「ヘッドぉ~」
「なんだ」
「絶剣っているじゃないっすか」
「ああ……それがどうした?」
「あいつ、スカウトしたりはしないんすか? 表の連中の間じゃ、あの双子の話題で持ち切りらしいっすよ?」
「まだガキだろ。それにこれは俺のカンだが、あいつはうちには合わない」
「オレも、そう思う。アレは、あっち側の、人間だ」
「でも一応、ダメ元で話だけでもしてみてはどうでしょうか? 僕、今ちょうどグリーンですし、ひとっ走りしてくるくらいならわけないですよ」
「ふむ……いや、そっちの方はモルテの奴に任せてみることにする。お前とザザはこれまで通り、ルーキーの訓練を頼む」
「わかりました」
「あの黒の剣士()までやられたらしいっすからね! これはもう、モノホン確定っすよ!」
「ほう……。あいつには俺も手こずったんだがな。ソロのくせに、大手ギルドのパーティーより手強いときやがる。しかし急にそんな話を言い出すなんて、いったいどうしたんだ?」
「それがですねぇ……。最近賑やかになったのはいいんですけど、威勢だけ良くて使い物にならない連中ばっか来るんすよ~。この前なんか、楽に殺しが楽しめると聞いて~、とか抜かすバカまでいたんですよ? ムカついたんで、開発中の毒の実験台にしちゃいましたけど」
「そういう雑魚は、タイタンズハンドとかの二流ギルドに放り込んどきゃいいんだよ。うちの質を下げてまで、入れてやる必要ないだろ」
「ははは、確かにそうっすね! でもあそこのネーチャン美人だから、恩を売っといて損は無いっすけど!」
「ハッ、お前ああいう女が好みなのか? ちょっと趣味悪いんじゃないか?」
「へへっ、そういうヘッドこそどうなんすかぁ~? 気になる子とかいるんすか? なんなら適当に拉致ってきて、例のあの方法で……」
「オイ……もういっぺん言ってみろ。拉致ってきて、なんだって? あァ?」
「す、すいません! 口が滑りました……」
「うちはツッコミ厳禁って、あれだけ言ってるだろうが。文句があるなら、さっさと出て行け」
「め、滅相も無いです……」
「オレは、なぜか、新入りに、避けられるんだが。わけが、わからん……」
「……兄さんはアジトにいる時ぐらい、そのマスクを外したらどうなの? 折角イケメンなのに、もったいないよ?」
「これは、オレの、トレードマークだ。絶対に、譲れないな」
「あと、その喋り方もさぁ……」
「これも、オレの……」
「Jeez、PKも人材不足の時代か……旗揚げの時期が早すぎたかもな。あの勇者様の耳に入ったらなんと言われるやら……Suck」
「ところでキリトよ。もうそろそろ、SAOの増産分があちこちの店で販売されてる頃だろ? この前言ってた妹さんは、ちゃんと買えそうなのか?」
「んー、多分大丈夫。初回ロットほどの倍率じゃないっぽいし。それにいざとなったら、うちの母親に頼み込めばなんとかしてくれそうだから」
「おいおい、おめぇの母ちゃん、いったい何者なんだよ」
「パソコン雑誌の編集者。……なんだけど、俺もよくは知らないんだよ。とにかくいろんな方面にコネがあって、そのツテで手に入れるくらいなら可能だってさ」
「へぇー、業界関係者ってわけか。はぁ、オレもそんな親が欲しかったぜ……」
「それにあいつは俺と違って優等生だからな。たまにはワガママを言うくらいの方が、親としてはむしろ嬉しいかもしれないしな」
「……前から思ってたんだけど、おめぇ……いや、なんでもない。それより、初回販売分ほどじゃないってのはどういうことだ? 細かい部分は置いといても、これだけ評判が良けりゃ欲しがる奴が増えるもんじゃねぇか?」
「えーと、まずひとつにMMORPGでは、スタートダッシュできる先行組の方が圧倒的に有利なんだよ。もちろん開始直後はベータ経験者の知識には適わないだろうけど、ベータテストの時のデータは全部ワイプされてるし、ゲームが進むにつれて廃人組との差はどんどん縮まっていくはずだからな」
「なるほどなァ。それだけに初回出荷分は、何がなんでもゲットしたい連中の手に落ちたわけか。まあ、オレも含めてだけどな!」
「そういうこと。お陰で転売屋も相当儲かっただろうけどな。あんなアホみたいな値段で買う奴らの気がしれないよ」
