「アスナ。ちょっと話があるの」
「……なにかしら、リズ?」
「しばらくの間、共同戦線と行かない?」
「あら、どういう風の吹き回し?」
「あたしはね、横から獲物が掻っ攫われるのを黙って見てられるほど、人間できてないのよ」
「……同感ね。ただでさえ強力なライバルが次から次へと出現してるのに、この上ぽっと出の年下に良いところを奪られるなんて、わたしのプライドが許さないわ」
「そうこなくっちゃね。流石あたしのライバルよ」
「それとわたし、これからはもっと頻繁にここに来ることにしたから。こう見えてもわたし、負けず嫌いなの。恋も勉強も、わたしにとっては等しく同じ戦いなのよ」
「へぇ~、なかなか言うようになったじゃない。最初会った頃に比べたら、まるで別人のような目をしてるわよ」
「それもこれもリズやみんなのお陰よ。でもだからこそ、この戦いは絶対に負けたくないの」
「それはこちらのセリフよ。あたしみたいな地味子だって、あいつを好きな気持ちだけは誰にも負けてないんだから。どっちが勝っても恨みっこなしよ。いっちょあいつに思い知らせてやろうじゃないの。乙女心を弄んだ罪の重さを」
「なんだかそれだけ聞いてると、まるで復讐の相談してるみたいね」
「ある意味間違ってないけどね……。話は変わるけど、あんたの後を尾けまわしてたストーカー、結局どうなったの?」
「この前追い払ったわよ。GMにも相談してみたんだけど、そんな些細なことでいちいち呼び付けるなって雰囲気で……きっとこの手のトラブルは日常茶飯事なのね。だからはっきり言ってやったわ、もうわたしを追い回すのはやめてちょうだいって」
「わお、あんたにしてはやるじゃない。これだから人気者はつらいわねぇ~?」
「もう、他人事だと思って……。アスナ様ぁ~!とか言いながらずっと付いて来るんだから、すっごく怖かったわよ……」
「でもそんなにアブナイ奴だと、逆恨みしてそうよねぇ……まさか、学校や住所まではバレてないでしょうね? ただでさえ本名をそのまま使ったりしてるんだから、本気で気を付けた方が良いわよ。もしかしたら今も、家の前であんたを監視してたりして……」
「キャ、キャァァッ!? もう、脅かさないでよ、リズ……」
うぅ~、キリトさんひどいです……
あたしにも内緒で、勝手にギルドを作るなんて……はぁ
……? なんだろうこのモンスター、かわいい……小型の、ドラゴン?
でもなんだかフサフサしてるし、レアモンスターかな?
うちのピナを思い出すなぁ……
あれ? ひょっとして、お腹が空いてるのかな?
たしかちょうどおやつのナッツが……あったあった、はい、どうぞ
おぉ~、素晴らしい食べっぷりですね~
えっ? ちょっと待って、やだ、く、くすぐったい……
「お兄ちゃん、ギルド作ったんだって?」
「ああ、耳が早いな」
「なら当然、あたしも入れてくれるんだよね?」
「そりゃもちろん。お前さえ良ければ、今すぐにでも」
「じゃ、お願い。……あれ? この名前って……」
「……まあ、そういうことだ。結構好きだったんだよ、あのアニメ」
「ふーん。じゃあポチッと。これからよろしくね、団長さん!」
「おう。そういえば、結局キリトとは呼ばないのか?」
「うん、やっぱりなんだか違和感あるし、それに……」
「それに、なんだ?」
「このままだと勝ち目ないから、持ち味を活かす方向で行こうかなって」
「?なんだそりゃ。まあ別に構わないけど、俺の方はリーファで通すぞ」
「うん、それでいいよ」
「ところでリーファ、お前……髪の色と髪型変えただけなのに、随分印象変わったよな」
「えっ? へ、変かな……? せっかく仮想世界なんだし、結構派手目な色にしてる人も多いから、そんなに目立たないかなーって思ったんだけど……」
「いや、結構似合ってるぞ。オシャレに興味の無かった剣道少女も、だいぶ垢抜けてきた感じだ」
「えー、そんなふうに思ってたんだ……ひどいよ、お兄ちゃん」
「まあ俺としては、やや複雑な心境なんだが……」
「へぇ~……ねぇねぇ、ちょっとドキッとした?」
「おいおい、兄貴をからかうなよ……」
