もしもSAOがデスゲームじゃなかったら   作:Remick

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Prince of Hell

「シリカ、本当に良いのか?」

「はい。あたしもピナも、覚悟は出来てます」

「今ならまだ間に合う。今日俺達が負けても、またいつか再挑戦することは出来る。だが使い魔は一度死んでしまったら、蘇生する方法は今のところ確認されていない」

「……はい」

「もちろんピナの回復能力とブレスがあれば、勝率は格段に跳ね上がる。でもなにしろ相手は初見のボスだ。下手したら全滅するかもしれないんだぞ。いやむしろ、その確率の方が高いだろう。そうなったら当然、安全圏なんてものはなくなる」

「わかってます。それでもピナは、キリトさん達と一緒に戦うことを望んでいます。ねっ、ピナ」

「きゅるる~」

「それにラフコフの人達だって、ピナに手を出したことは今まで一度もありませんでした。機会はいくらでもあったはずなのに」

「それは……そうかもしれないけど」

「だからその、上手く言えないんですけど……みんな本当はきっと、どこかで繋がってるんだと思います。要らないプレイヤーなんて、この世界にはいないんです」

「……ああ。俺も、そう思うよ」

「あたしもピナも守られてるだけじゃなくて、キリトさん達のお役に立ちたいんです。だからどうかお願いします、あたし達も一緒に連れてってください!」

「わかった、そこまで言うならもう止めたりはしないよ。でも本格的に危ない時は、絶対に逃げてくれ。……2人とも、本当にありがとう。この戦い、絶対に勝とうな!」

「はいっ!」「くわわー!」

 

 

 

 

 

 

「総勢96名か……。流石にこれだけ高レベルプレイヤーが揃うと壮観だな」

「それでもプレイヤー全体の割合からすれば、1%にも満たないんだけどね」

「つまり、エリート中のエリートってわけか」

「そういう呼び方はあまり好きじゃないかな」

「冗談だよ、中にはそういう考え方の奴もいるんだろうけど」

「正直耳が痛いので、その話題はこの辺にしておこうか。さてレイド構成の話なんだけど、予定通りタンク部隊を中心にしたA~H隊のレイドリーダーはオレが、I~Pのアタッカー部隊はキリト君に率いてもらう」

「それなんだけど……本当に俺でいいのか?」

「なんだ、今更怖気付いたのかい?」

「そういうわけじゃないさ。ただ、他にも相応しい人間はいくらでもいるはずだ。だいたい俺は、命令なんかよりも突撃してる方がよっぽど性に合ってるってのに」

「でも結局は、誰かがやらないといけないんだよ。義務や責任から逃げても、良いことなんて何もない。それに失礼を承知で言うなら、この場にいる人間の中では君が一番マシだと思ってるよ。少なくともオレから見ればね」

「前々から言ってるが、あんた俺を買いかぶり過ぎだよ、ディアベル。只の中学生にいったい何を期待してるんだか……」

「リーダー的資質っていうのは、年齢に関係なく発現するものなんだよ。君のソレは、見る人が見れば明らかだ。だからこそ、早い内から経験を積ませてみたいのさ。お節介かもしれないけどね」

「ホントお節介だよ、まったく。だがあんたがそこまで言うのなら、やってやろうじゃないか。いずれにせよ、こうなったのも俺のせいなんだからな。それなら自分の意志で動かした方が、失敗したとしてもまだ納得がいくだろうさ」

「そうそう、その意気だよ。人生、時には思いっきりが必要なのさ。それじゃ、お互い多忙な身だろうからまた後で」

「ああ……一応言っとくが、俺はあんたの後継者になる気はこれっぽっちもないからな!」

「はっはっは、何のことだか……」

 

 

 

「よう、クライン。お前らも出るんだってな」

「おう、キリト。うちもようやく、人前に出しても恥ずかしくないくらいには形になってきたんでな」

「へぇ? それならその、趣味の悪いバンダナもなんとかした方がいいんじゃないか?」

「馬っ鹿野郎、こいつはオレのトレードマークなんだよ! これだけはたとえ、死んでも譲れねェからな!」

「はいはい、そう言うと思ったよ。んじゃこれ。実は今回、俺もレイドリーダーなんだ」

「おおっ! やっぱそうなのか。それじゃポチッとな。これでオレらも頑張った甲斐があったってモンだ。おめぇとこうして肩を並べて戦えるなんてよ、なんつーか……感無量だぜ!」

