江戸川コナンが恐い   作:麻咲代

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File3 進展する影

屋敷に通されたコナン達は応接間に通された、今腰掛けているソファーの感触や棚の色艶等から見ても調度品にもお金を掛けているのが分かる。少し緊張した表情の小五郎達……置いてある壷一つとっても一般人には考えられない値段がするのであろう。

執事の斎藤は後ろに控える世話係に飲み物をと頼むと座っている小五郎達に自己紹介し始めた。世話係の女性はそれと同時に喫茶の準備の為か、失礼しますと部屋から出ていった。

 

「改めて自己紹介させて頂きます、この屋敷の執事をさせて頂いています。斎藤一之助と申します。」

 

斎藤一之助(57)(さいとういちのすけ)

有栖川家執事

 

「毛利様、早速ですが依頼のご説明をさせて頂きます。探して頂きたいのはこの屋敷の何処かに眠る、有栖川家の至宝【ムーンエンジェル】でございます」

 

執事の斎藤は自己紹介を済ました後、依頼の内容を改めて説明しだした。有栖川の至宝、そのムーンエンジェルという物々しい名前で更に緊張を増す小五郎と子供達に斎藤は続ける。

 

「それも、あの男……信親様よりも早く見つけて頂きたいのです」

 

「信親というのは……??」

 

初めて聞く名に小五郎は聞き返す。

 

「信親様はこの屋敷の主人である、有栖川隆信様の弟でございます」

 

斎藤は話を続けようとしたがノックの音がして、カートを引いた世話係が入室してきた。

 

「コーヒーでございます、子供達にはジュースで良かったかな?」

 

コーヒーの配膳が終わると子供達にはニコリと笑みを浮かべジュースを手渡した。子供達はありがとー!と応えそれを受け取り嬉しそうに口にする。世話係の女は嬉しそうにその様子を眺めている。斎藤がゴホンと咳払いすると慌てて失礼しましたと体制を戻し後ろにまた控えた。

 

「信親様がこの屋敷に参られたのは一ヶ月前、丁度隆信様と奥方様が行方不明になられた後すぐの事でした…」

 

斎藤の話によると、

一ヶ月前しばらく留守にするから娘を頼むと言い残し出掛けて行った有栖川夫妻だが未だに帰らず、連絡もつかない状態でそんな時、弟の信親が屋敷を訪れ代々当主に受け継がれる宝石【ムーンエンジェル】を探し出し自分が当主になろうと屋敷中を探し回っているそうだ。そして名探偵である毛利小五郎に信親よりも早く宝石を見つけ出しこの屋敷を守ってもらいたいという依頼内容らしい。

 

「それに、あの男……宝石の隠し場所を聞き出すために美沙お嬢様に手を上げたんです!!」

 

世話係の女は憤怒の形相で肩を震わす。その言葉に子供達も顔色を変えている。

 

「そういえば、あなたは??」

 

小五郎は怒る女を宥めながら名前を尋ねる。

 

「申し遅れました、私この屋敷の世話係の清水と申します」

 

清水恭子(22)(しみずきょうこ)

有栖川家世話係

 

世話係、清水の自己紹介を受けて小五郎達も名を名乗る。

 

「じゃあ俺も自己紹介しておくか、俺はこの屋敷で料理人している室井だ」

 

室井直茂(28)(むろいなおしげ)

有栖川家料理人

 

急に声がして驚きながらドアを見ると若い男がドアの縁に背を預け寄りかかっていた。どうやら話を聞いていたようだ。

 

「じゃあ門の前で美沙ちゃんを打っていたのって……」

 

話が逸れていたところの歩美が思い出したように呟く。

 

「おそらく信親様でしょう……」

 

「あの男!!またお嬢様を……今度こそ許さない!」

 

歩美の話を聞いた清水は怒りの表情で叫ぶと急いで部屋から飛びだそうとする。しかし室井に肩を掴まれ止められる。

 

「おいおい、恭子ちゃん何処へ行こうってんだ。あの男なら今外出中だぜ……」

 

室井に宥められ清水はやりきれない怒りを込め肩を掴んでいた室井の手の甲を摘んだ。

 

「恭子ちゃんって呼ぶな!!」

 

清水は鬱憤を晴らすように室井に怒鳴りつけ何処かへ行ってしまった。室井はいててと手を振りながら怖い女……と呟いた。

 

