「ようやく揃ったか。……どうやら上手くいったようだな」
「ボスの改造したナーヴギアのお陰で、頭部のスキャンはなんとか誤魔化せたみたいだね」
「まあこの僕に手に掛かれば、この程度の細工など造作も無いわけだが」
「これなら顔バレする心配も無いだろうな。しかし、考えてみると妙な気分だぜ。首の上に知らない人間のツラ乗っけてるかと思うとよ」
「ベータの時までは、それが当たり前だったんだよねぇ。それにしても……ここがゲームの中だなんて、ちょっと信じられないよ」
「確かに想像以上だな。噂なんてアテにならないと思ってたけどなぁ。実際ハンパじゃない完成度だぞこれは」
「ふ、ふん……この程度なら僕にだって、作ろうと思えば容易く作れるさ」
「はいはい。それでボス、これからどうするの?」
「そうだな……とりあえずこの世界のシステムについて、可能な限り情報を収集したい。ネットで調べた知識だけでは限界があるからな」
「……本当にやるつもりなんすか?」
「当然だ。何の為にわざわざ、こんなくだらないゲームの中にまで来たと思ってるんだ? あのまま外部から攻撃を仕掛けても、まるで埒が明かないからに決まってるだろうが。本来なら僕の立てた計画を進めるはずだったところを、寛大にもお前達の案を採用してやったんだからな。ありがたく思うんだぞ?」
「相変わらずの上から目線……」
「ボスはブレないなぁ」
「何か言ったか?」
「「なんでもないっす」」
「あの青いイノシシ、ぜってー中ボスクラスだろ。ありえない硬さだって」
「フレンジーボアっていうんだよ。スライム級の雑魚、このゲーム中最弱を誇るエネミーなんだってさ」
「マジでぇー? その割に全然HP減らねぇんだけど」
「だから通常攻撃オンリーだと効率悪すぎるんだって。要所要所でソードスキルを叩き込めば、ほんの数秒でカタが付くよ」
「お前、こういうのは覚えるのホント早いよなァ」
「そ、そうかな? へへ……」
「まあ、遠回しにオタクつってるんだけどな」
「ええー? なら試しに、お前がやってみろよ。プレモーションが認識されてば、自動で勝手に身体が動くからさ」
「モーションとか言われてもよォ……こう、タメを作る感じか? ……うおおっ!? 出来た!」
「ね? 思ったより面白いでしょ?」
「まーな。つうか、結構ハマるなこれ。じゃあ次、行ってみるか!」
「ふぅ、狩った狩った~。おっ、レベル上がってんじゃーん。次は何取ろっかなー」
「スキルもだけど、Modもどれにするか結構迷うよねぇ。クイックチェンジとかちょっと上の方で必須になるっぽいから、今の内に取っとくかなぁ……」
「へぇー、面白そうじゃん。でもこっちのも個性が出そうで良さ気なんだよなー」
「あ~、いるんだよねぇ。個性とかロールプレイ重視なんて言いながら微妙なビルド組んで、後から失敗したーとか文句垂れる奴」
「いや、俺はそんなんじゃねぇって。やっぱ自分に合った育て方が一番――」
「……お前達、普通にゲームを楽しんでどうする!? ここに来た目的を忘れたのか!」
「そんなこと言われてもなー。何処行くにしても、やっぱある程度は動けないと話にならないしなぁ……」
「システムコンソールがあるとしたらきっと、簡単には行けないような場所に違いないよねぇ。そんなことよりも、ぼくらにばっか戦わせてないでボスも少しは手伝ってくださいよ~」
「ハッ……あんな雑魚との戦闘で、僕にこの手を汚せというのか?」
「とか言ってる割に、トドメだけはちゃっかり奪ってくんだもんなー。他所のパーティーなら即蹴られてるところだぜ、須郷チャン」
「その名前で呼ぶなとあれ程言っただろうが、この――」
(おっと、いかんいかん……こいつらの機嫌を損ねるのは不味い。……今はまだ、な。どうせ上手く事が運んだ暁には、口を封じる必要があるんだ。その時が来たら真っ先に、記憶操作の記念すべき最初の実験台にしてやるとも。それまで精々、僕の役に立ってくれよ?)