「しかしまぁ、そういうの抜きにしてもよ。コレを体験してしまったらもう、マウスとキーボードでカチャカチャやるゲームには戻れねぇよな! マジ、この時代に生まれて良かったぜ!」
「ああ、それには全面的に同意する。でも、意外にすぐ辞める人も多いらしいよ」
「へぇ、そりゃなんでまた? せっかく苦労して手に入れたゲームだってのに」
「まず考えられるのは、単純に合わなかった奴だな。魔法無しっていうのが独特すぎるし、回復とか支援がやりたい奴にはちょっと向いてないだろうな」
「」確かにな。いろんなビルドを試すのも、こういうゲームの醍醐味だもんなぁ……」
「あとはFNC判定が出て、プレイしたくてもできない人も中にはいるだろうしな。民生用のナーヴギアにはよくある話だってさ」
「その辺不便だよなぁ。試してみるまでわからないなんてよ」
「最近じゃ、買う前に試せる店もあるみたいだよ。一応ナーヴギア自体にも、テスト用のソフトが付属してるはずなんだけど……」
「普通は試す前に、とっとと始めるわな。ま、メーカーも馬鹿じゃないんだし、そのうちなんとかなるだろ」
「だといいがな。それにしても、リアルでSAOの話をしづらいってのはつらいよな、ゲーマーとしては」
「ああ、なにしろ、SAOプレイヤーを狙った強盗なんてのもあるらしいからなぁ。お陰で公の場で大っぴらに話もできやしねぇ」
「なら今度また、ダイシー・カフェに集まるか? あそこなら、昼間はSAOプレイヤーくらいしか来ないだろ」
「ははは、それエギルに言ってやるなよ? ああ見えて結構、気にしてるんだからな。てか思ったんだけどよ、案外PKでヒャッハー!してる連中も、実はSAO狩りで手に入れたんじゃねぇの?」
「リアルでもオレンジプレイヤーってわけか……あんまり考えたくないけどな。それにフルダイブ中は現実の身体が完全に無防備だから、二重の意味で怖いよな」
「その辺、なんとかならねぇのかなァ……。警報装置とリンクさせるとか、色々あんだろうによ」
「その手のことへの対応は、事件が起きて大騒ぎになってからするのが世の常だよ……」
「おっ、もしかしなくても、スグだよな」
「あ、やっぱりお兄ちゃんだ。……本当にゲームの中でも一緒なんだね」
「ああ、最初鏡を見た時はびっくりしたけどな。慣れれば大して気にならなくなるよ。要は現実と大差ないってことさ」
「ふーん……案外気にしてないんだね。てっきり、俺の作った顔を返せー!とか大騒ぎしてるかと思ったのに」
「そ、そんなことはないさ……それより、俺としてはお前の方が心配だぞ、悪い虫が付きそうで。兄である俺から見ても、スグは可愛いからな」
「お、お兄ちゃんったら……。なんだか急に口が上手くなったんじゃない? あっ、あとあたしのことはリーファって呼んで」
「なるほど、リーファか。良い名前だな。俺のことは、キリトって呼んでくれ」
「キリ……あ、なるほど。安直だけど良い名前だね、キリトくん!」
「ほっとけ。じゃあ早速、誰か俺の知り合いと……」
「あっ、キリトくん! 久しぶ……り……」
「やあ、アスナ。ちょうど良かった」
「キ、キリトくん? その子だぁれ?」
「紹介するよ、こいつは――」
「もももしかしてこの前リズの言ってた、黒髪の可愛い子!?」
「いやだから、俺の――」
「キリトくんのバカーッ!! ヘンタイ! 女ったらし! うわぁーーん!!」
「…………どうなってるんだ? 俺、なんか変なこと言ったかなぁ?」
「うん、お兄ちゃんが普段どんな目で見られてるのか、なんとなくわかった気がする……」
「おいおい、いつもはあんな感じじゃないぞ。もっとお嬢様っぽくてお淑やかで、それなのにメチャクチャ強くて……」
「そういう意味じゃないんだけど……それにしても、あんな綺麗な人と知り合いなんて、お兄ちゃんも隅に置けないなぁ……。やっぱりこのゲーム始めて正解だったよ」
「おっ、そうか? じゃあ、ちょっと外に出てみるか」
「うん! お兄ちゃんの話を聞いて、ずっと楽しみにしてたんだ。えっと、ソードスキルってどうやればいいの?」
「それが案外、奥が深くてな。まず最初は……」