「クソッ、どうなってるんだ! なんでこの程度のセキュリティが破れない!? この僕が作成したプログラムを使ってるんだぞ、並のサーバーならとっくの昔に落ちてるはずだ!!」
「だからそんじょそこらのサーバーとはわけが違うんだって、アーガス本社のメインフレームは。須郷チャンさぁ。焦るのはわかるけど、もうそろそろ手を引いた方がいいんじゃないの?」
「そうそう、これバレたら流石にヤバいでしょ。ただでさえ危ない橋を渡ってるんだから、無理だとわかったところで諦めるのが一番だよ?」
(チッ、肝心な時に役立たずのクズ共が! 使えそうだと思ってちょっとおだてたらすぐ調子に乗りやがって。せっかく明日奈の弱みを握れるはずだったのに、こんなところで躓くとは……。だいたい何がカーディナルシステムだ、ふざけた名前を付けやがって……茅場先輩、アンタ居なくなってもまだ僕の邪魔をするのか!?
思えばあの研究室の連中はみんなそうだった……。あの女はこの僕が誘ってるのに無視しやがったし、比嘉の奴だってあのヘラヘラした態度の裏では僕を見下してやがった。それまで誰かに負けた事なんて、一度だって無かったのに。一体何が気に入らないっていうんだ!? 僕は生まれながらにして支配者、選ばれし人間なんだぞ!!)
「――あの~、須郷チャ~ン? もしもーし?」
「……あ? ああ……なんだ、どうかしたか?」
「どうかしてるのは須郷チャンの方でしょ~。んでさ、これからどうすんの?」
(どうするかだと? それを考えるのがお前達の仕事だろうが……)
「茅場先輩が抜けたアーガスなんて、どうせ無能な人間しか残ってないだろう。大体あの会社が急成長したのだって、全部あの人のお陰なんだからな。完璧なシステムなんて世の中には存在しない、何処かに必ず穴があるはずだ。無論僕の頭脳を以ってすればセキュリティホールを見つけ出すくらい造作も無いが、せっかくだから君達にも問題解決の機会をあげよう。僕より劣った頭でも、それぐらいは出来るだろう? そもそもだな、茅場先輩の唯一のライバルだったこの僕が――」
「まーた始まったよ。須郷チャンの自慢話にも参るよなぁ……」
「あの茅場晶彦とは大学で同じ研究室だったんだー、でしょ? ボスが凄いのはわかったからさ、そのスバラシ~イ頭脳で、解決策をパパッと考え出してほしいよ」
「まったくだぜ。無理難題押し付けられる身にもなってくれよなー」
「ところでさ。アーガスって確か、数年前までは誰も聞いたことがないような小さなベンチャー企業だったんだよね?」
「そうそう。でも当時まだ高校生だった、茅場の作ったゲームプログラムをライセンス化して売ったら、これが世界的に大ヒットしたんだな。その勢いのまま、進学したばかりの茅場を開発部長に加えて制作したゲームがこれまた立て続けにヒット。一躍世界にその名を知られる、トップゲームメーカーになったってわけだ」
「へ~、やっぱり凄いんだね。先見の明があるってこういうことを言うんだろうな」
「てかこんな話、この業界の人間なら知ってて当然だろ。それになにより、NERDLESに関する技術特許を持ってるのはあそこだけだから、うちみたいな家電メーカーがナーヴギアを生産するだけで、黙ってても勝手に金が転がり込んでくるんだよな。羨ましい限りだよ、まったく」
「あーあ、こんなことならぼくも、アーガスに入社しとけば良かったよ……」
「バ~カ、お前程度の頭で入れるわけないだろ。それよりさー、今度うちでも、VRMMO作ろうって噂があるらしーぜ、ヤナ。完全に二匹目のドジョウ狙いだよなぁ」
「へぇ~、そうなの? でもうちはいくら大手と言ってもタダの家電メーカーで、ゲーム作るようなノウハウなんて持ってないでしょ? 開発リソースだってどこから引っ張ってくるのさ?」
「それなんだよなぁ……。もういっそどっかから基幹プログラムだけコピーさせてもらって、ガワだけ変えて違うゲームとして売り出すとかどうよ?」
「あははー、御社が数十億円掛けて制作した、ソードアート・オンラインをパクったゲーム作りたいので、システムごとコピらせてくださいって? 冗談キツいよもう~」
「えぇ~? 良いアイデアだと思ったんだけどなァ……」
(……こいつらは馬鹿だが、着眼点は悪くない。あのゲームが金になるのは実証済みだ。認めるのも癪だがな。ふむ……だが、どうやって? データが保存されているアーガス本社のメインフレームは、外部からの攻撃をまったく受け付けない。カーディナルとやらのせいでな。つくづく厄介な代物を残していってくれたものだ。…………考えろ、須郷伸之。僕が開発者ならどうする? 発見したバグを修正するのに、いちいちログアウトしたりするか? そんなはずは無い。当然ゲーム内で済ませようとするに決まってる……。
――そうか! システムコンソール……あのゲームの中になら、緊急アクセスする為の管理者用システムコンソールが必ず何処かに存在するはずだ! それさえ見つければ、後はどうとでもなる。コアプログラムだけなら容量などたかが知れてるからな。気付かれる前にコピーして持ち出せれば、後はじっくり時間をかけて解析すればいいだけの話だ)
「やはり僕は天才だな! 自分で自分が怖いくらいだ……。アレが丸ごと手に入れば、僕は王、いや神にだってなれるぞ! フッフッフ……フハーッハッハッハ!」
「須郷チャンの頭……本格的にヤバいんじゃねェかな」
「これはもう、手遅れかもわからんね……」