もしもSAOがデスゲームじゃなかったら   作:Remick

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猫とブラックホール

「初めまして。……君がキリト君かな?」

「えっ? はい、そうですけど……」

「僕は明日奈の兄の、浩一郎といいます。妹がいつも世話になってるね」

「! アスナのお兄さんでしたか。お忙しいところをわざわざどうも……ってことは、本当にSAOをもうひとつ買ったんですか?」

「うん。明日奈にお願いされると、どうしても断り切れなくて。とは言っても、僕はもうプレイすることはほとんど無いだろうけどね。でもせっかく手に入れたんだから、君にだけは挨拶をしておこうと思って」

「そうでしたか……でもアスナは一緒に遊びたがってましたよ」

「ああ、それはもちろん、出来ることなら僕もそうしたいんだけど……残念ながら最近はなかなか時間が取れなくて」

「す、すみません! 無神経なことを言ってしまって」

「いや、気にしないで。あの子が楽しんでくれてるならそれで良いんだ。そういえばこの世界では、顔や外見まで現実世界と瓜二つだって聞いたけど、僕も当然そうなってるんだろうなぁ。鏡が無いから確かめられないけど」

「はい、多分そうだと思いますよ。だって、アスナによく似てその……この世界では珍しいくらいのイケメンですから」

「ははは、ありがとう。お世辞でも嬉しいよ。なるほど、容姿までも現実世界に近づけることで、没入感を高めているわけか。よく考えられてるね、ふむ……なら例えば、成長期に身長が著しく伸びた場合などには、どう対応してるんだろう?」

「それはえーと、確かナーヴギアのボイスコマンドの中に、キャリブレーションを再度行う為のものがあって、それで再調整するんです。……実際のところ、リアルが反映されるなんて最初の頃はあまり評判が良くなかったんですけどね。俺もベータテストの時の顔には、思い入れがありましたから。……あ、そういえばえっと、もしかしてアバターネームも本名にしちゃいました?」

「え? そうだけど……ひょっとして不味かったかな?」

「ええ、まあ……別にマナー違反というわけじゃないんですが、大抵の人は避けますね。代わりに例えば、普段使用しているニックネームだったり、本名をもじったり……中には食べ物の名前を付けたりする人もいますね」

「なるほど……こういうのは余り慣れてないものでね。覚えておくよ」

「はは……やっぱり兄妹ですね」

「えっ?」

「だって、アスナもリアルネームだって聞いてましたから。珍しいんですよ、そういうの。……いや、他にも約一名、やらかしたのがいましたけどね」

「? まあそれはともかく、キリト君のことは明日奈からよく聞かされてるよ。というより、明日奈が君のことばかり話すものでね。これはもう、噂の彼を一目見てみないと、兄として気が済まなくなったんだよ」

「そうでしたか。俺も一度、お会いしてみたいと思ってました」

「それで、明日奈は迷惑を掛けてはいないかな? あの子はしっかり者のように見えて、意外と子供っぽい部分もあるからね」

「迷惑だなんてそんな……アスナにはいつも世話になってばかりですよ。俺じゃ全然敵わないくらい強いし、料理の腕もピカイチだし」

「それは良かった。あの子があっちでも料理の腕を奮う機会があれば良いんだがね。それにしても君は、なんというか……若いのになかなか落ち着いてるね」

「いえ、これでも結構緊張してますよ。ただ、偉い人達に顔を合わせる機会には恵まれてるもので。まあ、あくまでこのゲーム内での話ですけどね」

「ほうほう。それは頼もしいね。僕も出来ることならあやかりたいよ。――ところで、変なことを聞くようだけど……最近誰か、変わった人物が接触してこなかったかい? どんな些細なことでもいいんだ、良かったら教えてくれないかな」