「お互いここまで長い道のりだったよな……。クリアまではまだまだ遠いかもしれないけど、これからは頼りにしてるよ」

「ああ、せっかく風林火山の初陣なんだ。無様なところは見せられねェよ。そういや今回は、ラフコフの連中も参加するんだってな。おめぇもなかなか、思い切ったことをするじゃねぇか」

「たまたま思い付きでな……。ぶっちゃけこんな無茶苦茶な意見が通るなんて思ってなかったんだが……おっ、あそこにいるのは――」

「噂をすれば影、だな。あの周辺だけ異世界になってやがる。ちょうどいいじゃねぇか、挨拶ついでに様子見てこいよ。オレの見立てじゃ、このまま放置すると一騒動起きてもおかしくないぜ」

「だな……じゃあちょっと行ってくる。また後でな」

 

 

 

「Yo、ブラッキー。約束通り、来てやったぞ」

「PoH……久しぶりだな。元気そうで残念だよ」

「ハッ、せっかく言われた通り来てやったのになんて言い草だ。何なら今ここで、何時ぞやの決着を付けても構わないんだぞ?」

「そいつは今日だけは遠慮してくれ。唯でさえみんな殺気立ってるのに、そんなことしでかされたら収拾が付かなくなってしまう」

「それはそれで面白そうだな……と言いたいところだが、この状況は流石に分が悪い。今回はお前の顔を立てて我慢してやるよ」

「わかってくれて嬉しいよ。だがレイドに参加してもらうからには、俺の命令にはちゃんと従ってもらうぞ」

「フン……それならうちの奴がLAを獲ったとしても、文句は無いんだろうな?」

「もちろんだとも。まあこっちも、譲ってやる気なんてさらさら無いけどな」

「相変わらず威勢だけは良いな。見栄を張りたい年頃なのか?」

「まーね。ところであんた達、本格的な長期戦は初めてなんだろ。POT類は足りてるのか? 少しで良ければ分けてやるけど」

「あまり馬鹿にしてくれるなよ、それくらいの準備は出来てる。うちにもポーション作成の得意な連中が何人かいてな。まあ本業は毒薬調合の方なんだが」

「ああ、なるほど……常に財政難で火の車のうちとは大違いだぜ」

「クククッ……尤もうちの狂犬共のオツムの中には、節約なんて単語自体存在しないからな。隣の芝はなんとやら、だ」

「そんなもんかね……っと、忘れるとこだった。ほら、これ」

「ほらよ。ついでにもう一方のパーティーのリーダーはそいつだ。……まさか、お前らとレイドを組む日がやって来るとはな」

「世の中どう転ぶかわからないよなぁ。それじゃ、他の奴らにも挨拶回りがてら申請してくるよ」

「Ha、ご苦労なこった。精々ゴマでも擦ってくるんだな」

「くっ、他人事だと思って……」

 

 

 

 

 

 

「全部で96名、よく1人も欠けることなく集まってくれた。今この瞬間より、この場にいる者全員が共に困難に立ち向かう仲間だ。不要な争いは慎んでくれることを切に願う。それじゃあ、オレから言うことはたった一つだ。…………勝とうぜ!!」

 

「「「「うおおおおぉぉぉぉッッ!」」」」

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

「なあ、キリト。あのガチガチに固めたフルプレ野郎が突き立てたのって……」

「そうか、クラインは見るのは初めてだったな」

「ああ。じゃあ、あれが噂の……」

「ギルドフラッグ、正式名称フラッグ・オブ・ヴァラー。はっきり言ってぶっ壊れ性能も良いところなアイテムだ。なんせ半径15メートル範囲内のギルドメンバー全員に、凶悪なバフが掛かるんだぜ。ATK、DEF、耐デバフ上昇と至れり尽くせりだ。あー、うちにも欲しいなぁ、あれ……」