「……なんか、思ったより大所帯になっちゃったな。しかも俺以外、女の子ばっかり……あれ? もしかして俺、いらないんじゃないか?」
「……あんたそれ、マジで言ってんの?」
「絶対マジだよ。なんてったって、あのキリトなんだから」
「なんなんだ、この言われよう……これでも一応、ギルドリーダーなのに」
「それにしても、こんなに立地条件の良いギルドハウス、よく買えたよね。相当お高かったんじゃない?」
「え? あ、ああ、うん、まあな……俺がソロの間に稼いだ分が結構あったからなー……」
「……キリト、ボク達になんか隠してない? なんだか怪しいなぁ……」
「これは嘘をついてる時の顔よ、間違いないわ! 完全に目が泳いでるもの」
「なるほど……キリト、そんな大金、いったいどこから手に入れたの? ま、まさか、後ろめたいことでもしてるんじゃ……思えば短い付き合いだったね、今までありがとう、キリト……」
「してない! してないから、通報するのはやめてくれ! ただ、その……」
「その、なんなの? はっきり言いなさいよ」
「ギルド結成のお祝いに、ご祝儀で貰ったんだよ……ディアベルに」
「ハァ!? なんであの人があんたに、そんなものくれるのよ!」
「こっちにも色々事情があるんだよ……。あいつ、まるで俺の財布事情を知ってたみたいに、足りなかった分だけ出してくれたんだ。それでみんなには不自由させたくなかったから、ほんと~に!仕方な~く!受け取ったんだよ。もちろん、頑張ってちゃんと返すからさ! ……そのうち」
「はぁー……そういうことなら、あたしも手伝ってあげるわよ。借金まみれのギルドに所属してるなんて思われたら、あたしが将来開く予定のお店の信用に関わるからね」
「おおっ! ボッタクリ鍛冶屋の名が、アインクラッド中に響き渡る日も近いな!」
「へーぇ、そういうこと言っちゃうんだ? ならあんたの時だけ、永久に基本料金二倍ね!」
「ええー!? そりゃないだろ! ユウキも黙ってないで、なんか言ってやってくれよ!」
「あははは! なんだか、ボク達が初めて会った時を思い出すね!」
「初めまして、アスナさん。わたしはユウキの姉の――」
「ランさんよね、初めまして。お噂はかねがね」
「……似てるとは聞いてましたけど、思ったほどでは、と言ったところでしょうか」
「そうね。噂なんて、結局当てにならないものね」
「でもそれとは別に、妙な親近感を覚えるような気もしますが」
「ええ。不思議なものね。前世でなにか縁でもあったのかしら?」
「案外、そうかもしれませんね。とはいえ、わたしが応援するのはあくまでユウですから。なので申し訳ありませんが、あなたに協力することは残念ながらできません」
「いえ、わたしとしては、今はそれで十分よ。正直言って、あなたの方があの子の数倍は手強そうだから」
「ふふっ、そう言ってられるのも今のうちですよ。ユウの本当の凄さを知ってしまったら、そんなことは口が裂けても言えないはずですから」
「この子は最近テイミングに成功した、使い魔のピナです。種族は、フェザーリドラっていうレアモンスターです」
「へぇー、テイムって本当に成功するんだな。流石、SAOプレイヤーきっての幸運の持ち主」
「そ、そんなことないですよー。たまたまラッキーだっただけで……」
「だからあんたは、それが続きすぎなんだってば……」
「ちっちゃくてふわふわで、すっごくかわいいね! あっ、でもたしか、使い魔の蘇生方法はまだ見つかってないから、気を付けた方がいいよね……」
「は、はい! それはもう。なので皆さんには申し訳ないんですけど、戦闘ではなるべく後ろに下がらせてもらいますね……」
「ああ、少しでも危ないと感じた時は、すぐ逃げてくれ。それじゃあ顔合わせも済んだことだし、そろそろ――」
「あのね、キリト。実はあと一人だけ、入れてあげてほしい人がいるんだけど……」
「ん? お前が副団長なんだから、別に事後承諾でもいいんじゃないか?」
「どうしても先に、キリトに話したいことがあるんだって。じゃあ、今から呼ぶから、ちょっと待っててね」
「あの、あたし、メリダって言います。……キリトさん、ですよね」
「あ、ああ……どこかで会ったっけ?」