「ああ、すいません……まだちょっと癖が抜けなくて」
「……まあいい、次からは気を付けてくれ」
「そういえば結局、アルベリヒってどういう意味なんですか?」
「なんだ、そんなことも知らないのか。アルベリヒは古ドイツ語でエルフの王、支配者という意味だ。メロヴィング朝の開祖メロヴェクス王の兄弟にして、伝説的な魔術師でもある。偉大な僕に相応しい名前だろう? ああ、ちなみに言っておくが、ニーベルングの指輪に出てくる薄汚い小人の方じゃないからな。絶対に間違えるんじゃないぞ?」
「そんなマイナーなキャラ、ボス以外誰も知らないって……」
「この人、意外とそういう方面に詳しいからな。遅れてきた中二病とか笑えねェわ……」
「ん? 何か言ったか?」
「「なんでもないっす」」
「試しに聞いてみるが……この調子でプレイした場合、何日あれば最前線のプレイヤーに追い付ける?」
「今はだいぶ攻略も進んでるから、高効率の狩場で1ヶ月も廃プレイすれば追い付けるっぽいですよ~。もちろんどこかのギルドに入るのは必須ですが」
「RMT駆使すれば装備も大体揃うしなー。まあゲームで金使うってのも馬鹿馬鹿しいけどな。ガチャ全盛期のスマホゲーじゃあるまいし」
「こんなくだらない単純作業で、僕の貴重な時間と金を浪費しろというのか?」
「聞かれたから答えただけですって……それに例のブツの情報だって、上層に行った方が集めやすいでしょう?」
「はぁ~、高レベルプレイヤーのアカウントが使えれば、こんなに時間を掛けずに済むのにな」
「アバターは各プレイヤーの脳波でロックされてるから、RMTで買っても無意味なんだよね……。手っ取り早く高レベルのプレイヤーにパワーレベリングを手伝って貰うか、もしくは情報通のプレイヤーを紹介して貰うのが一番かもね」
「でも廃人ゲーマーの連中って、プライドの方も高そうだよなー。簡単に相手にして貰えるとは思えないぜ」
「フンッ、僕の交渉術に掛かればそんなもの、何の障害にもなるわけがないだろう?」
「え~、ホントに大丈夫なんですか~?」
「だからお前達は駄目なんだ。何の為にこんなアバターを作ったと思っている? こういう時の為に決まってるだろうが。よし、そうと決まれば最前線の階層に行くぞ!」
「もし、そこの美しいお嬢さん」
「ん? 私のこと?」
「突然の無礼をお許しください。少々お時間を取らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「っていうか……あんた誰?」
「これは申し遅れました。僕はアルベリヒと言います。我々は最近このゲームを始めたばかりなのですが、故あってあるモノを探しているのです」
「は? 始めたばかりの初心者が、最前線くんだりまで来ていったい何を探してるっていうの?」
「それについては、残念ながら今すぐ話すわけにはいかないのです。……ところでそちらの男性とは、どのようなご関係で?」
「こいつ? こいつはねぇ、うーんと……仲間って柄じゃないし、相棒とも微妙に違うし。強いて言うなら……下僕?」
「……どうも、下僕です」
「そ、そうでしたか……。まあ貴女程の美貌なら、崇拝者の1人や2人はいて当然でしょうが……」
「あら、口がお上手ね。いつもその調子で女の子を口説き落としてるってわけ?」
「いえいえ、滅相もない。当然、相手に依りますよ。もちろん貴女は別格ですが」
「そいつはどうも。それで? いったい何が知りたいの?」
「そうですね、漠然としていて申し訳ないのですが……なにか変わった物について見聞きしたことはありませんか? 例えば――立方体の形をした石版とか」