「変わった人? そうですね……。それなら今まさに、目の前にいますかね」

「ははは! 確かにその通りだ。変なことを聞いて悪かったね」

「こちらこそ、失礼なことを言ってしまって。でも、本当はその話を聞きに来たんですよね? ……もしかして、アスナと何か関係がある話ですか? 」

「なかなか鋭いね。正直初めは、君に打ち明けるべきか迷ってたんだが……どうやら問題なさそうだ。実はね。明日奈には、婚約者がいるんだ」

「なっ!!」

「婚約と言っても親同士が勝手に決めただけの、まったくの口約束さ。明日奈の意志なんてお構いなしだ。時代錯誤もいいとこだろう? だがまあ、ある程度の家柄の人間ならそんな話は珍しくもない。問題は、その婚約者というのがね……」

「あまりよろしくない人物、なんですね?」

「その通り。そいつの名前は、須郷信之というんだが……これが実にイヤな奴なんだ。親達の目がある場所ではそれはそれは模範的な態度で振る舞うんだけど、一旦僕らだけになってしまえば、自分を鼻にかけ、他人をこき下ろすようなことしか口にしない。かといって両親にそのことを告げ口をしても、到底信じてはもらえないだろうな。それどころか、あいつに嫉妬していると思われるのがオチだ。悔しいけど、須郷が優秀なのは誰もが認めるところだからね」

「…………」

「その須郷が、どこから嗅ぎ付けたのかはわからないが、明日奈がこのゲームをプレイしてるのを知ったみたいなんだ」

「なるほど、それでさっきはあんなことを……」

「ただの杞憂なら良いんだけどね。奴のことだから、このゲームを利用して何か良からぬことを企むかもしれない。こういったことは、あいつの得意分野なんだ。なにしろ大学では、あの茅場晶彦氏と同じ研究室にいたくらいだからね」

「! それは、厄介ですね……」

「まあ、あの人にはまるで歯が立たなかったらしいけどね。まったく、いい気味だよ」

「そんなこと言ってしまって良いんですか? 仮にもアスナの婚約者なんでしょう?」

「フンッ、構わないさ。あいつが嫌いな点では明日奈も一緒だからね。本音を言えば、僕としては可愛い妹をあんな男にやるくらいなら、君に取られた方がまだマシだと思ってるくらいでね。こうして君と話してみて、その思いはますます強くなったよ」

「あ、あははは……冗談キツいですって」

「ふむ……今日のところはそういうことにしておこうか。もしかしたら、須郷の奴も君に接触してくるかもしれない。その時は絶対に気を許してはいけないよ」

「わかりました、覚えておきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「君が、噂のキリト君かい?」

「そうだけど……あんたは?」

「僕はクリスハイト。大変不躾で申し訳ないんだけど、最近誰か訪ねては来なかったかな?」

「……またか」

「また?」

「さっきもそんなことを聞きに来た人がいたんだ」

「へぇ……いったいどんな人だったんだい?」

「どうしてそんなことを、何処の誰だかわからないような人間に言わなきゃならないんだ?」

「えっ? だからさっき、ちゃんと名乗って――」

「それはあんたの本当の名前じゃないだろ。少なくともあの人は、素性を隠して接触してきたりはしなかったぜ。よく見知っている人間の身内と、突然訪ねて来た怪しげな男。あんたならいったいどっちを信用する?」

「……これは失礼をば。どうかお許しいただきたい。私は菊岡、階級は残念ながら明かせないが、自衛隊に籍を置く者だ」

「へぇ~、自衛官の、見たところ背広組か? そんなお偉いさんが、どうして俺なんかに?」

「うん、理由は様々あるんだけど……。まずひとつに、この世界の出来事は君を中心にして動いてるように見えるから、かな」

「?? 俺がこのゲームの主人公ってことか? 冗談だろ?」

「ところが、一概にそうとも言い切れないんだな、これが。例えば君の反応速度――ああこれは、フルダイブ機との相性や、脳神経細胞の情報伝達速度などを総合的に評価したような数値なんだけど……君の場合、その数値が飛び抜けて高いんだ」