「いやはやお見苦しい所を……それより室井さんどうしたんですか?昼食にはまだ早いと思いますが」

 

斎藤は小五郎達に申し訳ないと頭を下げ、室井に尋ねる。

 

「いやーそれがまともな食材切らしちゃったみたいでよ、悪いが今日は出前でもとってくれねえか?」

 

今から発注しても明日になるそうだ、一流食材ってのは不便だねーと笑う室井に斎藤は呆れたように溜息を吐いた。

 

「俺、うな重がいい!!」

 

出前と聞いて元太がいち早く反応する。光彦が遠慮がないですねーと突っ込むとその場は和やかな雰囲気になった。

 

「ではお昼はうなぎにしましょう、それまでに屋敷内を案内させて頂きます」

 

斎藤がいうと元太はやったー!と叫び喜んだ。

 

 

 

コナン達は屋敷内の案内を受けていた。本邸だけで部屋が無数にあり結構な時間が経ったが、今の所宝石が隠されているような所は見当たらなかった。螺旋状の階段を登り二階に着くと一際大きな扉が現れた。

 

「ねーねー此処は何の部屋?」

 

コナンが斎藤に聞くと、此処は旦那様の書斎ですと答えた。

 

「ここの中は見せてくれないの?…」

 

歩美が尋ねると斎藤は苦笑しながら残念そうに呟いた。

 

「ここは旦那様の顔と指紋認証でしか開かないんですよ」

 

確かに読み取り用の機械が扉の横に備え付けてある。扉も頑丈そうで無理矢理こじ開けれそうもない。

 

「じゃあここにあったらどうするんですか!?」

 

光彦が慌てて聞くと、斎藤は旦那様が戻られればと答えた。

おいおいそれじゃあいくら探しても此処にあったらどーすんだよとコナンは心の中で突っ込んだ。

 

コナン達は二階も特に隆信の書斎以外怪しいところもなく捜索を終えようとしていたが、最後の部屋をというところでふと視線を感じて顔を向けると正に行こうとしていた部屋のドアが少し開いており、女の子がこちらをじーっと隙間から此方を伺っていた。どうやら最後の部屋は美沙の部屋のようだ。

 

「もうすぐお昼ですしそれまで休憩にしましょうか、午後からは離れや倉庫をご案内します」

 

「よーしじゃあお前ら、昼になったら降りてこいよ」

 

斎藤と小五郎は気を利かしたのか最後の部屋は子供達に任せて下へ降りていった。

 

 

コナン達が美沙の部屋に近付くと隙間から様子を伺っていた美沙は慌ててドアをバタンと閉じてしまった。

 

「おーい美沙ちゃーん遊びにきたよ!」

 

歩美がドアを叩きながら呼び掛けるが反応が無い、元太も許してくれよと呼び掛けている。

 

ドアの向こうで美沙は戸惑っていた。クラスメイトが何故か自分の家に居るのである、しかも部屋の前で自分を呼び掛けている。学校でも誰とも喋らず友達もいない自分にだ、なんでという思いが頭の中をぐるぐる回る。歩美ちゃん達はなんで自分に構うのか理解出来なかったが、不思議と嫌ではなかったし嬉しかった。

 

「……何しにきたの?」

 

コナン達はその可細い声を聞いて顔を合わせて嬉しそうに微笑んだ。コナンはこんな声してたんだと一人思った。

 

「美沙ちゃんと遊びに来たの!!」

 

歩美が嬉しそうに返すと、またすぐに返事が帰ってきた。

 

「……なんで?」

 

「友達と遊ぶのに理由なんて要らないよ!…だからドア開けて遊ぼうよ!!」

 

歩美の言葉の後少し間がありドアが少し開いた。すると元太がドアノブを引いてドアを勢いよく開ける。

 

「早く開けろよな!!」

 

そういってコナン以外の三人は勢いよく美沙の部屋に飛び込んだ、その顔は満面の笑みであった。おいおい暴れるなよと思うコナンの顔も微笑んで見えた。

 

美沙はそんなコナン達を見て少し可笑しくて笑った。

 

美沙がこの少年探偵団に打ち解けるのにそう時間は掛からないであろう

 

 

 

「出前でーす!」

 

門の前で岡持ちを持った出前の男がインターホンに向かっていた。すると門が開いて警備の人だろうか二人その男に近付き料理を受け取り、料金を払う。

ふと警備の一人が郵便受けに近付くがもう一人に運ぶのを手伝えと急かされ諦めて料理を運んで行く。

 