「なるほどなァ……。そんなすげぇアイテムを任せてもらってるんだから、あいつ自身も相当腕が立つんだろうな」

「腕っていうか、まず一にも二にも硬さだな。それは見た目で一目瞭然だろうけど。ちなみにあれの中身、女の子だぞ」

「マ、マジで!? か、顔は!? 可愛いのか?」

「あ、ああ。割と可愛い方かな。一応言っとくが、とっくに彼氏持ちだからな?」

「がーんだな……ちくしょう、これだからリア充は嫌いなんだよ……」

「ゲーム内で知り合ったのに、リア充って呼べるのかなぁ」

「どっちでもオレにとっちゃ一緒だよ! おまけにダチは、可愛い子ちゃんばっか侍らして見せ付けてくるしよォ……」

「い、今はそれどころじゃないだろ! ほらっ、ボスの攻撃が済んだらすぐに俺達の出番が来るぞ、スイッチの準備しとけよな!」

 

 

 

 

 

 

■■■□

 

「……なあ、戦闘開始からどれくらい経った?」

「えーと、3時頃着いたから、ちょうど1時間くらいだね」

「そっか……。別に舐めてたわけじゃないが、正直ここまで掛かるとは思わなかったな」

「そうだね。多分このペースだと……最後まで立ってられる人はほとんどいなくなるよ」

「だよなぁ……攻撃パターンがハンマーから鎖に変わった時に、一気に崩れかけたのがマズかった。次に何が来るかわからないってのは、想像以上に精神的な消耗が激しいな」

「うん。実際ボクらだって、危ない場面が何度もあった。今生き残ってるのは、間違いなく超一流のプレイヤーだけだよ」

「ああ、だがその中でも……奴は別格だ」

「あの人、だよね。わかってたけど、こうして見るとやっぱりすごいね」

「あいつ……PoHは、他のプレイヤーとはまるで『違う』んだ。もちろんビルドや装備だけ真似れば、同じステには出来るさ。だがあの動き、身のこなし……紙一重で見切り、気が付いたら背後に回ってる。単純な反応速度だけでは説明が付かない。いったいどんな人生を送ってくれば、あんな人間が出来上がるのか……」

「詮索はその辺にしときなよ、キリト。人にはそれぞれ事情があるんだからさ。ボクも姉ちゃんも、そしてキミにもね」

「そうだな。今は目の前の敵に集中しよう。もう少しでようやく折り返し地点だ。まだまだ先は長いな……」

 

 

 

 

 

 

■■□□

 

「よう、まだ生きてるか」

「なんとかな。うちの連中も何人かやられた。あのブレスはマジでBadassだぞ。位置取りによっちゃ、避けようがない。この調子じゃ間違いなく全滅コースだろうな」

「そうか……なあPoH、あの化け物の弱点って、いったい何処にあると思う?」

「そうだな……おい、キリト。あれよりも遥かにデカい巨人が出てくるアニメを観たことあるか? 向こうじゃAttack on Titanって呼ばれてたんだが」

「向こう……? ああ、俺も結構好きだったな。どちらかというと原作の方が好みだったけど……お前、まさか――」

「巨人の弱点と言えば……やっぱここだろ? 頭が2つだから、2人いれば余裕でいけるな」

「おいおい……冗談だろ?」

「オレがこの状況で、冗談を言うような人間に見えるか?」

「いや、まったく。けど、いったいどうやって? 立体機動装置なんて、このゲーム内には存在しないぞ。あんな高さじゃ、空中でソードスキルを使ったって全然届かないじゃないか」

「それはな……こうするんだよ!」

「はぁぁぁぁ!? 壁走り!? マジで!?」

「うっそぉ……」

「壁走りからの――壁蹴りジャンプ! しかもそのまま肩に乗るとか、忍者かあいつ! どういう身体能力してんだよ!?」

「あの人は疾走スキルのみならず、軽業スキルまで相当なレベルで修めているようですからね。あの程度は朝飯前と言ったところなんでしょう」

「あっ、一気に1割くらい減った! すっごく効いてるよ! 本当にあんな場所に弱点が設定されてるなんて、考えもしなかったなぁ~」

「しかしやり方はわかっても、実行出来るかどうかは別問題だな。こんなことなら、メリダも連れて来るんだった……。このままじゃあいつに、見せ場を全部独り占めされてしまうぞ。とりあえずユウキ、試しにやってみるか?」

