「今更だけど、キリトの装備って革鎧のままなんだな」
「ああ……まあ、な。俺の場合なるべく、スピード重視のスタイルで行きたいからな」
「それはオレもわからないでもねぇけどよ。革装備はともかく、盾無し片手剣なんてメリット皆無だろ? なんでンなマゾい戦い方してんだ?」
「スキルスロットにまだ余裕が無いんだよ。それにソロメインだから、攻撃を防ぐより避ける方が重要だしな。あとは……絶対笑わないって約束するなら、教えてもいいけど」
「わかったわかった、笑わねぇよ。笑わねぇから言ってみろって」
「絶対だぞ? ……この顔と体格だとさ。ピカピカの金属鎧とかデカイ盾なんて、絶望的に似合わないだろ? だから――」
「ぷっ……くっくっく……あーはっはっはっ! なんだその、しょうもねぇ理由!」
「おいっ! やっぱり笑うんじゃないか! だから言いたくなかったんだよ、ちくしょう!」
「わりぃわりぃ……おめぇがンな、こまけぇこと気にしてるなんて思わなくてよ……」
「ぜんっぜん細かくねぇよ……この顔のせいで何度、女に間違えられたことか。妹と一緒に出掛けると、必ずと言って良いほど姉妹と思われるんだぞ? この屈辱がお前にわかるか?」
「いや、まったくわかんねぇ。ってか今時の女なんてよ、カワイイ顔の方がモテるんじゃねぇの? オレも結構好みだぜ? おめぇのそのツラ」
「お、おお俺にはそんな趣味は無いからなっ!? まったくのノーマル! 完全なる異性愛者!!」
「オレにだってそのケはねぇっての! マジに取るんじゃねぇよ馬鹿っ!!」
「だいたいなんで、リアルとアバターがおんなじ外見なんだよ!? ベータの時は自分で作ったアバターが普通に使えたってのに! 1時間掛けて作成した俺の勇者顔を返せっ! 今すぐっ!!」
「ま、まあ落ち着けよ……オレだってもっとこう、キリッとした若武者風のイケメンでプレイしてみたかったんだからよォ……」
「それもこれも全部、アーガスがわるいっ! あんな何万字あるかもわからないような利用規約に紛れてる一文、誰が読むか!」
「あっ、でもその仕様考えたの、元開発部長の茅場だって聞いたぞ? あいつが反対意見を押し切った結果らしいって、MMOトゥデイの記事に書いてあった」
「そ、そうなのか? ……それならきっと何か、深い理由が有るのかもしれないな、うん。そうに違いない」
「おめぇなぁ……手のひら返すの早過ぎだろ、いくらなんでも……」
「それはともかく! 俺は革鎧でも別に困ってないからいいんだよ。レイドに入ってる時だって、ガチガチの重装備で固めたナイト気取りの木偶の坊よりは、よっぽど役に立ってると思うぞ」
『黄金の鉄の塊で出来ているナイトが、皮装備のジョブに遅れをとるはずは無い』
「…………誰だ今の?」
「さぁ……? つか、このゲームにジョブシステムとか存在しねぇだろ……」
「気合の入ったロールプレイ?だったな。そういえば、誰かに似てたような……」
「クラインはさ、PvPとか興味ないのか?」
「んー、オレは対人戦はちょっとなぁ……なんつーか、同じ人間相手に斬り掛かるってのが、どうも未だに慣れなくてよ」
「でもやってみると案外楽しいぞ? デュエルなら別に全損決着じゃなくてもいいし、軽い模擬戦感覚でやってみるのもアリだと思うけどな」
「そうかァ? まあ、おめぇがそこまで言うなら、考えなくもないけどよ」
「ああ。今のお前の腕なら、かなり良いところまで行けると思うぞ。元・師匠の贔屓目を抜きにしても、悪くない方だろうな。うむ」
「今更それ持ち出すのかよ……そういうおめぇの方こそ、最近どうなんだよ。やってねぇのか?」
「うーん。今でもデュエルはたまにやってはいるんだけど、ちょっと熱が冷めたっていうか……対戦相手も固定化してきて、新鮮味が無くなってきたんだよなー。それよりはむしろ、PKに襲撃される頻度の方が増えてる気がするよ」