「この俺が? でもそれなら、ユウキやランはどうなるんだ?」

「ああ、彼女達は、えーと……これは知らない方がいいのかなぁ」

「メディキュボイドのことならもう知ってるぞ」

「え? 本当に? 一応守秘義務があるはずなんだけどなぁ……まあ僕が言えた義理じゃないか。彼女達も素質は十分だが、僕は君が本命だと思っている」

「なんかいまいち納得いかないんだけど……ともかく今は話を進めてくれ」

「それじゃあ単刀直入に言うとね。このゲームの開発者だった、茅場晶彦先生の行方を探しているんだ。キリト君は何か知らないかい?」

「はぁ?? 俺がそんなこと知るわけないだろ? 聞く相手を間違えてないか?」

「まあそう言うだろうね。でも最後まで聞いてほしい。知っての通り、茅場先生はこのゲームのロールアウト寸前になって姿を消している。文字通り、何の痕跡も残さずにね。もちろん一番慌てたのはアーガス社だが、当局も血眼になって探している。それでも尚、髪の毛一本見つかってないんだ。こんなことが現実に起こり得ると思うかい?」

「まあその辺は、当時色々と騒がれたからな。神隠しだの、消されただの、宇宙人だの。某国工作員の仕業ってのもあったなぁ……」

「人間は自分の理解が及ばない事柄に直面すると、陰謀論に縋り付きたくなるらしいね。幸いにもそういった説に満足出来なかった僕は、別の側面からアプローチすることにした。つまり、茅場先生が失踪する直前まで携わっていた、このゲームの中にこそ答えが隠されているんじゃないか、って思ったんだ」

「答え?」

「彼の行き先か、若しくはそのヒントになるものさ」

「そんなもの、アーガスが真っ先に調べたに決まってるだろ? なんで今更、そんなことを」

「常識的に考えればそうだろう。だがこのゲームのシステムの大部分は、完全にブラックボックス化されているんだ。はっきり言えば、外部からの干渉をほとんど受け付けない。今時サーバーが分散システムではなく、集中型のメインフレームなのもその為だ」

「言われてみれば確かに……VRMMOなのにチャンネル制だったりすると萎えるもんなぁ」

「まあそれもあるかもしれないね。この世界……アインクラッドを管理、維持しているプログラムはその名もカーディナルシステムと言って、彼の最高傑作のひとつだ。アーガスの開発部門や運営は現在では、SAOに関してはサーバー管理等を除けば実質ほとんど何もしてないに等しい。イベント企画等を組むくらいの権限はあるらしいけど」

「なんだかとんでもないことを聞かされたような……それじゃあ、今までのアップデートやなんやらはどうなるんだ?」

「さっきも言った通り、システムに関する変更はすべてカーディナルシステムが行っている。運営や開発者は、彼女に『お願い』する形で提案するわけだ」

「なんだそりゃ……それじゃそのカーディナルってのは本当に、――言葉通りの意味でこの世界の神様じゃないか」

「だからさっきから、そう言ってるんだよ。運営スタッフはさしずめ、神に仕える神官と言ったところかな」

「コンピュータの神なんてゾッとしないな……そういやさっき彼女って言ってたけど、性別とか人格があるのか?」

「ああ、それは比喩的な表現というか……会話してると、なんとなく女性っぽい印象を受けるらしいよ? 正直眉唾物だけどね。ここだけの話、アーガスにはうちの方からも人工知能の研究費用として馬鹿にならない額の予算が出てるから、仮に人格があったとしても驚かないよ」

「う~……ん。確かに一部のキャンペーン・クエストのNPCは、異様によく出来てるって評判だったけど。都市伝説とかじゃなくて、ガチのAIだったってことか? なんだか更にとんでもない情報を知ってしまったような気が……俺、消されたりしないよな?」