「無茶言わないでよ。あんなところまで届くわけないじゃん」

「ラン、姉の威厳を見せる時が来たようだな」

「いえ、普通に無理ですから」

「アスナさーん?」

「わたし、まだ人間辞めてないわよ」

「リーファ、お前だけが頼りだ」

「まずはお兄ちゃんがお手本を見せるべきだよね」

「ですよねー……あーもう、やってやるよちくしょー! みんな、骨は拾ってくれよな!」

 

 

 

 

 

 

■□□□

 

「キリトさん、キリトさん」

「ん? なんだ、モルテか。どうした、もう音を上げたのか」

「まっさかぁ~。それより、ちょっとした賭けをしませんかー?」

「こんな時に賭けなんて――」

「簡単な賭けです。どちらがラストアタックを取れるかっていう」

「……ほほう。よりにもよって、LAで俺に挑むとはな。いいだろう、受けるぞ! その挑戦!」

「さっすがブラッキーさん。先に宣言しときますけど、アレを使いますからね?」

「ああ。それでも勝つのは俺の方だけどな」

「あははー、そうこなくっちゃです。ちなみにヘッドは参加しないそうですよぉ~?」

「マジかよ! もらったな、この勝負!」

 

 

 

 

 

□□□□

 

「ブラッキーさ~ん……最後の一瞬、わざと遅らせましたね?」

「あ、あはは……やっぱりバレたか。多分お前の投げ斧でもギリギリ、ほんの僅かに残るんじゃないかと踏んでな」

「まったく、これだから……まあ、楽しめたから良いんですけどねー」

「ああ。これだから……このゲームはやめられないよな」

「そういうことです。じゃあ次はアリーナで会いましょう。今度は負けませんよ?」

「はは、言ってろ。でも次は、あんたの親分と戦ってみたいんだよなー」

「えぇ~、そりゃないですよ~……でもあの戦いぶりを見てしまったら仕方ないですかねぇ」

「うんうん。攻略組の奴らでさえ、あんた達を見る目が変わったぐらいだからな」

「ちょっと照れますねぇ。尤も、これくらいで改心したりはしませんけどねぇー」

「わかってるさ。あんた達にはこれからも、悪役のままでいてもらわないと困る」

「キリトさん、どっちの味方なんですか」

「そりゃお前、決まってるだろ。セイギの味方だよ」

「正義の味方が悪役に助けを求めてどうするんですか、まったく」

「だからさ、ヒーロー物とかでよくあるだろ? 普段は仲の悪い者同士が、時には協力し合って強敵を倒すっていうアレだよ。実は密かに憧れてたんだよなぁ、ああいうシチュエーション」

「あはは、意外と子供っぽいところもあるんですね」

「どうせ子供だよ、俺は。子供が全力でゲームを遊んで何が悪いんだ?」

「まーまー、そう拗ねないでくださいよ」

「今はちょっとテンション上がりすぎておかしくなってるんだ。多目に見てくれ。そういや、ディアベルも結構こういうの好きそうだよな」

「結構どころか、あの人は昔から大好物ですよ、こーゆーの。まあたまに演じる側が逆転したりもしますが」

「……ん? あんた達もしかして、ベータ以前からの知り合いなのか? 仲悪いんじゃなかったのか?」

「え? 仲は良い方ですよ? 今でもメールのやり取りとか普通にしてますし」

「で、でもあの動画のタイトルとか、相当煽りまくってたし……」

「あー……あれはなんというか、いわゆるプロレス的なアレですってば。本気に取らないでくださいよ~」

「なんてこった……マジになってたのは俺だけかよ……」

「あはは……まあ、まったくわだかまりが無いと言えば嘘になりますし、たまにガチで喧嘩になったりもしますけどね。でも友達なんてそんなもんです」

「友達かー……俺にも出来るかな……」

「ちょっとなに言ってるのかわかんないですねぇ……」

 

 




今回のボスはマザロザ編に登場する27層のボスを巨大化したイメージで書きました。
スタイリッシュな戦闘シーンは、私の表現力では残念ながら無理でした・・・。
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