「よう、リズ」
「あらキリト、いらっしゃい。……今日は珍しく一人なのね」
「珍しくってなんだよ。俺はソロがメインだぞ」
「へぇ~、そう? ならこの前一緒に歩いてた、黒髪の可愛い娘は誰?」
「あ、あれはたまたま! あの子のパーティーがピンチだったところを偶然助けたら、ぜひお礼がしたいって言われて、それで……」
「それでレストランまでホイホイ着いて行ったんだ。ふ~~ん……」
「だって断るのも失礼だろ? そ、そんなことより、武器のメンテを頼む。あと強化も」
「はいはい、いつも通りね。素材はあるの?」
「ああ、もちろん持ってきたぞ。また頑張って集めたんだ」
「相変わらずの廃人っぷりね……。じゃあ先に剣を研いであげるから貸して」
「おう、よろしく頼む」
「………………」
「なぁ、リズ」
「……なによ」
「えっと……儲かりまっか?」
「ぼちぼちでんな……って、いきなりなに言わせるのよ! ばっかじゃないの!? 手元が狂ったらどうすんの!」
「いや、一度使ってみたかったんだよ。それにお前だって乗ったじゃないか」
「そ、それはつい、反射的にというか、お約束というか……」
「ほらみろ、やっぱりお前の中での願望だったんだよ」
「なによそれ、全っ然意味わかんないし……」
『あははは! さっきから聞いてたんだけど、キミ達すっごく面白いね!』
「ほ、ほら、聞かれてたじゃない! もう……」
「うっ、すまん……」
「俺はキリトだ」
「あたしはリズベット、見ての通り武器屋をやってるの。良かったら見てって」
「ボクはユウキっていうんだ、よろしくねっ!」
「……ユウキ? じゃあもしかして、あなたが噂の絶剣?」
「ええっ!? そんなふうに呼ばれてるのボク?」
「職業柄、その手の話を耳にすることが多いからね。今アインクラッドで最もホットなプレイヤーって、もっぱらの評判よ」
「うぅ~、嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいかなぁ……」
「そんなことないわよ。こいつにも二つ名があって、黒の剣士って言うんだけど――」
「うわあああァァァっ! やめろ! 俺の黒歴史を掘り返すなっ!!」
「こいつ自己紹介の時に、自分でそれ名乗ったのよ? 信じられる?」
「あの時はイケてると思ったんだよ、厨二的な意味で……ああああ、もういっそ殺してくれ……」
「えー、そっちの方が絶対かっこいいよ! ねぇ、ボクのと交換しない?」
「それが出来るなら是非そうしたいよ……でも無理なんだ、覆水盆に返らずと言ってな……」
「そっか~、残念……そういえば、キリトは盾無しの片手剣なんだね、ボクもそうなんだ。ボク達お揃いだね! 色も近いし!」
「あ、ああ、珍しいな。こんな戦い方してるの、俺くらいだと思ってたのに」
「さっき会ったばかりなのに、グイグイ来るわねこの子……」
「あっ、ご、ごめん! ボク、思ったことは全部言っちゃう性格なんだ。そのせいで姉ちゃんにもしょっちゅう怒られてるし……」
「いや、全然気にしなくていいぞ。俺もなんだか、ユウキとは気が合いそうだなって思い始めてたところだ」
「そ、そうなの? そっかー、気が合いそうかぁ、えへへ……」
「ま~た、あんたの悪い病気が出たわね……しかもこんな可愛い子に手を出すなんて」
「手を出すとはなんだ、人聞きの悪い。それじゃまるで、俺が出会った女の子すべてに――」
「ああっと、いっけない! 姉ちゃんと待ち合わせしてるんだった! そろそろ行かないと。じゃあ2人とも、まったね~! バイバ~イ!」
「……嵐のように去っていったな。ところでさっき、ゼッケンとか言ってたけど何の話だ?」
「ええっ? あんた、本当に知らないの? 今あっちこっちで話題になってる剣士の通り名よ。絶対の剣と書いて絶剣。既に各ギルドが、あの子と双子の姉の争奪戦を繰り広げてるらしいわよ」