郵便受けの中にある白いカードに気付くのはもう少し後になりそうだ……

 

 

「う、うな重だぁー!!」

 

有栖川邸の食卓に元太の嬉しそうな叫び声が響く。テーブルの上には小五郎達と美沙の分のうな重が世話係の清水により並べられている。元太はいち早く席に座り涎を垂らして食事の号令を待っている。美沙も仲良くなったのか歩美と仲良く手を繋ぎ入室して席に座った。そんな美沙達の様子を斎藤と清水は嬉しそうに見つめている。

 

「では皆さんごゆっくりお召し上がり下さい」

 

斎藤が全員が席に着いたのを確認して一礼して食事を促すと頂きます!の明るい声が溢れた。

 

「美沙ちゃん、うな重好き?」

 

歩美が隣に座っているお箸を持とうとしている美沙に尋ねる。美沙は話し掛けられて緊張しているのか恥ずかしそうに俯いてしまった。そんな様子の美沙に歩美は少し残念そうな表情を見せる。

 

「……うな重初めて、だよ」

 

美沙は小さな声で呟いたが応えてくれた。歩美は嬉しそうに頷きながらそうなんだー!と返した。そんな様子を見てコナンは大分打ち解けてきたなと安堵した表情を見せる。

 

「うな重……おいしい」

 

美沙は初めて食べるうな重の味が気に入ったようである。元太が重箱に口を付けてかき込んで食べているのを見て、美沙は丁寧にお箸で取り分けて食べていたのを辞め決意したように頷いたあと恐る恐る口を重箱に付けてかきこむように食べてみた。

 

「……おいしい」

 

美沙はそれから止まることなく少しずつだがうな重を食べて行く。そんな初めてみる美沙の様子を斎藤と清水は驚きを隠せない表情を見せる。

 

「あー!美沙ちゃん、ほっぺにご飯粒ついてる!」

 

歩美が指を差しながら指摘すると、美沙は顔を真っ赤にしながらご飯粒を取り口に入れた。それと同時に食卓にどっと皆の笑いが起こった。

 

 

「では、そろそろ外の方をご案内致します」

 

昼食を終えて余韻に浸っていたコナン達だったが、斎藤の言葉で立ち上がり本邸から出ていく。今度は美沙も捜索に加わるようで歩美と手を繋いで歩いている。

 

「へへへ、うな重うまかったな」

 

元太は満足そうに呟くと後ろにいる美沙もコクコクと頷き同意した。その後、捜索は続き残すは一箇所。辺りも夕陽が傾いていて徐々に影が降りてきていた。

 

「此処が旦那様の所有される美術品や貴金属等を貯蔵している倉庫になります」

 

コナン達の目の前には観音開きの大きな扉。重厚な扉はまるで侵入者を拒むように威圧感を放っている。

 

「で、でかいっすねー」

 

小五郎はその大きな建家に圧倒されたように言う。

 

「これは、倉庫というより……美術館みたいですよ」

 

光彦は扉の先の光景を想像したのか興奮したように呟く。斎藤がゆっくりと扉を開くと中にはたくさんの絵画や彫刻等の美術品に加えて剣や鎧が飾られている飾られた像も翼の生えた人間や角の生えた馬などの幻想的な物が多い。

 

「旦那様はこのような架空な生物や武具といった幻想的な物がお好きでして」

 

まだまだ心は少年が旦那様の口癖でと斎藤は苦笑した。そして一際目立つ扉を開いた正面の壁には巨大な一つの絵画が掛かっていた。

 

「これは……」

 

一同が息を飲み見上げると巨大な竜と一人の剣を持った青年が薄暗い洞窟で対峙している様子を描いた絵画であった。

 

「この絵は旦那様が一番好きな絵で竜の名はファフナー、青年はジグルド」

 

「そう、財宝を守る邪悪な竜とそれを退治する英雄。正に今の有栖川を象徴しているではないか」

 

斎藤が絵画の説明をしていると背後から声がして振り向くと髭を生やした男性がいた。男性の顔を見た美沙は怯えたようにコナンの後ろに隠れコナンの袖をぎゅっと握った 、その手は恐怖に震えていた。そしてそんな美沙をみた元太、光彦、歩美は庇うように前へ出た。

 

「の、信親様」

 

