昨日の敵は今日の強敵
「――ではこれより、恒例のボス攻略会議を始める。司会進行はいつもの通り、このディアベルが勤めさせてもらう。さて今日の議題は皆も知っての通り、第25層ボス攻略についてだ。今回のボスは双頭巨人型の超大型エネミー。我がギルドを中心とした偵察隊は何度送っても全滅、このままでは攻略の糸口すら掴めないことになりかねない」
「情報屋共は何をしてるんだ? 彼らにとっても大金を稼ぐチャンスのはずだろう?」
「その情報屋が何も掴めてないんだとよ。頼みの綱の鼠も、今度ばかりはお手上げって話だ」
「マジかよ……。あいつの解析力ときたら、時偶チートしてんのかって思うぐらいなのに」
「あれで案外地道に調べてんだろ。プロ意識ってやつだよ」
「そういやお前、あの娘の素顔見たことあるか? 噂では結構可愛いって――」
「あー、静粛に願う。今はまだ自由発言の時間ではない。……コホン、このままでは埒が明かないのは火を煮るより明らかだ。よって我がギルドでは、攻略も可能であると思われる規模での偵察を実施するつもりでいる。ついては各ギルドにも協力を仰ぎたい。各部隊の具体的な配置についての詳細は後で詰めるとして、まずは計画の概要から説明する。
初めに壁についてだが、うちのシヴァタ、リーテン率いるタンク隊が交代でローテすればなんとかなると予想している。それでも足りなければオレの部隊が支える予定だ。だが問題は火力隊だ。各人のヘイトがタンクを上回ってタゲが移ってしまわないよう、皆で平等にダメージを与えていく必要がある。ボス攻略は瞬間火力が出ればそれで良いというものではない。この場に列席のお歴々なら言うまでもないことだとは思うが。
そもそもボス戦自体がタンク主体であり、ボスの一撃で消し飛ぶような極端なDPSビルドは重視されてこなかった。だがここに至って、火力が圧倒的に足りないという想定外の事態に直面している。偵察隊の報告では弱点云々よりもまず、HPの量が桁外れに違いすぎて一本目のゲージの半分も削れなかったそうだ。よって当面の課題はダメージ面の強化。もちろんこれは一朝一夕にどうこう出来る問題ではない。各々で武器の強化を徹底するくらいが精々だろう」
「さて、ここまでで何か質問は? ……よし、では今から各ギルド代表者の意見を聞きたい。オルランド。君達ブレイブスの意見は?」
「うむ……。具体的な強さが何もわからない以上、これまで通り偵察を繰り返しながら攻撃パターンを把握していく以外に無いのではないか? 騎士として少々不本意な戦い方ではあるが……」
「それにはまったくもって同感だ。だが焦って全戦力を投入しては、万が一全滅した場合に物資も時間もすべて無駄になってしまう。では次にシンカーさん、このゲーム随一の情報量を誇るサイトの管理人から見てどう思う? 今回のボスの強さの程は」
「そうですね……。私の所にもまだ何も入ってきてないのでなんとも言えませんが……やはり一筋縄ではいかないといった印象ですね。というより、ここ暫くの攻略が余りに容易すぎたとしか思えません。もちろん、皆さんの努力の賜物でもありますが」
「無論それはある。第22層などはフィールドにすらモンスターが湧かなかった上に、僅か2日でクリアされたくらいだからな。難易度調整する側からすれば、このままではバランスが崩壊してしまうと危惧したとしても不思議ではないだろう。では……キリト君はどう見る?」
「そうだな、俺は……」
「やはり、人海戦術で行くべきか?」
「……いや、俺は最精鋭で固めたフルレイド2隊までに絞るべきだと思う」
「ほう。その心は?」
「まず第一に、ちゃんとギルド間の連携が取れていれば、たとえ初見の攻撃であっても最小限の被害で済むはずだ。むしろ人数が多すぎると、範囲攻撃が来た時に身動きが取れなくなる恐れがある。それに集中力さえ切らさなければ、俺のような火力ビルドでもある程度攻撃の相殺は可能だ」
「それなりに筋は通ってるが……それで失敗した時はどうする?」
「今俺達に必要なのは、はっきり言ってしまえば覚悟だと思う。それもこの一回の戦闘で終わらせてやるっていう、絶対の覚悟だ。全員でその思いを共有出来れば、勝機はきっと訪れるはずだ」
「口では上手いこと言うて、またラストアタックを狙っとるんとちゃうんか!?」
「キバオウさん、今は――」
「だいたいジブンらがあの胸クソ悪いPK共に、宣戦布告なんちゅう勝手な真似をするよりずっと前からな。ワイらは先頭に立って連中から一般プレイヤーを守ってたんや!」
「まあまあ、キバオウさん。その辺にしときなよ。今は同じ目標に立ち向かう同志なんだからさ。それにレアドロップは誰だって欲しいのに、殊更それを責めるのはみっともないんじゃないか?」
「この小僧の肩を持つんかリンド! いつからこんガキの腰巾着になったんや!」