「じゃああれがクラインの言ってた、化け物みたいに強いっていう双子の片割れか……あの野郎、妙にニヤニヤしてたからおかしいとは思ってたけど……絶っ対あとでシメる!」
「それより、いいの? その口振りだと、一度手合わせしてみたかったんでしょ? 今度いつ会えるかわかんないわよ?」
「あっ、そうか……うーん、インスタント・メッセージを飛ばすしかなさそうだけど……普通にYuukiで合ってるかな?」
「合ってるんじゃない? Youkiって書いてユウキと読ませる人も中にはいるみたいだけど……それよりも、今ならまだ間に合うかもしれないじゃない。 走って追いかけなさいよ! あんたのその、ゴキブリ並の脚力を活かすのよ!」
「ゴキっ……! いや、もうそれでいいか。あれこれ考えるのは性に合わないぜ! 追いつけなかったらその時は改めてメッセージ飛ばせばいいしな。 それじゃまたな、リズ!」
「あっ、ちょっと待って、剣! 忘れないでよ!」
「おおっ、サンキュー! このお礼はいつかまた、精神的に!」
「はぁ……なにやってんだろ。せっかく二人きりになれる絶好のチャンスだったのに。あたしって、ほんとバカ……」
「――で、結局その子とは再会できたのか?」
「ああ……なんとかギリギリな。お姉さんにもちゃんと会えたよ。いやむしろ、会えてしまった、と言うべきかなぁ……」
「ならオレも呼んでくれれば良かったのによォ。水くせぇぜ、キリト」
「お前、あの2人が女の子だってこと黙ってたじゃないか。しかもまだ小学生だって言ってたぞ? あり得ないだろ、あの強さで……」
「その様子だと、勝負がどうなったのかは……聞かない方が良さそうだな」
「ああ、是非ともそうしてくれ……。久々に凹んだよ。もう当分デュエルはやらん……」
「そ、そうか……。ところで今更だけどよ、オレらって相当ツイてるよな! 世界中のゲーマーが死ぬほどやりたがってるゲームを、誰よりも早くプレイできるなんてよ。まぁオレの場合、仕事休んでなんとかゲットしたんだけどな!」
「俺はベータテスターだったお陰で並ばずに買えたんだけどな、ふっ」
「まったく、ラッキーな野郎だぜ、こんちくしょう……でも世の中には、おめぇら元ベータテスターよりも、更に運の良い人間がいるんだぜ?」
「おおっ? そんなの知らないぞ、誰だよそれ? 俺の知ってる人?」
「ふふん、聞いて驚け。なんと、あのシリカちゃんだ! 雑誌の懸賞でナーヴギアが当たったんだってよ。しかも、SAO付きで!」
「はあああぁぁぁっ!? マジでか? そんなのアリかよ……。俺なんて、ベータテストの募集開始と同時に40通ぐらい応募して、その内のひとつが奇跡的に当選したんだぞ?」
「いやいやいや、それはいくらなんでもやり過ぎだからな?」
「なけなしの貯金を崩して、ようやく買えたっていうのに……なんて不公平な世の中なんだ……」
「それを言うならオレなんて秋空の下、ダチと一緒に三日並んでやっと買えたんだぞ……つーか、大半の連中はそんなもんだ。あんまり贅沢言ってると刺されるぞ?」
「うっ、まぁな……。お陰で順調にスタートダッシュを切れたし、廃人組と比べてもほとんど差が無いくらいには稼げたからな。欲を言えば、学校にも行かずメシやトイレの心配も無しに、一日中ダイブしていられたら最高なんだけどなぁ……」
「…………。しかしよ、そんな宝くじ並の幸運を引き当ててしまうと、もうこの先良いことなんて起こらないような気がして来ねぇか? ちょっとシリカちゃんが心配になってきたぜ」
「いや、そういう人種にとっては、運の総量なんていう概念自体が存在しないんだ。恐らくこれから先も、とてつもない強運に恵まれ続けると思うぞ。例えば超レアアイテムをあっさりゲットするとか、滅多に出現しないようなモンスターを偶然テイムしてしまうとか……」
「なんだその、やけに具体的な例え……」
「いや、なんとなく……」