「あなたがタイタンズハンドのリーダー、ロザリアさんですね? 私は――」
「その前にまず、顔を見せなさいな。それともラフコフの連絡係は、同盟ギルドに対して正体も明かせないっていうの?」
「っ、これは失礼した。私はルクス、ラフィン・コフィンの使いの者だ」
「へぇ……あんたみたいな子を寄越すなんて、いったいどういうつもりなのかしらね」
「私は戦闘向きではないので、こういったことの方が向いていると言われただけだ」
「ふ~ん。あんたのとこのボスも、そうやってたらしこんだってわけ?」
「……私は話し合いをするつもりで来たんだけど、ロザリアさん」
「はいはい、冗談よ、冗談。まったくあの堅物ときたら、アタシがいくら誘ってもちっとも靡かないんだから」
「堅物? あの人が?」
「そ。ラフコフにはこれまで女なんて1人もいなかったでしょ。不思議とは思わなかった? ああいうヤバそうな連中に憧れてる頭の空っぽな女はね、あんたが思ってるよりずっと多いのよ。質の方はともかくね。それなのにあいつときたら、『オレのシマで女に手を出す奴がいたら、爪の先から1ミリずつ切り刻んでやる』なんて宣ってるんだから。笑っちゃうわよね?」
「でもこのゲーム内では倫理コードがあるせいで、その手のこ、行為は出来ないはずでは?」
「あら、あんた本当に知らないの? 今じゃ表の連中の間でさえ公然の秘密って言われてるのに」
「えっ? ということはつまり……」
「倫理コードの解除手段があるのよ。なぜかお互いを好きな者同士でしか機能しないらしいけど。そのお陰でアタシはこの世界では、あんたと変わらない綺麗な身体ってわけ。まったく、何の冗談なんだか」
「し、知らなかったよ……」
「とんだ箱入り娘もいたものねぇ。ま、この業界では数少ない女同士、精々仲良くやりましょう」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。……ところで、さっきの話なんだけど。例のその、解除方法を教えてくれないか?」
「あんたそれ……本気で言ってるの?」
「ほ、本気……かどうかはともかく、知っておいて損は無いだろう?」
「あらあら、興味津々ってわけ? そうねぇ……あるものと交換なら、教えてあげても良いわよ」
「交換? 生憎、私は提示出来るような物は何も持ってないが……」
「あんたって、ホント鈍い子ねぇ……アタシとフレンド登録しなさい、って言ってんのよ」
「……はい?」
「だって気になるじゃない。あの男が自分のルールを曲げてまで、入れ込んでる子がいるなんて。お近づきになっておいて損はないでしょ?」
「私は別に、そんなんじゃ……」
「はいはい、そういうことにしときましょ。それになんていうか、あんたって放っとけない感じなのよね。本当ならアタシの一番嫌いなタイプのはずなんだけど……一周回ってむしろ気が合いそうって感じかしら」
「そうなのかい? まあこちらとしては、同盟ギルドのリーダーと親交を深められるなら願ったり叶ったりだけど」
「そう、それで……あんたのボスとは実際どこまで行ってるの? お姉さんにちょ~っと聞かせてみなさいな」
「だ、だから! あの人とはそんなんじゃないって言ってるのに……」
「グウェンはどう思う?」
「ん? なんの話?」
「だからあの、ロザリアって人のこと」
「んー、そうねぇ……あたしとあの人とは、表面的なところでは似てる感じがするけど、根っこの部分では違うかなー。なにより彼女、ちょっと女の武器に頼りすぎな気がするのよね。あたしの場合、力で従えてるから余計にね」
「確かに……大人の女性という雰囲気ではあったな」
「ま、割と僻みも入ってるんだけどね。ほらあたしって、あんた達みたいな美人じゃないからさ」
「そ、そんなことはないよ! グウェンは可愛くて女の子らしいと思う。……正直に言うと、有力PKギルドのリーダーと聞いて最初はちょっと怖かったけどね」
「ふふっ、ありがと。でも、恐れられるのはむしろ本望よ。この業界、舐められたらすぐに食われるからね」
「それにしても、グウェンはどうしてPKなんかに? 君の腕なら、他のどんなギルドでも引っ張りだこのはずだろう?」
「PKなんか、ね……。あたしはね、この世界では何者にも縛られない、完全に自由な存在なのよ」
「自由……」
「そう、自由。あたしだけじゃない、このゲームのすべてのプレイヤーがね。みんなそれに気付かないだけなの。あたしが初めてプレイヤーを殺ったのは……ソロで狩りをしてた時だったかな。たまたま狩場が被ったパーティーと揉めてね。向こうはフルパーティーだったから調子に乗ってたんでしょうけど。リーダーっぽい奴を不意打ちで仕留めたら、後は楽勝だったわ」
「…………」
「罪悪感はまったくなかった。むしろ清々したくらい。数に頼んで意見を押し通すような輩にはウンザリしてたし、似たような境遇の連中が集まってきてそのうちギルドになったわ。流石にラフコフみたいな化け物揃いじゃないけどね」
「で、でも……オレンジだと町にも入れないし、色々と不便じゃないか?」
「そりゃまあ、そうなんだけど。そんなことでいちいちストレスを溜め込むなんて馬鹿馬鹿しいじゃない? せっかくのVRMMOなんだから、自分がなりたい自分になってなにが悪いの?って思ったのよね」