「フン、じゃあこの際だから言わせてもらうがね。あのジョーとかいうスパイからうちの機密情報がダダ漏れだったのは、よく調べもせずにあいつを引き立てたあんたの責任じゃないのか?」
「なんやとっ!? ジブンかて好き勝手に人事を進めとるやないか! だいたい、なぁにがドラゴンナイツじゃ! センスのカケラも無い名前推しよってからに! 男なら虎やろ、タイガースしかないやろが!」
「知るかそんなもんっ! ギルドネームに球団の名前を付けるバカがどこにいる!?」
「バカとはなんやバカとは!? このアホタレがっ!」
「……大荒れだな。よくあれで分裂しないもんだ」
「なぁに、いつものことさ。ああ見えて2人とも引き際はちゃんと心得てるからね」
「そんなもんかねぇ……」
「ところで……何か打開策を思い付いたみたいだけど、良かったら聞かせてくれないかな?」
「とっくにお見通しか……。あんたってたまに、読心術みたいな芸当を見せてくるよな」
「そんな大した技術じゃないよ。初歩的な心理学の応用でね。コツはほんのちょっとした動作から読み取れる情報を見逃さないことさ」
「おっ、随分詳しそうだな。ひょっとしてリアルの専攻はそっちの方だったり……いや、これはマナー違反だったな。すまない」
「ははは、気にしなくていいよ。尤もこの世界では、言ってみれば皆が皆大声で心の声を叫んでるようなものだから、オレみたいな素人でも見分けが付くんだけどね」
「へぇ……便利なもんだな。俺にも出来るかな?」
「残念ながら、君にはその手の才能は皆無だと思うよ? なにしろ君自身に向けられている明確な好意のシグナルでさえ読み取れないんだからね」
「そんなことだろうと思ったよ……面と向かって言われると流石に傷付くけどな」
「それで話の続きだけど……打開策ってよりは戦力の増強かな。現状いくら上層プレイヤーを鍛えたところで、リソースの関係上全員が第一線に辿り着くことは出来ない。狩場なんて今日日どこに行っても順番待ちが当たり前だしな」
「ふむ……組織化しすぎたツケが今頃になって回ってきたということかな。エリート主義に陥らないように気をつけてきたつもりなんだが」
「あんたは概ね上手くやってると思うよ。ただ運営が対策を怠ってるのが問題なんだ。効率の良い狩場を増やしたければ、さっさと攻略してみろってことなんだろうが……そこで結局振り出しに戻るわけだ。だが他にもひとつだけ、戦力のアテがないこともない。ないんだが……間違いなく気が狂ったと思われるだろうなぁ」
「ああ……実はオレも、さっきまで同じことを考えてたんだよ。流石にオレの立場から切り出せないのはわかってもらえると思うけど」
「やっぱりな……俺でも思い付くぐらいなんだから、あんたが気が付かないはずないよな。とはいえ俺の読みが外れてなければ、奴は退屈と停滞を何よりも嫌っていたはずだ。そして俺の勘では今回のボスは恐らく、すべての高レベルプレイヤーの力を結集しなければ倒すことは不可能だ」
「そこまでか……。その根拠は?」
「まず一つ目は、全100層の中でちょうど四分の一という節目に当たるボスだからだ。公式に発表があったわけじゃないが、恐らくクォーター・ポイントのボスはそれまでとは別格の強さに設定されているんだろう」
「なるほど。二つ目は?」
「ボスのサイズだな。これまでにも大型のボスは登場したが、実態は部屋全体がギミックだったり特殊攻撃を封じる手段が用意されていたりと、言ってみれば覚えゲーに近い状態だった。だが今回のボスには、偵察隊の報告を聞く限りではそういったものは一切用意されていない。つまり正真正銘のガチンコバトル。そこでは俺達が今まで培ってきたモノが試されるはずだ。即ち圧倒的な攻撃力を前にしても戦線を維持可能な分隊間の綿密な連携と、莫大な量のHPを長時間に渡って削り切るだけの精神力」
「うーむ……覚えゲーは流石に言い過ぎかもしれないけど、ある程度の被害は織り込み済みなのは事実だ。しかし今回に限っては損害が大きすぎるせいでそれも無理。となれば、君の案を採用せざるを得ないだろうな」
「問題はそれをどうやってここにいる全員に納得させるかだ。言い出しっぺの俺が話を切り出すのにはもちろん異論はない。だが当然、あんたも手伝ってくれるんだろうな? 俺1人で説得とか、無理ゲーにも程があるぞ」
「その辺のフォローは任せてもらって大丈夫だ。恐らく強硬に反対するのは、キバオウさんくらいだろうから。その彼にしたって、君が思ってる程道理のわからない人間じゃないよ」
「そうだといいがな……。あ~あ、なんていうかこう、とんでもない攻撃力補正が掛かるようなエクストラスキルとか、どっかに転がってないもんかなぁ」
「そんな都合の良いスキルがあったらとっくの昔に噂になってるよ。だからこそオレ達は配られた札で勝負するしかないのさ」
「ごもっともな意見をどうも。……あー、ところでその、あんたに借りてたお金の件なんだけど。ようやく返せそうなんだ。後で受け取ってもらっていいか?」
