はい。えっと、私の名前はルクスと言う……言います。先刻はPoHさんに助けていただき、この度加入することになった……なりました。みなさん、よろしくお願いします!」
「天使だ……天使がいる……」
「いやこれはもう女神だろ、常識的に考えて」
「つーか、ヘッドが人助けとかありえねーだろ! ぜってー騙されてるって!」
「うるせぇよ、いちいち茶々入れんじゃねぇ! ……さてお前には、主に補給や圏内での情報収集を担当してもらう。その見た目ならまず疑われることはないだろう。あと、口調は別に直さなくていいぞ。ここにはンなどうでもいいこと気にする連中はいねぇからな」
「わ、わかった」
「それとお前。うちは身体の何処かに、専用のナイフを使ってエンブレムのタトゥーを彫るのが規則なんだが……」
「そうなのか? 何か問題でも?」
「どうしても嫌ならやめてもいいんだぞ。要はお互い識別できりゃいいだけの話だからな」
「えぇー、例外は無しって言ってたの、ヘッドじゃないっすかー!」
「女の子は別ってことだろ、察しろよ」
「Shut the fuck up! 黙ってろ! ……それで、どうするんだ? やっぱりやめとくか?」
「……いや、入れるよ。ケジメはきちんと付けないとな。PKギルドのメンバーになるというのはつまり、そういうことなんだろう?」
「ほう……ちなみに一度入れてしまったら、二度と消えないらしいぞ?」
「それでも構わない。だから入れてくれ、頼む!」
「どこがいいんだ?」
「ええと、任務を考慮するとなるべく目立たないところが……ここだ、ここに入れてくれ!」
「太腿か……まあ、たとえ疑われたところでそこまで調べられることもないだろうが……」
「私は一向に構わない! ここに入れてくれ! 早く!」
「あー……盛り上がってるところ悪いが、その言い方で連呼されるとだな……」
「……? ……!! い、いやぁぁぁ! そういう意味じゃなくて!?」
「ムリヤリ連れて来ただけじゃ飽き足らず、とっくに調教済みかよ……」
「さっすがヘッド、マジ鬼畜っすね! 正直ドン引きっすよ!」
「うわぁ……ないわー、マジないわー……」
「てめぇら……いっぺんブッ殺す!! You fucking fuck!」
「うわー! ヘッドがキレたー!」
「みんな逃げろー!」
「逃がさねぇよ! オレが誰なのかいっぺん思い出させてやらァ!」
「うわらば!」
「アイエエエエ! ヘッド!? ヘッドナンデ!?」
「モルテさん、なんとかしてくださいよォーッ!」
「あははー、自分あの人に1勝もしたことないのに、止められるわけないじゃないですかー」
「そんなー」
「あーあ……一度キレちまったヘッドはしばらく手が付けられねぇんだ。さっさとズラかろうぜ」
「ルクスさんも早く避難した方が良いですよ。巻き添え食らったら損ですから」
「そうだな、新入りには少し、刺激が強すぎ――?」
「か……かっこいい……」
「「「えっ?」」」