「そうか……私ももっと早く、そのことに気付いていればな」
「んー……あたしもあんたのことは気に入ってるけど、でも荒事には向いてないと思うなー」
「やっぱり、そうなのかな……前にも同じことを、それぞれ違う人達から言われたよ」
「まあそう落ち込まないでよ。人には向き、不向きがあるんだから。あんたにはきっと、人を惹き付ける何かがあるのよ。その外見を抜きにしてもね。あのPoHが女の子をメンバーに加えるなんてこと自体、前代未聞だもの」
「それはもうよくわかったよ……でも私はそんなに大それた人間じゃないよ。あの人だって私が余りにも哀れだったから、気紛れで助けてくれたに決まってる。女性には優しいのも、死んだお祖母さんの遺言だって言ってたし……」
「えっ? あいつのお祖母さん、まだ生きてるわよ?」
「……え?」
「だから、PoHのお祖母さんでしょ? まだピンピンしてるって。あいつ、アメリカの生まれらしくってね。たまに冗談で、フリスコの祖母ちゃんがー、なんて言ったりするのよ。……フリスコが何処のことだったかは忘れちゃったけど」
「え、えーと、ということは、つまり……」
「あんたがドストライクだったってことよ! 他に考えられないでしょうが!」
「え…………ええええぇぇぇぇっ!?」
「あれ、そこの君、もしかして……」
「! 君達は……」
「あっ、やっぱりルクスちゃんじゃん!」
「あれ以来見掛けないから心配したんだよー?」
「……ああ、あの後親切な人に助けて貰ってね。無事に帰ることができたよ」
「オレらもあの時はマジ必死でさぁ~。頑張って助けようとしたんだけどなにしろ数がヤバくって、もう逃げるだけで精一杯だったんだよ~」
「いや、全然気にしてないよ。むしろ感謝してるくらいさ」
「……? あ、そうそう。実はオレらあの後、ギルドを作ったんだよね」
「へぇ……そうなのかい?」
「そうだ、良かったらルクスちゃんも入らね? 見たとこ、まだどこにも入ってないんでしょ?」
「ルクスちゃんならマジ大歓迎だって!」
「そうそう、強いし可愛いし!」
「喋り方はちょっと頂けないけどねー。もっと女の子っぽく話さないと嫌われるよ?」
「ははっ、それ言えてるー。オレ、最初会った時若干引いちゃったもん」
「ギャハハ! その辺にしとけって。ルクスちゃん、萎縮しちゃってるじゃない」
「……ちょっと失礼、フレンドからメッセージが来たようだ。返信しないと」
「あれれ、ルクスちゃん誰と話してるの? もしかして女の子? 僕達にも紹介してよ!」
「ん? ああ……まあ、そんなところかな。良かったら、これから一緒に狩りに出掛けないか?」
「マジで!? 行く行く! 場所どこ? 何人くらい?」
「やったぁー! VR合コンktkr!」
「楽しい狩りになりそうだ……」
「ル、ルクスちゃん、これはいったいどういうことなんだっ!?」
「姐さん、こいつらですかい? 姐さんを見捨てて逃げた連中っていうのは」
「あ、姐さんはやめてくれって、いつも言ってるだろ!」
「まさか、オレ達をハメたのかっ!? あれだけ世話になっておいて!」
「後で晒しスレに名前を書き込んでやるからな! 覚悟しとけよ!」
「ほう……いいぞ、やってみろ。ただしその時は、『ゲームがゲームでなくなる』がな。それでも良いなら好きにしろ。オレ達にとっちゃ、お前らのリアル情報を特定するくらい、わけないんだからな」
「くっ……脅迫するつもりか!」
「……そうだ、あんた達ラフコフには今、中層以下のプレイヤーには手を出さないって掟があるんだろ?」
「そうだそうだ! ルール違反だぞ! だいたいPKなんて行為自体が、マナー違反でGMに通報されて当然の――」
「ルール……そうだな。お前らの言うことも尤もだ」
「じゃ、じゃあ見逃して――」
「だがな……そのルールを守るかどうかは、オレらが決めるんだよ。破るのもよし、従うもよし。そこで、だ。ここはひとつ、お前らのせいで酷い目に遭った、こいつに決めて貰おうじゃないか。おいルクス、お前はこいつらをどうしたいんだ?」
「私達はPKだ。なら……やることは一つだろう?」
「ククク……お前も大分染まってきたじゃねぇか。おい、例のアレ。今回はお前が言ってみろ」
「わ、私が言うのか? じゃあ、えっと……イッツ・ショウ・タイム!」
****お詫び****
今の今まで思いっきり勘違いしていたのですが、アニメ版を観る限りではどうやら原作のPoHさんは正式にはギルドを結成してなかったみたいです。他のギルドのメンバーのカーソルにはちゃんとギルドのエンブレムが表示されてるのに、ラフコフのメンバーには一切確認出来ませんでした。例えるならクラン機能が無かった時代のFPSで、名前にクランタグを付けて遊んでたような感覚?でしょうか(分かり難い例えですみません)。ちなみにタイタンズハンドの皆さんも同様でした。
しかしこの設定をそのまま受け入れてしまうと、当作品のストーリーが完全に破綻する恐れがあるので、誠に勝手ながらこの作品内ではラフィン・コフィンは正式なギルドとして存在しており、またエンブレムの表示・非表示は各メンバーが任意に切り替えることが可能、ということにさせていただきます。ご都合設定ここに極まれり。。。