「うん? もちろん構わないが……別に無理して返さなくてもいいんだよ。あれはある意味、君への投資みたいな物だったんだから」
「あんたに借りを作ったままだと、どうも落ち着かないんだよ。また何か、トンでもないことに加担させられそうで」
「はっはっは……。何はともあれ、お疲れ様。まあ正直言って、ちょっと残念な気もするけどね」
「だから、そういう言い方がいちいち怖いんだってば……」
「……キリトはん、頭上げてや。話はよ~くわかったわ」
「それじゃあ……?」
「はぁ~~……。この期に及んで、ワイ1人が反対したかてしゃあないやろ。せやかてワイはまだ、ジブンを完全に認めたわけやあらへんからな。あくまでディアベルはんの顔を立てる為や」
「ああ、わかってる。何かあった時の責任はすべて俺にある」
「そんなん当たり前や。せやけど……ジブンとこの嬢ちゃん達には、ワイらもぎょうさん世話になっとるさかい。偶にはワガママ聞いてやってもええかって思うただけや」
「……すまない。そしてありがとう、キバオウさん」
「ジブンにさん付けされるとなんや、気持ち悪いで。キバオウだけでええねん」
「ならこっちもキリトでいいよ。これからよろしくな、キバオウ」
「――という内容の申し出が、黒の騎士団側からあった。尤も、他の攻略組の連中がそれで納得するはずも無いだろうが……それでも奴は本気で説得するつもりでいるらしい。なによりあの勇者様が乗り気なんだとさ。そこでまず、お前らの意見を聞きたい。このフザケた提案を蹴り飛ばすべきか、それとも連中の言う通り今回限りの仲良しごっこを始めるか」
「は? 冗談だろ? あのイケイケだったヘッドはどこに行っちまったんだよ!」
「つーか、担がれてんじゃねーの? 協力させるだけさせといて、用済みになったらフクロにする気に決まってんだろ」
「俺はアリだと思うけどなー。このままゲーム止まりっぱなのも面白くないっしょ」
「そうだなぁ。レベル上がんないと、新しいスキルや武器も試せないしなぁ……」
「ケッ、お前らみたいなのばっかになったから、こんな腑抜けたギルドに成り下がったんだよ」
「あァ? もっぺん言ってみろよ、テメェ……」
「僕は受けても良いと思いますよ。あわよくば、ラストアタックを取った人もその場でやっちゃえば一石二鳥ですしね」
「オレも、同感だ。まあレアドロップについては、向こうも対策、してるだろうが……」
「私は……もしアスナ様と肩を並べて戦える機会を頂けるのであれば、たとえどんな結果が待っていようとも悔いなどありません」
「あははー、面白いじゃないですか。いかにもブラッキーさんらしい発想っていうか、やっぱりあの人は他とは見てる視点が違うんでしょうねぇー」
「私も同じく、受けてみて良いと思う。このギルドでは何をするのも自由。ならば、ボス戦に参加してはいけないという決まりもないはずだ」
「……Hey、ジョニー。普段はウザいくらいお喋りなお前が、今日は珍しく大人しいじゃないか。言いたいことがあるなら遠慮せず言ってみろ。おい、お前らも少し黙れ」
「そうですか……ならこの際、本音で言わせてもらいますよ、ヘッド。オレはなァ……このゲームを始めた頃は、ナーヴギアの相性が悪かったのか、FNC判定一歩手前の状態でな。不器用も良いとこだったよ。つーか文字なんてジジィみたいに手が震えるせいで今でもまともに書けねぇし……。当然そんな奴を入れてくれるパーティーなんて無かった。ま、当然だわな。役立たずを寄生させてやる義務は無いかんな。マジでヘイトな日々だったぜ。
そんなゲームの中ですら行き場の無かったオレを拾ってくれたのがヘッドだ。このナイフ投げだってヘッドに散々面倒見てもらってようやく身に付いたモンだし、こうして幹部なんて柄にもないことをやらせてもらってんのだってそうだ。てめぇらの中にも、このゲーム辞める寸前までハブられてた連中は少なからずいるはずだよな。それを拾ってくれたのがいったい誰だったのか、忘れたとは言わせねーぞ?」
「「「…………」」」
「オレの言いたいことはひとつだ。オレはアンタが決めたのなら、どんなことだろうが従いますよ。反対意見がある奴ァまず、オレをなんとかしてから言え。何人相手だろうが、きっちり根性見せてやっからよ?」
「決まりだな。オレは別に多数決でも良かったんだが……まあこんな馬鹿げた話をまともに取り合ってる時点で、オレの中では答えが出てたようなモンだ。さて、向こうの要求は最大2パーティーまでだ。オレと幹部全員、それに選抜した6人で行く。ジャンケンでもアミダでもなんでも、好きに決めろ。高火力なメンツがお望みというのもお誂え向きだな。殺す以外に脳がないオレ達にはうってつけの仕事ってわけだ。ああそれから、これとは別件でブラッキーからある提案があったんだが……」