「PK? こんな浅い階層でか? なんでまたそんな、面倒っちぃことを」
「さぁな。血の気の多い連中なら、はじまりの街から出て即、斬り掛かってみたんじゃないか? その後どうなったかまでは知らないけどな。……俺もまったく興味が無いわけでもないんだけど、オレンジになると町には入れないわ、パーティーには袋叩きにされるわで良いこと無しだからな。その上、カルマ回復クエストもやたらと面倒で、実質しばらくの間、グリーンには戻れない覚悟が必要らしくってさ」
「うへぇ、それはちょっとオレには無理だわ……ところでオレンジの奴って、死んだらどこで復活するんだ? 黒鉄宮だと、生き返ってもすぐガードに殺されるんじゃねぇの?」
「さぁ? 多分、オレンジ専用の復活場所が、圏外のどこかに存在するんじゃないか? もしくは、死んだらみんな仏ってことでグリーンに戻れるとか。でもそれだと、PKのペナルティが軽すぎる気がするし、うーん……」
「だいたい、グリーンとオレンジの二種類しか無いってのも変な話だよな。戦闘中たまたま味方に当ててしまってもオレンジなら、プレイヤーを何人殺しても同じオレンジって、絶対おかしいだろ! やっぱ、レッドカーソルも実装するべきなんじゃねぇか?」
「でもそこまで行くと、このゲームのデザイン自体の話になるからなあ。元々どんなゲームになる予定だったかなんてのは、それこそ開発者だった茅場に直接聞いてみるしかないだろうし」
「そりゃまあそうだけどよォ。そういや、復活場所が知りたいなら、今度PKに会った時にでも聞いてみたらどうよ? お前ら死んだらどこで復活すんだ?ってよ」
「いや、それ無理。なぜか俺って、PKには相当恨まれてるみたいでさ。あいつら装備もあんまり整ってないことが多いから、5、6人までなら大抵なんとかなるんだけど。そのせいでチーター扱いされて、GMに根掘り葉掘り質問されたことだってあったんだぞ? 良い迷惑だよ、まったく」
「そりゃおめぇが強すぎんだよ……だいたい今時、ソロメインの奴なんて絶滅危惧種だぞ? なんでどっか適当なギルドに入らねぇんだ?」
「俺のプレイスタイルだと、ギルドに入るメリットが少なすぎるだけだよ。しょっぱい戦闘ボーナスの代わりに、上納金を納めなきゃいけなかったりするしな。なにより、人間関係が面倒だ」
「完全にぼっち人間の思考だぞそれ……」
「ほっといてくれ……まあ今は、対人よりも装備の充実とレベル上げだな。でもボスレイドに入れてもらうなら、ギルドに入ってる方が有利だしなあ……」
「なら、オレのギルドに入らねぇか? うちは面倒くせぇ縛りとか上納金も一切ねぇし、独立志向の連中ばっかだからおめぇも気に入ると思うんだがな」
「何度も言ってるけど、俺はソロが好きなんだ」
「そうかい、まあ気が向いたら言ってくれよな。おめぇならいつでも大歓迎だぜ」
「ああ、気持ちだけ受け取っておくよ。サンキューな」
「そういやよ、最近デュエルに、バケモンみたいに強ぇ双子のプレイヤーが出没してるらしいぜ? なんでも、動きがまるで見えないんだと」
「へぇー、初めて聞いたよそんな話。そこまで速く動ける人間が、アスナ以外にもいたなんてな。世の中まだまだ、強い連中がたくさん転がってるんだなぁ……」
「おっ、早速興味が湧いたのか? さすがはバトルジャンキーのブラッキー先生だなァ?」
「だからいちいち茶化すなって……まあ、もしそいつらと顔を合わせる機会があったら、手合わせをお願いしてみるよ」
「おう、その時はオレも呼んでくれよ! それと聞いた話ではその2人……いや、これは黙ってる方が面白そうだな、へへっ」
「? 何なんだよ、急に気持ち悪い顔して」
「なぁに、気にすんな。おめぇにその自覚が無いのは、今に始まった話じゃねぇからなぁ……」
「???」