斎藤が急に出てきた男に慌てたように取り繕う。

 

「斎藤、こいつらは誰だ?」

 

有栖川信親(32)(ありすがわのぶちか)

有栖川家次男(美沙の叔父)

 

「この方々は探偵の毛利小五郎様に、子供達は美沙お嬢様のご学友でございます」

 

斎藤が小五郎達を紹介すると信親は見下すように小五郎を見た後吐き捨てるように言い放った。

 

「小五郎だか大五郎か知らんが探偵だと?探偵なんて人間は所詮小説の中でしか役に立たんだろうが、せいぜい頑張って下さいよ名探偵さん」

 

もし宝石が見つかったら高く買取ってやるよと言う信親に小五郎は怒りに震えながら宣言する。

 

「見つかったとしてもアンタなんかには渡さねぇよ!!お前ら!絶対に探し出すぞ!」

 

小五郎の号令に探偵団もおー!と益々気合を入れる。とコナンが一歩前に出て信親に尋ねる。

 

「ねえ、おじさん。さっき邪悪な竜を退治って言ったけど、隆信さんのことまさかおじさんが何かしたの?」

 

探偵のことを馬鹿にされたからかコナンはいつも見せない怒ったような表情だ。そのコナンの言葉に小五郎もまさか!と反応する。

 

「まさか例えだよ例え、実の兄を殺すなんてことする訳ないだろ?」

 

肩を竦めて否定した信親は探偵ごっこ頑張れよとその場を後にしようとするが、途中で一度立ち止まり捨て台詞のように言い放った。

 

「ああ、そういえば言ってなかったが明日にはこの屋敷取り壊す事になったから。流石に何処に隠してもこれなら見付かるだろうから【ムーンエンジェル】は俺のモノだ」

 

まあ見付かったら見物ぐらいはさせてやるよと言い去る信親の背中を睨む面々達。

 

タイムリミットは近いってことかよ……

コナンは絶対に見つけてやると心に誓った。

 

小五郎達は手分けして倉庫内を探していた。斎藤と小五郎は二階を中心に、子供達は一階を探していた。時間を忘れて探していたのか窓の外は随分暗くなっていた。捜索する

子供達の額には汗が滲んでいた。

 

「だあー!!見つかんねぇ」

 

コナンは頭を掻き毟り叫ぶ。

(大体、手掛かりも謎解きも無いじゃねぇか……どうしろってんだ)

コナンは現状ただの肉体労働になっている事への不満を感じていた。

 

「江戸川くん……お水いる?」

 

気が付けば隣に美沙が首をちょこんと傾げながらコナンに尋ねていた。カリカリしていたコナンは気を使わせてしまったかと少し罪悪感を感じながら答えた 。

 

「ああ、悪い頼むよ」

 

コナンが答えると顔をぱあっと明るくさせて取ってくる!と倉庫から出ていった。コナンがあんな顔も出来るようになったかと去り行く背中を見つめ思った。歩美はそんな二人のやりとりを見て頬を膨らせていた。

 

「もう!コナン君たら!歩美も取ってくる!!」

 

待ってよ美紗ちゃんと後を追う歩美を乾いた笑いで見送るコナンであった。

 

 

 

その頃、警視庁では夜の静寂を切り裂くように一本の電話が鳴り響いていた。

 

「はい、こちら捜査一課ですが……何だって!!当日の有栖川夫妻誘拐事件の目撃者を発見しただと!!」

 

一月前より足取りが掴めていなかった事件が動き出しざわつく一課。電話を受け取った目暮警部は即座に指示を出した。

 

「佐藤、高木両名は目撃者への聞き取りだ!残りの者は誘拐犯を目撃証言から割り出すんだ!」

 

目暮の号令と共に動き出す刑事達。事件は解決へと動き出しつつあった。

 

 

一方、有栖川邸の応接間では二人の影があった。

 

「明日の解体作業だが、まず最初に倉庫をバラして貰いたい。その次は……あの部屋、兄の信隆の部屋の扉を壊して貰いたい」

 

どうやら解体業者と信親が打ち合わせいているようだ。信親が明日の作業を指定する。その人影は帽子を深くかぶり目元ははっきりとは確認できない。薄緑の作業着に手には計画表のような物を持ち

信親の話を熱心に聞いている。

 

「あの部屋ですね……」

 

その影は怪しい笑みを浮かべ口元を歪め頷いた。

 

 

 

 


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