「会ったかと言われれば会ってるんだけど、完全にそうとも言い切れないような……」
「?? なんだか要領を得ないな……」
「えっと……ベータテストの時のことって、どのくらい憶えてます?」
「んー……大体のことは憶えてるつもりだけど、流石に全部とまでは……」
「じゃあ、クエストMobの取り合いで喧嘩になって、デュエルで決着を付けた時のことは?」
「……ああ! そうか、あの時か。もちろん憶えてるよ。ごめんな、すっかり忘れてて。でもあれは確か、男だったような……あっ」
「そうなんです。実はベータ期間中は、男のアバターでプレイしてて……」
「ははは……ネカマはいくらでもいたけど、まさか逆のパターンだったとはなぁ……やられたよ」
「いえ、あの、できればあの時のことは、水に流していただければ、と……」
「あれはこちらにも非は有ったからなぁ。それに俺も対人戦は嫌いじゃないし、今となっては良い思い出だよ」
「そう言っていただけると助かります。それで本題なんですけど。あたし、ちょっと事情があって、正式サービス開始からしばらくの間はログインできなかったんです。ようやくここに戻って来られた時には、もうギルドのみんなはバラバラになってて……」
「まあ、この有様じゃ仕方ないだろうな。ベータの時って、プレイヤーの半数以上が女性アバターを使ってたからなぁ……」
「はい、だから気まずくなってだと思うんですけど……それで途方に暮れてた時に、キリトさんがギルドを立ち上げたっていう話を聞いたんです」
「そうだったのか……まあ確かに、知り合いがいないのは心細いもんな」
「……実はあたし、キリトさんに密かに憧れてたんです。あの時言われた言葉が、ずっと頭から離れなくて。『デュエルはただの殺し合いじゃない、剣と剣を切り結ぶことで伝わるものもある』、ですよね?」
「ああ、そういえばそんなことを言った気もするな……。でもあの時は、そんなに深い意味があって言ったわけじゃなくて……」
「それでも! それでもあたしにとっては、胸に深く突き刺さる言葉だったんです。所詮これはゲーム、気持ちなんてどうせ伝わりっこない、なんて思ってたから……。でも、キリトさんとデュエルをしてわかったんです。この世界にだって、本物はある。本気の気持ちは伝わる、って。だからキリトさん。それを教えてくれた、他ならぬあなたが作ったギルドに入れてください! お願いします!」
「……そこまで言われて、断れる人間はいないと思うぜ。さて、俺は入れてあげたいんだけど、みんなはどう思う?」
「異議なーし!」「あたしも!」「いいと思います!」
「というかあんたのギルドなんだから、あんたが決めなさいよ!」
「じゃあ賛成多数ということで。我がギルドへようこそ、メリダ」
「ありがとうございます! キリトさん!」
「キリトでいいぞ、あの時はタメ口だったろ?」
「じゃあキリト、それにみなさんも、これからよろしく!」
「ヘッド、今回の採用面接終わりました」
「おう、ご苦労さん。首尾はどうだ?」
「今回はまあまあ使えそうな奴らが何人か入ったんで、お耳に入れときたくて。まずは、両手剣使いなんですけど」
「両手剣? あんなモン、ウスノロの武器だろ。使い物になるのか?」
「一人ぐらい、そんなのがいてもいいんじゃないっすか? まぁ、顔はゾンビみたいっすけど。そのせいで、なかなか迫力あるっすよ」
「ツラなんざ、どうだっていいだろ。顔で殺すわけでもあるまいし。だいたい、仕事の時は隠すんだからな」
「ヘッドがそれ言っても、嫌味にしかならないっすけどね!」
「ハッ、言うじゃねぇか。で、他には? お前が目を付けるくらいなんだから、何かあるんだろう?」
「あっ、やっぱわかっちゃいます? 流石っすね。なんていうか、オレと同類のクズっぽさが、ピンッ!と来ちゃって。なりそこなった勇者の悪堕ち臭?みたいなのがプンプンするんすよ。あと、毒の扱いも覚えが早いんで、そっち方面でも伸ばしたら面白いかと思いまして」
「ほォ……まあ使い物になるなら、なんだって構わんさ。残りの連中はどうだ?」
「はい、つっても数段落ちるんですけど……」