「石版? ……聞いたことないわね。だいたい、そんなことを知ってどうするのかしら?」
「いやなに、大したことではありませんよ。あくまでただの興味本位でして。この世界にも設定とはいえ、歴史や文化が存在するわけでしょう? 僕はそういったことに興味をそそられる質なんですよ」
「へーぇ、そう……。んー、私はそんな物は知らないけど、知ってそうな人物になら心当たりが無いこともないかな」
「おお、やはり僕の目に狂いは無かった。ではその方を紹介して頂けますか? もちろん、十分なお礼はするつもりです」
「いいわよ、別にお礼なんて。ここらじゃ誰でも知ってる有名人だしね。凄腕って評判の情報屋よ。通称鼠のアルゴって呼ばれてるんだけど――」
「どうしたんだ、ピト。難しい顔して」
「……あいつ、真っ当なプレイヤーじゃないわね。多分、他の2人も」
「えっ? どうしてそんなことがわかるんだ?」
「だって、あそこまで完璧に整った顔のプレイヤーが、この世界に何人もいるわけないでしょ?」
「……僕の目の前にも1人、いるように見えるけどね」
「なんか言った?」
「いや何も。でもそれなら、君の言わんとしてることはつまり、あのアバターは」
「零から作られたフェイク、偽物、紛い物ってこと。私もお目に掛かったのは初めてよ。恐らくナーヴギアの頭部スキャンシーケンス時に、偽の情報を滑り込ませたのね。どんな手段を使ったのかまでは見当も付かないけど。キャリブレーションはともかく、頭部のスキャンを騙すのは今のところ誰一人成功してないはずなのに」
「なるほど。……それにしても意外だな」
「ん? 何が?」
「だって君は、その手の厄介事には自ら進んで首を突っ込んで行くような性格だろう? それなのに今回はまるで、君子危うきに近寄らず、と言わんばかりの態度じゃないか」
「あのねぇ……。あんな胡散臭い男のやることなんて、どうせロクでもないことに決まってるでしょ? いくら私でも、越えちゃいけない一線くらい承知してるわよ」
「……?」
「その、『こいつは何を言ってるんだ』みたいな顔はやめて、地味に傷付くから……。それに知ってるでしょ? 私、ああいうナル入ってる男って大ッ嫌いなのよ。あ、ナルって言っても、アナルのことじゃないからね?」
「たまに君のことがわからなくなるよ」
「あったりまえじゃない。私のことが理解出来るなんて、思い上がりも程々にしてくれる? だいたい男なんてのは、卑屈なくらいでちょうど良いのよ」
「それはただの君の性的嗜好だろう」
「あら、多かれ少なかれ、誰にでもそういう部分はあるのよ? ほとんどの人間が気付いてないだけでね。ま、あんな奴のことはさっさと忘れちゃいましょ、エム。それよりも……今日はどんなプレイを試してみようかしら? せっかく痛みが無いんだから、こっちでしか出来ないような物凄くマニアックでハードなプレイを楽しみたいわねぇ。最近は色んな道具を取り揃えてるお店も出てきたことだしね」
「一応聞いてみるけど、僕の意見は……」
「却下。それとも何? リアルの方できっつ~いお仕置きが欲しいの? 流石は生まれついての卑しい豚ね。体型は変わっても性根の方は変わらないのかしら?」
「……こっちでお願いします」
「わかればよろしい。それでこそダーリンよ♪」
「嗚呼……。誰か、この魔王をなんとかしてください……」
「きゃっ、魔王だなんて……そんなに褒めないでよ、照れちゃうじゃな~い」
主人公でもないのに謎の難聴多発回。これもうわかんねぇな。
この前スクワッド・ジャム4巻が出てた事を知り、愕然としました。
毎巻あの分厚さだと流石にきつい・・・。