「だからここだけの話、絶対にオフレコだよ。それに君なら、簡単に口を滑らせたりはしないだろう?」

「うっ、わかったよ……秘密は守るって誓う。なんか、共犯者みたいで嫌だけど……」

「共犯者か、良い響きだねぇ」

「なあ、共犯ついでに、このゲームのラスボスがどんな奴なのか、聞かせてもらっていいか?」

「最終ボスか……これも意外に思うだろうけど、それについては実は開発会社のアーガスでさえ知らないんだ」

「は、はぁ? そんな馬鹿なことが……じゃあ運営スタッフがGMとして出来ることは何なんだ? 」

「彼らに与えられている権限は、それ程多くはないんだよ。スーパーアカウントを有していたのは茅場先生だけで、それ故に完全に閉じた箱を空けることが出来るのも彼だけだ。もしくは――内側から抉じ開けるか、だね」

「それはまた随分と、都合の良く出来てる世界だな」

「まったくだ。まるで、君の為に用意されてたようにね」

「馬鹿馬鹿しい。つまりあんたは、そのラスボスが倒された時に、あの人の残していった物が明かされる、って考えてるのか?」

「有り体に言えばそういうことになる。もちろん、何の確証もあるわけじゃないが。でも今までの話で、この世界そのものに意志があることはわかっただろう? それならつまり、この城の頂上に至ると神に見込まれた人間がいたとしてもおかしくはないんだ」

「……はぁ。あんたの解釈はさておき、話はわかったよ。それで? あんたはそこにいったい何があると踏んでるんだ?」

「そうだねぇ……例えば量子コンピュータの基礎設計図や量子脳理論の証明、あるいはブラックホールに関する新理論とか」

「あんたなぁ……自分の言ってることわかってるのか?」

「だって現に彼は、世界を変える程の発明を既にしてるんだよ? そんな稀代の天才が残して行ったかもしれない物に、期待したところでしすぎるということはないはずじゃないか」

「これで実はただのゲーム作成ツールでしたー、とかだったら流石に笑えないな」

「はははっ、いくらなんでもそれは無いだろう。きっと世の中の仕組みを丸ごと変えてしまうような発明に違いないよ」

「なあ、菊岡さん……マクガフィンって言葉、知ってるか?」

「マクガフィン? 聞き覚えはあるけど、どんな意味だったかまでは……良ければ教えてもらえるかな?」

「だから、あんたがさっきから話してるような物のことだよ。つまりなんでも良いんだ、話のきっかけを作る為の舞台装置になり得るのなら。箱を開けて見るまで誰にもわからない。……これじゃまるで猫の話だな」

「? 確かに猫は箱の中が好きだよねぇ。僕も出来ることなら飼いたいんだけど、職業柄どうしても家を空けることが多いからね。……はぁ~、本当に残念だよ」

「へー、自衛官なら犬の方が好きそうだけどな。主に国家の犬的な意味で」

「それは偏見だよ。僕はこう見えて、食べ歩きと猫の写真を撮るのが趣味でね。最近は東南アジアの方に仕事でよく行くんだけど、実に可愛い子達ばかりだったよ。良かったら今度見せてあげようか?」

「別に俺は、取り立てて猫派ってわけでもないんだが……まあ確かに胡散臭そうなあんたには、猫の方が似合ってるかもな。いやしかし、ユウキは猫派って言ってたし、シリカもピナは飼い猫の名前から取ったって言ってたし……アルゴも鼠って割には猫っぽい上に確か犬嫌いだったような……やっぱりインドア派のネットゲーマーに限れば、猫派の方が多数派なのかもしれん……」

「そうだろう、そうだろう。君も無駄な抵抗はやめて、猫派の流れに身を任せるべきだよ、うん。まず手始めに、猫の素晴らしさを知るところから始めようか?」

「なんだか、あんたのペースにズルズル巻き込まれてる気がするな……」

 




世界観補足的な回。のつもりが、なんかもう趣味丸出しです。

漫画版マザロザ編の最新話がキリユウ過ぎて2828が止まりませんでした。
劇場版の情報もチラホラ出てきたりで今後も目が離せませんね。
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